裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

53話



アオイが仲間になったあと、とりあえずアイテムボックスに仕舞おうとしたら入らなかったから、カレンに持たせてある。

さすがに自分の娘を乗っ取ったりはしないだろう。

それにカレンを利用して俺を殺そうとしたらカレンが死ぬことは伝えてあるしな。

久しぶりの再会っていうかほぼ初対面レベルだから、多少ぎこちなくはあるが、あのあと2人は会話をしていた。

歳も近いしすぐに打ち解けるだろう。


ただ、カレンが話してるのはどう見ても独り言をいってるようにしか見えない。

俺もこんなだったということを知って、ちょっとショックだった。




翌日になって気づいたことがあった。



俺の武器がねぇ。


トンファーは壊れたし、ガントレットはいつ壊れるかわからねぇ。

他の武器はあるが、これからダンジョンの敵はどんどん強くなるのに心配だ。

「そういやイーラとセリナは村の探検をするっていってたけど、武器屋ってあったか?」

「にゃかったよ〜。」

「イーラがまたガントレットになるよ!」

それも悪くはないな。
あと4日で町に戻る予定だし、それまではイーラにガントレットになってもらいつつ、他の武器の練習もしておこう。

その方がいざというときにイーラと代わりやすいだろうしな。

「それじゃあこれから4日間はイーラには武器になってもらう。危ないときはイーラに単体で戦ってもらうこともあるかもしれないからそのつもりでいろ。」

「は〜い。」

「カレンは刀を2本持たせるつもりだが、基本使うのは成長の加護が付いている方にしろ。」

「なんで?」

「成長の加護ってのは所有者に合わせて武器を成長させてくれるらしいから、できる限りそいつを使って馴染ませといてほしい。だから二刀流で戦いたいなら両方使ってかまわない。」

「はい。」

「アリアは何かあるか?」

「…マジックポーションがなくなってしまったので、補充したいです。」

「ポーションならまだあるぞ?」

「…傷を回復するポーションではなく、MPを回復するポーションです。」

そんなもの買った記憶がないが、もしかして少ない小遣いを戦闘のためのものに使ってたのか?

どんだけ真面目なんだよ。


「セリナ。薬屋はあったか?」

「あったよ〜。でも冒険者ギルドで買った方が安いんじゃにゃいかな?」

「冒険者ギルドもあるのか?」

「…ダンジョンに近い村には冒険者ギルドが建てられています。町のに比べて小さいですが基本は町の冒険者ギルドと同じ役割をしています。」

アリアが勝手に説明を引き継いだからかセリナが唇を尖らせている。

「じゃあ冒険者ギルドに立ち寄ってからダンジョンに行くぞ。」

「「「「はい。」」」」

アオイの返事はなかったが、まぁいいか。



冒険者ギルドでマジックポーションを20本ほど買ってアリアに渡した。
うちで魔法を使うのはアリアくらいだからな。


その後はすぐにダンジョンに向かい、今はフロアボスの部屋の前だ。

今日は地下30階に1体だけ魔物がいた。
さっそく試しにイーラのガントレットで殴ったら一撃だった。

一撃で頭を吹っ飛ばしたのだが、一瞬過ぎて魔物は死んだことに気づいてないのか、そのまま攻撃された。

魔物は腕が長いから短剣自体は俺からは死角だったが、腕をふる勢いが死んでないのは見えていた。だから何かくるのはわかって避けれたのだが、セリナが魔物の腕を切り、イーラが俺の肩の部分からニョキッと体を伸ばして盾を作ったから、避ける必要がなくなった。

セリナは少し離れたとこにいた気がするが、移動が速くなったんだな。





フロアボスの扉を開ける前になんとなしに昨日の隠し部屋を見た。

壊れたトンファーや空き瓶は全部回収したから、あるのは男の死体だけだろう。
だからもう入る必要もない。

壁から目を離し、扉を見る。


「行くぞ。」

「「「はい。」」」


扉に触れると勝手に開いた。

中には奥の方にそっぽを向いてるデカいゴリラがいた。
見た目がまんまゴリラだな。


俺のパーティーが全員入ると、見計らったように扉が音を立てて閉じた。

その音に気付いたのか、ゴリラがこちらを振り向いた。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

雄叫びのようなものをあげ、ドラミングを始めた。

「カレンは見学。アリアはカレンのそばで俺らをフォロー。俺は正面から行くから、セリナは背後に回れ。」

「「「はい。」」」

指示を出したあと、ゴリラに向かって走る。

ぱっと見相手は素手だから、けっこう近くまでいけるだろ。
あとは魔法に注意だな。
見た目が格闘タイプだからって油断すると痛い目見るからな。

ゴリラはドラミングをやめて俺を見た。

弱そうと思われたのか、構えたり威嚇したりするわけでもなく、右手で背中を掻きはじめた。

馬鹿にしてんのか?

いや、違う。直感が危険を告げてきた。

チラッと後ろを確認すると、セリナは俺の左斜め後ろを走っているから、避けるなら右か。

ゴリラは背中に背負っていたらしい棒を勢いよく叩きつけてきた。

右に大きめに跳んで避け、懐に飛び込む。

ゴリラは左手で俺を掴もうとしてくるが、その前に1発鳩尾みぞおちを殴る。
さすがに弾けとびはしないか。

セリナがゴリラの背後に回ったのが見えたから、俺はゴリラから距離を取った。

ゴリラは若干苦しそうにしているが、叩きつけた棒を持ち上げて戦闘を再開しようとしていた。

背後に回っていたセリナが踊るようにゴリラの背中を斬りつけたあと、離れた。

直後、ゴリラの背中から血が噴き出し、ビックリしたゴリラは前のめりに倒れてきた。


一撃で倒せなかったこいつにどれだけ効くか試してみるか。

アイテムボックスから衝撃爆発のハンマーを取り出し、ゴリラに近づく。

勢いよく懐に入り、その勢いのままハンマーを叩きつけた。

激しい爆発音とともにハンマーが直撃した胸あたりが弾け飛んだ。

爆発も跳ね返ってくることなく、魔物側に突き抜けた。

今さらだが、爆発が跳ね返ってきたらイーラは怪我してたんじゃねえか?
ちょっと考えが甘かったわ。

昨日反省したはずなのに、変わらねぇな。

まぁ上手くいったし、衝撃爆発のハンマーの使い方もなんとなくわかったからいいとするか。


この魔物は毛皮くらいしか素材になりそうにないが、へそから下と飛び散った両腕と生首しか残ってないからな。

「イーラ。食っとけ。」

俺の肩あたりから何かが伸びたと思ったら、ゴリラの残骸付近で網状になって捕獲し、引っ張っている間に消化した。


これだったら生きてる魔物をそのまま吸収できんじゃねぇの?
そしたら素材に使えそうなやつ以外は倒す必要がなくないか?

でも俺らが何もしないとほとんどの経験値がイーラにしか入らなくなるんだったか?

まぁ今まで通りでやりゃあいいか。


それにしても、初めてのフロアボスだから楽しみだったのに、呆気なかったな。

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