裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

85話



アリアの場所へと戻り、カレンと拾った子どもの怪我を治した。

カレンはもともと起きていたが、拾った子どもは怪我を治しても起きなかった。

とりあえずカレンにはボロボロになってしまった服を着替えさせた。

拾った子どもにはボロボロの服の上からアリアがテンコから回収してたローブを着せた。

そういやあとでアリアにはテンコの服代を渡しとかねぇとな。

ってか奴隷商とあんな別れ方をしたのにこんな近場で長居するのもなんか微妙だよな。
子どもが起きるまで待たなくても、俺がこいつを運べばいいか。
宿に到着するまでには起きるだろう。

拾った子どもを左腕で持ち上げ、脇に抱えた。

「宿に戻るぞ。暗いから迷わないように先頭はセリナが行け。後方は俺が注意しておくから。」

「はい。」

セリナ、イーラ、アリアが3人で前を歩き、俺とカレンが後ろという形になった。

前3人は仲良くたわいない話をしながら歩いているが、カレンはそれに加わろうとすることもなく無言だ。

さっきからずっと俯いて歩いている。
迷惑かけたことを気にしてるのか?

「そういやカレンはなんでスラム街に行ったんだ?」

「…ごめんなさい。」

肩をビクッとさせて謝られた。

「いや、べつに怒ってるわけじゃなくて純粋な疑問だから、怖がるな。」

「妾が夫の最後を見たいといったのじゃよ。」

なるほど。
死んだのは最近だから腐っててもまだ形は残ってるだろうからな。
死体でも約9年ぶりに会いたかったのだろう。

「今回は母ちゃんのワガママに付き合わされたせいだったのか。」

「ぬっ!そういわれると何もいえぬのぅ。」




「…なんで。」


カレンが俯いたままボソッと呟いた。

「何がだ?」

「なんでにいちゃんはカレンを助けにきたの?」

「さっきもいったが仲間だからだ。当たり前だろ?」

「でも!カレンは奴隷だから…攫った人たちが奴隷をわざわざ助けようとする主なんていないっていってた。」

「他のやつやこの世界の常識なんて俺は知らん。俺が信用するために奴隷しかパーティーにしてないだけで、俺は奴隷だろうが関係なく仲間だと思ってる。むしろ妹みたいなもんだと思ってるぞ。」

「妹?でも血は繋がってない。」

「そりゃ繋がっちゃいねぇわな。でも家族となるのに1番大事なのは血の繋がりだとは俺は思わねぇ。心の繋がりの方が大事だと思うんだよな。」

まぁ俺の意見でしかねぇがな。

「心の繋がり…。」

「例えば、刀になっちまった母ちゃんとは血なんて繋がってないけど間違いなく親子だろ?」

「…。」

カレンは無言で俯いた。

「あぁ、そこも迷ってたのか。じゃあ、カレンが生まれた頃の記憶はないと思うから想像してみろ。その頃の父ちゃんと母ちゃんとカレンは間違いなく家族だっただろ?」

「うん。」

「でもな、父ちゃんと母ちゃんは血なんて繋がってないぞ。それでも心が繋がってるから家族になれたんだと俺は思う。」

「!」

なるほどって顔をしてくれたな。

「でもまぁ、これは俺の意見であって、この考えを強要するつもりはない。俺はカレンもアリアたちも全員家族のように思っている。だから家族に何かあれば命を懸けてでも護るし。害を与えるやつは許さない。つっても奴隷として連れてる時点で説得力は皆無だろうがな。」

人の気持ちなんてぶっちゃけわからないからな。
俺が家族と思ったって相手が同じように思ってるかわからない。
だから裏切れないように紋様で縛る。

…最低なのはわかっているが、今の俺はそうしないと誰も信用出来ない。

特に命がけの冒険をともにする仲間には、縛りがなければ背中を預けることなんて出来ない。

こんなやつが何を語っちまってるんだろうな。
今さらながら恥ずかしくなってきた。

「…そんなことない。」

だいぶ間があってから、カレンが返答してきた。

「まぁ考えは人それぞれだ。血の繋がりを重視するのも間違ってはいないだろ。俺の戯言だと思って忘れてくれ。」

「違う!忘れない!」

ん?どういうことだ?

「べつにそこまで無理に俺の意見に合わせる必要はねぇぞ?これは命令でもなんでもないからな。」

「違う!にいちゃんの今の話、凄い好きだ!今の話を聞いて、にいちゃんの今までの行動に納得した。説得力なくない!」

そんなことないってのは説得力がないってのを否定してたのか。

「にいちゃんはすぐに怒るし、すぐに殴る。簡単に人を殺す。だから怖い人だと思ってた。カレンもいつか怒らせて殺されるんだと思ったから、怒らせないように静かにしてた。だけど、にいちゃんはカレンが失敗しても怒らないし、優しかった。意味がわからなくてもっと怖かった。」

そんなことを思ってたのか…。

「でも、今の話でわかった気がする。全部じゃないけど、納得したし、嬉しかった。」

久しぶりに笑顔を向けられた気がする。

最近避けられてたっぽいからな。

「家族…。」

今度はニヤニヤし始めた。

「あぁ、これからは家族だと思って遠慮しなくていい。だけど、奴隷であることを忘れて調子に乗ったら怒るがな。」

カレンがビクッと肩を跳ねさせた。

「…リキ殿。せっかくいい話じゃったのに台無しじゃ。」

「ん?間違ったことはいってないと思うが?」

「そうじゃのぅ。照れ隠しとして受け取っておくわい。」

アオイが笑い、カレンも笑顔に戻った。
アオイは念話をカレンにも送ってたのだろう。

まぁカレンがこれで普通に戻るならそれでいい。

せっかく仲間になったのに嫌われるのは仕方がないとしても、いつまでも壁があるのは好きじゃねぇからな。

俺が万人に好かれる性格とは思っちゃいないし、好かれる努力もしてないから嫌われるのは仕方がない。



今回の誘拐のせいでカレンが元に戻れないほどの深い傷を心に負っていたら、俺はどうしてたのだろうな。

まぁ最悪の結果にならずに本当に良かった。

これで本当の意味で一件落着といったところか。

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