裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚
162話
暑苦しくて目が覚めると、誰かに抱きつかれているようだった。
どういうことだ?
頭が覚醒していくことで、夜中のことを思い出してきたが、そういやニアと一緒に寝ることになったんだったな。ベッドは大きめではあるが、さすがに15、6歳が2人で寝るには小さいから多少密着してしまうのもわからなくないけど、密着しすぎだろ。
昨日までの雨が嘘のように晴れていて、窓から差し込む日差しのせいもあってか、暑苦しくて仕方がない。
無理やりにでも引き剥がそうと思い、タオルケットのようなものをめくると、最初に見えたのは黒髮とネコ耳だった…。
「おい、なんでセリナがここで寝てるんだ?」
セリナがこちらを向くと、俺とセリナの間にイーラの頭が見えた。どおりで暑苦しいわけだ。
「危にゃいからだよ!」
昨日いってたことか?
「危険はないって昨日いったはずだぞ?それにこいつはもう俺の奴隷だ。俺に害は与えられないから心配いらん。」
「そういうことじゃにゃくて、昨日とは違う危険にゃんだけど……いつも通りのリキ様だから大丈夫そうだね。」
「どういうことだ?」
「にゃんでもにゃ〜い。」
わけわかんねぇな。まぁいい。
「それで、イーラは何してんだ?」
「セリナが危険だっていうからイーラもついてきた!」
「…そうか。」
まぁ心配してくれたってことで、今回は睡眠を邪魔されたことは許すとするか。
「何をやっているんですか?」
後ろから冷ややかな声が聞こえたから、寝たまま後ろを見ると、俺らが話しているせいで起きたのか、俺の背中側にいたニアが上体を起こし、黒に赤の目となってこっちを見ていた。
「一緒に寝てただけだよ?」
イーラが不思議そうに首を傾げたが、勝手に俺の部屋に入ったことをいけないことだと認識してねぇなこいつ。
「自分はリキ様の奴隷となったナルセニアです。夜のお供は奴隷である自分がするので、邪魔しないでください。」
…いや、夜のお供なんか頼むつもりねぇぞ。
何いってんだこいつと思ったら、視界の端でセリナがニヤリと笑ったのが見えた。
「そうにゃんだ〜。じゃあリキ様の夜のお供は先輩奴隷の私が責任持ってやるから、今晩からは後輩ちゃんは気にせず自室で寝てていいよ〜。」
セリナはニャハハと笑いながらふざけたことをいってきやがった。その瞬間、ニアから何かを感じたが…とくに何も起きてない?
「ん〜ダメだよ新人ちゃん。躾がにゃってにゃいとリキ様に嫌われちゃうよ?イーラ、この子にお返ししてあげて。」
「お返し?イーラも威圧のスキルを使えばいいの?」
「そう。本気でね!」
イーラはセリナにいわれるまま、俺を挟んでニアを睨んだ。
その瞬間、重さを伴う寒気が全身を駆け抜けた。一瞬ではあるが体が硬直し、薄っすらと背中に汗が滲んだ。
油断していた状態でくらったからなのかもしれないが、もし構えてる状態で受けても同じ効果があるなら、戦闘開始直後にくらったら初動が遅れて命取りになるぞこれは。
逆にいえば俺が使えば有利な戦闘が出来るかもしれないな。今度威圧のスキルの練習でもするか。
そんなことを考えていたら、ベッドに触れている腕から生温かさが伝わってきた。
嫌な予感がしながら起き上がり、原因を探る……必要もなかったな。
ニアがあひる座りの状態で涙目になりながら小刻みに体を震わせ、漏らしてやがった。
威圧って確か精神攻撃ってなってなかったか?
ニアは精神攻撃耐性をもってたのにこの結果って………イーラはどんだけ化け物なんだよ…。
「おい、セリナ。」
「ごめんにゃさい!やり過ぎました!」
俺がセリナの名前を呼ぶと、飛ぶようにベッドから降りて土下座してきた。
俺がいわんとしてることはわかってるみたいだし、反省もしてるみたいだからこれ以上いう必要はねぇか。
それに先に威圧を使ったのはニアみたいだし、自業自得でもあるしな。
「俺はシャワーを浴びてくるから、片づけはやっておけ。今回はそれで許してやる。」
「はい!ごめんにゃさい!」
俺はいまだに抱きついてるイーラを引き剥がして、シャワー室に向かった。
シャワーを浴び終えて食堂に行くと、既に準備は整っているようだ。ニアも席についてるみたいだし、昨晩のことなのにもう知れ渡ってるのか?
俺が席に座ると静かになった。いつも通り怖いくらいに統率されてんな。
「いただきます。」
「いただきます!」
全員がハモっていい終えるとすぐに食器の合わさる音が鳴り響く。
マナーも教えるべきか?教えることがいっぱいあるから、学校が出来る前に教材とかは作っておくべきかもな。
「…リキ様。新しく戦闘奴隷になった方のことを教えてもらってもいいですか?」
アリアからニアの紹介を頼まれたが、やけに戦闘という部分が強調されてたな。今後戦闘するかはわからないんだけどな…。
「あいつはナルセニア。ニアって呼べ。魔人らしいけど、俺は魔人がこの世界でどういう扱いなのか知らねぇんだが、なんか制約とかあるのか?」
「…いえ、特にはないのですが、魔人は差別される可能性があります。ただ、リキ様の戦闘奴隷であれば問題ないです。」
俺の説明にアリアが答えてくれたが、戦闘奴隷だからってよりも奴隷は主の物だから大丈夫ってことだよな?たぶん…。
「ニア、このテーブルにいるのが俺の奴隷で、他は村人だ。」
「3体は魔族では?」
「ん?あぁ、確かに正確にいえば使い魔だな。ただ、些細な違いだから俺はまとめて奴隷っていってるだけだ。あとここにはいないがドライアドやトレントの使い魔もいるが…まぁそのうち見かけることもあるだろ。仲良くしろと命令するつもりはないが、このマークがあるやつらは全員俺の仲間だから俺が不快になるような喧嘩はするなよ。」
「些細な違い………。…新しくリキ様の奴隷となったナルセニアです。よろしくお願いします。」
何かを呟いたあとにニアは立ち上がり、全員を一度見てから自己紹介をして軽く頭を下げた。
「…リキ様の第一奴隷のアリアローゼです。アリアと呼んでください。」
「スライムクイーンのイーラだよ!」
「獣人のセリナアイルだよ。セリナでいいよ。あと、さっきはごめんね。」
「鬼人のカレンです。」
「鬼のアオイじゃ。今は肉体がないから念話で失礼する。」
「テンコ。精霊。」
「鱗族のサラクローサなのです。サラと呼ばれてるのです。よろしくお願いしますなのです。」
「ドッペルゲンガーのヒトミだよ♪」
「鳥人族のソフィアランカですわ。ソフィアと呼んでください。」
「我はサーシャ。吸血鬼の女王である。」
「キメラのウサギだけど、心は人間なんだからね!」
「龍のヴェルデナーガだ。よろしく。」
「ドワーフのガルナです。」
「ドワーフのガルネ…です。」
アリアとサラは立ち上がって自己紹介をしたが、他のやつらは座ったままだった。さすがに食事の手は止めていたが。
というか、そんなことより…。
「ウサギ…俺の気のせいかもしれないが、その羽織ってるシャツの下って両腕ともあるように見えるんだが…ちょっと見せてみろ。」
ウサギはビクッとしたあとに数秒だけ迷うようなそぶりをしてから、袖をまくった。
袖をまくる時点でなかったはずの左腕があることがわかって驚いたが、それだけでなく今まであった傷がなくなっていた。
そして、めくれて露わになった腕は傷がなくなった代わりとばかりに肘から手首にかけて白い短めの毛でフサフサになっていた。
そういえば前にウサギから進化許可申請がきたが、見間違いじゃなかったのか?
「それは進化と関係あるのか?」
「感覚で進化が出来ることがわかって、進化したら腕が生えて身体中の傷が消えたから、そうだと思う。」
「人間も進化するものなのか?」
「…。」
「…わかりません。」
ウサギが黙ったからアリアを見たが、アリアもわからないみたいだ。
「まぁ、俺としてはウサギの腕も傷も治ったことは嬉しく思う。ただ、腕の重さが増えた分感覚が変わってくると思うから、転ばないように気をつけろよ。」
戦闘訓練の最初の方は片腕に慣れてなくてか、よく転けてたからな。まぁいわれなくてもわかってることだとは思うが、何かあってからでは遅いから、ちょっと心配だっただけだ。
「はい!」
ウサギからしたら小言をいわれてる状態だろうに、何故か元気のいい返事が返ってきた。
もう1つ何かをウサギに聞こうと思ってたことがあった気がするが、忘れたからいいや。
「あと、ニア。飯食ったら服を買いに行くぞ。」
「はい!」
「他に町に行きたいやつはいるか?」
「え?」
「イーラも行く!」
「私も!」
「…わたしもいいでしょうか?」
ニアが何故か驚いた顔をしたが、人見知りか?まぁ最初は大人しそうな感じだったしな。
ついてくるのはイーラとセリナとアリアか。
「いや、セリナは門番じゃねぇのか?」
「…。」
セリナはあからさまに目をそらした。
「また今度な。」
「…はい。」
セリナが悲しそうな顔をしたがこればかりは仕方ない。決められた仕事はやるべきだからな。
「じゃあ朝食後に準備して門の外に来い。ニアは先にソフィアにグループマークをつけてもらっておけ。」
「「「はい。」」」
3人の返事を聞いてから、俺は食事を再開した。
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