異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~

柑橘ゆすら

再会の事情



「……なるほど。あの、サクラって子は、もともとシルフィアの家に勤めていたメイドさんだったんだな」


 体のラインがクッキリと浮かんでいるスーツのままでは、目のやり場に困るものがある。
 悠斗は一端サクラを着替え用の部屋の中に案内した後、シルフィアから事情を聞いてみることにした。


「うむ。サクラの家系は先祖代々、ルーゲンベルクの家の家政婦の仕事を生業にしているのだ」


 どうしてメイドが暗殺技術を? 
 と、ツッコミを入れたい気持ちが沸かないわけではなかったが、悠斗にとっての最大の問題は別のところにあった。


「……どうしてシルフィアのメイドさんが俺の家に?」


 無断で家に上がり込んできただけでも犯罪行為なのだが、サクラの言動は完全に悠斗を殺すつもりのものであった。


 一体どのタイミングでサクラの恨みを買ってしまったのか?


 考えても、考えても、悠斗は自分の中にその理由を見つけることができなかった。


「その件に関してはワタシから説明をしましょう」


 暫くシルフィアから事情を聞いていると、2階からサクラの声が聞こえてくる。
 サクラが着替えの服として選んだのは、悠斗特製のメイド服だった。

 何を隠そうこの服はスケルトン(美少女)たちの仕事服として、悠斗が自分の好みに合わせてオーダーメイドしたものである。

 所謂、正統派のロングスカートのメイド服とは明らかに趣が異なる。

 見えそうで見えない、ギリギリの長さのスカートにガーターベルト+ニーソックスを組み合わせた男のロマン溢れる一品であった。


「それにしても酷い衣装ですね。下賤な発情豚の下賤な趣味が透けて見えるようです」


 スカートの位置を整えながらもサクラは早くも悪態を吐く。
 本職が家政婦というだけあってサクラは、悠斗特製のメイド服をソツなく着こなしていた。


「……コノエ・ユート。今すぐお嬢さまを自由にしなさい。そうすれば特別に命だけは取らないでおきましょう」

「はぁ? 何を言って……」
「もちろんタダでは言いませんよ。貴方がお嬢さまを買った時の値段の2倍……。いいえ、3倍を支払いましょう」


 サクラは小切手の代わりに白色の紙を取りだしてテーブルの上に叩きつける。

 奴隷の売買は時として、数千万リアの大金が動くことがある。
 現金での取引は様々な面でリスクが付きまとうので、こういったケースの場合、小切手によって取引するのがマナーとなっていた。


(……どうやらマジで言っているみたいだな)


 これまでの会話から1つだけハッキリしたことがある。

 それはサクラの目的がシルフィアの解放にある、ということであった。


 ――奴隷の身分に落とされた人間を救うための方法は大きく分けて2つある。


 即ちそれは主人となる人間を殺すか、主人が納得する金額で奴隷を買い戻すか、であった。


「……サクラ。いい加減にしないか。主君が困っているだろう」


 シルフィアが仲裁に入ろうとすると、サクラの表情は一層不機嫌なものになっていく。


「お嬢さま。いい加減に目を覚まして下さい! お嬢さまはその男に騙されているのです!」

「……何を言っている? 私は至って正気だぞ!」

「いいえ。ワタシの知るお嬢さまは、自ら進んで男の奴隷になったりはしません。お嬢さまはその男に洗脳されているのです!」


 誤解と偏見に満ちた酷い言い草であるが、サクラの主張は滅茶苦茶なようでいて一部納得の行く部分もあった。


(う~ん。たしかに昔と比べたらシルフィアも雰囲気が変わったと思うけど……)


 悠斗との出会いがシルフィアに大きな変化をもたらしていた。

 出会ったばかりの頃のシルフィアは、男性に対して強い不信感を抱いており、今とは違って全体的にトゲトゲしい雰囲気を醸し出していたのである。

 数カ月振りに再会を果たしたシルフィアが、以前までと別人に見えてしまうのは無理もない話であった。


「……主君。これ以上は何を言っても無駄だろう。迷惑をかけてすまなかったな」


 何か大事なことを決意したような真剣な表情を浮かべたシルフィアは、腰に差した剣に手をかけた。


「――これ以上、主君を愚弄するのであれば容赦はしない。どちらか好きな方を選べ。今すぐこの家を去るか、この場に留まり私に切り伏せられるか」

「そ、そんな……。ワタシは何よりお嬢様のことを思って……」


 まさか大切に思っていた主から刃を向けられるとは思ってもいなかった。

 シルフィアに殺気に気圧されたサクラの態度は、途端に弱気なものになっていく。


「シルフィア。一端ストップだ」


 これ以上、2人を放置しておくと誰も得をしない戦いが起こりかねない。
 そう考えた悠斗はシルフィアの肩にポンと手をおいてやることにした。


「おい。お前、サクラとか言ったな」

「下賤な豚が! ワタシの名を呼ぶとは良い度胸ですね……!」

「俺はシルフィアを洗脳していない。シルフィアは自分の意思で奴隷になった……と言ったら信じてくれるか?」

「……ありえませんね。ワタシは物心ついた時からずっとお嬢様の傍でお仕えしていたのです。貴方のようなポッと出の豚とは付き合いの年季が違うのですよ」


 言葉による説得は無意味であった。

 サクラの中には自分が誰よりもシルフィアの理解者であるという絶対の自信があったのである。


「分かった。ならさ。暫く部屋を貸してやるから、自分の目で見て確認したらどうだ?」


 悠斗はポケットの中からゆっくりと合鍵を取り出すと、サクラの掌の中にそれを握らせる。


「はぁ? 何を言って……」

「自分の目で俺たちの生活を確認して、『納得』したら帰ってくれよ。これで文句ないだろう?」

「……もし納得できなかったら?」

「その時は好きなタイミングで寝首を掻きにくればいいさ」


 未だに納得の行かない部分もあるが、サクラにとって悠斗の提案は魅力的なものがあった。

 暫く掌の中のカギを見つめていたサクラは、やがて悔しそうな面持ちで首を縦に振る。


「……分かりました。その条件、呑みましょう」


 合鍵を受け取ったサクラは悠斗に礼をすることもなく、階段を上がって行くことになった。


「良かったのか。主君」

「ああ。どちらにせよ俺たちに取れる選択肢はこれしかないんだよ」

「? どういうことだ?」

「ここで追い返したところで意味がないからな。あの子は自分で納得しない限り何度でも俺を殺しに来るさ」

「…………ッ!?」


 言われてみるとその通りである。
 悠斗の意見を受けたシルフィアは深い感銘を受けていた。

 付き合いの長さだけで判断すると、自分の方がずっとサクラのことを知っているはずなのに――。

 悠斗は一瞬にして初対面の人間の本質を見抜いて見せた。


「ふふ……。流石は主君。頼もしいな」


 単なる肉体的な強さだけではない。
 シルフィアが悠斗に着いて行こうと考えるようになったのは、悠斗の中に底の見えない器の大きさを感じていたからである。


(……それにしてあのサクラって子……スゲー、良い体をしていたなぁ)


 悠斗の脳裏に焼き付いて離れないのは、ピチピチのキャットスーツを身に纏ったサクラの艶やかな体である。

 胸は大きい。
 シルフィアと比べると流石に数段サイズは落ちるが、強気の性格とスレンダーな体つきが手伝ってか、独特の色気を醸し出している。


 ――多少、性格に難があったとしても、一緒に生活をする美少女は多ければ多いほど良い。


 悠斗がサクラに同居のアイデアを提案したのは、そう言った『裏の理由』も存在していたのである。


(……む。主君。また何か考え事か)


 物憂げな表情で何処か遠くを見つめる悠斗の姿を目の当たりにしてシルフィアは思う。


(主君のことだ。おそらく私のような人間には及びもつかないような……。立派なことを考えているのだろうな……!)


 純朴でいて他人を疑うことを知らないシルフィアは、悠斗に向かってキラキラとした尊敬の眼差しを向けるのだった。

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