裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

164話



やることが終わって、ちょっと早いかもなと思いながら冒険者ギルドに着くと、既にアリアは前回と同じ6人がけのテーブルに座って本を読んでいた。

アリアもイーラもニアもせっかくの自由時間なのにもっとやりたいこととかないのか?
まぁ昼で一度集合っていっちまった俺のせいでもあるのか。

そんなことを考えながらアリアのもとに向かうと、俺らに気づいたアリアが読んでた本を閉じて立ち上がった。
べつに気にせず読んでてもいいんだけどな。まだ正午まで時間があるだろうし。まぁここからじゃ太陽が真上に上がってるかなんて見えねぇから仕方ねぇか。

ん?なんかもう1人座ってるやつがいたみたいで、アリアが立ち上がったのに気づいてその男も立ち上がった。アリアの友だち………ってことはなさそうだな。なんか俺のことを見てる気がする。というか汗かきすぎじゃね?今は日本でいう秋くらいには涼しくなってると思うし、この建物内も暑くないと思うんだが。
あれ?この男、どっかで見たことあるぞ?

「…リキ様。お疲れのところごめんなさい。この人がリキ様に謝罪をしたいそうです。」

「謝罪?」

「先日は不快な思いをさせちまいまして。すま……申し訳ねぇです。」

あからさまに不慣れで出来損ないの敬語ながらも深く頭を下げて謝ってきた。

…あぁ、あのときのやつか。素直に謝ってくるとは意外だったが、謝ってきたのだからこれで終わりにしてやるか。スキルの識別を使って確認したが、本気で謝ってるみたいだし。それにこいつのおかげでかなり儲かったしな。

「あぁ、謝罪は受け取った。だからもう俺たちに関わるな。無駄に目立ちたくはねぇんだよ。」

一瞬「今さらだよ。」って声が微かに聞こえた気がして周りを見回したが、声の主は見つけられなかった。気のせいだったか?セリナがいれば確認できたんだが、いないのだから仕方がない。きっと気のせいだ。

「いいのか?」

「なにが?」

「自分でいうのもおかしいが、俺はお前を本気で殺そうとした。なのにそんなにすんなりと許してくれるのか?」

「は?もっと痛めつけられたかったのか?だとしたら、悪いがお前の趣味に付き合ってやる優しさは持ち合わせてねぇ。謝罪金は既に受け取ってるし、本気で謝ってるやつに追い討ちをかけるつもりもねぇ。だからとっとと消えろ。」

「あ、あぁ。本当にすまなかった!」

男がもう一度頭を下げてから立ち去ろうとしたところ、後ろから来た服の上からでもわかるほどに筋骨隆々とした40代くらいの男に邪魔されて立ち去れなかったみたいだ。

謝ってきた男は後から来た男の顔を見て、何故か固まっている。

「よお。初めましてだな。お前がリキ・カンノだよな?」

次から次へと鬱陶しいな。

「だったらなんだよ?」

「俺と一戦しないか?」

「嫌だよ。」

こいつは馬鹿なのか?知らない相手といきなり戦うとか意味がわからねぇ。
相手が殺しにきたなら応じるしかねぇが、こいつからは敵意は感じない。しかもこいつはかなり強そうだから出来れば喧嘩すらしたくねぇな。この世界では喧嘩で死ぬ可能性も高そうだし。

「そんなつれないこというなよ。勝ったら褒美をやるぞ?」

褒美をくれるっていっても負ける可能性が高い戦いをするつもりはない。昔なら嬉々として強そうな相手と戦ったかもしれないが、この世界では戦いイコール殺し合いだ。それに木剣での戦闘とかで死なないように配慮されるとしても、今はアリアたちがいるから無様に負けた姿を見られたくないって気持ちがあるからか、戦いたいとは微塵も思わない。

「あんたには勝てる気がしないからやる気が起こらん。」

「そんな謙遜するなよ。じゃあ勝ち負け関係なく、実力があったらSランクにしてやるし、勝てば金貨10枚やる。どうだ?」

べつに無理してまで冒険者ランクを上げたいとは思わないから、なんの魅力もないな。確実に勝てるなら金貨10枚は魅力的だが、たぶん俺じゃこいつには勝てないだろうし。

「ちゃんと身代わりの加護の付いたアクセサリーはやるからよ。一戦だけ頼む!」

断ってんのにしつけぇな。
そういやなんでこいつが冒険者ランクとか条件に出せるんだ?冒険者ギルド関係者か?

「リキ様が不快に思ってるのがわからないのですか?鬱陶しいので消えてください。」

俺がどうでもいいことを疑問に思っていたら、ニアが俺と男の間に入ってきた。

「嬢ちゃんには関係ないだろ。俺はそこのリキに頼んでんだ。それとも嬢ちゃんが相手をしてくれんのか?…ほぅ、わりと好みだな。嬢ちゃんなら夜の戦闘の相手を頼みたいね。」

男はニヤニヤと笑いながらニアの全身を視線でなぞった。

その行為を見た第三者の俺でも気持ち悪いと思ったのだから、見られたニアはさぞかし不快だっただろう。ニアが右腕に力を入れたのが見えたから、咄嗟に掴んで止めた。

「リキ様。邪魔しないでください。こいつ、殺せない。」

「いや、お前じゃ勝てねぇよ。」

「…。」

実力差は一応わかるのか、反論はしてこなかった。だが、ずっと睨んでやがる。

「マスター。そういう悪役みたいな真似はやめてくださいよ。どこまで本気かはわからないですが、立場を考えてください。」

今度は20歳代前半くらいの爽やかそうな男が現れた。けっこう細身だが、こいつも強そうだ。マスターとか呼ばれた男ほどではないが、俺よりは強いだろうな。
まぁこいつは話が通じそうだから、断り続ければこの男を連れて帰るだろう。

「うるせぇな。わかってるよ。」

「ならその人をまず放してあげてくださいよ。」

「あ?…おぉ!悪い。てっきりリキの仲間のカンツィアかと思ってたら違ったな。」

最初に俺に謝ってきた男の肩をマスターとか呼ばれてるやつが掴んでた手を離すと、謝ってきた男はヘコヘコとしながら立ち去っていった。

「それで、俺と戦う気になったか?」

「しつけぇな。さっきから断ってんだろ。」

「マスター。早く帰りましょう。ここで出来る分は終わらせましたが、あなたの仕事はまだたくさん残っているんですから、早く帰って仕事に戻ってください。でないと私がスミスさんに怒られるんですから。」

「どうせ抜け出した時点で怒られんのは確定してんだから気にするだけ無駄だ。それよりお前も一緒に頼めよ。そうすれば少しは早く帰れんぞ?」

「わかってるならそもそも抜け出さないでくださいよ!」

「うるせぇな。国が1人に対して喧嘩を売ったなんて噂を聞いたら見てぇだろうがよ。」

俺らから意識がそれてくれたかと思ったら、非常に嫌な予感がする言葉が出てきたぞ。

「ちょっ!それは極秘なんですから、こんなところで話さないでください!馬鹿なんですか!」

この爽やか男はずいぶんとマスターとかいうやつに苦労かけられてんだな。

もう俺らは帰っていいか?

アリアを見るとコクリと頷いて近づいてきた。俺らのとこまできたアリアがイーラに小声で「外に出ましょう。」といっているのが聞こえたから伝わったようだな。

あとはニアをこのまま連れていけばいいだけだ。

「おまっ!馬鹿とはなんだ!俺より弱いくせに!」

「馬鹿と強さは関係ないですよ!そんなのもわからない時点で…やめましょう。これ以上続けても無駄でしょうし。それで、カンノさん。マスターとの模擬戦、検討してはもらえませんか?」

俺らが帰ろうとしてるのを察していたのか、爽やか男はいい合いをやめて俺に話を振ってきやがった。こいつはこいつで面倒そうなやつだな。

「負けるとわかってる戦いをしたいと思うわけねぇだろ。」

「…それは謙遜ではないのでしょう。なかなかいい眼を持ってるようですね。」

「そうだ!じゃあお前が戦え。リキがこいつとすら戦いたくねぇってんならさっきから敵意剥き出しの嬢ちゃんでいいからよ。代わりに負けた方はなんでもいうことを聞くってのはどうだ?」

マスターとかいうやつが意味わかんねぇことをいい始めやがった。
ニアの実力がわからねぇが、この爽やか男に勝てるとは思えねぇ。

「ふざけん「わかりました。ですが、リキ様の奴隷である自分が叶えられる範囲でお願いします。」…は?」

ニアが勝手に了承しやがった。

でもよくよく考えたらニアの実力を知れるいい機会なのかもしれねぇな。この男だったら死なない程度には手加減してくれそうだし、一応身代わりの加護付きアクセサリーをくれるらしいから間違いはそうそう起こらないだろう。

なによりニアがやる気満々みたいだからな。

それに相手が今は敵意がなくともいつかは敵になるかもしれないし、相手の強さも知っておきたいからな。だが、俺はアリアたちの前で無様に負ける姿は極力見せたくないからニアがやる気ならやらせてやろう。まぁ間違いなく負けるだろうが、それで少しはニアが好戦的でなくなってくれればありがたいしな。

「リキ様。お願いします。戦わせてください。」

「わかった。ただ、無理はするなよ。」

「…善処します。」

なんだ?今の間は。もしかして無理するつもりなのか?

「イーラ。ニアにニータートの甲羅で作った盾を貸してやれ。サイズはニアの身長くらいデカイやつで頼む。」

イーラにはいくつか甲羅を食わせてあるから作れるはずだ。

「う〜ん…盾は食べたことないからな〜…こんなのでいい?」

イーラが取り出したのは立派な盾だった。謙遜するなんて珍しいな。

この盾があればニアもいい勝負ができるだろう。

「十分だ。ニア、これとこれを使え。」

「ありがとうございます。」

ニアにイーラが作った盾と衝撃爆発のハンマーを渡すと、ニアは頭を下げて受け取った。

「なんで私がというのはさすがにいえる雰囲気ではないですね。わかりました。それでは訓練場をお借りしてひと勝負しましょうか。マスター。約束の身代わりの加護付きのアクセサリーはちゃんとあげてくださいね。」

「わかってるよ。ほらよ。」

マスターとかいうやつがニアに何かを放り投げた。ネックレスっぽいな。一応識別を使ってみたが、本物みたいだ。

ニアはそれを首につけて、準備完了のようだ。

さて、ニアはどんな戦い方をするんだろうな。






訓練場らしき場所には俺らとマスターと爽やか男しかいない。どうやら人払いをしてくれたみたいだ。

ニアは既に今日買った動きやすいパンツスタイルの服装に着替えて、爽やか男と向き合っている。それにしても背中丸出しな服装だな。まぁ背中が綺麗だから似合ってるんだが。

「嬢ちゃんも人族じゃないんだろ?俺ら以外には誰もいねぇから、本気を出してくれていいぜ。」

ニアは今の状態ではどう見ても人族なんだが、鬼人族みたいになんか見分け方でもあるのか?

ん?ニアがこっちを向いているけど…あぁ、許可待ちか。

「好きにしろ。」

べつに隠す必要はねぇだろうしな。魔人だからといってちょっかい出してくるやつがいたらそん時はそん時だ。

「ありがとうございます。」

ニアは俺に一度頭を下げてから爽やか男に向き直り、ツノと翼をだした。こっからじゃ見えないが眼も変わっているのだろう。

「なるほど、魔族だったのですね。種族は悪魔ですかね。そういえば自己紹介がまだでした。私はハインケル。あなたのお名前をお聞きしても?」

「自分は魔族ではない!魔人族のナルセニアです。」

「これは失礼しました。それでは私は準備ができましたので、いつでもどうぞ。」

爽やか男は話しながら細身の剣を抜いて構えた。あれはレイピアではなくてバスタードソードってやつか?細身なのに刺突のみでなく斬ることもできそうな剣だ。
防具も左手に小さな盾はつけているが、他は革のようなもので急所を覆っているだけの軽装だし、セリナと同じくスピード重視か?だとしたらニアの装備はミスったな。デカイ盾とハンマーとかかなりの重装備じゃねぇか。…あ、ニアに防具を与えるのを忘れた。

「自分もいつでも大丈夫です。」

いや、全然大丈夫じゃねぇから。防具を身につけてないぞ?

「なら、始め!」

俺が止めに入ろうかと思ったら、マスターとかいうやつがすぐに始めの合図を出しやがった。

その瞬間、爽やか男は走り出し、勢いそのままにバスタードソードの柄頭でニアの盾を突いた。

金属同士が激しくぶつかるような音がなり、場の時間が一瞬止まった。そしてすぐに爽やか男は距離をとった。

「見た目通りに硬くて重い盾ですね。壊すのは出来なさそうですが、それだけ重い盾を扱えるのですかね!」

爽やか男はいい終わるタイミングで力を込めて踏み出し、瞬間的に距離を詰め、ニアの盾の前で急停止したと思ったら、盾に手をついて左側に体を捻り、盾の側面へと移動しようとした。

普通ならあの速さでやられたら盾を回り込まれて斬られるだろう。だが、ニアは盾を振り回すのではなく、盾を軸に90度回った。つまり、回り込もうとした爽やか男は回り込めずに盾の正面のままだ。まるで盾越しに相手が見えてるような反応だな。

すると、爽やか男はまた急停止し、今度は反対から回り込もうとするが、ニアはそれに合わせて体を背中側に捻りながら右手に持ったハンマーを振るった。

盾の側面から現れた爽やか男にジャストタイミングで、遠心力がフルに乗ったハンマーが当たった。
爽やか男は避けるのが難しいと判断したのか、左手の小さな盾で受け止めたがために大爆発が起きた。いや、予想よりは小さめの爆発か?爽やか男はあの体勢から後ろに跳んで衝撃を多少逃したのかもしれねぇが、それでも普通に吹っ飛んだ。

壁まで吹っ飛んだみたいだが、爽やか男は器用に壁に着地し、ニアに向かって跳んだ。さっきよりも速度が上がってねぇか?しかもほぼ無傷っぽかったし。

ニアの盾の数歩手前で跳び上がり、今度は上から攻めるつもりみたいだ。そしたらニアは今度は盾を持ち上げてそれを防いだ。
さすがに盾を持ち上げたうえにそこに男が1人乗ってもビクともしなかったことには爽やか男も驚いていた。だが、驚いたのも一瞬で、腰から何かを取り出して横に投げた。キラリと光る何か…あれは細い紐か。ナイフのようなものに細い紐がついてるみたいだな。爽やか男がその紐を途中で軽く引くと、ナイフは盾の両側面からニアに向かって襲いかかった。

ニアはそれを翼で簡単にはたき落した。

あれ?ニアってけっこう強いのか?

爽やか男は紐を引っ張ってナイフを回収してから盾の上から飛び退いて、また距離をとった。

「やりづらいなぁ。」

爽やか男は頭をボリボリと掻きながら呟いた。なんだか口調が変わってねぇか?

「我求む。道阻むものを退ける力。万物が本能に刻む恐怖の象徴たる炎をもって道を作りたまえ。」

『フレイムレディエイション』

爽やか男が左手を前に出すと激しい炎が噴き出した。完全にニアを殺す気だろこいつ。

ニアは盾で受け止めるつもりのようだ。

噴き出された炎は盾にぶつかり左右に分かれたため、ニアの姿が見えなくなった。

爽やか男は炎の側面を回り込むように高速で走り、炎の中に飛び込んだ。

数秒して炎が消えて現れたのは地面に倒れたニアの上に足を乗せて左手でニアの盾を支え、右手のバスタードソードをニアの首に当てている爽やか男の姿だった。
ニアのハンマーは離れたところに転がっていた。

「これで終わりでいいですかね?」

「終了!ハインケルの勝ち!イェイ!」

このおっさんうぜぇな。

終わりの合図を聞いた爽やか男はニアから足をどけて離れた。
ニアはゆっくりと起き上がり、盾とハンマーを拾って、人間の姿に戻ってトボトボとこちらに歩いてきた。今にも泣きそうだ。

「リキ様、すみません。負けてしまいました…。」

「あぁ、気にするな。あいつには俺も勝てないだろうしな。」

いや、爽やか男にならワンチャンあるか?

「…すみません。」

ずいぶんとしおらしくなったな。でも爽やか男は殺さないでくれたみたいだから身代わりの加護付きネックレスは壊れずに済んでるみたいだし、爽やか男の実力もある程度わかったから、どちらかといえば得してんだから落ち込む必要はねぇと思うんだがな。

「よぉし。じゃあ1つ命令できるんだったな。ならその胸を揉ませてくれ。」

マスターとかいうやつが両手をわきわきさせながら近づいてきた。

「冗談はやめてくださいよ。マスターはもっと自分の立場をわきまえてください。それに戦ったのは私なんですから、命令権は私にあるはずです。」

「は!?ずりぃぞ!お前が揉むつもりか!?」

「あなたと一緒にしないでください!私は冗談でもそんなこといいませんよ!」

なんなんだよこいつらは…。
ニアは負けると思ってなかったのか、助けを求めるような視線を俺に向けてくる。というか、自分で受けた勝負なんだから、負けたなら潔く胸くらい揉ませてやれよ。例え嫌なことだろうと先に明確な罰を決めずに勝負したのはニアなのだから自業自得だ。

「まぁ冗談はこれくらいにするか。悪いな嬢ちゃん。」

マスターとかいうやつはニヤニヤ顔から普通の笑顔に変わった。今までのは全部演技なのか。まぁ多少は本音も混じってるかもしれねぇが、冗談だったのだろう。

「それじゃあどうしましょうか。そうですね…では、ナルセニアさんはカンノさんのグループの中で何番目に強いのですか?」

爽やか男がニアに質問をしたみたいだが、新しく入ったばかりのニアが自分の序列なんかわかるわけがなく、また困った顔で俺を見てきた。
だが、そんな目で見られたって仲間内で序列なんか決めちゃいないから俺にもよくわからん。俺の感覚でいうなら俺を含めて8〜10番目ってとこか?

気づけば爽やか男は俺を見ていた。

「アリアわかるか?」

困ったときのアリアだ。

「…相性などがあるので絶対ではありませんが、今のニアさんなら9番目くらいではないでしょうか。」

だいたい同じ感覚みたいだ。まぁ今回のニアを見る限りかなり早い相手と魔法を使える相手には弱そうだから、ヘタしたらソフィアでも勝てちゃうかもだしな。

「ナルセニアさんで9番目ですか…ということは戦争に参加してない中にもまだ強い仲間がいるんですね。」

やっぱりこいつらはケモーナとの戦争のことを知ってやがるみたいだ。この口ぶりからすると、もしかしたら見てやがったのかもしれねぇな。

「もう帰っていいか?」

こいつらに余計な情報を与えるべきではないと直感が告げているから、早く立ち去るのが吉だろう。

「ついでに試験も受けていかねぇか?」

「このあとやることがあるんだよ。」

「そうかい。まぁいつでも冒険者ギルドはお前が試験を受けるのを待ってるから、気が変わったら受けてくれ。」

「ずいぶん冒険者ギルドを推すんだな。」

「あ?当たり前だろ。俺は冒険者ギルドのマスターなんだからよ。つまりこの大陸にある冒険者ギルドの頂点に立つのが俺だ。凄いだろ。」

マジかよ…こんなやつが頂点なら下っ端職員や冒険者がクズいのも頷けるな。

「あぁ、そう。」

「俺を知らなかったことに驚きだが、その反応の薄さにはさらに驚きだわ。」

「興味がないもんでな。それで、もう帰っていいか?」

「なんか気にくわねぇが、まぁ用事があるなら仕方ねぇ。今度はちゃんと時間作ってお前の村に行くから、そんときゆっくり話そうぜ。」

「嫌だよ。」

そんなお偉いおっさんと話すことなんかなんもねぇよ。それに俺のことを調べてるっぽいやつと話し合いなんかして、余計なことを知られたくなんかねぇ。

「俺がギルドマスターと知っても態度を変えない姿勢、気に入った!絶対お前の村に行くからな!」

「歓迎はしないが来たきゃ勝手にこい。俺がその時にいるかは知らんがな。」

「おう、またな!」

二度と会うつもりはないって意味でいったつもりだったが、伝わらなかったようだ。

爽やか男は軽く頭を下げ、ギルドマスターは右手をブンブンと振ってくるのに対して片手を上げて応え、俺は訓練場を後にした。

「裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

  • 葉月二三

    下衆といわれて否定が出来ないためにダメージ受けましたが、好感が持てるキャラと思ってもらえたなら良かったです_:(´ཀ`」 ∠):

    1
コメントを書く