異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~

柑橘ゆすら

挟み撃ち



 奴隷の少女たちを助けたい気持ちはあったが、グレゴリーのスキルによって操られていう100人近い少女たちを助けるのは時間的にも技術的にも不可能である。

 もしも彼女たちを救うための方法があるのだとしたら、それはグレゴリーを倒すこと以外にないだろう。

 そう判断した悠斗は更に地下聖堂の奥の探索を続けていく。


 ビー。ビー。ビビビビー。


 暫く歩くと悠斗の頭の中に警鐘のスキルによる電子音が鳴り響く。

 音はやがて強さを増して、この地下聖堂に巣食うボスの居場所を示すレーダーの役割を果たしていく。


 こんなことは初めてだった。


 警鐘のスキルが発動するには、ある程度、敵に近づくことが条件だったのだが、今回に限ってはその例に当てはまらない。

 警鐘スキルが起こしたイレギュラーは、グレゴリーの戦闘能力がそれだけ高いことの裏返しであるとも言えた。

 暫く歩くとやたらと、周囲と比べてやたらと開けた空間の地下聖堂の最深部に到達する。目的の人物はそこにいた。


「よぉ! 会いたかったぜ~! 金髪の嬢ちゃん……!」


 グレゴリー・スキャナー
 種族:ヒューマ
 職業:反逆者
 固有能力:隷属契約 読心


 隷属契約@レア度 ☆☆☆
(手の甲に血液を垂らすことで対象を『奴隷』にする能力。奴隷になった者は、主人の命令に逆らうことが出来なくなる。契約を結んだ者同士は、互いの位置を把握することが可能になる)


 読心@レア度 ☆☆☆☆☆☆
(対象の心の状態を視覚で捉えることを可能にするスキル)


 黄金のジャケットを羽織ったグレゴリーは、ふかふかのソファの上で複数の美女をはべらせながらも悠斗たちを出迎える。


「――1つ聞きたい」


 グレゴリーの姿を確認するなりシルフィアはズイと前に踏み出した。


「罪のない人間を操り、今回の騒動を引き起こした原因は貴様にあるのだな?」

「ん? ああ。そうだが」


 シルフィアの質問を受けたグレゴリーは、ポリポリと退屈そうに耳の穴を掻いていた。


「何故そんなことをする!? 貴様には血も涙もないのか!? どうして無関係な他人を傷つけようとするのだ!」


 その疑問は厳格な騎士の家庭で生まれ育ち、『強きを挫き、弱きを助ける』の精神を培ってきたシルフィアにとっては、当然のものであった。

 生まれながらにして根本から考え方の違う魔族のような存在ならばまだしも、自分と同じ人間が無関係な人間を殺める理由が分からなかったのである。


「答えは簡単。無関係だからじゃないか?」

「……なに!?」

「嬢ちゃんだって、世界の裏側で今誰が死んでいるかなんていちいち気にしていないのだろ? そんなに無関係な他人の命が大切ならば今すぐに紛争地域に行って、ボランティアでもしたらどうだ?」

「…………ッ!?」


 思いがけない意見を返されたシルフィアは言葉を詰まらせる。
 シルフィアとは対照的に人の死が当たり前のように身近にあった環境で生まれ育ったグレゴリーにとって、他人の死など外国の天気のように興味のないことだったのである。


「あー。俺からも1つ聞いて良いか」


 シルフィアの質問に区切りがついたのと見計らって動いたのは悠斗であった。


「……たとえばお前が事故で死んじまった場合、お前が操っている人間はどうなるんだ? スキルは解除されるのか? まさか巻き込まれて、同時に死んじまうなんてことはないよな?」


 悠斗の質問の意図することに気付いたグレゴリーにニヤリと金色の歯を露にする。


「――答えはイエスだ。オレが死ねばオレのスキルは解除される。ま、信じる信じないはお前たちの勝手だがな」


 スキルを持った人間が死亡すると洗脳していた兵士が自由になることは、『人形遊び』の固有能力を持った部下で実際に試したことであった。
 上位階層の人間が息絶えると洗脳兵の数が一気に減少するのが、グレゴリーの保有する固有能力《拡散する人形遊び》の数少ない欠点だったのである。


「クカカカカ。ところでそこの黒髪。お前、異世界人だろ……?」


 ここで自分だけ相手の質問に答えないのはアンフェアである。
 グレゴリーの質問を受けた悠斗は無言のまま首を縦に振った。


「そうか。そういうことか。お前がアークの言っていたコノエ・ユートだな! 合点がいったよ」

「…………!?」


 グレゴリーの言葉は悠斗の精神を激しく揺さぶるものであった。
 悠斗と同じ黒髪黒目を持った異世界人であり、500年前にこの世界を救った英雄――『アーク・シュヴァルツ』は悠斗にとっても因縁の深い相手だったのである。


「教えろよ。お前は……お前たちは一体何なんだ?」


 この時点で悠斗は、目の前の男が『アーク・シュヴァルツ』と同じ組織に属する人間であることに薄々と気付いていた。

 アークに連なっている異世界人は、グレゴリーだけに留まらない。
 以前に出会った半人半機のゴールドランク冒険者『クラウド・J・ファースト』もまた同様の組織に所属しているのだろう。


「クカカカカ! 悪いがお前の質問タイムはこれで終わりだ。聞きたいことは山ほどあるが、後は『人形』になったお前に聞くことにするよ」


 グレゴリーが高らかに笑ったその直後。
 ドタドタという足音と共に地下聖堂の中が揺れていくのを感じた。


(コイツら……もう追ってきやがったのか!?) 


 人の気配を感じて振り返ると、そこにいたのは口から血を流しながらも太刀を構えるセバスの姿であった。


「助太刀しますぞ! グレゴリー様!」


 想定していたよりも早すぎる。
 召喚魔法リヴァイアサンによって全身の骨を砕かれたセバスであったが、吸血鬼の保有する脅威の回復力で以て前線に復帰。

 水流に流された兵たちの中で意識を残った人間たちを引き連れて、主であるグレゴリーの加勢に来たのである。


「残念だったな! お前にオレは殺せない! お前たち3人は今日からオレの元で働く人形になるのだからな!」


 後方には強靭な身体能力を持った吸血鬼と洗脳兵、前方には戦争の首謀者である謎の異世界人。

 不意を突かれる形で挟み撃ちとなった悠斗たちは絶体絶命の窮地に陥っていた。

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