裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

146話



まだ村にはほとんど建物がないため、広場となっている中央部で念入りな準備運動をしている。
この世界では準備運動をせずとも日本ではありえない動きが出来るから、今までほとんどすることはなかったが、今はなぜかそういう気分だった。
これは緊張しているからかもな。

俺の前には黒龍の双剣を何度か素振りしているセリナが立っている。

少し離れた所には俺がもらった人形を持ったサーシャが立っている。
あの人形は前にサーシャからの攻撃を防いだことがあるから、念のため預けている。
本気で戦うつもりなのに邪魔されたらシラケるからな。

「もう一度いうが、互いに手加減はなしだ。どちらかが一度死ぬまで続ける。だから身代わりの加護は必ず身につけておけよ。」

「…はい。」

最後に手足を振って首を回して準備運動を終わりとした。

腰のガントレットをはめて、これで俺の準備は完了だ。

「奴隷紋の縛りはといたから、俺に殺意を向けても大丈夫だ。準備はいいか?」

「…はい。」

この戦闘はセリナの実力と俺の実力を見るためのものだ。
たぶんセリナは既に俺より強いだろう。だが、なぜか俺には勝てないと思ってる節があるから、本気の俺に勝って自信をつけさせたいという理由もある。
それと同時に俺がどこまで強くなれたかを確かめるためでもある。

アオイと出会ったとき、俺は死体を操るアオイにすら手も足も出ずに敗北した。だが、セリナは死体よりも動きが速く力もあった鬼化したカレンを操るアオイに勝った。

俺もあの時よりは強くなった自信はある。だが、未だにアオイに勝てるかといわれたら正直怪しい。負けないつもりではあるが、勝てる自信はない。

だから俺はセリナとの戦闘で自分の成長具合を確かめることにした。

今回アオイではなくセリナを選んだ理由は戦争に連れていく前に対人間の経験を少しでもさせたいからだ。
もちろんアオイよりも強いセリナといい勝負が出来ればアオイに勝つ自信がつくだろうというセコい考えもあるにはあるが…。

「サーシャ。合図を頼む。」

「うむ。それでは、始め!」

先に攻撃を仕掛けてきたのはセリナだ。
俺も仕掛けようと思って前に出たが、速さが違いすぎた。だから自然と受けの形となった。

セリナの速さに俺の体がついていけるのかが不安だったが、なんとか対応できそうだ。

振り下ろされる短剣の腹にガントレットを当てて受け流す。
普通の剣なら受け止めるが、たぶんこの双剣はガントレットごと切れるだろうと思っての行動だ。だが、受け流すことすらも選択ミスだったようだ。

触れた部分から熱が伝わり、咄嗟に弾いてから後ろに跳んで距離を取る。
さらにセリナが追撃してくる。

考える余裕はなかったが、体が一度で学習したのか、セリナの剣撃を体を捻って触らずに避けながら、カウンターで殴りかかる。

ガントレットともう1つの短剣がぶつかる音が響くだけで、セリナには届かなかった。しかも殴った右手がやられた。一瞬触れただけなのに凍傷したかもしれねぇ。

もう一度距離をとったが、今度は追いかけて来なかった。まだたいして何もしていないのにセリナの息が少しだけ荒くなっているようだ。

それにしてもあの武器は反則だろ。
受け止めたら切られるし、触っただけでも怪我するとかふざけてやがる。

『ハイヒール』

地味に痛みがあった右手に回復魔法を使うと、セリナは一瞬驚いた。
好機とばかりに全力で距離を詰めると、驚いたことにより出遅れたセリナは受けの構えを取った。

『上級魔法:空間』

殴るために少し右手を引いた反動で前に出た左手を空間に突っ込んで、セリナの背後に現れた空間からセリナの背中を押した。

ヘタに超感覚を持っているからか、セリナは何の気配もなかった状態で背中を押されたことに動揺して隙が生まれた。
既に殴る体勢だった俺はそのまま右拳を振り抜いた。

セリナの双剣に触れないようにするため、腹しか狙えなかったが、綺麗に決まった腹パンはそこで止まらず、セリナをくの字に曲げて後方に吹っ飛ばした。

軽量の加護があるにしても反動が軽すぎた。それによっぽど硬いものでもなきゃ普通はあんなに吹っ飛ぶわけがない。いや、セリナはなんだかんだいい防具を着せて被膜の加護をつけているからありえなくないのか?
それでも多少は自分で後ろに跳ぶなどして衝撃を和らげた可能性は高い。だからここぞとばかりに追撃を仕掛ける。

セリナは少しの滞空時間を経て、一度地面に当たりバウンドした際に砂埃が舞って姿が一瞬隠れた。

だが一瞬隠れたところで大体の場所はわかる。そこ目掛けて殴りかかろうとした瞬間、寒気がして右に飛び退くと無理やり体をひねったセリナが短剣を横薙ぎにしてきた。
あのまま突っ込んだら切断されずとも深手を負っただろう。

体勢を立て直し、即座に攻撃に移ると、セリナが影に入りやがった。

この場合、どうすればいいかなんかわからなかったが、1つ試してみるか。

『超級魔法:太陽』

名前を発する途中でサイズやらを選べる感覚があったから、極力小さく弱めにした。本物の太陽が目の前に現れたら俺まで死ぬだろうからな。

目の前に拳ほどの光の塊が現れ、俺は直視しても目が痛いということはなかったが、少し暑いな。
自分の魔法だと自分に対して効果が出ない部分と効果が出る部分があるのはなぜだ?
いや、今はそんなこと考えている場合じゃねぇ。

光に照らされて影がほとんどなくなったにもかかわらず、俺に近づいてくる丸い影があった。これがセリナが使ってる影か?

「熱い!」

どう対処しようかと考えていたら、セリナが自分から出てきた。そして小さな太陽に気づいて驚いたせいで、俺が間合いに入ったことに気づいていないようだ。

そのまま右拳を出すと、途中で気づいたセリナが体を無理やり捻ってかわす。

このタイミングで避けるとかさすがとしかいえないが、それは予定通りだ。セリナなら避けるとなかば確信していた。だからこれはフェイントだ。

俺は右手を引いて、左拳をセリナの顔面目がけてフックの要領で殴りかかる。セリナならこれすらも避ける可能性があるが、さすがに剣で受けて衝撃を多少和らげるのが限界だろうと思っていたら、セリナが目をつぶったのが見えて、咄嗟に手を止めた。なんとか当たる前に手を止められた。

セリナは途中で目を閉じたからバランスを崩して倒れたが、まだ目を閉じている。

セリナはいつまでたっても衝撃がこないことを不思議に思ったのか、ゆっくりと目を開けた。

「今、諦めただろ?」

俺の怒気を孕んだ言葉を聞いてセリナは固まり、質問には答えなかった。

「本気でやってる俺をバカにしてんのか?」

「そ、そんなつもりは!」

慌てて否定したセリナの目は少し潤んでいた。

「じゃあなんで途中で諦めやがったんだ?俺が死ぬことを許したか?」

セリナはまた答えず、俯いた。

「まさか俺に負けるのは仕方ないとかふざけたこと考えてねぇよな?」

「リキ様に勝てるわけにゃいじゃん!私だって頑張ったよ!いっぱいいっぱい頑張ったよ!それでも勝てにゃかったんだよ!」

セリナは目から涙をポロポロと零しながら、頑張ったのに褒めるどころか怒られた子どものように悲しそうな顔で叫んできたが…。

「ふざけんじゃねぇ!」

セリナだけでなく視界の端に映る少し離れたところにいるサーシャまで、俺の言葉にビクッと反応した。

「俺に勝てるわけない?だから負けてもいい?そんな考えを俺が許すと思ってんのか?それとも加護があるから大丈夫とか甘えた考えを持ってやがんのか?」

セリナは無言で涙を流しながら俺を睨みつけている。

「そんな考えは捨てろ。セリナが俺に勝てないなんていう思い込みを捨てればセリナの方が強いと俺は思ってる。もし仮に俺の方が絶対的に強かったとしても、だから負けていい、死んでいいなんて理由にはならねぇ。セリナが頑張ってんのなんか知ってる。俺は主だ。セリナの成長を最初から見てるんだから当たり前だろ?でも結果死を選んだら意味がねぇじゃねぇか。最終結果で負けるのはしゃーねぇが、まだ動けるのに死を受け入れてんじゃねぇよ。死ぬまで足掻け。相手の強さなんて関係ない。勝つか死ぬかまでは勝手に終わらせてんじゃねぇよ!」

セリナは下唇を噛んで、まだ俺を睨みつけている。

「立て。続きだ。」

「…。」

「立て!」

セリナは体の痛みに耐えるかのようにゆっくりと立ち上がって、黒龍の双剣をかまえた。
どうやら涙は止まったようだが、唇からは血が滴っている。

「サーシャ。」

「は、はい。では、始め!」

再開の合図とともにどちらも動いたが、セリナはかなり疲労がたまっているようで、最初ほどの動きは出来ていない。
それでも持てる限りの力を振り絞って、本気でぶつかり合った。

もうセリナはMPが残っていないのか、剣が熱や冷気をおびることがなくなり、ガントレットで受け流してもダメージを受けなくなった。

数十回とセリナの剣撃をいなしたところで不意にセリナがバランスを崩した。
セリナの反応を見るにフェイントではなさそうだと判断し、殴りかかろうとしたら崩れた体勢のまま切りかかってきたから避けながら短剣を持つ手を殴った。
指が折れるような音とともに短剣が落ちた。拾わせないために蹴って遠くに飛ばしたが、その隙に体勢を立て直したセリナがもう一本の短剣で切りかかってきた。でも最初ほどの速さがないからなんとか避けられ、避ける際にその手も殴った。
また指が折れるような音とともに短剣が落ちたが、今度は落ちた短剣を蹴り飛ばさずにセリナに殴りかかった。

勝ちを確信した俺は視界の端に映ったセリナの手を見て驚いた。
変な方向に曲がった指の爪でカウンターを狙っていたからだ。
武器もなくなり、指まで折れてなお諦めない。さっきとは大違いだ。

なんだか嬉しくなってしまい、殴るのをやめて、そのまま抱きついた。
抱き寄せたために爪のカウンターは受けなかったが、肩に噛み付かれた。

「それでいい。俺は仲間に死なれたくねぇんだ。だから最後まで諦めてほしくねぇ。せめて俺が助けにいけるまでは生きててほしい。」

肩を噛まれる力が弱まった。
肩に力を入れていたからなんとか噛みちぎられはしなかったが、かなり痛え。

セリナは俺にしがみつくように抱きついて、また泣き始めた。
俺はセリナの頭を軽く撫でた。

「10日後にケモーナ王国と戦争をすることになった。絶対条件として俺とセリナは参加しなければならない。だから絶対に死なないでくれ。」

俺にしがみついていたセリナが“ケモーナ王国と戦争”という言葉を聞いた瞬間、ビクッと反応した。

「…私のせい?」

「そんなわけねぇだろ。全てはあのクソ野郎のせいだ。セリナが気に病む必要はねぇ。」

「…。」

気に病むなっていって、じゃあ気にしないなんて思えるわけねぇか。

『ハイヒール』

『ハイヒール』

『ハイヒール』

念のためセリナには2回かけ、自分にも1度ハイヒールをかけた。

「詳しい話はあとでする。今度はサーシャに説教するからちょっと離れてろ。」

「…はい。」

セリナは腕で涙を拭って、サーシャのもとに行き、代わりにサーシャが俺の前にきた。
人形はセリナに渡したみたいだな。

「…我は殺されるのか?」

「サーシャはただの説教だ。殺しはしない。そもそもサーシャは打撃で死ぬのか?」

「我は物理耐性は持っておらん。だから殴られれば痛いし、血を流しすぎたら死ぬ。我は傷の再生にも攻撃にも防御にも血を使う。だから血がなくなれば何も出来んし、死ぬだろうよ。」

「なるほど。なら傷の再生がされなくなったら危ないってことだな?」

「…そうだが、そこまでさせるつもりか?」

ただでさえ白いサーシャの顔がさらに青白くなった気がする。

「サーシャには先にいっちまうが、サーシャがどの程度かを知りたい。だから俺を殺す気でこい。俺も再生が出来なくなるまでは本気でいくからよ。」

サーシャの使い魔紋の設定を変更した。

「我は既に魔王。そろそろ我が強いことを示すべきだな。そのためにリキ様の胸を借りるとしよう。」

なんだか矛盾した発言に聞こえるが、サーシャは基本バカだから気にする必要はねぇな。

「セリナ。合図を頼む。」

「はい。…始め!」

合図とともにサーシャは両手を広げて血を複数浮かべた。

「遅い!」

サーシャが準備を終える前に懐に入り、無防備な鳩尾を右手で殴ると弾けた。
そのまま左手で顔面を殴ろうとしたときに嫌な予感がして後ろに飛び退くと、さっきまでいた場所に複数の血の弾が降り注いだ。
いつもに比べて小さいが、威力は変わらなそうな気がする。

何故かは知らんがサーシャとの戦闘では観察眼が全く当てにならない。
だからかなりの集中力が必要になり、正直疲れる。だが、いい練習、経験になる。

サーシャからの攻撃は終わらない。

いつもより小さい弾丸は1つに使う血の量が少ないからか数がいつもより多く、数百と浮かんでいる。
それらが俺に向かって休みなく飛んでくる。

初めのうちは避けたり受け流したりと余裕を持って出来ていたのが、数が多いせいか徐々に押され始めた。
サーシャの攻撃は1度受けたら終了だ。だからこのまま避けているだけじゃいずれ負けるだろう。

なんとか血の弾丸の雨をかいくぐり、サーシャに近づくと、サーシャは赤い大剣を振り下ろしてきた。

それを右手で受け流し、左手でサーシャの脇腹を殴るとまた弾けた。
腹を失って上下に分かれたサーシャの上半身が重力に従って落ち…ないだと!?
サーシャはそのままさっき振り下ろした大剣を振り上げてきた。

右手でサーシャの顔を殴りにかかっていたせいでガラ空きになっていた脇腹にサーシャの大剣が当たる寸前、無理やり左手を間に挟んだため切断こそされなかったが、力負けして吹っ飛ばされた。

数回地面に打ちつけられたが痛いだけでたいした怪我もなくすんだ。ガントレットの硬さに感謝だなと思った瞬間、また血の弾丸が飛んできた。

近距離も中距離も遠距離も対応できるとかやっぱり強いな。

取り敢えず距離を取ろうとしたところで足に思うように力が入らないことに気づいた。
疑問に思いながらもまずは避けなければと転がるようになんとか避ける。

そこで気づいた。

サーシャが瞬きすらせずにずっと俺を見ていることに。

呪いの魔眼だったか?厄介だな。

一度視界から外れればいいんだったか?

『上級魔…』

土の壁を作ろうと思ったら、俺が魔法名をいう前にサーシャが距離を詰めてきた。

サーシャの周りの血の弾は減ってきているが、それでもまだ百近くはある弾丸を全て放ちながら大剣を振りかぶった。

仕方なく魔法を諦めてサーシャの血の弾を避けつつ、振り下ろされた大剣を右手で受け流し、もう一度左手で脇腹を殴ろうとしたら噛みつかれそうになり咄嗟に距離を取る。

『上級魔法:土』

なんとか土の壁を作り出し、一度視界から逃れると力が漲ってきた。いや、戻っただけなんだろうけど。

これでまた仕切り直しだと一息ついた瞬間、土壁を貫通した何かを俺は右手でガードしてしまった。

そしたらそれは俺の右手に絡みついた。

徐々に肩の方に這い上がってくるそれは間違いなくサーシャの血だろう。

『中級魔法:電』

「ぴぎゃっ!」

ガントレットより上まできたら死ぬと思い、咄嗟に電気を威力を高めて流したら、この血はまだサーシャと繋がっていたようで、よくわからない悲鳴が聞こえた。

その後攻撃が来ないと思い、土壁を回ってサーシャのもとに行くと、大の字に倒れているサーシャの所々が弾けて煙を上げていた。
たまにパチパチっと紫電が見える。

「…動けぬ。」

「殺しちまったかと思って少し焦ったが、生きてて良かった。」

『ハイヒール』

回復魔法をかけると傷は塞がったが、まだパチパチと鳴っている。

「今まで貯めた血を使い切っても勝てぬとは…あの…まだ動けぬのだが?」

「俺は状態異常を治す魔法は持ってねぇ。」

「なら、てきとうな魔物の血で良いからほしい。2、3体もあればなんとかなろう。」

今から森で狩ってくるのもいいが、そろそろ日が暮れそうだ。
アリアたちを迎えに行かなきゃならねぇから、そんな時間はない。

とりあえずセリナとサーシャの奴隷紋と使い魔紋の設定をもとに戻した。

倒れたサーシャを抱き抱えるように起こす。
少しピリピリするな。

「な、何をする!?」

「時間がねぇから俺の血で我慢しろ。いっとくが使い魔紋の設定は戻してあるから殺そうとしたら死ぬぞ。」

「良いのか?」

「いってるだろ。時間がねぇんだ。」

サーシャはそれでも少し悩んだようだが、おずおずと俺の首元に噛みつき血を吸った。

これは思ったよりキツい。一気に貧血になりそうだが、さすがに自分から提供しておいてぶっ倒れるのはダサいと思い、気合いで耐えた。

意識を保つのが限界かと思ったところでサーシャが俺の首元から口を離した。

なんとか耐えたと安心したところで、今度はキスしてきやがった。ただ唇を合わせるだけのキスだったが、隙間から入ってきた血の味が不快だったから力の入らない腕を酷使して、無理やり引き剥がした。

「何しやがる?」

「ん?感謝の印だが?我のような美人にこうされると人族の男は嬉しいのだろ?」

自分で美人とかいいやがったぞ、こいつ。
まぁ確かに初めて見たときは絵になるほど整った顔立ちだと思ったが、残念な部分が多すぎて魅力は皆無だ。

「ガキがふざけたこといってんじゃねぇよ。」

ふらつく足に無理やり力を入れて立ち上がると、少しクラっとするが大丈夫そうだ。

「魔物時の年月も含めたら、我の方がリキ様より年上ぞ。」

フフッと笑いながらサーシャも立ち上がった。
こいつは完全回復してそうだな。そこまで遠慮なく血を吸いやがったのか。…まぁいい。

アイテムボックスからジェルタイプの携行食を取り出して一気に飲み干す。
これで多少はマシになっただろう。

手招きでセリナを呼ぶと、走って近づいてきた。
とりあえず人形を受け取って、腰のベルトに括り付けた。

「今回はたまたま俺が勝ったが、2人と俺にはそこまでの力の差はない。それは戦ってみて2人もわかっただろ?それでも俺が勝ったのは2人のことをよく知っているってのと主の意地のようなものだ。だから最初から勝てないとか決めつけるな。もちろん俺が相手のときだけじゃねぇ。クランだろうがあの悪魔だろうが、どんな強敵を相手にしたとしてもハナから死を受け入れる理由にはならねぇ。戦闘をすれば死ぬ危険があるのは当たり前だが、途中で諦めて死を選ぶのは許さねえからな。」

「「はい!」」

「あと、逆に相手がどんなに弱くても油断したら足元をすくわれるぞ。2人は弱い相手のときは遊ぶ癖がある。だが、俺らがやってるのは殺し合いだ。弱いと思ってた相手が奥の手を持ってることもある。油断して殺されるとか馬鹿らしいだろ?実戦で技の練習をするのはかまわないが、どんなに弱い相手でも相手をナメるな。わかったか?」

「「はい!」」

2人の頭に手を置いて軽く撫でた。

「わかればいいんだ。それじゃあ俺は町に戻る。セリナとサーシャは飯を食ったら話があるから寝ないで待ってろ。」

「「はい。」」

俺は2人に背中を向けて手をヒラヒラと振りながら門に向かって歩き出した。

門を開けると村のやつら全員が待っていたようだ。

「悪い、待たせたな。俺はこれから町に戻るから飯はいらない。」

「お疲れ様なのです。了解なのです。」

「それとアオイ。あとで話があるから…いや、カレン。アオイを貸してくれ。」

「は、はい。」

カレンからアオイを受け取った。

「妾をモノ扱いかの。まぁ今は刀だから物じゃがな。」

何が面白いのか、クククと笑いながら念話でアオイが話しかけてきた。
確かに生きてるのにモノ扱いは悪かったな。

「悪い。しばらく俺と行動してもらうがいいか?」

俺も念話で返した。
もちろん拒否権を与えるつもりはないが、一応確認しておく。

「妾に拒否権があるのかのぅ?」

「ない。」

「ふふふ。なら連れてけば良い。」

なんだか今日のアオイは上機嫌だな。



サラたちに別れを告げて、俺は一度町へと戻った。

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