裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

149話



なんだと!?

この世界にはシャワーしかないのかと思っていたら、この屋敷には湯船があるじゃねぇか!

異世界にシャワーがあるだけでもラッキーだと思っていたが、まさか風呂付の家に住めるとはビックリだ。

しかもこの家は2階の両端にシャワーが複数設置されているシャワー室があり、それとは別に大浴場があった。

会議が終わってシャワーを浴びようとシャワー室を探していたら、サラにお風呂の準備が出来ているといわれて、大浴場に連れてこられた。
今はその大浴場で湯船に浸かってくつろいでいるところだ。
本当に久しぶりだからか、生まれてから今までで一番気持ちいい風呂な気がする。

サラは案内した後に背中を流すといってきたが、断った。
会議の始まりが遅くて、会議自体も長かったから、けっこう遅い時間だし、子どもは寝るべきだろ。

そういやこの家に泊まるのって今日が初めてじゃねぇか?

さっき俺の部屋も教えてもらったし、今日はゆっくり寝るとしよう。

その前に約束を果たせるうちに果たさなきゃな。



右手小指の以心伝心の指輪に魔力を通した。

「起きてるか?」

…。

「久しぶりじゃないか!我が友!もちろん起きているよ。どうしたんだい?」

ロリコンと友だちになった覚えはないんだが…。

「今度、俺の仲間総出でダンジョンに潜ることになったから、ちょうどいい機会だし、約束を果たそうと思ってよ。今どこにいんだ?」

戦争で死んじまったら約束を果たすのは不可能になっちまうからな。

「本当かい!?俺はまだグローリアにいるよ。今は宿屋のベッドで本を読んでいたとこさ。どこのダンジョンにいつから潜るつもりなんだい?」

「予定では明日からで、場所はアラフミナ王国の王都近くにあるカンノ村の近くのダンジョンだ。とりあえずカンノ村に来ればあとは案内するが、そっちの都合はどうだ?ちなみに次の機会はもうない可能性もあるからな。」

戦争後も無事でいられるかわからないというのもあるが、俺はレベル上げが必要なくなったら、危険のあるダンジョンにわざわざ潜るつもりはないしな。

「もちろん行くよ!今すぐに!だが、4日近くかかってしまうと思うが、大丈夫かい?」

「あぁ、6日後まではほぼ毎日ダンジョンに行くつもりだから問題ないだろう。俺は村にいないかもしれねぇから、着いたら連絡してくれ。」

「わかった。じゃあまた4日後!」

「あぁ。」

これでいいか。
アリアたちはロリコンを嫌がるだろうが、こいつはソロでSランクになったくらいだから強いだろうし、役に立つはずだ。

程よく疲れも取れたし、そろそろ寝るか。

俺は湯船から上がり、かるく体を流して大浴場を出た。





冷んやりとして気持ちいいと思っていたら、扉をノックする音が聞こえて目が覚めた。

なんだろうと思って目を開けると、目の前にイーラの寝顔があった。あれ?イーラはカルナコックを食ってからあったかかった気がしたが、今日は冷んやりしてんな。

というかなんでイーラがここにいる?

不思議に思っていたら、イーラが目を開けた。

「あ!リキ様おはよう!」

至近距離でうるせぇな。

「なんでイーラがここにいる?」

「起こしにきたんだよ!」

…。

「じゃあなんでイーラまで寝てんだ?」

「気持ちよさそうに寝てたから、起こしたら悪いかなって思って、イーラも一緒に寝ることにしたの。ベッドに2人は暑いかなって思ったから、ちゃんと昔の体にしたんだよ。」

気をつかう部分がおかしいだろ。

とりあえず起き上がろうと思ったところで、またノックの音がした。

「どうした?」

「…朝食の準備が出来ました。」

扉越しにアリアの声がした。

ずいぶん疲れていたのか、爆睡だったな。
イーラが入ってきたことにも気づかなかったし。

あんま他のやつらを待たせるのも悪いから、急ぐか。

着替えは飯を食ってからすればいいと諦め、このまま食堂に向かうことにした。

「悪い。待たせた。」

扉を開けてアリアに謝罪をするが、大丈夫だと返された。

そのままイーラも一緒に食堂へと向かった。




朝食を済ませた後はそれぞれが仕事に向かい、食堂に残っているのは俺とアリアとイーラだけだ。
俺は一度着替えに戻ったから、正確にはアリアとイーラを待たせてたんだがな。

「じゃあそろそろ行くか。第一目標は使い魔にするだが、最悪殺し合いだ。覚悟はしておけよ。」

「大丈夫だよ!」

「…はい。問題ありません。」

話がわかる魔族ならいいんだけどな。





カンノ村とは山の反対側にあるというドライアドたちの住処に最短距離で行くために一度山頂まで登ってから下りるという行き方をしたから、かなり早くついた。
しかもイーラをドライガーに変身させて走らせたんだが、気のせいでなければイーラは何もないところを足場にしていたと思う。
空を駆けるとかペガサスかよって思ったが、イーラは普通に空を飛べるんだったな…そしたらたいした利点でもねぇか。

俺らが来ることに気づいていたのか、ドライアドたちが出迎えてきた。
このまま対話も微妙だと思い、イーラから降り、イーラを人型に戻した。

これで全員なのか一部なのかは知らねぇが、思った以上に多くいるな。

「急に邪魔して悪い。この集団のトップ…おさ的な立場のやつはいるか?」

「私が一番強き者ですが何か?」

ちょうど中心にいた22歳くらいに見える女っぽいドライアドがどうやらここでの長的存在みたいだな。

ただ、一番強き者っていい方が引っかかる。もしかして強いやつのいうことしか聞かないとかいうタイプだったりするのかこいつらは?だとしたら間違いなく戦いになるな。もし戦いになったら手加減なんてしてらんねぇから殲滅するしかなくなっちまう。

いきなり最悪のパターンか?

「近いうちにこの山は俺の領土になる。だから、魔族や魔物を放置するわけにはいかねぇんだ。でもお前らは魔族みたいだから話が通じると思って交渉にきた。」

まだ領土になると決まったわけではねぇが、こいつらに人間の事情なんてわからんだろうから大丈夫だろう。
それに最初は交渉の予定だったが、よくよく考えたら魔族や魔物がこんな人が住むところの近くにいたらいろいろとマズいだろ。だから交渉というより三択から選ばせるしかねぇか。

1つは俺の使い魔になる。
1つはこの山から出て行く。
1つは殺し合いだ。

「交渉とは面白いいい方をするのですね。討伐か服従かのどちらかしかないでしょうに。」

一応会話は成り立つタイプか。
まぁ人間を好んでるようには見えないが。

「まぁ場所が場所だから否定はしねぇ。だが一応もう1つ、お前らがここから全員出て行くなら目を瞑る。もちろん戻ってきたら討伐せざるを得なくなるが。」

数が多いし、数体は魔族だから経験値的には美味しいだろうが、会話ができて敵意を向けてない相手を殺すのは少し躊躇う。まぁ少しだが。
だから出て行くなら好きに生きればいい。

「逃げる者を狩るのが趣味なのですか?」

「そんな趣味はねぇよ。仮に俺が肯定したとして、お前らは選択が変わるのか?」

おれが肯定したら抗う選択を取るだろうが、実力差からして無意味でしかないだろう。それに、一度相手を疑った時点で、短期間で信用するなんてどんな口約束を並べたって不可能だ。だからこいつらは最初から死ぬ気で抗うという選択肢を選ぶつもりでの質問か、少しでも逃げられる可能性がある選択をするつもりでの保険をかける意味での質問でしかない。つまりは俺がなんと答えようとこいつらの選択は変わらないだろう。いや、諦めて服従を選ぶ可能性はあるのか。

「できれば一度手合わせを願えないでしょうか?」

「は?めんどくせぇよ。…まぁイーラが相手でいいならかまわねぇが、手合わせした相手が死んでも責任は取らねぇぞ?」

「やるよ!誰と?全員?」

イーラが少し前に出てニコニコしながら体から柄の長い鎌を取り出してクルクル回している。

「ではこの子とお願いします。」

突然地面からニュルニュルと大量の蔓が生えてきて、それらが絡み合って人型になった。

「ん?これって体の一部でしょ?じゃあイーラも一部で戦うよ。」

そういって、イーラの胸元からにゅるりと青い半透明なスライムが出てきて、地面に落ちるなり人型になった。…正確には人間ではない。緑の化け物…ゴブリンキングだ。

「っ!?」

ドライアドはあからさまに驚いた顔をした。
どうやら同じ山に住むだけあって知っているようだ。

「もう始めていいの?」

「少しお待ちください!それはあなたの分身ですか?」

「ん?分身だけど、スキルや加護はゴブ…そう、ゴブリンキング!この入口の森んとこにいたゴブリンキングのままだから、イーラよりゴブリンキングだね。」

いってる意味がよくわかんねぇうえに山に入口も何もねぇから。
まぁ街道側から見たら山の手前が森になってるからいいたいことはわからなくもねぇけど、山に住んでるドライアドには伝らねぇだろ。

「手合わせすれば本物かわかるでしょう。それでは行きます!」

どうやらドライアドはイーラがいってることを理解するのは諦めたみたいだな。

「いつでもいいよ!ゴブリンキングはしばらく様子見ね。」

イーラはドライアドに答えた後、ゴブリンキングに指示をしたようで、ゴブリンキングが一度頷いた。

蔓人間が右手を前に出すと、物凄い勢いで伸びて、その蔓がゴブリンキングに絡みついた。
ゴブリンキングは鬱陶しそうに引っ張るが、弾力があるからか千切ることができないでいるみたいだ。

するとモゴモゴと口を動かしたと思ったら、体が淡く光った。そしてゴブリンキングがあらためて思い切り腕を引いたら、絡まっていた蔓がぶちぶちと千切れた。

なんだ?ステータスアップの魔法か?

蔓から解放されたゴブリンキングは蔓人間に近づくが、蔓人間は一切反応できず、ただのパンチを顔と思われる部位にもろにくらってぶちぶちと繊維が切れるような音がした。

だが首が飛ぶどころか倒れすらしなかった。

それに不満を感じたわけではないだろうが、ゴブリンキングは蔓人間の右腕と肩を掴んで無理やり引きちぎった。

ふんすとドヤ顔で鼻息荒くしているから、少しは気が晴れたのかもな。

その後ゴブリンキングはイーラを振り向いた。

「それは壊しても大丈夫みたいだね。」

イーラの許可を得たゴブリンキングは休む間も無く蔓人間を殴り続けた。

地面から新しい蔓が生えてきて、ゴブリンキングに絡みつくが、まるで拘束の意味をなしていない。

殴るたびに蔓人間がぶちぶちと音を立てるが、どこの部位も取れる気配はない。

ざっとしか数えてないが、たぶん打撃数が100を超えたあたりで蔓人間の左腕が飛び、その後は徐々に破片を飛び散らせ、最後には腰から下しか残らなかった。

それだけ連続でパンチをしておいて、ゴブリンキングは息切れすらしていないようだ。

「まだやるか?」

ゴブリンキングは満足したのか構えをといているから、念のため俺がドライアドに確認を取った。

「いえ…あの、あらためて聞きたいのですが、なぜ魔族である私たちに逃げるという選択肢を与えるのですか?それだけの力があるなら好きに出来るでしょうに。」

「あ?さっきから質問めんどくせぇな。お前らはまだ俺の敵じゃねぇだろ?しかも会話も成り立つし、べつに俺らは討伐依頼を受けてねぇ。なら経験値のためだけに殺すのも気分悪いし、無理やり従わせるのは好きじゃねぇ。だからお前ら自身に選ばしてるだけだ。わかったらさっさと選べ。」

あんま面倒なら討伐が楽か?

畑の面倒を見させられればと思ったが、予想以上に数が多いから、こいつらの食費の方が生産量を超える可能性もある。つまりマイナスだな。
だけどさすがに意思疎通ができる、敵ではないやつを殺すのはやはり少し躊躇う。

「私は今後一生あなた様に従うことを誓います。」

わりとすんなり仲間になることを選んだな。ただ、私は・・か。

「ならお前は後で使い魔契約をする。他の奴らはどうすんだ?俺はこれから買い物にも行かなきゃならねぇから暇じゃねぇんだ。だから早く選べ。1人ずつ聞くのは面倒だ。イーラ、そこに線を引け。」

「は〜い。」

イーラは光の熱線で俺が指差した辺りにドライアドたちと俺らを区切るような線を引いた。

「俺の使い魔になるならその線よりこっちにこい。どっかに移住するつもりなら下がれ。動かないやつは抗うつもりだと判断して、討伐する。」

その後10からカウントダウンしていくと、魔族たちは慌てるように線を越えてきた。
予想外に迷うことなく全員が線を越えてきた。

「じゃあ使い魔契約するから並べ。あと、いっておくが一度契約したら一生解放しないからな。それが嫌なら下がれ。」

俺の話を聞くなり、魔族たちはゾロゾロと列を作り始めた。既に従順なことに少し驚きだ。

先頭は1番強いとかいうドライアドだ。
契約をするため胸に手を当てるが、木の魔物…まぁこいつは魔族だが、木の魔族なのに胸は普通に柔らかいんだな。見た目は人間に近いし、違和感があるわけではないが不思議だ。

そんなことを考えながら使い魔契約を発動すると、黒い何かが現れ、ドライアドの胸のあたりで蠢き、浸透していく。

いつ見ても気持ち悪いが、ドライアドは嫌悪感を出すことなく受け入れた。

その後も魔族も魔物も関係なく、全員に使い魔契約をした。

使い魔画面を見ると最後のやつが36になってるから、こいつら33体もいたのか。

「あの…。」

最初に契約したドライアドがおずおずと手を上げた。
こいつはそういった人間のルールみたいなもんを少しは知ってるのか?それとも魔族でも似たような感じなのか?まぁどっちでもいいことだな。

「なんだ?」

「私たちは何をさせられるのでしょう?」

こいつらはそれがわからないまま使い魔になったのかよ。

「お前らは戦闘はできるのか?」

「木と土に恵まれた環境であれば戦え……るつもりでした。」

あぁ、イーラに負けたから下手なこといえなくなったのか。もしイーラが俺の仲間の中で1番弱かったら、イーラのしかも一部を相手に手も足も出なかったのにどの口が戦えるとかほざいてんだって話になるからな。

「イーラに負けたことは気にすんな。こいつの強さは例外だ。俺が聞きたいのはこの辺の害なす魔物や村に危害を加えようとする人間が現れた際に戦えるかを聞きたいだけだ。」

「相手の強さによりますが、この山にいまだに生まれてくるゴブリンやイビルホーン程度であれば倒せます。ゴブリンキングが現れるまでは森や山に入ってくる人間と戦う機会もあったのですが、こちらに移り住んでからは人間と戦うことがないため、現在の人間の平均がわかりません。」

まぁ自分の身を護れる程度に戦えるなら十分だろ。

「ならお前らの仕事は畑仕事と周囲の警戒だな。」

「っ!?…それだけでいいのですか?」

何を驚いてるんだ?

「べつにお前らを戦闘奴隷として仲間にするつもりはねぇからよ。ただ、俺の領土で生活するなら使い魔になるのが最低条件ってだけだ。あと何かしら仕事はさせる。それだけだ。だからここに住みたきゃこのままでいいし、村に住みたきゃくればいい。仕事さえして、俺の仲間に危害を加えなきゃ、あとは好きにすればいい。ただ、害のない人間に手を出すことは禁止する。」

「ありがとうございます。私たちはここに住まわせていただきたいです。」

「好きにしろ。畑仕事のスケジュールはお前らで勝手に組んでくれ。周囲の警戒はお前らが住むこの辺だけでいい。村は村で門番を立ててるからな。ただ、場合によっては頼むかもしれないから、その時はよろしく頼む。あとはお前らが討伐されないようにしたいが、使い魔紋だけじゃ弱いか?」

ドライアドは最低限を葉っぱや蔓で隠すような格好をしているが、トレントにいたってはただの木だ。だからどちらもハッキリと使い魔紋は見える。だが、近くに俺がいなければ、既に死んだ人間の元使い魔って思われて討伐される可能性もありそうだ。

「…でしたらリキ様のグループを作ったらいいと思います。」

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