家族になって1ヶ月の妹に誘われたVRMMOで俺はゆるくやるつもりがいつの間にかトッププレイヤーの仲間入りをしていた

ノベルバユーザー203449

第4話 VSキングゴブリン

「そうだ、クラスは言うとおりにした?」

 ゴブリン討伐のクエストに向かう途中。カノンがそう聞いてきた。

 今俺達が居るのはセントラルエリアから東に行った所にあるバンバルドの森という名前のエリアだ。

 ゲーム雑誌でも必ず紹介される初心者用のエリアで、出てくるモンスターのレベルは最高で5。しかもそれらは特殊な攻撃は使ってこず、体当たりか近接武器を使って殴るかのどちらかのようだ。

 ただボスモンスターなんかは例外なのでそこは気をつけなければいけない。

 なので多少は気を抜いて雑談していても一瞬の内に命を落とすなんてことも無い。

「ああ、したした。魔法拳闘士でしょ?」

 そのクラスは昨晩、天音ちゃんと一緒に決めたものだった。

 俺がVR格ゲーで優勝したという話を聞いて、俺の使用キャラとプレイスタイルからもっとも近い動きができるクラスを選んでくれた。それが魔法拳闘士らしい。

「武器を持たなくて遠近両立できるクラスって言ったら魔法拳闘士しか無いからね。全体の補正値は控えめでどっちつかずのステータスになっちゃうけど初心者ならむしろ広く浅くカバーできるクラスの方が良いし」

 魔法拳闘士というのは魔法使いと拳闘士というクラスを足して2で割ったような性能をしているようで魔法を使った遠距離攻撃やステータスアップと、素手による近接戦の両方に対応している。

 ただその両方をこなせる分、他のクラスよりは性能のとがり具合で劣るという話だ。俺が格ゲーで使ったのも癖の少なく多彩なことができるタイプだったので丁度良いと言える。

「あとデッキの方もちゃんと準備した?」
「ちょっとよく分かんなかったけど言われたとおりに」

 俺は普通のRPGにそこまで明るくないのでイマイチピンと来ないのだが、他のゲームで特技とかアーツとかスキルと呼称する物をこのゲームではコマンドと呼ぶらしい。

 コマンドはコマンドカードというものを消費すれば使用できるのだが、どうにもいつでもどれでも使えるというわけでは無いらしい。

 なんでもあらかじめ30枚のコマンドカードから成るデッキという物を制作しておく必要があり、戦闘中に一度に使用できるのもそこからランダムに選別された5枚のコマンドカードのみ。そしてコマンドカードを1枚使うたびにデッキから1枚補充されるというシステムになっている。

 ちなみにそのコマンドカードを30枚全て使い切ると、3分のインターバルの後に全て復活するらしい。

 ちなみにだが使えるコマンドカードの種類はレベルアップや実績解除、アップデートで増えていくらしい。今は序盤は序盤だがそれでも80種類くらいだ。

「でもややこしいよね。なんでそんな風にしたんだろ」
「なんでもMPにものを言わして強力な技ばかりでゴリ押してたらすぐ飽きちゃうかららしいわよ。結構前にプロデューサーが雑誌のインタビューで言ってた」

 そんな雑談めいた確認作業をしている内にゴブリンの生息域に入る。あとは余計な藪をつつかないように慎重に進んでいって速やかにゴブリンを倒せば良い。

 そう思っていたがどこか森の様子がおかしかった。

「カノンさん? なんか臭わない?」
「なによ藪から棒に。VRじゃ基本的に体臭とかはカットされてるわよ」
「いや、そうじゃなくて。何か煙くさく無い?」

 いくらなんでも女性の体臭をいじるような男にはなれません。

 ただ冗談は抜きにして異臭がするのは本当だ。それこそ何かが燃えているようなそんな臭い。場所が森である以上順当に考えれば木々が燃えているのだろうが……。

「でもここには炎を使う敵なんて居るわけも無いし。だとすればプレイヤー?」

 カノンが呟いたその時、考えは間違いないと主張するかのように遠くに見えていた森の一部が爆発した。ついさっきまでは平和そのものだった森が一変、炎に包まれて地獄のような姿に生まれ変わる。

「この爆発、多分βプレイヤーの仕業ね。レベル30もあればこれくらいのことはできるはずだし」
「でもなんでこんなことを?」
「モンスターの溜まり場があったんでしょうね。そこを焼き払えば経験値はガッポガポっていう魂胆よ」

 たしかにそんな方法が使えるなら一気にレベルが上がるだろうから効率は抜群に良いかもしれない。ただカノンの顔は浮かない物だ。

「ただあのやり方って致命的な弱点が二つあってね。一つは大量のモンスターを狩ることで生態系が変化してモンスターの生息域が変わる危険性があること。そしてもう一つは――」

 その時近くにあった茂みが揺れた。他のプレイヤーかと一瞬思ったが、違う。他のプレイヤーなら近くに来れば名前などの情報が表示されるはずだ。

 それに何よりカノンが険しい表情で剣を構えたので敵が来たということで間違いは無さそうだ。

「今のうちに言っとくけどもう一つの弱点って言うのがさ、ゴブリンの集落を焼き払おうとするとそこの長が逃げ出してエリアを徘徊することなんだよね……!」

 吐き捨てるようなカノンの言葉が合図になったかのようにソイツは現れた。

 傍に従えている他のゴブリンよりも大きな体躯を持ち、手には長い槍を持っている。そして頭には薄汚れた王冠を被り、ボロボロの布きれのマントを羽織ったダークグリーンの怪物。名前を確認するとキングゴブリンと表示されていた。レベルは14。

 キングゴブリンは俺達を見るやいなや槍を構えて突撃してきた。

「危ない!」

 カノンが前に出て剣でこれをガード。更に追撃として強烈な蹴りを入れた。

「ごめん。初めての戦闘だから手取り足取り教えたかったけど、そうも行かないみたい。キングゴブリンは私が相手するから他の雑魚をお願い!」
「分かった!」

 こうして俺の初めての戦闘が幕を開けた。

 雑魚ゴブリン5体が俺に向かって突っ込んでくる。それぞれが錆びた剣で武装しており、武器を持たないこちらよりはリーチが長い。

 だが雑魚モンスターだけあるということか連携を取るような様子も見せなければ作戦のようなものが有るようにも見えない。ただ突っ込んで来ただけというようすだ。これなら俺一人でもなんとかなる。

 まず手始めに先頭を走っていたゴブリンに跳び蹴りを食らわせて吹っ飛ばす。さらにその隙を突いて斬りかかろうとしてきた別の個体のゴブリンの一撃を回避してカウンターの右ストレート。

 そして他の3体の攻撃をいなしつつもよろめいたゴブリンへと追撃を入れていく。そして6発ほど攻撃を加えたところでゴブリンは爆発し、光の粒子へと変化した。

 おそらくこれが相手のHPを0にしたということだろう。経験値が入って俺のレベルも1から2に上がっている。

「よし! 次だ!」

 仲間を殺された怒りに震えるゴブリンが飛び上がる。おそらくはジャンプして勢いをつけた強力な斬撃を放つつもりだ。

 俺はそれに合わせてゴブリンの真下に体を潜らせるように低めに跳躍。そしてオーバーヘッドキックの要領で近くの木目掛けてゴブリンを蹴り飛ばした。

 とてつもない勢いで叩きつけられたゴブリンはうめき声を上げているが容赦はしない。

 さっきは使わなかったコマンドを使う。視界の片隅にずっと映り込み続けていたリザーブと呼ばれる今使える5枚のコマンドカードが表示されている欄を確認。そこから一つのコマンドに意識を集中して発動する。

「《フレミア》!」

 掌から放たれるのは野球のボールくらいの大きさの小さな火の玉だ。それが一直線にのたうち回るゴブリンへと飛んでいき、ヤツの体を燃やし尽くした。

 火属性の初級魔法らしいがそれでも威力は充分。傷を負ったゴブリンなら余裕で倒せる。

「危ない! 後ろ!」

 けれど快進撃は長くは続かない。カノンを振り切ったキングゴブリンが俺の方へと向かってきていたのだ。

 今までやり合っていた普通のゴブリンよりも遙かにその動きは洗練されている。そして速く、力強い。

「でも焦るほどじゃない」

 突き出された槍を命中の寸前でしゃがみ込んで回避。そしてがら空きの胴体に拳を叩き込む。更にそこに追撃を乗せる感覚で更なるコマンドを使用する。

「《ボルトラ》!」

 次に発動したのは雷を放つ風属性の魔法。拳から0距離で放たれた雷撃はキングゴブリンを麻痺させ、その体表を電撃によって攻撃する。レベルが離れていると言ってもこの至近距離での攻撃は堪えるらしく俺から距離を取った。

「今だ! 《ハイスラッシュ》!」

 そしてカノンもコマンドを使って残っていた3体のゴブリンを一撃で撃破。流石にレベルが30近く離れていると余裕で圧倒できるらしい。

「アキト君、そのデカ物に同時攻撃でトドメ、行くよ?」
「分かった! 一緒に決めよう!!」

 俺とカノンで同時にコマンドを準備。そして挟み撃ちのような格好でキングゴブリンに最後の一撃を放つ。

「《ホーリー・スパーク》!!」
「《エアロブレイク》!!」

 俺は光弾を、カノンは風の刃を同時に放つ。ボルトラによる麻痺から抜けきっていなかったキングゴブリンは攻撃を防ぐこともかわすこともできず、まともに食らった。

 そして他のゴブリンと比べて派手なエフェクトの後、爆発。光の粒子になって消滅した。

「よっし! キングゴブリン討伐! これは思わぬおまけがついてきた!」

 地面に落ちたキングゴブリンの王冠を拾いながら嬉しそうにカノンが言う。

「どういうこと?」
「キングゴブリンは経験値効率が抜群に良いのと王冠がなかなか良い値段するから狩れば狩るだけ得するモンスターなのよ。でも集落に1体しか居ないからなかなかお目にはかかれないんだけど……今日は運が良かったわね」
「そういえば爆発した集落はどうするの? 見に行くの?」
「いやよ面倒くさい。それにいきなりあんな狩り方をする野蛮人なんて絡みに行っても言いがかりつけられるわよ。そんなのに時間取られるなんて無駄よ無駄」

 そう言うとカノンは町に戻るために歩き出した。戦闘なんてしていないんじゃ無いかというほどその足取りは疲れを感じさせない軽やかさだ。
 俺もそれに着いていくが途中でカノンは立ち止まり、俺の方へと振り返った。

「そうそう言い忘れてた。さっきの戦闘だったけど、初めての人とは思えなかったくらいに凄かったよ? ふつうゴブリンとか初見なら腰を抜かしてもおかしく無いし」
「え、そうなの?」
「そうそう。アキト君メンタル強いんじゃ無い? 敵の動きとか驚くほどちゃんと見れてたし」

 そうは言われても自覚は無い。なんというか自然体でたんたんとこなしていた感じだ。ただ終わってみると思ったことは一つある。

「俺はなんかちょっと楽しかったかな。魔法なんて現実じゃ使えないし。格ゲーなんかだと誰かと協力なんてやらないし。こう言うのは早いかもしれないけどこのゲームやってみて良かったよ」
「その感想は早すぎ。でもまあ私も誘って良かったって思ってるからどっこいどっこいかな。改めてこれからもよろしくね」
「もちろん」

 そんな風に言葉を交わして俺達は再び歩き出す。そういえばどんな些細なことでも兄妹二人で協力して何かを成し遂げたのはこれが初めてだなんてことを考えながら。

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