あえて鈍感のふりをしてみた

山田太郎

第6話


〈春視点〉

今日から始業式です。兄さんとは離れるけど、1年間頑張って勉強して兄さんと同じ学校に通いたいです!
まあ今はそれは置いといて、今一番重要なのは兄さんとどうやって一緒に学校へ行くかということです。
これはこれからの学校生活に大きく関わります!主にモチベーションが変わります!

普通に「学校一緒に行きませんか?」って言えたらどれだけ楽なんでしょう…
そんな勇気は今はないので言えないです。
あー…なんて言えばいいんでしょうか…

「春ー、俺もう先に行くよー。」

ヤバイです!あー!もうこうなったら押し切っちゃいましょう!!

「し、仕方ないから一緒に行ってあげますよ!兄さんが入学早々1人で登校なんて可哀そうですし!」

やってしまいました…なんて上から目線なんでしょうか…

「ん?いや、別にいいけどさ。とりあえず急がなきゃ遅刻するからね。」

ほらぁ、こうなるに決まってるじゃないですか!兄さん鈍感ですし、伝わるわけないですよ。
うう、もうこの際母さんにからかわれても気にしないです!

「ま!待ってください!ちょっと待ってくださいよぉ!」

うぅ、母さんお腹抱えて笑ってますよ…兄さんも苦笑いですし…父さんなんか呆れてますし…





「一緒に行きたいなら最初から言えばよかったのに。」

「別に、一緒に行きたいわけじゃないです。あれです、荷物持ちですよ。」

「はいはい、そうですか。」

完全にバカにされてますね。これはどこかで汚名返上しなくては…
まあ荷物は兄さんの自転車のカゴにありますが。

兄さんは自転車通学なので、最初は私に後ろに乗せようとしましたが、さすがに初日からそんな目立つことはしたくないので(法律とかどーでもいいです)一緒に歩いてます。

たわいもない話をしてたらもう学校の目の前です。

「春、頑張ってね。いってらっしゃい。」

「はい、兄さんも気をつけて。」

そうして私は学校の方へ歩き始めました。

ん?あれ、何かがおかしいです。軽いというか、物足りないというか…



「ちょ、兄さーん!!待ってください!カバンがー!!!」





〈裕太視点〉

春からチラチラと視線を感じる。おいそこ、自意識過剰とか言うな!
おそらく一緒に学校行こうって言いたいけど恥ずかしくて言えないみたいな感じか?
春から言うの少し待ってたけどこれ以上待ったら俺も春も遅刻するな。
仕方ない、兄として少しサポートしてあげようではないか。

「春ー、俺もう先に行くよー」

おお、すごい慌てよう。もう投げやりな感じだな。

「し、仕方ないから一緒に行ってあげますよ!兄さんが入学早々1人で登校なんて可哀そうですし!」

ここでツンデレくるか。まあ可愛いって思っちゃったけどさ。声に出てないよね?大丈夫だよね?ふう、一回落ち着こう。

「ん?いや、別にいいけどさ。とりあえず急がなきゃ遅刻するからね。」

よし。これなら春も諦めて待ってって言うだろう。

「ま!待ってください!ちょっと待ってくださいよぉ!」

はいはい、待ってるから慌てんな。だから落ち着いてその口元に着いてるジャムを取りなさい。
あ、写真は撮りました。保存済みです。





「一緒に行きたいなら最初から言えばよかったのに。」

「別に、一緒に行きたいわけじゃないです。あれです、荷物持ちですよ。」

「はいはい、そうですか。」

この荷物も俺から乗せさせたんだけどね。
春ちょいちょいボロが出てるけど、気づいてないのかな?まあ、気づいてないだろう。だからこうやって俺のことも鈍感って信じてやまないんだし。

その後も春といろんな話をして登校した。
気づくと春の学校前に着いた。1年前まで俺もここに通っていたのだが。

「春、頑張ってね。いってらっしゃい。」

「はい、兄さんも気をつけて。」

よし、春も送ったし、学校行くか。

少し自転車を漕いだところで気づいた。
春のカバン、カゴの中だ。
後ろから涙目で春が走ってきてた。





「ふー、あぶな。あと5分じゃん。」

初日から遅刻なんてことはしたくない。
だが、教室に入ると意外にも空席がいくつかあった。

「お、主席くんきた。」

「ん?あぁ、俺か。」

「えー?自覚なし?それとも嫌味?」

「いや、主席の実感がなかっただけだ。」

俺が席に座ると前の席の黒髪のセミロングの女子がけらけらと笑いながら話しかけてきた。
容姿はかなりいい。スタイルもかなりいいな。背はだいたい155くらいかな?目はぱっちり二重で胸は…控えめですね。春といい勝負だな。

「あぁ、自己紹介してないね。あたし、近藤夕姫。一応君に合計で1点負けた次席です。」

よろしくっ!と敬礼のポーズをして少しあざとめな感じの挨拶だった。

「あぁ、よろしく。俺は水野裕太。スピーキングを抜かしたらおそらく特進クラスで下から数えた方が早いと思うよ。スピーキングは満点近いけどね。まあそのおかげで主席とったけど。よろしく。」

「へー、あたしスピーキングで足引っ張ったからかな?他は満点近いし、てか満点あるし。」

やば、ここの入試で満点とか、化け物かよ。おれはスピーキング抜きの5教科合計500点満点のだいたい400点だぞ!?合格最低ラインだって5教科合計で380点くらいだったはずだぞ。スピーキングの得点配分は200点満点の195点だったが。

「やばいな。多分中間テストとか俺本当に下から数えた方が早いからなぁ。」

「まあスピーキングで満点近いのも充分化け物じみてるけどね。」

そうかな?あー、平均点100いってないんだっけ?あれ。

その後も近藤と話してたらチャイムが鳴った。

「はーい、みんな席ついてー。欠席は…いないね。よし。じゃあSHR始めよう。起立!」

「じゃあ、また後で話そうね。」

近藤はコソコソと言って前を向いた。
とりあえず、初日に友達ができてよかった。ボッチ脱却。

「あえて鈍感のふりをしてみた」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く