裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

81話



ダンジョン跡地に着くと、そこには俺の胸程度しかない緑の魔物が5体ほどいた。
武器は棍棒を持っている。

これは鑑定しなくてもわかる。
たぶんゴブリンだろう。

そりゃゴブリンキングがいるんだからゴブリンがいてもおかしくないわな。

ゴブリンが俺らに気づいてキーキー鳴き始めた。

「俺の領地で何してんだ?」

「…魔物は喋れないので返事はないかと思います。」

「…わかってる。セリナは周りの警戒だ。行くぞイーラ。」

「「はい。」」

森の入り口付近にいたイビルホーンより少し奥にいるこのゴブリンの方が比べるのも失礼なくらい弱いんだが、奥の方が魔物が強いってのは気のせいか?

さっきのゴブリンの鳴き声を聞いてきたのか、いろんなサイズの緑の魔物がわさわさと集まってきた。

ちょっと数えるのが馬鹿らしい量のゴブリン種たちだ。

この中では奥にいる俺より一回りデカくて服を着てるやつが1番強いみたいだが、たかがしれてるな。

「行くぞ。」

「「「「「「はい。」」」」」」


今回のゴブリンたちも一撃で死ぬような奴ばかりなのに、なんかやりづらい。

雑魚なのに雑魚じゃない。

違うな。
個体は弱いのに団体として弱くない…まぁそれでも負ける気はしないがな。

たぶん統率してるやつがいる。

ゴブリンキングか?

だけどセリナからは何も反応がない。

周りを見るが観察眼に反応もない。

雑魚を盾にして斬りかかってきたやつを囮にして殴りかかってくるとかの連携が地味にウザい。

思いの外時間がかかったが、残り1体だ。

イーラに任せればいいか。

「危険が来る!」

セリナが何かを感じ取ったようで、知らせてきた。
言葉がおかしい気がするが、それだけ焦るくらいなんだろう。
ならたぶん相手はゴブリンキングだろうな。

周りを確認するとだいぶ離れたところにそれらしき魔物がいた。

遠くてよく見えないが、あれは岩を作り出してるような気がする。

「岩が飛んでくる可能性がある。あそこにいるゴブリンキングを視界から外すな。アリアは支援と回復をしながらテンコを頼む。カレンは鬼化を使う許可を出す。最悪アオイに体を貸してでも死ぬな!テンコは大人しくしてろ。」

「「「「「はい。」」」」」

アリアが使える限りの支援魔法を使った。
また聞いたことない魔法まで含まれてるな。

イーラは最後のゴブリンを倒そうとしていて、セリナの声も俺の声も聞こえてなかったようだ。

大鎌をクルクルと回して服を着たゴブリンに飛びかかったところで、横から飛んできた岩に吹っ飛ばされて、一瞬で視界から消えた。

あれはただの岩だから、イーラは大丈夫なはずだ。

それより岩の速度が見えるようにはなってるが、それでもアリアの支援魔法があって避けるのがギリギリだろうくらいには速い。

やっぱりここは逃げるべきかと迷っているとゴブリンキングが走ってきた。

これは迎え撃つべきだな。

ゴブリンキングを相手しながら他のやつに気をくばるなんて余裕はないから、この服を着たゴブリンは先に倒すべきだろう。

だが、ゴブリンキングから目を離すのは怖いな。

仕方がない。MPを消費することになっちまうが、魔法を使うか。

『上級魔法:電』

紫電がバチバチと音を立てながら服を着たゴブリンの胸を貫いた。

上級魔法の電は初めて使ったが、速すぎて操作が難しいな。
ほとんど真っ直ぐにしか撃てないけど、今回はうまく胸を貫けた。

見た目的には服の胸のところが焦げただけだが、服を着たゴブリンは膝を折って崩れ落ちた。

威力はけっこう上げていたから、一撃で殺せたみたいだ。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

ゴブリンキングが雄叫びをあげて飛びかかってきた。

途中にある木々をぶち抜きながらほとんど勢いがなくならないとかどんだけだよ。

これでは俺らのど真ん中に着地されるだろう。

「アリア、カレン、テンコは下がれ!俺は正面、セリナは背後だ!」

「「「「「はい!」」」」」

指示を出すと全員がすぐに動き、なんとかゴブリンキングの着地に間に合った。

真正面に立つとクソデケェな。

ゴブリンキングが殴りかかってきたが、速すぎて防御が遅れ、俺の手首がゴブリンキングの腕にあたり微かに軌道をずらせただけだった。咄嗟に体をひねって避けたおかげでかすりもしなかったが、頰が少し切れた…マジかよ。

あの岩をあの速度で投げるのだから、素手のパンチがそれ以上に速いのなんて当たり前か。


それからはほとんど考える余裕もなかった。
観察眼をフルに使い、自然に動く体に任せてひたすらに避け続けた。

背後ではセリナが攻撃し続けているが、ゴブリンキングにダメージを与えられているのかは疑問だ。

なんせゴブリンキングの攻撃がいっこうに衰えない。

徐々に俺がダメージを受けている。
これではそのうち直撃して死ぬだろう。

早くイーラ戻ってこいよという願いが叶ったのか、イーラが叫んだ。

「みんな伏せて!」

体が勝手に反応して伏せると、何かがブンッと音を立てて通り過ぎていった。

顔を上げるとゴブリンキングだけでなく、周りの木々まで広い範囲で真っ二つとなっていた。

倒れてくる木々に注意しながらゴブリンキングを見ると、淡い緑の光に包まれていた。

これは回復系の魔法か!?

ヤバい。

『ルモンドアヌウドゥ』

『エンプティマジック』

アリアが魔法を使い始めた。

ルモンドなんちゃらは木々から自分を護るための魔法だろうが、その後の聞いたことない魔法は流れ的に今のゴブリンを倒すための魔法を使う気だろう。

だけど、マジックシェアを使った状態で今イーラがかなりの魔法を使ったのにMPは残ってるのかと思い、確認するが、やはりMPは既に0だ。

それでもゴブリンキングを倒すための魔法を使おうとしたらアリアのPPがもたねぇだろ!

『アマス』

「イーラ!急いでMPを回復しろ!」

「え?あ、はい!」

イーラは自分で飲む場合は一度体外に出す必要がないのか、すぐにMPが4割近く回復した。

『オーバーブースト』

MPが回復して安心していたが、今のでほとんどなくなった。

『オーバーブースト』

ヤバい。確実にアリアのPPを削った。

「イーラ!もっとだ!」

倒れてきた木々がアリアのルモンドなんちゃらに当たり始めた。これでもMPがないからPPが削れてるはずだ。

奴隷画面から急いでアリアのPPを確認するともう2割を切っている。

だがMPがなければ既に発動している魔法はともかく、新しく魔法は使えないはずだ。

あれ?でもなんで『アマス』は発動したんだ?

ふとアリアの指輪が目に入った。

観察眼が危険を知らせてくる。

「アリア!やめろ!もう使うな!」

『オーバーブースト』

ギリギリでイーラの回復が間に合ったようで、MP消費だけで済んだ。
だが、倒れてきた木々をルモンドなんちゃらが受けるだけでもMPは減っていく。

『エンチャント』

アリアの手元にあった淡く赤い何かがほとんど体がくっついていたゴブリンキングに吸い込まれたと思ったら、ゴブリンキングが傷口を起点に破裂した。

胴体は飛び散り、腕と足と頭がバラバラの方向に飛んでった。

何が起きた?

それより今は木々を避けるのが優先か。



しばらくして木々が全部倒れたところでMPを確認するとまだ少し残っている。たぶんイーラがもう1本飲んだのだろう。

アリアは『パワーリカバリー』を使ってPPを回復したようだ。


「リキ様〜。気持ち悪いよ〜。」

どうやらあのMP回復薬には副作用があるみたいだな。

気持ち悪くなるだけであんだけ回復するなら悪くはないだろうが…ってイーラが吐いた。珍しい。

というか、イーラが吐くレベルじゃ他のやつには使えないだろ。

一応MP残量を確認したが、吐いたからといってMPがなくなることはなかった。

水を渡して口をゆすがせる。
もしかしてほとんど人になったせいで薬の副作用に耐えきれなかったとかか?
まぁまた元に戻れっていったところでいうこと聞かなそうだからいいや。

紫色の嘔吐物はフレアバウンドで燃やしてから土に埋めた。


アリアの元まで行き肩を掴むと、アリアはビクッとして俯いた。

「アリア。無理はするな。俺は仲間を失いたくない。」

「…ごめんなさい。」

アリアがしょんぼりしてしまった。

「いや、ゴブリンキングを倒せたのは今回はイーラとアリアのおかげだ。結果だけは問題ない。ただ、死ぬ覚悟での攻撃はやめてくれ。」

「…はい。」

イーラが背中に飛び乗ってきた。

「イーラ凄い?」

「あぁ、凄い凄い。」

でも本当に凄かったな。何をしたかわからねえが、俺の領土が広がったんじゃねぇか?
それとも元々のダンジョン跡地以外は含まれないのか?

まぁこの木々は村づくりに使えそうだからこのまま置いときゃいいか。

「イーラはその辺に散らばった魔物の破片は全部食っとけ。」

「は〜い。」

この辺りの魔物であれば戦えなくはないことがわかったが、今日はこれ以上戦いたくないから町に帰るか。

「町に帰るぞ。町に着くまでは警戒を怠るな。」

「「「「「「はい。」」」」」」


山頂にいるのがゴブリンキング以上とか俺らじゃ無理だから、俺らは参加せずにSランクパーティーどもに任せよう。

そう心に決めて町に戻った。

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