聖剣を抜いたのが僕でごめんなさい!
第一話 最弱の勇者爆誕?!
「何とも辺鄙な、、本当にこの地で間違えないのだな?」
「ええ、、間違えございません。伝承によれば、あと少し西へ進んだ所に“聖なる丘”があるはずです」
とある辺境の山岳地帯。
王都エスターテールから馬を走らせる事、5日と少し。さらに山を歩く事、3日目。
異様にガタイの良い老人と、気品漂う美しい少女というミスマッチ極まりない2人が、身に付けた衣服をボロボロにしながら獣道を進んで行く。
「あーもう!さっきから頭の周りにコバエが飛んでるわ!ゴトー!何とかしなさい!!」
「先程虫除けの薬草を、お使いになったばかりではないですか?我々は余程臭いんでしょうなー!ハッハ!」
「笑い事じゃないわよ。。もう!!」
楽天主義で気長な老兵ゴトーに比べ、少女の方は、明らかに気が立っている。
「このぉ、、、っえいやー!」
「何をしているのです!?おやめください!」
「止めないでゴトー!コバエの分際で私を愚弄するとは、、あんたなんて“コバカ”に改名してあげるわ!」
手のひらをパチパチ合わせコバエと格闘する少女に呆れたゴトーは、大きくため息をつくとやむを得なく彼女の首根っこを掴みズルズルとひきづりながら歩き出した。
「これは私と“コバカ”の聖戦よ!邪魔しないで!」
「こんな安い聖戦だけならエスターテールも苦労しないんですがね。。おっと見えましたぞ!」
年甲斐もなく目を輝かせるゴトー。
少女も自力で掴まれた手を振りほどき、その野花が咲き乱れる、だだっ広い丘に目を奪われていた。
「なんて清らかな場所、、」
数秒、いやもっと長かったかもしれない。
目の前に忽然と現れた「聖なる丘」に、2人は言葉を発するのをやめ、そのエネルギーを全身に感じていた。
「おそらく、あの一際高い場所に“ソレ”はありますぞ!」
「急ぎましょう」
2人は高台に向かい歩みを進めた。
前方から1人の少年が駆け下りてくる。
背中には大きな剣を背負っているのが見える。
「麓の村の子供かしら?」
「こんにちはー!」
少年は無邪気に笑いながら挨拶をし、そのまま走りながら森の中へ消えていった。
「元気な少年ですなー!私も走りますぞー!」
「ちょっと!待ちなさいゴトー!」
(、、、それにしてもさっきの少年。体に似つかわしくない大剣を持っていたわね。)
ゴトーは齢64とは思えない速さ丘を駆け登る。
少女もゴトーを追うように自然と駆け足になっていた。
「到着っと」
旅の終点を迎え清々しい気持ちになり掛けていた矢先。
目の前には膝から崩れ落ち、頭を抱えるゴトーの姿があった。
「ぬぅわんですとぉおおお!!」
ゴトーが雄叫びをあげた。
「どうしたの、、、え、、えええ!!」
少女も負けじと雄叫びをあげる。
そこにあったのはただの石碑のみだった。
[聖剣エクスカリバーを次の勇者に託す・・・アレキサンダー・エス・ローランド]
台座には剣が刺さっていたと思われる痕跡が残っていた。
聖剣エクスカリバーが既に抜かれている。
「さっきの少年だわ!」
「まさか!聖剣エクスカリバーは『勇者の名を持つスキル保持者』しか扱えないず!先程の少年が、、ありえません!」
「とにかく、あの少年はここから降りて来た!何か知ってるのは間違えないわ!」
「なんて事だ。。国王になんと報告すれば。。」
「もう!いざという時使えないわねー!とりあえず追うわよ!」
(平民の分際でエクスカリバーを抜いたっていうの!?勇者は私よ)
「今日も平和ですなー」
辺り一面に草花の絨毯が広がっている。
頰を優しく撫でるそよ風が眠気を助長しているようだ。
[こんな日常をずっと望んでいた]
転生前の僕は、毎日が地獄だった。
物心つく前に交通事故で親を亡くした僕は、まもなく母方の親戚の家に引き取られた。
そこで待っていたのは繰り返される体罰。
ペットに使うような皿に最低限の“エサ”を入れられただけの食事。
寝室は階段下の押入れ。
叔母夫婦の狙いは病院を経営していた父が溜め込んでいた億単位の資産だった。
元々、1人息子を溺愛していた事もあり、僕には丸切り関心がない。
いや関心が無いならまだ良かった。
資産が手に入り、もう用済みになった僕はこの家族の奴隷であり、ストレスのはけ口にされていたのだ。
みすぼらしい格好しかさせてもらえなかった僕は、当然のように新しい学校にも馴染めなかった。
12歳の夏。
その日も酒に酔ったおじさんから執拗に体罰を受け、押入れに投げ込まれた。
僕はそのまま異様な程の蒸し暑さの中気絶し、気付いたら死んでいたのだった。
「本当に散々な人生だったわね」
目が覚めると、ただ白いだけの何も無い空間を漂っていた。
目の前には謎の発光体が浮かんでいて、どうやらここから声が聞こえてくるのだと直感的にわかった。
「ああ良かった。意識戻ったのね」
「あれ?僕さっきまで押入れにいたはずなんだけど。。」
「苦痛が強すぎて、体と魂が離れてしまったのよ」
「はぁ。」
そういえばさっきから体に重さを感じない。微妙に全身が光ってるし、夢の中にでもいるみたいだ。
「人間で言うところの“死んだ”って言う状態よ。ご愁傷様だったわね。」
「そうなんですか」
「あれ?驚かないの?いつのまにか死んじゃったんですよー?」
「いつかは死んじゃうと思ってたから。。それに僕の人生は驚く事が多すぎて、もう慣れちゃいました」
「驚く事に慣れちゃった・・ふむふむ、なるほど、、」
「僕はこれからどうすればいいんですか?」
「ナイスクエスチョン!本来なら善良であるあなたの魂はこのまま私が天界へ導き、寿命と同じ時間を“桃源郷”でのんびり優雅に過ごしてもらいます。その後、再びランダムで地上へ戻る予定よ」
「善良なのにまたあんな場所に戻されるんですか。。」
「こればかりは神様のご指示なので何とも、、それより不良である魂は地獄で100年間の拷問が待っているのよ!善良最高って思って欲しいわね!ちなみに地獄はこちらー」
いきなり出現した大型テレビには地獄の惨たらしい映像が映っていた。
「うぅ、、確かに善良で良かったです」
「まあでも、あなたは12年しか生きてないし、生前“徳”が高かった訳でもないのよね、、あなたの危惧してる通り、生まれ変わってもランクの低い運命を引き当てる可能性がとっても高いわ」
「、、、そんな。もう嫌だ、、」
「あんた本当に暗いわねー。さっきも言ったけど今までの話は“本来なら”よ!」
「何か秘策でもあるんですか!」
「この世界を捨てなさい!そして新しい世界に行くのよ!」
「はい!それで!」
「即答だな!!、、まあいいわ。ちょっと待っててくれる」
発光体の向こう側で安っぽいキーボードを打つ音がカタカタ聞こえる。どうやらこの光の玉は本体ではなく通信機器の様な物らしい。
天界にもIT革命は起こっているようだ。
「箱根湯太郎、、変な名前ね、、転生希望の為、桃源郷4380泊4381日のプランキャンセルっと」
「え!桃源郷キャンセル何ですか!?」
「転生させてあげるんだから贅沢いわないの。経費削減にもなるし、、」
「ケイヒサクゲン?今すんごく大人の事情挟みませんでしたか!?」
「あらやだ。そんな事言ってた?」
「思いっきり言ってましたよ!」
「細かい男はモテないわよ。ふむふむ、アルフヘイムに空きがあるわね、、しばらく誰も転生してないし良さそうね。申請申請!」
カタカタ、、
(なんかすんごく事務的な音だー!パソコン!?ここってWIFI飛んでるの!?)
「あら。もう許可が降りたわ。初期能力値とスキルどうする?あなた可哀想だしサービスで最強の勇者にしてあげよっか」
能力値?スキル?更には勇者、、聞き馴染みはあるけど、現実味の全くない単語に少しの混乱を覚える。
「あの、、僕の行く世界と言うのはファンタジーとかそう言う類なんでしょうか、、」
「察しがいいわね。剣と魔法の世界[アルフヘイム]で許可が降りたわ!妖精やドラゴンなんかもわんさかよ!ここ100年、転生実績も無いし、何のしがらみも気にしなくていいわ。さあそれより能力値よ。めちゃくちゃ強い設定で問題ないわよね」
「それはやめてください、、平穏に生きれたらそれでいいので。普通の村人なんかでお願いします」
「はぁ?せっかく転生するってのにそれでいいわけ?こんなチャンスもう無いんだからね!」
「それでも普通で。もし勇者になんかなって世界を救うはめになったら、それこそ絶対傷つくし、有名になって平穏に暮らせなくなったら転生する意味がないんです」
発光体の向こうで呆気に取られてるのはビシビシ感じるが、僕にとってはソレが最重要案件なのだ。
「変わってるわねー。転生者ってのはもっと欲張ってもいいのよ。ひどい前世だったんだから。まあ、、本人が望むならしょうがないけど」
「ありがとうございます」
「次にスキルなんだけど、これも特に必要ない?」
「はい」
「了解。あ、でも固有スキルに限っては転生後に勝手に出現する可能性があるから覚えといて」
「固有スキル?」
「転生者ってのは魂の器を変えるだけであって、リセットはしないのよ。当然記憶もそのまま。よって前世で身に付けた技能や耐性っていうのは“固有スキル”として引き継がれるの。まあ世界が変われば役に立たない事が多いようだけど」
「わかりました。覚えておきます!」
「とりあえず初期スキルが出来たわ。確認してちょうだい」
名前:ユタロウ
職業:村人
『ステータス』
心力:C
技力:C 
体力:C
筋力:C
脚力:C
魔力:C
知力:C
『スキル』
??????:S
??????:S
ステータスは見事に平均化されており申し分ない、気になるのはスキルだ。
「ランクSのスキルが2つあるようになんですが、、」
「だからさっきも言ったでしょ?前世の技能や耐性は引き継ぐって!でも確かにSなんて凄いわね、、何かは転生しなきゃわからないけど」
その時、どこからともなく大きな鐘の音が響いてきた。
「いけない、鐘が鳴ったわ。本日の異世界転生最終便よ!急いで目を閉じなさい」
天界と言うのは本当に全てが唐突だ。
僕は言われるがままに深く目を閉じた。
「あなたが次に目を開いたらそこはもう[アルフヘイム]よ。[ユタロウ][村の少年][12歳]それが新しいあなた。全ての世界の記憶は辻褄が合うように改ざんしておくから安心しなさい」
体が更に軽くなり、どんどん上昇して行くのがわかる。
「はーい!行ってらっしゃーい!」
果たして目の前にあった発光体の向こうにいたのは誰だったのか。
そんな事さえ分からないまま僕の意識は再び遠くなっていった。
・・・よし、休憩休憩♪
「ミカエルさーん!」
一つの発光体が猛スピードで近付いてくる。
「ウリエル?どうしたの!そんなに慌てて」
「今の子もう[アルフヘイム]に行っちゃいましたか?」
「ええ。バッチリ飛ばして上げたわ!」
「あちゃー、、遅かったか、、」
「なにかまずかったかしら?」
「今日[100年地獄]から最悪の魔王[アガサード]が転生したんですけど、その行き先が[アルフヘイム]なんです!」
「、、、ええええー!!」
「完全に“クレーム案件”ですよ!始末書100枚よろしくです」
「いやよおおおー!」
逃げる発光体とそれを追う発光体。
「ユタロウー!クレームは受け付けないわよー!」
「行ってらっしゃい」
その言葉を最後に何も聞こえなくなった。
数秒か数分か。再び目を開けると、新しい世界の母が作った朝ごはんが目の前に現れた。
「本当に転生したんだ!」
思わず声に出てしまう。
「何変な事言ってるの?早く食べちゃいなね!」
優しく安心する母の声。ちゃんと思い出として残る、この地での12歳までの記憶。改ざんもうまくいったらしい。
天界で僕の転生が少し騒ぎになった事もつゆ知らず、僕は美味しく朝ごはんをいただくのであった。
「うまいな」
あれから3年。
いつものように遊びがてら山を散策していると、偶然にも丘の上で台座に突き刺さった剣を見つけた。
手をかけ、少し力を加えるといとも容易く抜けてしまった。
「やっべ!やっちまった」
再び刺し戻そうとするものうまく穴にフィットせず、途中で諦めた。
「まあいっか、、綺麗な剣だな。母さんに見せてあげようっと」
とりあえず果実を採集する為に用意した大きめの布を使って、剣を背中に固定すると、一目散に丘を駆け下りた。
途中、この辺で見たことのないごっつい老人と綺麗な女の子に挨拶をし、麓の街までの近道を一気に駆け下りるのだった。
「ええ、、間違えございません。伝承によれば、あと少し西へ進んだ所に“聖なる丘”があるはずです」
とある辺境の山岳地帯。
王都エスターテールから馬を走らせる事、5日と少し。さらに山を歩く事、3日目。
異様にガタイの良い老人と、気品漂う美しい少女というミスマッチ極まりない2人が、身に付けた衣服をボロボロにしながら獣道を進んで行く。
「あーもう!さっきから頭の周りにコバエが飛んでるわ!ゴトー!何とかしなさい!!」
「先程虫除けの薬草を、お使いになったばかりではないですか?我々は余程臭いんでしょうなー!ハッハ!」
「笑い事じゃないわよ。。もう!!」
楽天主義で気長な老兵ゴトーに比べ、少女の方は、明らかに気が立っている。
「このぉ、、、っえいやー!」
「何をしているのです!?おやめください!」
「止めないでゴトー!コバエの分際で私を愚弄するとは、、あんたなんて“コバカ”に改名してあげるわ!」
手のひらをパチパチ合わせコバエと格闘する少女に呆れたゴトーは、大きくため息をつくとやむを得なく彼女の首根っこを掴みズルズルとひきづりながら歩き出した。
「これは私と“コバカ”の聖戦よ!邪魔しないで!」
「こんな安い聖戦だけならエスターテールも苦労しないんですがね。。おっと見えましたぞ!」
年甲斐もなく目を輝かせるゴトー。
少女も自力で掴まれた手を振りほどき、その野花が咲き乱れる、だだっ広い丘に目を奪われていた。
「なんて清らかな場所、、」
数秒、いやもっと長かったかもしれない。
目の前に忽然と現れた「聖なる丘」に、2人は言葉を発するのをやめ、そのエネルギーを全身に感じていた。
「おそらく、あの一際高い場所に“ソレ”はありますぞ!」
「急ぎましょう」
2人は高台に向かい歩みを進めた。
前方から1人の少年が駆け下りてくる。
背中には大きな剣を背負っているのが見える。
「麓の村の子供かしら?」
「こんにちはー!」
少年は無邪気に笑いながら挨拶をし、そのまま走りながら森の中へ消えていった。
「元気な少年ですなー!私も走りますぞー!」
「ちょっと!待ちなさいゴトー!」
(、、、それにしてもさっきの少年。体に似つかわしくない大剣を持っていたわね。)
ゴトーは齢64とは思えない速さ丘を駆け登る。
少女もゴトーを追うように自然と駆け足になっていた。
「到着っと」
旅の終点を迎え清々しい気持ちになり掛けていた矢先。
目の前には膝から崩れ落ち、頭を抱えるゴトーの姿があった。
「ぬぅわんですとぉおおお!!」
ゴトーが雄叫びをあげた。
「どうしたの、、、え、、えええ!!」
少女も負けじと雄叫びをあげる。
そこにあったのはただの石碑のみだった。
[聖剣エクスカリバーを次の勇者に託す・・・アレキサンダー・エス・ローランド]
台座には剣が刺さっていたと思われる痕跡が残っていた。
聖剣エクスカリバーが既に抜かれている。
「さっきの少年だわ!」
「まさか!聖剣エクスカリバーは『勇者の名を持つスキル保持者』しか扱えないず!先程の少年が、、ありえません!」
「とにかく、あの少年はここから降りて来た!何か知ってるのは間違えないわ!」
「なんて事だ。。国王になんと報告すれば。。」
「もう!いざという時使えないわねー!とりあえず追うわよ!」
(平民の分際でエクスカリバーを抜いたっていうの!?勇者は私よ)
「今日も平和ですなー」
辺り一面に草花の絨毯が広がっている。
頰を優しく撫でるそよ風が眠気を助長しているようだ。
[こんな日常をずっと望んでいた]
転生前の僕は、毎日が地獄だった。
物心つく前に交通事故で親を亡くした僕は、まもなく母方の親戚の家に引き取られた。
そこで待っていたのは繰り返される体罰。
ペットに使うような皿に最低限の“エサ”を入れられただけの食事。
寝室は階段下の押入れ。
叔母夫婦の狙いは病院を経営していた父が溜め込んでいた億単位の資産だった。
元々、1人息子を溺愛していた事もあり、僕には丸切り関心がない。
いや関心が無いならまだ良かった。
資産が手に入り、もう用済みになった僕はこの家族の奴隷であり、ストレスのはけ口にされていたのだ。
みすぼらしい格好しかさせてもらえなかった僕は、当然のように新しい学校にも馴染めなかった。
12歳の夏。
その日も酒に酔ったおじさんから執拗に体罰を受け、押入れに投げ込まれた。
僕はそのまま異様な程の蒸し暑さの中気絶し、気付いたら死んでいたのだった。
「本当に散々な人生だったわね」
目が覚めると、ただ白いだけの何も無い空間を漂っていた。
目の前には謎の発光体が浮かんでいて、どうやらここから声が聞こえてくるのだと直感的にわかった。
「ああ良かった。意識戻ったのね」
「あれ?僕さっきまで押入れにいたはずなんだけど。。」
「苦痛が強すぎて、体と魂が離れてしまったのよ」
「はぁ。」
そういえばさっきから体に重さを感じない。微妙に全身が光ってるし、夢の中にでもいるみたいだ。
「人間で言うところの“死んだ”って言う状態よ。ご愁傷様だったわね。」
「そうなんですか」
「あれ?驚かないの?いつのまにか死んじゃったんですよー?」
「いつかは死んじゃうと思ってたから。。それに僕の人生は驚く事が多すぎて、もう慣れちゃいました」
「驚く事に慣れちゃった・・ふむふむ、なるほど、、」
「僕はこれからどうすればいいんですか?」
「ナイスクエスチョン!本来なら善良であるあなたの魂はこのまま私が天界へ導き、寿命と同じ時間を“桃源郷”でのんびり優雅に過ごしてもらいます。その後、再びランダムで地上へ戻る予定よ」
「善良なのにまたあんな場所に戻されるんですか。。」
「こればかりは神様のご指示なので何とも、、それより不良である魂は地獄で100年間の拷問が待っているのよ!善良最高って思って欲しいわね!ちなみに地獄はこちらー」
いきなり出現した大型テレビには地獄の惨たらしい映像が映っていた。
「うぅ、、確かに善良で良かったです」
「まあでも、あなたは12年しか生きてないし、生前“徳”が高かった訳でもないのよね、、あなたの危惧してる通り、生まれ変わってもランクの低い運命を引き当てる可能性がとっても高いわ」
「、、、そんな。もう嫌だ、、」
「あんた本当に暗いわねー。さっきも言ったけど今までの話は“本来なら”よ!」
「何か秘策でもあるんですか!」
「この世界を捨てなさい!そして新しい世界に行くのよ!」
「はい!それで!」
「即答だな!!、、まあいいわ。ちょっと待っててくれる」
発光体の向こう側で安っぽいキーボードを打つ音がカタカタ聞こえる。どうやらこの光の玉は本体ではなく通信機器の様な物らしい。
天界にもIT革命は起こっているようだ。
「箱根湯太郎、、変な名前ね、、転生希望の為、桃源郷4380泊4381日のプランキャンセルっと」
「え!桃源郷キャンセル何ですか!?」
「転生させてあげるんだから贅沢いわないの。経費削減にもなるし、、」
「ケイヒサクゲン?今すんごく大人の事情挟みませんでしたか!?」
「あらやだ。そんな事言ってた?」
「思いっきり言ってましたよ!」
「細かい男はモテないわよ。ふむふむ、アルフヘイムに空きがあるわね、、しばらく誰も転生してないし良さそうね。申請申請!」
カタカタ、、
(なんかすんごく事務的な音だー!パソコン!?ここってWIFI飛んでるの!?)
「あら。もう許可が降りたわ。初期能力値とスキルどうする?あなた可哀想だしサービスで最強の勇者にしてあげよっか」
能力値?スキル?更には勇者、、聞き馴染みはあるけど、現実味の全くない単語に少しの混乱を覚える。
「あの、、僕の行く世界と言うのはファンタジーとかそう言う類なんでしょうか、、」
「察しがいいわね。剣と魔法の世界[アルフヘイム]で許可が降りたわ!妖精やドラゴンなんかもわんさかよ!ここ100年、転生実績も無いし、何のしがらみも気にしなくていいわ。さあそれより能力値よ。めちゃくちゃ強い設定で問題ないわよね」
「それはやめてください、、平穏に生きれたらそれでいいので。普通の村人なんかでお願いします」
「はぁ?せっかく転生するってのにそれでいいわけ?こんなチャンスもう無いんだからね!」
「それでも普通で。もし勇者になんかなって世界を救うはめになったら、それこそ絶対傷つくし、有名になって平穏に暮らせなくなったら転生する意味がないんです」
発光体の向こうで呆気に取られてるのはビシビシ感じるが、僕にとってはソレが最重要案件なのだ。
「変わってるわねー。転生者ってのはもっと欲張ってもいいのよ。ひどい前世だったんだから。まあ、、本人が望むならしょうがないけど」
「ありがとうございます」
「次にスキルなんだけど、これも特に必要ない?」
「はい」
「了解。あ、でも固有スキルに限っては転生後に勝手に出現する可能性があるから覚えといて」
「固有スキル?」
「転生者ってのは魂の器を変えるだけであって、リセットはしないのよ。当然記憶もそのまま。よって前世で身に付けた技能や耐性っていうのは“固有スキル”として引き継がれるの。まあ世界が変われば役に立たない事が多いようだけど」
「わかりました。覚えておきます!」
「とりあえず初期スキルが出来たわ。確認してちょうだい」
名前:ユタロウ
職業:村人
『ステータス』
心力:C
技力:C 
体力:C
筋力:C
脚力:C
魔力:C
知力:C
『スキル』
??????:S
??????:S
ステータスは見事に平均化されており申し分ない、気になるのはスキルだ。
「ランクSのスキルが2つあるようになんですが、、」
「だからさっきも言ったでしょ?前世の技能や耐性は引き継ぐって!でも確かにSなんて凄いわね、、何かは転生しなきゃわからないけど」
その時、どこからともなく大きな鐘の音が響いてきた。
「いけない、鐘が鳴ったわ。本日の異世界転生最終便よ!急いで目を閉じなさい」
天界と言うのは本当に全てが唐突だ。
僕は言われるがままに深く目を閉じた。
「あなたが次に目を開いたらそこはもう[アルフヘイム]よ。[ユタロウ][村の少年][12歳]それが新しいあなた。全ての世界の記憶は辻褄が合うように改ざんしておくから安心しなさい」
体が更に軽くなり、どんどん上昇して行くのがわかる。
「はーい!行ってらっしゃーい!」
果たして目の前にあった発光体の向こうにいたのは誰だったのか。
そんな事さえ分からないまま僕の意識は再び遠くなっていった。
・・・よし、休憩休憩♪
「ミカエルさーん!」
一つの発光体が猛スピードで近付いてくる。
「ウリエル?どうしたの!そんなに慌てて」
「今の子もう[アルフヘイム]に行っちゃいましたか?」
「ええ。バッチリ飛ばして上げたわ!」
「あちゃー、、遅かったか、、」
「なにかまずかったかしら?」
「今日[100年地獄]から最悪の魔王[アガサード]が転生したんですけど、その行き先が[アルフヘイム]なんです!」
「、、、ええええー!!」
「完全に“クレーム案件”ですよ!始末書100枚よろしくです」
「いやよおおおー!」
逃げる発光体とそれを追う発光体。
「ユタロウー!クレームは受け付けないわよー!」
「行ってらっしゃい」
その言葉を最後に何も聞こえなくなった。
数秒か数分か。再び目を開けると、新しい世界の母が作った朝ごはんが目の前に現れた。
「本当に転生したんだ!」
思わず声に出てしまう。
「何変な事言ってるの?早く食べちゃいなね!」
優しく安心する母の声。ちゃんと思い出として残る、この地での12歳までの記憶。改ざんもうまくいったらしい。
天界で僕の転生が少し騒ぎになった事もつゆ知らず、僕は美味しく朝ごはんをいただくのであった。
「うまいな」
あれから3年。
いつものように遊びがてら山を散策していると、偶然にも丘の上で台座に突き刺さった剣を見つけた。
手をかけ、少し力を加えるといとも容易く抜けてしまった。
「やっべ!やっちまった」
再び刺し戻そうとするものうまく穴にフィットせず、途中で諦めた。
「まあいっか、、綺麗な剣だな。母さんに見せてあげようっと」
とりあえず果実を採集する為に用意した大きめの布を使って、剣を背中に固定すると、一目散に丘を駆け下りた。
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