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春野ひより

さんぽ




 快調に進む足取りに、
 道草も応えてくれているようで、
 景色がよく見えた。
 早々に農作業に取り組む人の姿が見え、
 神奈川では見られない光景に
 食物と人の繋がりを感じさせる
 温かみを感じ、歩を止めた。

 僕らの血となり肉となり骨と
 なるものは人間の生活によって
 変革させられ創造されたものだ。
 同じ形態を維持することは難しい。
 人間ですら自分たちで開発した技術に
 追いつけず悪戦苦闘しているのに。

 先カンブリア時代、古生代からずっと
 見た目も中身も変わらずに
 生活し続けている生物などいるのだろうか。
 生憎僕は文系なので、
 そこらはよくわからない。
 けれど特に気にすることでもないと
 完結させて再び歩みを進めた。

 信号のない道路をひたすら歩く。
 爪の甘皮一枚分ほどに見える先の
 道路はゆらゆらと揺れていた。
 帽子を被ってくればよかったと
 悔やんだ時、背後から走ってきた
 小型の車が僕の横で止まった。
 音を立てて窓が開き、
 助手席に座っていた若い女性が
 身を乗り出した。
 運転席には紫煙を吹かす強面の
 男性が座っていた。

「おはようございます。
道をお伺いしたいのですが」

「はい、どちらまでですか」

「門脇さんのご邸宅はご存知ですか」

「あぁ、祖父の家です。
それならこの道を戻って」

「門脇さんのお孫さんですか!?」

 やけに驚いた様子の女性の横で、
 女性以上に男性も驚愕といった
 様子で僕を見ていた。
 例年で見覚えのない顔に会うのは
 慣れているが、この人たちは
 少し違う気がした。

「えぇ、まあ」

「そう、あなたが」

 口に手を当てて、
 どこか微笑を隠した様子の女性は
 はっと我に返りあたふたとした。

「途中で遮ってしまってすみません。
よければご邸宅までご一緒されますか」

「いえ、今散歩中なのでご遠慮します。
家まではこの道を戻って
右に曲がったところにお寺がありますので、
そこを左に曲がって真っ直ぐ行った先に
表札が見えます」

「ありがとうございます」

 結局一言も話さなかった男性が、
 大げさに頭を下げる女性の横で
 軽く会釈をすると、熟練のハンドル捌きで
 来た道を戻っていった。

 今朝の祖父といい今といい、
 今日は引っかかることが多い日かと思った。

 家に着く頃には両手いっぱいに
 野菜が抱えられていた。
 爽やかな朝で気分のいい散歩だったのに
 家が近くなるにつれて重労働を
 課された気分だった。
 ざるに重ねられた胡瓜と茄子と
 とうもろこしが転がらないように
 慎重に運んでくるのは神経を使う作業だ。
 道で会う人会う人に僕が祖父の孫だと
 いうのを知ってか、野菜の差し入れを貰った。
 きっと普段祖父母は上手く断っているのだろ
 う。






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