異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~
光と影
「あ、愛菜……!?」
実の妹との久しぶりの再会を異世界で果たした悠斗は感嘆の声を漏らす。
「はい。愛菜はここにおります。お兄さまに会いたくて……会いたくて……次元の壁を突き破って参りました」
白虎から妹の名前を聞いた時点で悠斗は、今回の可能性について考えていないわけではなかった。
「なるほど。マモンを殺したのはお前だったのか……。ようやく話が繋がってきたよ」
「申し訳ございません。マモンというのは、どちらの方でしょうか? この世界に来てからは色々な方を殺してきたので……名前まで憶えている余裕はなかったのです」
「……そうか。お前の方は相変わらずみたいだな」
善悪に対しての頓着がまるでない。
彼女の中にあるのは『実の兄に対する偏執的な愛情』だけである。
逆に言うと、そんな愛菜だからこそ《心葬流》という特殊な武術を極められたとも言える。
周囲に迎合せずに己の心のみを鍛え上げることが、心葬流を極める上で必要な素質だったのである。
「お兄さま……お慕いしておりました!!」
「うおっ」
念願の再会を果たした愛菜は、感極まって悠斗の体に抱き付いた。
ここで下手に拒絶をすると絶対に取り返しのつかないことになる。
そう考えた悠斗は、ひとまず妹の体を優しく抱きしめることにした。
「主君。これは一体どういうことだ!?」
「まったくです……。私たちがいながら……また新しい女性ですか!?」
ヤバイ、と悠斗は思った。
過去に何度か同じようなイベントが起きたことはあったが、今回のそれはシャレにならない最悪のタイミングと言っても良い。
サタンが出現してからというもの闘技場にいた人々たちは、ラッセン&ルナの指示によって次々に避難していった。
悠斗の身を案じたスピカ&シルフィアだけは、決死の覚悟で2人の戦いの行方を見守っていたのある。
「初めまして。私は悠斗の妹の近衛愛菜と申します」
スカートの端を摘まみながらも、愛菜はペコリと頭を下げる。
スピカ&シルフィアは思う。
悠斗がよく口にする『美少女』という言葉は、彼女を形容するためにあるのだろう。
まるで天使でも見ているかのような愛菜の笑顔は、同性であってもドキリとさせるほど美しかった。
「驚きました。アイナさんはご主人さまの妹だったのですね」
「疑ってすまなかった。主君にこれほど可憐な妹がいたとは知らなかったよ」
血の繋がった妹との再会ということであれば互いに体を抱きしめることくらいはするだろう。
予想外に丁寧な対応を受けた2人は、恐縮した様子であった。
「ところでお二人はお兄様とどういった関係なのですか?」
あくまで笑顔を崩さずに愛菜は尋ねる。
一見すると非の打ちどころのない笑顔に見えるのだが――。
悠斗は愛菜の表情の裏に隠された異常性を知っていた。
この笑顔は相手に対して全く興味がないからこそ、作ることが出来る歪なものなのである。
「えーっと。話せば長くなるのですが、私たちはご主人さまと同じ家に住まわせてもらっています」
「……ご主人さま」
「うむ。主君は多少強引ではあるが、あれでいて優しいところもあってだな。奴隷という立場にある我々に対しても常に分け隔てなく接してくれる」
「……奴隷」
悠斗はその瞬間――。
愛菜の完璧な笑顔が僅かに乱れたところを見たような気がした。
「そうですか。つまり貴方たちは……お兄さまの周りにたかるハエなのですね」
「……え?」
どちらが先でも良かった。
愛菜は手始めに1番近くにいたシルフィアに接近する。
咄嗟に異変に気付いたシルフィアは、自身の周りを風で覆って攻撃をガードしようと試みる。
「…………カハッ!」
だがしかし。
愛菜の拳は風のシールドを破っても尚、シルフィアを死に至らしめるのに十分な威力を誇っていた。
「おやっ。確実に殺したはずなのに不思議です。この世界では、こういったことがよく起きるみたいなんですよね」
愛菜の拳を受けたシルフィアは、そのまま体を10メートルほど吹き飛ばすことになる。
かろうじて一命を取り留めはしたが、全身血だらけになったシルフィアは既に意識を失っていた。
身代わりの指輪@レア度 ☆☆☆☆
(死に至るようなダメージを一度だけ肩代わりしてくれる指輪。効果の発動後は指輪が破壊される)
絶望的なダメージを負ったにも拘わらず――シルフィアが助かったのは《身代わりの指輪》という装備の効果によるものであった。
もし仮に――。
悠斗からこのアイテムを授かっていなかったら、シルフィアは今の一撃で絶命していた。
「えっ。えっ」
自分の身に何が起きているのか分からない。
スピカはあまりに現実味のない出来事に対してあたふたしていることしか出来なかった。
「……スピカ。1つ頼みがある。シルフィアを連れて逃げてくれ」
「あ、あの……。しかし、それでは……」
スピカは「それではご主人さまが……」と言葉を続けようとしたところで、考えるのを止めることにした。
ゾゾゾゾゾゾゾッ。
スピカの背中に悪寒が走る。
「……愛菜は俺が殺る」
スピカはかつてこれほどまでに『怒った』悠斗を見たことがなかった。
仲間の中で最も付き合いの長いスピカは、感情のスイッチが一度オフになった悠斗を止める手段がないことを知っていたのである。
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