裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

132話



今回の依頼はEランク向けだそうだ。

一般人でも倒せるゴブリンの討伐がEランクってことはFランク冒険者ってのは一般人以下なのか?

…少し前を歩く女を見たら、たしかに一般人以下かもなと納得してしまった。

今はゴブリンを探して森の中を散歩している。

まぁカリンは周りをキョロキョロとかなり警戒しながら歩いているし、俺も念のためガントレットを装着してるから散歩ではないか。

それだけ警戒しているのに、薬草っぽいものやなんかの実を見つけると採取する余裕はあるみたいだ。
こいつの考えてることはよくわからん。

俺たちは例の襲われた村から立ち去ったゴブリンの通り道らしき道を歩いているのだが、まだ一体も見つけられていない。
だから暇だ。

「そういやカリンはなんでこの依頼を受けたかったんだ?」

戦闘時などに呼ぶことがあった時のためにこいつのことはカリンと呼ぶことにした。
長い名前は呼びづらいから勝手に略したが、本人の同意を得ているから問題ない。

「村の人が困っているなら助けたいと思ったからです。それにこの森ではポーションに使うための薬草が取れると聞いていたので、教会への寄付用に採取できると思ったのもあります。」

たしかに薬草は売ればそこそこの金になるっぽいしな。
アリアが薬草を売って小遣い稼ぎしてるのを見てきたし。

それを寄付か…。
まぁそういうことをできるやつは素直に凄いと思う。思うが、冒険者をやるならまずは自分の装備を整えるのが先だろう。



遡ること1時間ほど。


依頼を受けて、女は直ぐに森に向かおうとしていたから、止めた。

「いや待て。お前はそれで行くつもりなのか?」

「え?何か変ですか?」

変も何も、かろうじて装備品といえるのは杖だけで、あとはただの服じゃねぇか。しかもこいつは攻撃系魔法は覚えてないらしいのに杖とかナメすぎだろ。
相手はゴブリンだからナメてしまうのもわかるが、仮にも討伐クエストだぞ?

まぁこれは俺が最初に失敗してるからわかることでもあるんだけどな。

俺も最初はガントレットと短剣と靴しか買わなかったし。

「変も何もまずは装備を整えるべきだろ?」

「杖はありますよ?」

「お前は馬鹿なのか?それとも魔物からの攻撃を受けて平気なほど鍛えてんのか?」

「でも、防具は高いですから…。」

そういや俺も防具は高かったから最初は買わなかったな。

「まぁ買わずに死ぬのはお前だからどうでもいいか。」

「え?いや、あの…必要な装備品を教えてください。」




女の案内で中古品も扱っているそこそこでかい武器防具屋にきた。

「所持金はいくらだ?」

「銀貨80枚ちょっとです。」

ならとりあえずは中古品で揃えるしかないだろう。

中古品の防具エリアでこいつのサイズに合う物を探し、さらに生地や加護と値段を考慮して選ぶ。

「これがいいんじゃねぇか?動きやすさに問題はなさそうだし、魔鉄でできてて被膜の加護と軽量の加護付きだ。」

「…銀貨80枚。」

胸当てだから直接防げる範囲は狭いが、被膜の加護があるからそこまで問題はないだろう。
それに軽量の加護はマジで使えるからあって損はない。

まぁ所持金をほぼ使い果たすことになるから、値段が気になる気持ちはわからなくないがな。

「装備品の価値は実際に危ない目にあったことがあるやつにしかわからないから、納得いかないならお前が好きなのを選べばいい。」

「…これにします。」

渋々といった感じだったが買うことに決めたようだ。
そういやこいつは一度魔物に肩を潰されてんだよな。なら防具の重要性はわかるはずなのに納得しきれないのか。
まぁ気持ちはわからなくはない。

こいつの所持金では他に何も買えないから、この防具だけ買って、試着室で装備してから店を出た。



「あとは武器も欲しかったが、金がなくなっちまったから、とりあえず貸してやる。」

「え?杖はありますよ?」

「…お前は攻撃魔法が使えるのか?」

「いえ、まだ覚えていません。」

「攻撃魔法が使えないのに杖でゴブリンとやりあう気なのか?」

「…。」

「まずは支援職は戦わなくていいという考えを捨てろ。冒険者は全てできた上で特に得意なのが支援なら支援職というだけであって、支援しかできないやつは支援職ではなく、ただのお荷物だ。わかったか?」

「…はい。」

まぁそれはあくまで持論だがな。いや、ゲームの世界なら支援しかできないのもありだと思ってたのがこの世界に来て変わった考えだから、持論とまではいえないか。


支援を意識しつつ戦わせるならロッドでいいか。

物理麻痺のロッドをアイテムボックスから取り出して女に渡した。

「とりあえずこれで魔物を殴れ。最初は力一杯やってれば、そのうち効率の良い倒し方がわかるだろ。ハナから華麗に魔物を倒せるとは思うな。」

「はい。ありがとうございます。」

「あとはお前の呼び方だが、名前が長いからカリンと呼ぶがいいか?」

「はい。」

奴隷じゃないのに従順なのはなんか変な気分だな。

「じゃあ準備も終わったし、森に行くか。」

「はい。」




そんなことを思い出しながらも足は止めてないんだが、まだゴブリンが一体もいない。

これは15体なんて無理なんじゃないか?

まぁいないものは仕方が………けっこう先にだが、何かいるな。

それにたいしたものではないが一応罠っぽいものもあるしな。

知能ある魔物でもいるのか?

俺が警戒を強めたことに気づくことなく、カリンは進む。

「いや、待てよ。」

「ぐえっ。」

咄嗟に服を掴んだら、首が絞まったようでカリンは変な声をあげた。

「何するんですか!」

「いや、お前はこんな罠にも気づかないのか?」

もしかしたら気づいてたか?と思いながら2メートルほど先の地面を指すがカリンは首を傾げた。

その後、目を凝らして見続けて、やっと理解したようだ。

「…落とし穴?」

「みたいだな。」

「でも、魔物がこんな知能を持っているなんて聞いたことがありません。」

「じゃあ俺らが依頼主にハメられたのかもな。」

まぁわざわざ冒険者に依頼して、誘い出して殺すってのも考え難いが、いろんな人間がいるからなくもないのか?

でもそれにしては罠がお粗末すぎる。
目を凝らせば気づかれるレベルだからな。

「その可能性は凄く低…。」

話してる最中のカリンの腕を引き、俺の背後に移動させ、飛んできた弓矢を3本とも叩き落とした。

罠にかからなかったから、今度は直接攻撃か?

俺に攻撃したやつは殺す。

矢が飛んできた方へと飛び込み、俺に攻撃したやつを探すと、思いの外アッサリと見つかった。

緑色をしたちっちゃい人型の醜い魔物。

ゴブリンだ。

人間の仕業だと思っていたから少し驚いたが、こいつの末路は変わらない。

少なくともあと2体残っているから、手早くこいつの顔面を殴って殺し、次に向かう。

2体目も顔面を殴り潰し、3体目は捕まえてカリンのところに戻った。

「どうやら知能ある魔物も存在するみたいだな。」

俺の右手で顔面を掴まれているゴブリンがキーキー鳴きながら拘束を外そうともがいている。
それを見たカリンは驚いているようだ。

「え?ゴブリンが罠を作ったってことですか?」

こんなキーキー鳴くことしかできないやつが罠まで作ったとは思えないが、あのタイミングで矢を射ってきたってことは関与はしてるかもな。

「まぁそれはこの先に進めば分かりそうだから、まずはカリンの戦闘訓練だ。」

「…え?」

ゴブリンを掴んでいた手を離し、ゴブリンに硬そうな木の棒を向けると、ゴブリンはそれを奪って戦闘態勢をとった。

「こいつは雑魚だ。練習にはちょうどいいだろ。殺せ。」

ゴブリンはカリンの方が弱いと直感でわかったのか、キーキーいって木の棒を振り上げながらカリンの方に走っていった。

カリンは戸惑いながらも殺さなきゃ殺されるとわかっているようで、ロッドを構えた。

このゴブリンは弓矢の腕はそこそこだったが、木の棒での戦闘能力は低かったみたいだ。

カリンのフルスイングをゴブリンは顔面で受け止め、ひっくり返ってピクピクしている。
殴ったカリンはそんな簡単に当たると思ってなかったのか、呆けている。
いや、当たると思ってなかったとしたら、あのフルスイングはダメだろ。



…。




ん?終わりのつもりか?

「おい。俺は殺せといったんだ。なんでトドメを刺さない?」

「え?もう無力化したから大丈夫だと…。」

「カリンが受けた依頼はゴブリンの討伐だろ?なら殺せ。その気がないなら帰るぞ。」

カリンは少し迷ったあと、ロッドを強く握りしめて、ゴブリンに近づき、強く目をつぶって何度も何度も殴った。

ゴブリンの顔が潰れてひしゃげて、ただでさえ醜かった顔がさらに酷いものへと変わっていった。

ゴブリンはとっくに死んでいるが、カリンは目をつぶっているから気づかないみたいだ。

何十発か無駄に殴ったところでカリンは殴るのをやめて目を開けた。


そして吐いた。


なんだろう。デジャブ?


カリンはゴブリンだったものから距離を取り、ロッドを落として震える両手を広げて眺めていた。

殴り殺したから生々しい感触が手に残ってるんだろう。

「魔物だって生き物だからな。生き物を殺すことに躊躇するのは人として正常なんだろう。でも冒険者を続けるならそれは命取りだ。だから魔物を殺すのが辛いなら冒険者はやめておけ。」

俺の奴隷なら魔物退治をやめる選択肢を与えるつもりはないが、こいつは違うからな。辛いなら続ける必要はない。

「いえ…初めての戦闘で取り乱しただけです。大丈夫です。…大丈夫です。」

カリンはロッドを拾ってからゴブリンだったものに近づき、持っていたナイフでその右耳を切って回収した。

「なにやってんだ?」

「…ゴブリンを討伐した証明のために必要らしいです。」

へぇ。そういうのがあるんだな。
そしたらさっき殺したゴブリンのも…いや、ゴブリン討伐はカリンが受けた依頼なんだから、自分で15体倒させるべきか。

どうしても今日中に終わらなかったら回収して帰ろう。

さて、とりあえず前に進むか。
少し先の木の陰に隠れてるやつらが待ってるみたいだしな。

罠も俺の視界にあるのはこの落とし穴くらいみたいだしな。

「間違ってもこの落とし穴に落ちるなよ?フリじゃないからな。」

「…フリ?」

いや、なんでもないと理解してないカリンにヒラヒラと手を振りながら落とし穴を避けて前に進むと、カリンが俺の後ろについてきた。

「というかお前が前を歩けよ。俺はあくまで付き添いなんだからよ。」

「…はい。」

落とし穴を越えた後、カリンは恐る恐る前を歩き始めた。
既に魔物が現れ始めたから、警戒を強めるのは正しいな。

「あと、そことそこの木の陰になんかいるから気をつけろよ。」

「…え?」

俺が指をさして教えてやると、カリンは呆けた顔で聞き返してきた。

その隙をつくように木陰と岩陰から9体のゴブリンが現れた。

俺の指差した木陰からそれぞれ4体ずつ、それと俺は気づけなかったがさらに奥の岩の陰にもいたらしく、そこからフードというにはお粗末すぎるボロ布を纏い、変な形の枝を持ったのが1体現れ、計9体だ。

先に攻撃を仕掛けてきたのは両手にナイフを持つ4体のゴブリンだ。

たいして速くはないが、カリンじゃこいつら4体を同時には無理だろうな。
それにナイフになんか塗ってあるっぽいから、ダメージを負うのは好ましくなさそうだ。

仕方ないから4体は俺が受け持とうと攻撃を仕掛けたら、弱すぎて本当に瞬殺だった。


…。


「よし、じゃあカリンはあの愚鈍なゴブリンを倒せ。よく動きを見てれば4体相手でも攻撃を避けきれるだろう。死ななければ治してやるから気にするな。」

「はい。」

ゴブリンを一体倒して吹っ切れたのか、のっしのっしと走ってくる斧を持つ太ったゴブリンに対して構えをとっていた。

この斧を持ったゴブリンは本当にゴブリンなのだろうか?
緑色だからゴブリンって判断したけど、他の奴らと比べて体格が違すぎる。これじゃあデブリンだ。

まぁそんなことはどうでもいいとして、今回は相手の攻撃を待ち構えるのは失敗だな。

自分より相手の方が人数が多いのにわざわざ相手の攻撃を待ってるっていうのもどうかと思うが、それ以上に今回はデブリンの後ろには既に詠唱を始めてるっぽいゴブリンがいるのだから、速攻で片付けるべきだろう。

まぁカリンじゃデブリン4体を速攻で片付けるのは厳しいかもしれないから、4体を無視して先に後ろのゴブリンを倒すべきだったろうな。

どうするか。

魔法を使われるのは厄介だから殺すかと思い、ゴブリンに近寄ったところでふと思った。
こいつは使えると。

だから殺さないどころかあまりダメージを与えないよう、かつ攻撃されないように注意しながら取り押さえた。
少し力を入れると腕をもいじまいそうな気がして難しかったがなんとかなったな。

縛るものがないから取り押さえたままカリンを見るとなんとか戦いになってるようだ。

相手の攻撃はなんとか避けて、一応打撃も与えている。
カリンの攻撃は弱いけど、物理麻痺の加護のおかげで、既に一体は麻痺して倒れてるみたいだ。
この調子なら全員麻痺にしてから殺せるだろうな。



10分ほどだろうか。
カリンがデブリンを4体とも顔面ミンチにしてから右耳を切り落とし、こちらに来た。

もう吐かなくなったみたいだな。

「終わりました。」

「そしたら今度は支援しかできないやつの弱さを教えてやるから、こいつを倒してみろ。」

「?…はい。」

取り押さえてたゴブリンを解放して、カリンを少し下がらせる。

互いの距離を10メートルくらい離させてからスタートさせた。

カリンに距離を取らせている間もゴブリンは構わず詠唱していたみたいだが、10メートルなんてあっという間に詰められて、魔法を放つ前に殴られた。

その後も一方的にカリンの攻撃が続き、反撃を受けることなくカリンの勝ちとなった。

カリンは動かなくなったゴブリンの右耳を切り落として、俺の元にきた。

「終わりました。」

なんでいちいち報告に来るんだ?
まぁいいか。

「これでわかったろ?支援しかできないやつとか魔法しか使えないやつは詠唱している間に護ってくれるやつがいなければ簡単に殺される。だから、冒険者を続けるなら自分の身くらいは自分で護れなきゃダメだ。」

「っ!?…確かに私みたいなレベル1でも簡単に倒せてしまいました。支援だけできればいいなんて考えが甘いことを実感しました。」

レベル1?

「お前はステータスチェックをしてないのか?」

人のことをいいつつ俺も最近はあまりしてないが、冒険始めたばかりの頃は逐一チェックをしていたし、するものじゃないのか?
なんせ命に関わることだからな。

「?…まだレベルが上がるようなことはしていないので、MPやPP以外のステータスを確認などはしていませんが…。」

なるほど、確かにこいつはダンジョンではなんもできてなかったからな。
パーティーを組んでなかったし、ステータスが上がってるとは思わないわけか。

「これからは冒険が終わるごとに確認しておけ。」

「はい…え?レベル28!?なんで!?」

いわれて今確認したのだろう。
それにしても思った以上に上がってるな。

「お前が寝てる時にチーム設定しただろ?そんときに魔物を30体くらい倒したからな。経験値の半分がお前にいったからだろ。」

まぁ寝ていただけだから本当に半分いったかはわからねぇけどな。

「え?あっ、ありがとうございます。」

俺が少しでも安心して寝れるようにしただけだからお礼をいわれることでもないんだが、まぁいいか。

「というかお前はそれだけレベルが上がってるんだから、ゴブリン程度に恐れる必要はねぇだろ。」

「はい。なんだか自信がみなぎってきました。」

自分で上げたレベルじゃないのに自信をつけるのはどうかと思うが、せっかくやる気が出たのにそれをへし折るのもなんだし、スルーするか。

「じゃああらためて奥に進むぞ。あと9体も討伐しなきゃだからな。」

カリンは俺の言葉の意味を理解したのか、ナイフを持ったゴブリンの死体をチラ見したが、右耳を取るようなことはしなかった。

この4体もどうしても間に合わなかった場合の予備であって、今回の依頼はカリンが討伐したゴブリンだけで達成させるつもりだからな。
じゃなきゃこいつの練習にならねぇし。

「その必要はございませんよ。」

不意に声をかけられて振り向くと、遠くから緑色の人間が歩いてきた。

その後ろにはゴブリンっぽいのが20体くらいいる。

緑色の人間というか、こいつはゴブリンの進化系っぽいな。それにちゃんとした装備までしてるからこいつがボスか、少なくとも幹部なのだろう。
なるほど。だからゴブリンが統率されてたわけか。

「魔族!?」

カリンが顔を青くして驚いていた。

そういやこいつは喋ってるな。
イーラとかが普通に喋ってるから忘れてたが、魔族に昇格しないと魔物は喋れないんだったな。

一応鑑定しておくか。


名無し 魔族 2歳
種族:ゴブリンジェネラルLV65


なんだろう。
魔族なのに魔物だったゴブリンキングほど脅威を感じないんだが…俺がそれだけ強くなったのか?

いくら種族が劣ろうと魔族の強さは別格だって前にアリアがいってた気がするんだが気のせいだったか?

それとも力を隠しているとか?

まぁ力を隠している可能性があることだけ気をつければいいだろう。

「確かにそれだけゴブリンを連れてきてくれたから先に進む必要はなくなったな。」

「違いますよ。あなたたちはここで死ぬのだからという意味です。」

そういい切ると、俺に向かって走りながら、柄の長い鎌を振り下ろしてきた。
イーラが使ってたのに少し似ているが、切れ味は数段劣りそうだ。

ゴブリンジェネラルの攻撃を避けて、裏拳で脇腹を殴るとくの字に曲がって吹っ飛んだ。

…弱くね?

ゴブリンジェネラルが俺に攻撃を仕掛けると同時に残りの20体のゴブリンがカリンに襲いかかってたようで、カリンがかなり苦戦している。
というかやられ気味だな。

カリンを殺すための時間稼ぎだとしたら、ゴブリンジェネラルがあの弱さで俺に襲いかかってきた理由も納得できなくはないな。

『上級魔法:風』

カリンに襲いかかってたゴブリンを死なない程度に吹っ飛ばそうとしたが、3体ほど残った。
むしろちょうどいいか。

『ハイヒール』

カリンは傷が治ると動きが戻り、今度は3体相手に優勢のようだ。

カリンは吹っ飛ばされたゴブリンたちが戻ってくる前に3体を倒しきり、次のゴブリンを迎え撃とうとしている。

『上級魔法:風』

もう一度ゴブリンを吹き飛ばすが、今度は4体残った。
まぁなんとかなるだろ。

それを繰り返してなんとか20体倒し切ったが、カリンはだいぶ疲れているようだ。

それにしても吹っ飛ばしたゴブリンジェネラルは戻ってこないが、あの一撃で死んだのか?

「グフッ」

カリンが急に血を吐きやがった。

そういやここのゴブリンが使う武器にはなんか塗られてたよな。

その武器で攻撃を受けてたみたいだから、なんかの状態異常になったのか?

鑑定で確認すると毒になっていた。

とりあえず毒消し丸を飲ませてみたら状態異常がなしになり、徐々に顔色が戻っていった。

「あ、ありがとう…ございます…。」

元の世界では毒にも種類があったが、この世界ではなんの毒かもわからないものが毒消し丸で治っちまうんだな。

「人間ごときがなかなかやるじゃないですか。」

声のする方に顔を向けると傷だらけのゴブリンジェネラルが50体くらいのゴブリンを引き連れて、森の中から現れた。

なかなか戻ってこないと思ったら仲間を連れてきたわけね。

カリンはガクブル状態で戦闘継続は無理そうだな。
そもそも依頼の15体は討伐し終えてるんだから、こいつが戦う必要はないのか。

「そのまま逃げてれば死なずにすんだかもしれないのにあらためて俺に敵意を向けるとは馬鹿だな。」

全力で跳躍し、ゴブリンジェネラルに一瞬で近づいて、会心の一撃を発動する。

「死んで後悔しとけ。」

拳を振り切ると簡単にゴブリンジェネラルの顔が破裂した。

残りの50体も戦闘というよりは虐殺に近いな。
あっという間に全滅だ。

森の中が血まみれになったが、俺は加護のおかげでとくに汚れてはいないから、第三者から見たらかなり浮いているだろうな。

だからかはわからないが、カリンが口を開いて呆然と俺を見ていた。

「依頼も終わったから帰るぞ。」

「…あ、はい。」

呆然としていたカリンが我に帰り、急いでゴブリンの耳を集め始めたから、俺は終わるのを待ちながらふと思った。

冒険者ギルドのランク付けが厳しくなったとは聞いたが、魔族の討伐でEランクとはかなり厳しくなったのか?
一度も依頼を受けてないからわからないが、前にマリナがミノタウルスの調査でBランクっていってたことから考えるにいくらゴブリンの魔族だとしても魔族は魔族だ。それの調査ではなくて討伐でEランクってのはなかなか厳しくなってるんじゃないか?
まぁあくまで依頼はゴブリン15体以上ってなってるから最初は一般人でも倒せるゴブリン討伐でEランクかよとも思ったが、それだけ仲間を殺されてゴブリンジェネラルが出てこないわけがないし、ゴブリンジェネラル討伐も含まれての依頼だろうな。

だが、冒険者なりたてでも受けられるEランクにこの難易度を設定するのは馬鹿すぎるだろ。
しかもカリンの反応からして魔族のことは書かれていなかったんだろうし、ヘタしたら死ぬだろ。

もしかして、依頼の難易度すら推測できないようなやつは間引くという意味もあるのか?

それにしてもせめてDランクにすべきだろ。

まぁそのうち微調整されていくんだろうが、しばらくかかりそうだな。

やっぱり今回の大災害とやらを乗り切るためには自力でなんとかしなきゃなんだろうな。

強い冒険者が増えればそいつらがなんとかしてくれるとも思ったが、冒険者ギルドが迷走してるみたいだからまだ無理だろう。
だったら俺が大量に奴隷を集めて鍛える方が今のところはまだ可能性がありそうだ。まぁ間違いなく面倒だが、死にたくはないからこれも考えておくか。

うちの国の勇者は当てにならねぇしな。



ふと腕を引かれて、考えを中断した。

カリンを見ると右耳の回収を終えたようだ。

「じゃあ帰るか。」

「はい!」

さっきまで疲労困憊だったカリンが元気よく返事をして歩き出したから、俺はその少し後ろについて、町へと向かった。

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