裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚
144話
町から徒歩で来れる距離にもかかわらず、第三王子は馬車で来ていたらしく、俺らもそれに乗ることになった。
俺以外にはアリアとイーラとセリナが乗っていたが、町に入るなり3人は降ろして銀貨5枚を与えて日が暮れるまで自由時間とさせた。フォーリンミリヤに迎えに来た褒美といってある。
その後しばらく馬車に揺られて城に到着した。
案内されるままついて行くと応接室的な場所ではなく、王の間っぽいところに連れてこられた。
ダンジョン帰りだから少し汚れたチェインメイルを着て、腰にはガントレットと短剣と人形を着けている俺は場違い感が半端ない。
豪華な造りの馬鹿でかい部屋の最奥には玉座と思われる椅子があり、そこに1人のおっさんが座っている。その隣には30歳くらいに見える綺麗な女性が立っていた。
そこから少し離れて、俺から見て左側に男が2人、右側に第三王女が立っている。
第三王子が俺から離れて左側の男2人に続いて並んだから、たぶんあいつらが第一と第二王子なんだろうな。
じゃあ玉座に座ってるのが王様でその隣は若さ的には第一王女か?でもそれだと立ち位置がおかしくないか?
というか、そんなことより俺はここに跪くべきなのか?第三王子はなんの指示もしていかなかったが、昔見た漫画やアニメでは王様の前ではみんな跪いていた気がする。
さすがに場所が場所だからな。とりあえず跪いておくか。必要性がなかったとしても失礼になることはないだろう。むしろ頭が高いとか難癖つけられる方がめんどうだ。
渋々膝をつこうとしたところ、嫌々感が顔に出てしまっていたのか王様が右手を上げた。
「よい。堅苦しいのはなしにしよう。」
「ありがとうございます。」
俺はあらためて直立し、拳を胸の前において礼をした。
「ルモーディアから既に話は聞いている。しかし、確認としてそなたの口から直接聞きたいのだが、そなたがケモーナ王国の元第二王女を奴隷にした以外に目をつけられる心当たりはないのだな?」
ヤバい…聞かれて当たり前のことなのに予想していなかった。だから何も答えを用意してねぇぞ。
ないといったら嘘だとバレるかも知れねぇけど、王女の婚約者を殺した以外に関係ありそうなことはなにもねぇし…。
「…もしかしたらですが、セリナアイルを奴隷として所持していることではなく、セリナアイルが虐待されることなく生きていることを許せないと思われているのかもしれません。」
無理やり捻り出したが、それっぽく聞こえたか?
「それはどういう意味だ?」
「あくまで推測ですが、元王女を自国ではなくアラフミナ王国の奴隷商に売ったことに意味があるとするなら、苦しんで欲しいと願ったからかと。人間至上主義の思想を持つ人々がいるという噂があるようなので、それと結びつけてしまったため、見当違いの可能性もあります。」
ダメだ。ただでさえ王様の前ではどんな風に喋ればいいのかわからねぇのに即興で言い訳を捻り出したら自分でなにいってんのかわかんなくなってきた。
「なるほど…一理あるかもしれん。」
なんか納得してくれた。
他にはとか聞かれる前に完結させねえとな。
「自分自身、突然のことだったので、正直わからない気持ちでいっぱいです。なぜ(あんなクズ野郎のために)戦争をチラつかせてまで自分たち2人を差し出せといってきたのか意味がわかりません。」
どうだ?嘘はついてないぞ?
「わかった。ではそなたを信じよう。だが、ルモーディアから聞いている通り、我が国で全てを肩代わりすることはできぬ。本来ならそなたを差し出して終わりなのだが、大災害に必要だという話があったから今回のような形になったのだ。だから、その実力を示してみよ。」
なんだ?王様はあまり好意的じゃないのか?
まぁそりゃ王様がただの村民に親切にする必要がねぇから、これでもかなり譲歩してくれてるんだろう。
というか実力を示す場としては難易度高すぎだろ。なんで周りの奴らは俺をそんなに過大評価するんだっつーんだよ。
「ありがとうございます。尽力いたします。」
難しく考えるからいけねぇんだな。
敵は殺す。
今までとかわらねぇじゃねぇか。
むしろアラフミナが後ろ盾になってくれるんだからありがたいくらいだろ。
「ふむ。話は以上だ。ローウィンス、身代わりの加護がついたアクセサリーくらいは渡してやれ。」
「はい、お父様。それではリキ・カンノさん、こちらへ。」
「あぁ。」
というか別に案内なんかなくても来た道を戻るくらいはできるんだが…面倒でも場所が場所だからそういうわけにはいかないよな。
それに身代わりの加護付きアクセサリーをタダでくれるなら黙って従っておくか。
俺は渋々、第三王女の後に続いた。
「リキ様。お久しぶりでございます。」
王の間から離れたところで立ち止まり、第三王女は周りに人がいないことを確認した後、満面の笑みで深々と頭を下げてきた。
「そこまで久しぶりでもねぇだろ。」
俺の素っ気ない返事に対して、第三王女は頰を膨らませた。
あざといな…。
「あと一月もしないうちにはカンノ村に住めますので、それまで辛抱してくださいね。」
今度はウィンクかよ…うぜぇ。
「そんな嫌そうな顔しないでください。悲しくなるではないですか。」
「べつにお前はここに住んでりゃいいじゃねぇか。」
「私の幸せを奪うのですか!?」
「意味がわからねぇよ。…で、来た道と違う道を歩いてきたようだが、どこに行くつもりだ?」
正確に場所を把握してるわけではないが、微妙に出口とは違う方向に歩いて来たはずだ。裏口とか非常口って可能性もなくはないが、そんな無意味なことはしないだろ。
「さすがはダンジョン探索に慣れているだけあって、感覚でわかるのですね。」
「俺は早く帰りてぇんだ。ふざけてんなら勝手に帰るぞ?」
「申し訳ありません。実はケモーナ王国との戦争について説明をしたいと思いまして、別室へと案内させていただいてます。」
「は?んなのさっきのところで説明すりゃ良かったじゃねぇか。」
「お父様は国民やお兄様たちの前では威厳を示さなければならないため、それではリキ様が疲れてしまうかと思い、時間のかかる詳しい話は別室で行った方がいいかと思ったのでしたが、迷惑でしたか?」
だいぶ気を使われたわけか。
「いや、気遣い感謝する。それで、どこまで行く気だ?」
すでに5分以上歩いたはずだ。部屋を変えるだけなら来る途中にあった部屋でいいだろう。どこが何の部屋かは知らねぇが。
「実は先ほどの部屋の近くの部屋に用意してあるのですが、お兄様たちに気づかれないために一度離れさせていただきました。なので、これから戻ろうかと思います。」
「は?なんでそんな無駄なことをする必要がある?あいつらが部屋から出る前に用意したとかいう部屋に入っちまえばよかったんじゃねぇか?」
「リキ様にお手間を取らせてしまいましたことには謝罪いたします。申し訳ありません。ただ、必要なことだったのです。お兄様の部下も優秀な方々なので。」
ニコリと第三王女が笑ったが、なぜか少し悲しそうに見えた。
ようはその優秀な部下を撒く必要があったというわけか。
自分の家でそんなことにまで気を回さなきゃならねぇとかたまったもんじゃねぇな。
「まぁいい。それでお前が喋りだしたってことはもう平気なんだろ?早く案内しろ。」
「さすがリキ様ですね。それでは改めて案内させていただきます。」
第三王女はドレスのスカートを片手で軽く持ち上げて、お辞儀をしてきた。
第三王女が案内した部屋はこのバカでかい王城の中ではずいぶん小さく感じる部屋だった。多少の装飾はされているが、対面に2人がけのソファーとその間にソファー用の低いテーブルだけがある簡素な部屋だ。
入り口から入って奥のソファーには既に1人の男が座っていた。
俺の見間違いでなければ、さっき玉座に座っていた王様だ。
…部屋を変えたのは王様の前だと俺が疲れるだろうからっていう気遣いじゃなかったか?
「そう堅くなるな。ここにいるのはローウィンスとその父親だけだ。いつもローウィンスに接しているままでかまわん。」
俺が面倒そうな顔をしたのを見られたからか、かしこまらなくていいと先にいってきた。向こうも言葉遣いを崩してくれてるし、それに甘えるとするか。
「助かる。俺は敬語を使うのは慣れてないんだ。それにこの国の常識もよくわからないし、無礼があったらすまない。」
俺は少しだけ言葉遣いを気にしながら王様の対面に座った。
俺が座ると、第三王女は俺の隣に座りやがった。一瞬王様のコメカミがピクッとしたように見えたぞ。
「いや、お前は向こうに座るべきだろ?」
「お気になさらず。私はただの付き添いなのでどこにいても同じですから。」
なら尚更向こうに座れよ。
どうせ何をいっても聞く気がなさそうだからこれ以上いわねぇけど。
「まずは渡すのが遅くなってしまったが、村長になったことでアラフミナ国民として登録された。これが身分証だ。」
王様は全員が座ったからか、さっそく話を始めた。まぁ多忙だろうからローウィンスのおふざけに付き合っちゃいられないのだろう。俺もその方が助かる。
身分証は冒険者カードと似たようなカードだった。ただ、違いといえば表面の隅っこに小さく何かの文字が書かれているくらいか。なんて書いてあるかはわからんが。
「使い方は冒険者カードと同じか?」
「そうだ。ただ、これは冒険者専用の水晶でなくても情報が読み取れるから、より便利だろう。」
そしたらもう冒険者カードはいらねぇな。
まぁせっかく持ってるものを捨てるつもりはねぇけどさ。
「これは村人全員分あるのか?」
「用意することは可能だが、税金がかかるから村長以外の村人が身分証を持つことは珍しいと思うぞ。」
税金?俺は払った記憶がないぞ?
「いくらだ?」
「年金貨1枚だ。カードは一年ごとに更新が必要で、払えなくなった時点で効力を失う。」
は?冒険者登録は銀貨1枚だったぞ?だったら冒険者の方が断然得じゃねぇか。でも奴隷は登録出来ないんだったな。
「奴隷も登録できるのか?」
「できるが、奴隷は主といれば身分証は不要だから、金の無駄遣いになると思うぞ?」
1人金貨1枚じゃ村人全員はキツいが、奴隷にしているアリアたちだけなら払えなくないか?残りは全員冒険者登録させちまえば良さそうだしな。そうすりゃ個人で町の出入りも出来るようになるし、そのうち行商なんかも出来そうだしな。
「いや、余裕が出来たら行商なんかもやってみたいと思っているから、身分証を得るための金貨1枚程度なら無駄遣いではない。」
「行商となると商業ギルドに入らなければ荷物を町に運べないから難しいと思うぞ。」
「どういうことだ?」
「国民の身分証や冒険者では馬車などを町の中に入れることが出来ないのだ。それに町中で店を構えることも出来ん。それらは商業ギルドに登録しなければならないのだが…申し訳ないが私はあまり時間がない。そろそろ本題に入っても良いか?」
荷物の件は全員に冒険者ジョブをつけさせれば問題ないだろう。
詳しいことはいざやろうと思ったときに調べればいいか。
「すまない。」
「いや、詳しくは後でローウィンスにでも聞いてくれ。それで今回の戦争について、先にいっておくことがある。」
「なんだ?」
「悪いが今回の戦争を国同士の戦争にするつもりはない。」
「は?何をいっているんだ?」
ケモーナ王国がアラフミナ王国に攻めてくるっていうのにアラフミナ王国は戦うつもりがないってことか?
「今回密偵の情報では、ケモーナ王国第三王子とその近衛騎士隊、王国騎士団の団長と副団長と第七部隊と第八部隊、そして冒険者であるはずの王国最強の戦士が出てくるそうだ。それに対してこちらはルモーディアの私兵とカンノ君たちで対処してもらう予定だ。」
どんどん話が進められていくが、戦力差がありすぎじゃねぇか?
「ルモーディアの私兵がどの程度いるのかわからねぇが、向こうが国として戦争を仕掛けてきてるのにそれに応えないってことは最初から白旗を掲げるつもりか?」
「負けるわけにはいかないから、ルモーディアの私兵が戦うことになれば、仕方なく国同士の戦争となってしまうだろう。だが、国同士の戦争となれば他の貴族に間違いなく気づかれる。そうなればケモーナ王国を滅ぼすまで戦争を続けることになってしまう。アラフミナ王国の総力をもってすれば不可能ではないと思うが、この時期にそんなことに国力を消費したくはない。だから、カンノ君たちだけで終わらせてもらうつもりだ。」
どんな無茶振りだよ!?
国同士の戦争にしなくとも貴族にはバレるんじゃねぇの?…あぁ、そのときは俺個人の戦いで、ルモーディアは友人として加勢したとか苦しすぎる言い訳で済まそうってわけか。
貴族にバレたら相手は獣人の国だもんな。これを機に滅ぼそうとする人間至上主義のやつらがいてもおかしくはないだろう。それを防ぎたいと思うのは王様としては立派かもしれない。だが、それで消費される俺としてはたまったもんじゃねぇ。
「それは俺たちに死ねっていっているのと同義だということは理解しているのか?」
「それはおかしい。カンノ君はその程度で死ぬ弱さではないと伺っているが?」
「は?ケモーナ王国の総力ではないにしろ、戦争を仕掛けるほどの戦力にたいしてその程度だと?ふざけるんじゃねぇぞ!」
気づけばソファーから立ち上がり、テーブルを挟んで王様の胸ぐらを掴んでいた。
「ふざけてなどおらんよ。」
それにたいして王様は慌てることも怒ることもなく、静かに俺の目を見て答えた。
そのせいか俺も少し冷静になれて、王様の胸ぐらから手を離してソファーに座りなおした。
「私はカンノ君の戦闘を直接は見ていないが、魔術組合の子からカンノ君たちだけで邪龍を討伐したと聞いている。戦闘内容については一切話してはくれなかったが、魔術組合も武術クラブも全く歯が立たなかった邪龍を君たちだけで倒したという話はにわかに信じ難かったが、その後魔王討伐にしても特別編成部隊から聞いた話では魔王とその仲間をもカンノ君たちだけで討伐したと聞いたよ。それに魔王軍をカンノ君の仲間のイーラ君といったかい?彼女1人で全滅させたとも聞いた。しかも魅了で操られていた騎士は殺さずにだ。それがどれほどのことかわかっているかい?君の仲間1人で王国騎士団一部隊より強いかもしれないのに、カンノ君はその仲間に恐れられるほどの力があると聞く。そんな君たちと比べれば、今回ケモーナ王国が用意した戦力などその程度といわざるを得ないだろう。」
確かにイーラは化け物だ。特に大人数相手で本領発揮するタイプだろう。だが、俺の仲間全員がそうではないし、知能の低い魔物と人間では戦い方も変わってくる。
そもそもイーラは本気を出せばもう俺より強いだろう。みんな俺を過大評価しすぎなんだよ。
「今回注意すべきは騎士団長と副団長、それとケモーナ王国最強の戦士の3人だ。第三王子の近衛騎士団も相当な強さではあるが、最初に述べた3人程の脅威ではない。それこそイーラ君1人でもどうにかなると私は思っている。」
もういい。覚悟を決めてここに来たんだ。今さらとやかくいうのもらしくねぇわな。
「それで、なんか作戦でもあるのか?」
「作戦はカンノ君が立ててくれてかまわない。私からは持ちうるだけの情報与えよう。ただ、ルモーディアの私兵は戦いには参加せん。ケモーナがそれ以上進入できないように配置しているだけだと思っていてくれ。」
場は整えるから勝手にやれってことか。
「戦争にルールはあるのか?」
「降参した国への追撃は禁止されているが、それも絶対のルールというわけではない。他には特に決まりはないな。負ければ全てが勝った国の物になるというくらいか。」
この世界の戦争はルールがないわけか。
「じゃあ魔族や魔物の使用もありということだな?」
「もちろんありだが、国がただ荒らされるのは困るから、使い魔だけにしてほしい。カンノ君は魔族を使役しているのか?」
「一応な。だがそれ以上答えるつもりはないぞ。」
どこで聞き耳を立ててるかもわからないから、ヘタに戦力を知られるべきではないだろう。こいつらだっていつか敵に回る可能性がないともいえないしな。
「無理に聞くつもりはない。私からは以上だ。聞きたいことはローウィンスから聞いてくれ。健闘を祈る。それでは失礼する。」
王様はいいたいことだけいって部屋を出ていった。
会話中は所々でイラつくこともあったが、冷静に考えたら今回の騒ぎそのものが俺に原因があるんだ。だから、これだけいろいろしてくれたことに感謝こそすれ、怒りをぶつけるのは御門違いだな。
そう考えたらいい王様なのかもしれねぇな。
「それではリキ様。こちらが身代わりの加護のついたブレスレットです。」
そういや前に宝石商からもらったやつは邪龍討伐のときに壊れてたから、ちょうどいいな。
「ありがとう。」
「いえ、万が一にもリキ様には死んでほしくはないので。それで、何か聞きたいことはありますか?」
今回の戦争については特にもうないよな?
…そういえば。
「聞きたいことではないが、頼みたいことが1つあった。」
「なんでしょうか?」
「実は村の近くにダンジョンが見つかった。俺はそれを有効活用したいと思ってるから、そこまで領土を拡大してはくれないか?」
第三王女は驚いた顔をしたあと、ニコリと笑った。
「それでは今回の報酬としてゴブキン山を領土と出来るように交渉してみます。他にはありますか?」
ん?俺はダンジョンまでを領土としてほしいっていったつもりだったが、山そのものを領土にするつもりかよ。まぁ畑やらも村の外に作っちまってるし、広いに越したことはないか。
「頼んだ。他には特にないな。何かあればアリアから連絡する。」
「かしこまりました。それでは7日後にお兄様が村まで迎えに行きますので、怪我のないよう祈っております。」
こいつはバカなのか?戦争で死なないどころか怪我をしないように祈るとかおかしいだろ。無傷で俺が勝てると思ってるなら過大評価しすぎだ。
「いってろ。」
俺がソファーから立ち上がると、第三王女も立ち上がり、出口へと案内を始めた。
出口につくまではほとんど無言で歩き、俺は城を後にした。
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