裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚
152話
ダンジョンでのレベル上げ2日目と3日目は順調に進んだ。
ガキどもは午前中は村の中でアリアとサラの指揮のもと戦闘訓練をさせ、午後はダンジョンでの実戦訓練をしていたようだ。
全てアリアに任せて、あとで報告だけ受けているから実際に見てはいない。でも、アリアが順調だっていうなら問題ないだろう。
俺らは朝食後から晩飯までダンジョンに潜ってひたすら先に進んでいる。昼飯は携行食ですませるくらい本気で取り組んでいるから既に地下50階まで到達している。これだけ深くなればフロアがかなり広くなるにもかかわらず、既に地下49階までマッピングが完了していることを考えれば間違いなく順調だろう。
ただ、俺らの今回の目的はレベル上げだ。その目的を達成できているかといえば、否だ。
ガキどもはそこそこレベルが上がっているようだが、俺らはほとんどレベルが上がっていない。
まぁ理由はわかっている。
このダンジョンの魔物が弱すぎるからだ。
俺らが多少強くなってるからではあるだろうが、地下49階の魔物も地下20階の魔物も大して変わらなく感じるくらいに弱かった。
だから当初の予定通りほとんど殺さずにマッピングだけしていたからだ。
地下30階あたりで、もう強さに関係なく殺しちまおうかと思ったが、もしかしたらガキどもの中に冒険者になりたいやつが出てくるかもしれない。そいつらの練習兼レベル上げに使えそうなやつらを殺しきるのはもったいないという気がしたからほとんど殺さずにここまで来てしまった。
さすがにフロアボスは階を下りるために倒したが、地下21階から50階までにいた5体とも弱かった。
4日目の今日は地下50階からの予定なんだが、朝食を終えた後、俺はアリアと2人で町に来ている。
ガントレットがそろそろ出来ているだろうからな。あとはもう一度奴隷市場に行ってみようとも思っている。
ということでとりあえずおっさんの武器防具屋に来たんだが、今日はおっさんがいなかった。代わりに見たことない男…たぶん20代後半くらいのやつが店番している。
なんでいないんだよと思ったが、普通に考えておっさんが毎日いるわけねぇわな。今日がたまたま休みなんだろう。
でもおっさんがいないと俺のガントレットの話が通じてるかが心配だ。まぁ聞くしかないから聞くか。
「すいません。ガントレットの修理というか補強?を頼んだ者なんだが、できてますか?」
初対面だからって中途半端に敬語を使おうとして変な言葉遣いになった気がするが…べつにいいか。
「あぁ!リキ・カンノさんですね。親方から話は伺ってます。今お持ちしますので、少々お待ちください。」
「あぁ。」
店員はカウンターの裏に引っ込んで行った。
…ん?俺っておっさんに自己紹介ってしたっけか?
俺が疑問に思っていると、店員が禍々しい紫色したガントレットを持って戻ってき、カウンターに置いた。
「お待たせしました。親方は先ほどまでこのガントレットの仕上げをしていて、私に説明をしたのち気絶するように寝てしまったため対応が出来ずすいません。今回のガントレットは龍の鱗を使用して補強したことにより、加護ではありませんが魔法に強くなったとのことです。あとは武器としての効力の付与に成功したとのことでした。そのため形状が少し変化していますが、使用感はそこまで変わらないとのことでした。何か質問はありますか?」
おっさんが気絶するように寝たって話を聞いて、無理させちまったかななんて考えてたら話を聞き逃してしまった。
まぁいいか。
「龍素材のみで作るものとこれはどっちの方が良さそうだっていってたかは聞いてるか?」
「龍の鱗で作るより良いものが出来たかもしれないといってはいましたが、詳しい話は聞きませんでした。すいません。」
今度おっさんがいるときに聞けばいいか。
「いや、かまわない。追加料金とかはかかったか?」
「いえ、いただいている料金で足りています。」
「そうか。ならもらっていく。引き続き龍の鱗のみでのガントレットも頼んだぞ。」
「はい!ありがとうございました!」
カウンターに置かれているガントレットを腰につけ、店を出た。
あらためて見ると昨日までイーラが作ってくれてたガントレットと色がほとんど同じだな。イーラのやつもムカデと龍の鱗を混ぜ合わせてたってことか?
あとは奴隷市場に行って新しく俺の欲しい奴隷が売ってるかを確認しようと思って歩いていると、視界の端でアリアの指輪が光った気がした。
なんだろうと思ってアリアを見ると目が合った。
「…リキ様。グループの印の魔術紋が出来上がったようです。これですぐに全員に印をつけることが出来ます。帰宅後最終確認をお願いします。」
最終確認って、途中経過を一切聞いていなかったんだが…。まぁ任せたから何でもいいんだがな。
「随分早いな。グループの印って、そもそもグループ名は決まっているのか?」
「…はい。グループ名は『一条の光』で決定したいと思っているのですが、いいですか?」
「全部任せるつもりだからかまわない。印はどんなのなんだ?」
確認を取ると、アリアがアイテムボックスから白いローブを取り出した。いつの間に買ったんだ?
「…これは魔術紋ではなく墨による試し書きですが、この印をソフィアさんに魔術紋化してもらいました。」
ローブの背中部分には奴隷紋があり、その奴隷紋を隠すようにクロスされたガントレットが書かれていた。
誰が描いたかわからねえが上手いな。
「いいんじゃねぇか?」
「…ありがとうございます。それではもう全員に印を付けておいてもらうように伝えておきます。」
「あぁ、任せた。」
その後、アリアからガキどもの成長具合をあらためて聞いているうちに奴隷市場に着いた。
奴隷市場の前にはやっぱり奴隷商は立っていない。最初の頃がたまたまだっただけっぽいな。
地下に続く階段のある扉をノックすると少しだけ扉が開き、中から黒服の男が顔を出した。
「いらっしゃいませ、リキ様。どうぞ。」
扉が完全に開いたのを確認し、俺は中に入った。
いつも通り性奴隷、戦闘奴隷と見ている途中で奴隷商が現れた。
「お邪魔してしまい申し訳ありません。以前リキ様が欲していた奴隷の候補を入荷いたしました。」
マジか!?仕事が早いな。
というか入荷って他国にも店を持っていて連れてきたとかか?それともどっかから攫ってきたとか?…いや、どちらにしろ俺には関係ないし、こいつは王族にも信用されてるっぽいからマズイことはしないだろ。
「じゃあ早速見せてくれ。」
「戦闘奴隷はよろしいのですか?」
俺がまだ途中までしか見てないことに気を使ったようだが、正直今は戦闘奴隷はいらないというか、戦争が終わるまでは本気で鍛える余裕はないし、戦争が終わったら戦闘自体しなくなる可能性もあるから、ヘタしたらもう必要ないしな。
「かまわない。今欲しいのは村づくりに役立つやつだけだからな。」
「かしこまりました。それではこちらへどうぞ。」
奴隷商の案内に従ってついていくと、廃棄間際の部屋の奥、前にサーシャがいた部屋に連れてこられた。
その部屋には檻が1つだけあり、中には小さな女の子が2人いた。そして檻の外には机と椅子があり、従業員っぽい男がそこで作業をしていたようで、俺らに気づいて立ち上がって頭を下げてきた。
檻の中では1人は奥の壁に寄りかかりながら座って真剣に本を読んでいて、もう1人のさらに小さい方が本を読んでいる女の子にしがみつくように寄り添っていた。
わりと清潔そうな布?を纏っているし、1つの檻に2人いるところを見るに、今まで見た奴隷の中でだいぶ待遇が良さそうだな。
それに今までの奴隷は檻の中にバケツがあり、そこで用を足していたようだが、この檻にはそれがない。しかも従業員がいること自体、初めて見た。
「奴隷なのにずいぶんな高待遇だな?」
「それはリキ様のためにご用意した奴隷ですので。現在建築について学ばせている段階なのですが、手先が器用な種族なので、すぐに使えるようになるかと思います。」
俺のために高待遇っておかしくねぇか?
まだ買うって決まったわけじゃねぇのに金かけるか普通?
「いくらだ?」
「姉妹を一緒に買っていただけるのであれば、現在与えている建築に関する本をお付けして金貨5枚でいかがでしょうか?」
2人で金貨5枚なら場合によっては納得いかなくもないが、ガキ2人で金貨5枚は高くねぇか?
「こんな子どもが2人で金貨5枚の価値があんのか?」
「はい。この2人はドワーフのため、手先が生まれつき器用です。そのため、知識さえ与えれば建築のみならず武器防具の作製も出来るようになるかと思います。それに子どもだから可能性が高いともいえるでしょう。ただ、1人は既に成人となっておりますが、簡単な武器の作製であれば既に出来るようです。」
え?成人?確かこの国では15歳以上だったよな?マジか!?
でも確かにゲームのドワーフは小さかったな。あんま女のドワーフは見た記憶がないが、もっとずんぐりむっくりしていて、女でも関係なくヒゲが生えていた気がしたが、こいつらは小さいけど、別にずんぐりむっくりしているわけではない。普通に人族の子どもみたいな感じか?いや、でもよく見ると確かに少し大きい方の女は身長のわりにはしっかりした腕や足をしているな。髪のモサモサ感もいわれるとドワーフっぽいな。
「こいつらはヒゲが生えてないけど、剃ってるのか?」
前にオークションで見た女ドワーフもヒゲがなかったが、やっぱり見た目を気にして剃ってるのか?
「申し訳ありません。私の知る限り、ドワーフの女性はヒゲは生えておりません。中にはそういった者もいるかもしれませんが、この2人は今のところ生えていないかと思います。」
…そうか。べつに俺が日本にいた頃の知識とこの世界が完全に一致するってわけでもねぇわな。決めつけるのはよくなかった。
「いや、気にしないでくれ。」
前にオークションでいたドワーフは確か金貨3枚ちょっとだったよな?なら2人で金貨5枚はありか?
セリナは1人で金貨5枚だったしな。
でもソフィアは金貨1枚だったし、アリアに関しては銀貨20枚だからな…そう考えると高えな。
「アリアはどう思う?」
「…買わずとも近いうちに手に入る可能性がありますが、それをまとめるために成人となっている者がいるのはいいかと思います。2人で金貨5枚は少し高い気もしますが、建築に関する本が付くのであれば許容範囲内ではあると思います。」
うん。アリアがいってる意味がよくわからなかったが、許容範囲内であるなら買ってしまうか?もっといいのが手に入るとも限らねぇしな。
「おい。」
檻の中に声をかけると、2人がビクッと反応し、怯えた目で俺を見てきた。
過剰反応過ぎねぇか?
「こっちに来い。」
2人は恐る恐るといった感じで歩いてきて、俺の前に立った。見てわかるくらいに震えているんだが…まだなんもしてねぇぞ。
「俺は無理やり奴隷にするのは好きじゃねぇから、お前らに選ばせてやる。俺の奴隷となって死ぬまで働く気はあるか?」
正直そこまでの魅力を感じていないからか、交換条件などをいうのを忘れた。
まぁ聞かれたら答えるし、拒否られたら拒否られたでいいか。
「「…お願いします。」」
「え?」
まさかの反応に声が漏れてしまった。
いまだに2人は怯えているんだが、声を揃えて肯定された。
「「一生懸命働きますのでお願いします。」」
初めから打ち合わせでもしていたかのようにハモっていた。
「わかった。やる気のある奴は好きだぞ。奴隷商。こいつらをくれ。」
奴隷商に金貨5枚を渡した。
「ありがとうございます。」
奴隷商は慣れた動きで檻を開けて奴隷2人を出し、首輪を外した。
「今から2人に奴隷契約をするから受け入れろよ。」
そういって2人の頭に手を置いて、奴隷契約を発動させた。
発動させてから思ったが、2人を一度に出来るのか?というのも杞憂に終わり、両手から黒い何かが生まれて2人の顔、肩と伝わり胸まで行き、胸でしばらく蠢いた後、吸い込まれるように浸透していった。
「2人を同時になど初めて見ました。さすがはリキ様です。」
隣で呟いていた奴隷商を無視して奴隷画面を確認した。
ガルナ 16歳
ドワーフ族LV7
状態異常:恐怖
スキル 『素材鑑定』『武器鑑定』『性質変化』
加護 『熱耐性』『成長補強』『成長増々』『状態維持』『成長促進』『奴隷補強』
ガルネ 7歳
ドワーフ族LV1
状態異常:恐怖
スキル 『素材鑑定』『性質変化』
加護 『土精霊』『成長補強』『成長増々』『状態維持』『成長促進』『奴隷補強』
スキルは姉の方が多く持ってるみたいだが、加護はそれぞれで違うんだな。
素材鑑定…物体を見極めるスキル。
武器鑑定…武器防具、アクセサリーを見極めるスキル。
性質変化…条件にあった物体をアクセサリー化するスキル。
土精霊…土精霊に見守られ、与えられし加護。
さすがドワーフというか、なんか鍛治にむいたスキル構成だな。
というか…なんでこいつらは状態異常になるほど怖がってんだ?
「そんなに怖がんな。べつに俺は奴隷を殴って快楽をえるような人間じゃねぇし、性奴隷として扱うつもりもねぇ。自衛できる程度になってもらうために戦闘訓練とかはさせるが、それが終わったら2人には建築や鍛治関係を任せようと思う。だから痛いとかの怖い思いは最初の戦闘訓練だけだ。だからそんなに怯える必要はねぇ。ただ、『俺の命令は絶対』であるのと『俺を裏切らない』の2つは必ず守ってもらう。この2つを破ったら死ぬだけで済むと思うなよ。」
「「は、はい。」」
あれ?怖がらせないようにしようとしたのに、妹の方がポロポロと泣きはじめちまった。
「アリア。」
困ったときはアリア頼みだ。
「…はい。」
アリアはガルネに近づき、アイテムボックスからハンカチのようなものを取り出して涙を拭いてあげた。
「…大丈夫です。デニーロさんに何かいわれたかもしれませんが、リキ様は優しい方です。同じ奴隷であるわたしの言葉、信じてください。」
「…うん。」
どうやら泣き止んだようだ。さすがはアリアだな。
「急いで戻って少しでも戦闘訓練させてからダンジョンに行かせたい。だから早く帰るぞ。」
「…はい。」
「「はい。」」
部屋から出て出口に向かう途中、廃棄間際の部屋も見ていこうかと思ったが、もしここで何かを見つけても、今は余裕がない。だったら知らないままの方がいいだろうと思い、寄らずに村に帰ることにした。
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