異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~

柑橘ゆすら

VS ウルフ



 ルーメルに到着した悠斗たち一行は、市場の見学を交えながらも街の奥に歩みを進めていた。


「サクラ。まずは何処に向かうのだ?」

「さっそくですが、反乱軍のアジトに向かう予定です。お嬢さまには可能であれば今日中にリズベルと会って頂くつもりでいます」


 幼少期にシルフィアに剣の稽古をつけていたリズベルは、現在ルーメル反乱軍のリーダーとして存在感を発揮している。

 政府の人間が交渉の場を求めても厳格なリズベルの前には取り付く島もない。

 シルフィアがルーメルに呼び出されたのは、リズベルを交渉のテーブルに引きずり出すためだったのである。


「見えてきました……! あの建物の地下がルーメル反乱軍のアジトになっています」


 サクラの指さす方向にあったのは、一見すると何の変哲もない教会だった。
 この教会はもともと秘密裏に街に出入りするための、地下通路が引かれていたという背景もあり、現在では反乱軍の隠れ家の1つとして重宝されていた。


「うわああああ! 魔物だ! 助けてくれええええ!?」 


 悠斗たちが教会の扉の前に到着しとうとする直前に異変が起きた。


 ウルフ 脅威LV5


 男の悲鳴に釣られて視線を向けると、そこにいたのは黒色の毛並みを持った狼のモンスターであった。


「うおっ。初めて見るモンスターだな」


 この時、悠斗にとって知る由のないことであったが、ウルフというモンスターは人間たちの中で疫病を蔓延させる要因になることから、冒険者ギルドの中では最も討伐の優先順位の高いモンスターであった。

 諸々の整備の行き届いたロードランドでは滅多なことでは遭遇の機会はない。
 裏を返すとウルフが出現するということは、それだけルーメルの治安が悪いことの現れでもあった。


「仕方がありませんね。ここはワタシが……!」


 このまま放っておけばウルフの群れが市場にいる子供たちを襲ってしまう危険線がある。

 その場にいた誰よりも早く事態の危険性を察したサクラは、メイド服のスカートの中から暗器となる刃を取り出した


「「「キャインー!」」」


 忍者のような素早い動きで相手の牙を躱したサクラは、手にした刃でウルフの肉体を引き裂いた。

 サクラの武器には、小型のモンスターなら一撃で仕留めることのできる痺れ薬が塗られている。
 ダメージを受けたウルフたちは、地面に転がったままビクビクと体を痙攣させていた。


「よっしゃ! 久しぶりのバトルだぜ!」


 街の中に入ってくるウルフの数は優に10匹を超えている。
 サクラだけに任せていては時間がかかると踏んだ悠斗は、続いて戦闘に参加することにした。


(こういうモンスターを相手に素手で戦うのは危険だよな……)


 腹を空かせて口から涎を垂らしたウルフたちの毛皮には、血を吸ってブクブクと膨れ上がった大きなダニが付着している。
 こういったモンスターを相手に近接戦を仕掛けるのは得策ではない。

 万が一にも、噛みつかれてしまえば、厄介な疫病を移されてしまうリスクがあるだろう。

 そう考えた悠斗は、魔法のバッグ(改)の中から《オークの槍》を取り出して戦うことにした。

 槍を持っての戦闘は久しぶりであったが、各々の武術の『本質』を掴んでいる悠斗の腕が錆び付くことはない。

 悠斗は常に一定の距離を保ちながらも器用にウルフの群れを蹴散らして見せていた。


(コノエ・ユート……。やはりこの男は計り知れません……)


 悠斗の戦闘を間近で観察していたサクラは、改めてその潜在能力の高さに驚愕していた。


(この男の槍術……。一体どれだけの技術が詰め込まれているのか……。皆目見当もつきません)


 悠斗が打ち込んでいる近衛流體術とは、『世界各国に存在する全ての武術の長所』を取り入れることで、《最強》を目指すというコンセプトを掲げている異流武術である。

 今現在――。
 悠斗が体得している武術はレスリング、ボクシング、サバット、合気道、柔道など古今東西で優に60種類を超えている。

 戦況に応じて最適な武術を選択する悠斗の戦闘スタイルは、第三者の目から見ると全く捉えようのないものだった。


「主君! 加勢するぞ!」


 やや遅れて戦闘の準備を整えたシルフィアが悠斗の後に続く。
 誰に言われたわけでもなく自発的に戦闘に参加したシルフィアは1匹、また1匹とウルフたちを正確な剣撃で斬り刻んでいく。


「…………ッ!?」


 その様子を横目で捉えたサクラは、驚愕のあまり一瞬攻撃の手を止めてしまう。


(こ、これは驚きました……!)


 幼少の頃より誰よりも近くでシルフィアと過ごしていたサクラだからこそ分かる。

 真面目過ぎる性格が仇となっているのだろう。
 シルフィアの剣には、昔から「基本に忠実過ぎるが故に応用が利かない」という欠点が存在していた。

 だがしかし。
 今のシルフィアの剣にはかつてのような欠点は何処にも見当たらない。


「はぁぁぁ! たあっ!」

「「「キャインー!」」」


 風を斬るように素早いシルフィアの剣技がウルフの肉体を両断していく。
 女性特有の軽やかな体さばきに風魔法を織り交ぜたシルフィアの剣技は、世界でたった1つのオリジナルに昇華していた。

 誰がシルフィアに剣術を指導したのかは直ぐに分かった。


(認めたくないものですね。お嬢さまの成長は、あの男の影響の影響なのでしょう……)


 シルフィアが体得した既存の型に捕われない変幻自在の戦闘スタイルは、何処か悠斗のそれと重なるものがある。

 嫉妬の感情に駆られたサクラは独り、唇を強く噛み締めるのだった。

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