異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~

柑橘ゆすら

吸血鬼



 翌朝。
 悠斗はシルフィアの様子を窺いに奴隷商館に向かうことにした。

「ご主人さま……ここは一体……?」

「ああ。奴隷商館だが?」

「そんなことは見れば分かります! 私が聞きたいのは、どうしてご主人さまが奴隷商館に向かわれているかです!?」

「新しい奴隷を買おうと思っていてだな」

 正直に告げるとスピカの表情は、ズーンと沈んだものになる。

「……そ、そうですよね。ご主人さまにとって私は不要な存在ですよね。薄々とそんな気はしていたのです。
 私はちっとも戦闘ではお役に立てていませんし。夜のお勤めすら満足に行うことのできないダメ奴隷です。ご主人さまが私に愛想を尽かして、他の奴隷を買おうとするのは当然のことですよね」

 スピカは自分勝手な解釈をしてネガティブな言葉を口にする。

「おいおい。スピカ。勘違いするなよ。これは全てお前のためを思ってのことだ」

「え、え……?」

「俺はスピカにばかり負担のある仕事を押し付けてしまっていることを反省しているんだ。2人目の奴隷を買えば、スピカの仕事はそれだけ軽減するだろう? それにパーティーの人員を増やせばそれだけ安全に討伐クエストをこなすことが出来る」

「すいません。私ったら勝手に早とちりをしてしまいまして……。まさかご主人さまが……そこまで私のことを思っていてくれていたなんて光栄です! 私のような奴隷にこのような幸せがあっても良いのでしょうか?」

「当然だろう? スピカは俺の大切な……可愛い奴隷なのだから」

「はう……」

 悠斗が頭を撫でるとスピカは例によって恍惚とした表情を浮かべていた。


(いくら何でもこの子……チョロ過ぎるだろ……)


 内心では浮気を咎められないかヒヤヒヤしていたが、杞憂であることを悟る。
 悠斗はホッと胸を撫で下ろすと奴隷商館の中に足を踏み入れるのであった。


 ~~~~~~~~~~~~


 ギーシュ・ベルシュタイン
 種族:吸血鬼
 職業:無職
 固有能力:警鐘


 警鐘@レア度 ☆☆☆☆☆
(命の危機が迫った時にスキルホルダーにのみ聞こえる音を鳴らすスキル。危険度に応じて音のボリュームは上昇する)


 商館の中に入るなり悠斗の目に留まったのは、長身痩躯のハンサムな男であった。

 悠斗がその男に注目した理由――。
 それはレアな固有能力を所持していたというのもあるが、それ以前に吸血鬼という種族が初めて見かけるものであったからである。


「ほう。驚いたよ。最近の冒険者は性奴隷を連れて歩くのだな」


 ギーシュは悠斗の視線に気付くなり他者を見下したような口調でそう呟く。

「そ、そんな……性奴隷だなんて……。私とご主人さまはまだそんな関係では……」

「おい。スピカ。お前は性奴隷扱いされて喜ぶなよ……」

 スピカのドM振りは留まることを知らないようであった。


「やや! アンドレア卿。これは失礼致しました。こちらの冒険者の方は、先日より当店の会員になったばかりのコノエ・ユウト様でございます……」


 奴隷商人のジルは、ギーシュの顔色を窺うようにしてそう述べる。

「ふむ。コノエ・ユウトか」

 頷くとギーシュは悠斗の全身を眺めまわして。

「よく見るとキミは……随分と見事な肉体をしているね。何か武道の嗜みでも?」

「……はい?」

「あー。すまない。僕は鍛え上げられた人間の体を観察するのが趣味なのだよ。ふむふむ。見事……としか形容がないな。これほどまでに強靱な肉体の持ち主と出会うのは初めてかもしれぬ……」

「あの……アンドレア卿?」

 ギーシュの奇行を制止するようにジルが声をかける。

「いや。これは失敬。キミの肉体があまりにも見事なものだったのでつい見惚れてしまっていたのだよ。まあ良い。用が済んだので、私はこれで失礼するよ」

 ギーシュはそう言い残すと奴隷商館を後にする。


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「なんだか、とても変わった方ですね。しかし、初見でご主人さまの素晴らしさを見抜いたことから察するに只者ではなさそうです」

 思わず毒気を抜かれるほど能天気な発言をするスピカ。

 一方で。
 悠斗はギーシュという男に対して言われようのない薄気味の悪さを感じていた。

「……さっきの人は誰なんですか?」

「へい。あの方はこの街の高名な貴族でいらっしゃるアンドレア・スコット・マルニッシュ様でございます」

「…………」

 ジルの言葉を聞いた悠斗は怪訝な表情を浮かべる。
 どうにも様子がおかしい。

 魔眼スキルにより表示された名前とジルが口にする名前が一致しない。
 そうするとギーシュという男は、何らかの目的で偽名を使っているということになる。


(……いや。有名な貴族の名前を騙っても直ぐにバレるはずだよな)


 ならば偽名を使っているというより、吸血鬼が人間に成りすましていると考える方が自然だろう。

「もしかすると……さっき出て行ったあの男がこの街の奴隷を買い占めているっていう人なんですか?」

 悠斗が問い詰めると、ジルは観念したかのような表情を浮かべ。

「……ここから先は他言無用でお願いします。ユウト様のお察しの通りでございます。アンドレア卿がここ2カ月ほどで街の女奴隷を買い占めているということは、我々の業界内での専らの噂になっております」

「なるほど」

 なんとなく話が見えてきた。

 人間に成りすましている吸血鬼。
 2カ月前から奴隷を買い占めている男。
 そして冒険者ギルドでエミリアから聞いた、探索クエストで手配中の『連続誘拐事件の犯人』。

 これらが全て同一の人物だとしたら色々と説明が付く部分がある。

 どうして吸血鬼が奴隷を買い占めたり、人間を攫ったりするかについては想像するに難くない。


(おそらく……単なる食事目当てなんだろうな……)


 もちろん先程の男が連続誘拐事件の犯人であるという証拠はない。

 今回の推理も悠斗が魔眼のスキルを所持しているからこそ成立しているものであって、他人にそれを聞かせても納得はしてもらえないだろう。


(どちらにせよ……面倒事に巻き込まれるのは御免だな)


 ギーシュという男にはなるべく関わらないようにしよう。

 悠斗がそんな決意を胸に抱いた矢先であった。

「そこで……大変申し上げにくいのですが、ユウトさまに1つ報告をしなければならないことがあります。アンドレア卿より新規の入札がありました。シルフィアの価格は現在72万リアにまで上がっております」

「はぁ……。そうだったのですか」

 前言撤回。
 シルフィアが絡んでいる以上、吸血鬼の男と関わらないという訳にはいかなさそうであった。

「ちなみにこの店では入札する額にも最低金額が定められているんですか?」

「はい。シルフィアの最低入札単位は1万リアからとなっています。つまりアンドレア卿が72万リアという金額を入札したことによってユウト様は、最低でも73万リアの資金を入札して頂く必要がございます」

「分かりました」

(……まあ。当然と言えば当然だよな)

 こういう商売では下限を設けないと1リア単位のイタチごっこが発生してしまう。

 悠斗はそこで魔法のバッグに入っている所持金を確認。
 現在の資金は15050リア。

 いざとなれば手持ちのアイテムをギルド公認店で売却するという手段もある。
 残り48時間で最低入札額までの5千リアを集めるのは、何かトラブルでも起きない限り達成できそうな感じであった。


(……一度シルフィアに会って現状の報告をしておこうかな)


 悠斗はそう判断するとジルに頼んで、シルフィアとの面会を取り付けてもらうことにした。






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