異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~

柑橘ゆすら

VS バット



「うひょ~! ようやく着いたぜ」

「はぁ。馬車乗ってるとマジでケツが痛えわ」


 それから。
 馬車に揺られること20分後。

 目的地であるラグール山脈(初級)に到着したヒラリー&ポッチョはハイテンションのまま馬車を降りていく。


「んじゃ、最初に基本的な陣形を決めておこうか。俺は魔術師だから後衛を務めるが、他に後衛のやつはいるか?」


 質問を投げるが、返事はない。
 ヒラリー&ポッチョは互いに顔を見合わせた後、ニタニタと黄ばんだ歯を見せる。

 
「いやいや。陣形なんて必要ないっしょ!」

「だな。女の子たちは後ろからのオレたちの活躍見ておいてくれよ。マジやべぇから」


 最初から4人で力を合わせる気はなかった。
 2人にとって冒険者としての仕事は、女の子に格好良いところを見せるための手段でしかないのである。


「アホどもは放っておいて俺たちだけで作戦を決めておこうか。俺は後ろから援護するからスピカはガンガン敵を蹴散らして行ってくれ」

「は、はい! 精一杯頑張ります!」


 何故だろう。
 一方的に命令されているにもかかわらず一切の不快感が沸かない。

 スピカにとってはユウコから指示を受けることは、悠斗から指示を受けるのと同じくらい心地の良いことであった。


「ユウコさん! あっちの林の方から魔物の臭いがします!」


 バット 脅威LV2


 スピカの嗅覚レーダーに従って歩いて行くと、直ぐさま魔物にエンカウントする。


「「いきなりヤベェやつキター!!」」


 ヒラリー&ポッチョは驚きのあまり絶叫する。

 敵の数は7体。
 駆け出しの冒険者にとってはかなりの難敵である。

 バットという魔物は風魔法を有し、集団で行動することが多いことから、『初心者殺し』として冒険者たちの中では悪名高い存在であった。


「落ち着け。QR4のオレたちなら楽勝っしょ!」

「だな。こちとら今まで20匹のスライムを倒してきているんだ!」


 武勇伝としてはあまりに頼りない台詞を口にしながらも、2人はバットの群れに向かって突撃していく。


「どりゃっ!」

「こいつっ!」


 幾度となく剣を振り下ろすヒラリー&ポッチョであったが、彼らの剣が素早く動くバットを捉えることはない。

 2人の動きは全体的に無駄が多く、全く剣の鍛錬を積んでいないことが一目で分かった。


「やべっ。後ろ抜かれたっ!」


 1匹のバットがヒラリーの痩せた体を通り抜ける。
 続いて2匹、3匹とバットたちは次々に2人の前衛を突破した。

 知能の高いモンスターの中には、前衛よりも、後衛の人間を優先して倒しにかかる習性を持ったものもいた。

 モンスターを後ろに逃がすことは、前衛として最も恥ずべき失態である。


「逃げてくれ! スピカちゃん!」


 警告を受けたにもかかわらずスピカは微動だにしない。
 返事の代わりにスピカは腰に差した剣を抜く。


「たぁ!」

「えい!」

「はあああぁぁぁ!」


 男たちの動くとは対称的にスピカの剣技は的確だった。
 ギリギリまで無駄な動作を省いたスピカの剣は1匹ずつではあるが、確実にバットたちを仕留めていく。


「ス、スゲー」

「なんだよ。あの子。本当に駆け出しの冒険者なのかよ!?」


 驚く男たちを尻目に、スピカは踊るように華麗な剣技を見せていく。
 総勢7匹のバットたちが地面に落ちるまでに1分と時間はかからなかった。


「スピカ! 後ろだ!」

「えっ」


 振り返ったスピカは絶句した。
 たしかに仕留めたと思っていたバットが起き上がり、牙を向いて襲っていたのである。 


(ウォーターカッター!)


 半ば反射的に悠斗が使用したのは最近になって完成させた水魔法であった。


「ピキィィィ!」


 一閃。
 2本の指から伸びた水の刃はバットの体を容易く両断する。


(凄い……! 水魔法で敵を……!?)


 スピカは戦慄していた。
 火、水、風の基本属性の中でも水属性魔法は最も殺傷能力の低い魔法として知られていた。

 飲み水を作ったり、体の汚れを洗い落としたりと、何かと活躍の場面が多い水属性魔法だが、戦闘の際に使いこなしている魔術師はごくごく一部である。

 馬車の中の会話から『只者ではない』という予感はしていたのだが、まさか初心者冒険者パーティーの中に水魔法を使いこなす人間がいたとは思いも寄らなかった。


「最後の一振り……これで終わりだと思って油断していたな?」

「…………」


 図星を突かれたスピカは、言葉を詰まらせる。

 どうやら目の前の少女は剣の腕前についても非凡な才能を有しているらしい。
 悠斗の指摘は実際に剣を握って戦った人間でなければ到底気付けないものであった。


「次からは気を付けろよ。獣っていうのは手負いの状態が一番危険なんだ」

「はいっ。ユウコさん!」


 悠斗の活躍を目の当たりにしたスピカは、目の前の少女にキラキラとした尊敬の眼差し送るようになっていた。

 自分とそう年の変わらない少女が、一撃で魔物を倒す、もの凄い魔法を使いこなしている。

 その事実は初めての冒険で不安に駆られていたスピカに底知れない勇気を与えるのだった。


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コメント

  • ばけねこ

    最も殺傷能力の低い魔法は風と水の同率なんですねわかります

    1
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