裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚
167話
ニアはシャワーを浴びたいということで別れたが、俺とアリアはそのまま食堂に向かった。
食堂に入ると何人かのガキは既に席について談笑していたが、俺に気づくなり会話をやめて会釈してきた。
なんか気を遣わせちまってるのかと思ったが、ガキどもはすぐに会話を再開したから、気にする必要はなさそうだ。
「…リキ様。ローウィンス様の席はリキ様の隣でもよろしいでしょうか?」
俺がいつもの席に向かっていたら、アリアが後ろから確認を取ってきた。
「べつにかまわねぇよ。俺は身分が高いやつらに対する礼儀やマナーとかよくわかんねぇから、その辺はアリアに任せる。」
「…はい。」
返事をしたアリアは食堂の端まで小走りで向かい、扉を開けて新しい椅子を取り出した。今まで気にしてなかったが、あんなところに小部屋があるんだな。チラッと見た感じでは予備の椅子やテーブルがいくつかあるようで、そこそこ広い物置のようになってるようだ。
その椅子を俺の席の横に置き、その椅子と俺の椅子を少しずらして位置を調整している。
もちろん俺は余計なことをして邪魔しないように見てるだけだ。
俺とローウィンスの席を用意したあとはもう2つ椅子を持ってきて、アリアたちが座ってるところに追加して、位置を調整している。
たぶんそれは近衛騎士2人分なのだろう。
準備を終えたアリアが俺に座るよう促してきたから、席についた。
アリアはそのあとキッチンに指示を出しに行くと告げて離れていった。
アリアが食堂から出て行くのと入れ替わりでニアが入ってきた。
ずいぶん早いな。
急いだのか髪が微妙に湿っているっぽいな。ニアは出入り口からまっすぐ俺のもとまで向かってきたのだが、シャワーを浴びたばかりだからかいい匂いがする。しかもパジャマではないがかなりラフな服に着替えているからか、風呂上がり効果と合わせて妙に色っぽい。
「お待たせしました。」
「べつにゆっくり入ってて良かったんだけどな。まだほとんど集まってないし。」
「いえ、リキ様と2人っきりでいられる少ない時間を無駄にはしたくないので。」
こいつはなにいってんだ?ほとんど集まってないっていってもガキどもはそれなりにいるから間違っても2人っきりではねぇぞ。
「べつになんか用があんならいつでも聞くぞ?」
「そういうわけではありません。ただリキ様に自分だけを見てほしいだけです。」
「悪いが意味がわからない。まぁ今度ニアの戦闘訓練とかをするつもりではあるから、そんときは俺が相手してやるよ。」
こいつは既にそこそこの戦闘能力があるみたいだからな。新しいガキどもと一緒より、俺やセリナあたりと訓練した方がいいだろう。
「ありがとうございます!」
その後、ニアと雑談を交わしているうちにローウィンスたちも含めた全員が集まった。
飯も全員の前に並べられ、あとは俺のいただきます待ちだろうが、一応ローウィンスの紹介をしといた方がいいか。
「今日は客が3人いる。こいつがローウィンス・アラフミナ。知ってるやつもいると思うが、この国の第三王女だ。んで、この村も含めたこの辺りの本当の領主だ。」
続けて近衛騎士の分を適当に紹介しようとしたら、ローウィンスが立ち上がったから一度言葉を止めた。
「リキ様からご紹介いただきましたが、いくつか訂正させていただきます。正式には5日後の発表となりますが、ローウィンス・アラフミナ改め、ローウィンス・アラ・スルウェーとなります。ここカンノ村のあるゴブキン山を含めたスルウェー山脈を治めることになりました。王族ではありますが、5日後には公爵となり、この屋敷の隣に住むつもりです。この村含むゴブキン山に関してはリキ様に一任していますので、私が口を出すことはないかと思います。何かご用があれば、エイシアに言伝ください。」
名前を呼ばれたエイシアが立ち上がり、一礼した。
「それでは、今後ともよろしくお願いいたします。」
ローウィンスは最後に頭を下げて着席した。
というか俺の知らない新情報がいくつかあったが、この山だけじゃなくてこの山脈がローウィンスの領土になるわけか。山脈っていっても山3つ分くらいしかなかった気がするが、それでもあの穴場ダンジョン近くまであった気がするからそこそこ広い。山脈っていうのか疑問な感じではあるがな。
でも山としてはそれぞれ大したサイズじゃないかもだけど、都会暮らしだった俺からしたら相当な土地だと思う。
つっても領土の平均がわからねぇし、人が住めないようなところを領土にしてもなんもいいことなさそうだけどな。
まぁ俺が元いた世界を基準に考えてるから違和感があるだけで、その辺りはなんも考えずに受け入れた方がいいのかもな。
爵位やなんだもいまいちよくわからねぇし。なんで公爵になるのに改名してんだ?これは地球でもそうなのか?その辺りは詳しくは勉強してなかったから違いがわからん。むしろわからないからそのまま何となくで受け入れとくか。べつに偉くたって今さら敬語を使うつもりはねぇし、ローウィンスって名前が変わったわけじゃねぇからどうでもいいしな。
あとはこの山脈の名前がスルウェー山脈だったくらいか。
「あとは近衛騎士の2人だが、2人ともここに住むのか?」
「いえ、エイシアは私と住むことになっていますが、ウィルソンは別の仕事を任せているため、この村にはあまりいないと思います。」
「そういうことらしい。女がエイシアで男がウィルソンだ。こいつらは部外者ではないことだけ覚えとけ。じゃあ待たせちまったが飯にしよう。いただきます。」
「いただきます。」
そろそろ腹が減りすぎてか集中力の切れ始めたガキがチラホラいたから、適当に話を切り上げた。
統率された「いただきます。」の挨拶にローウィンスたちが少し驚いていたが、静かに食事を始めた。
やっぱりマナーを学んでるやつは食べ方が綺麗だな。黙ってればお姫様って感じなのに勿体無いやつだ。そういや今は王女ではないのか?まぁどっちでもいいか。そもそもお姫様として接する気はないし。
「いかがなさいました?」
ローウィンスがこっちを向いて小首を傾げた。ガン見し過ぎたか。
「いや、食べ方が綺麗だと思って見てただけだ。」
そういやセリナもそういったマナーは習ってたのか、昔は食べ方とか綺麗だったな。今も汚いわけじゃないが、郷に入っては郷に従えと思ってるのか、場合によっては肉の取り合いに普通に参加してたりするからな。
「リキ様に褒めていただけるなら、習った甲斐があるというものですね。」
微笑んだローウィンスが普通に可愛くて困る。こいつはもっと腹黒さを前面に出しててくれないと普通のお姫様だと勘違いしちまうじゃねぇか。
とりあえず俺も飯を食っちまうか。
全員が静かになったってことは食べ終わったのだろう。
ローウィンスと近衛騎士も食べ終わってるから俺の「ごちそうさま。」待ちみたいだな。
「全員集まってるときにいっておきたいことがあったから、忘れる前にいっておこうと思う。全員SPは余ってるな?そしたらジョブ取得とジョブ設定を取っておけ。使い方はわかると思うから説明しないが、それがあれば自分で好きなジョブになれる。俺が選ぶよりも自分で選んだ方が適したものを選べるだろうからな。相談くらいは乗るが、基本は好きなジョブにつけ。話は以上だ。ごちそうさま。」
「ごちそうさまでした。」
アリアたちから一斉にスキル取得申請がきた。ちゃんと従ってくれたようでなによりだ。ぶっちゃけ全員分把握しなきゃとかもう俺にはキャパオーバーだ。もしかしたらカンストしてるのに俺がジョブ設定をしてなかったがために経験値を無駄にしていた可能性もあるから、自分たちに任せた方がいいだろう。
仕事放棄ではない。仲間を信じてるだけだ。
ガキどもはもう奴隷じゃないから申請はこなかったが、たぶん大丈夫だろう。まぁ今のところ5人以外は冒険者になる予定がないから、そもそもジョブとかどうでもいいかもだがな。
「そんな大事なことを私たちの前で話してよかったのですか?」
ローウィンスが申し訳なさそうに聞いてきたが、べつに大事な話ではなかったし、聞かれて困るようなことではないんだが。
「べつに俺が管理するのがめんど………俺が管理するより自分たちに任せた方がいい結果になると思ったからいっただけで、聞かれて困るような話じゃなくないか?」
「リキ様がいいのであればかまいませんが、ジョブは神殿やギルドでしか変えられないものだと思っていたので、自分たちで出来るということ自体がリキ様が見つけた重要事項で、秘密にするべきことかと思ってしまいました。」
「いや、普通にSPで取れるんだから、重要でも裏ワザでもなんでもないだろ。まぁヘタにギルドとかと揉めたくないから、いいふらすべきではないかもな。だから、ローウィンスも自分からいいふらしたりはしないでくれ。べつに聞かれたら答えてもいいけどよ。」
ギルドでは確か金を取ってたからな。たいした金額ではなかったが、稼ぎを減らすようなことをしたら恨まれそうだしな。
「リキ様は寛容なのですね。」
よくわからんが、まぁいい。
「食器類はそのままにしとけば食事係が片すから、もう帰って平気だぞ。」
というかそんなこといわずとも王族が自分で食器を片すって思考がそもそもねぇか。
ローウィンスが席を立とうとしないから間違った解釈をしてしまった。
「ありがとうございます。とても美味しかったです。」
「口にあってなによりだ。次は5日後か?」
「はい。あと、この後村の確認などをしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ローウィンスの領土なんだから好きにすればいい。質問があれば連絡をくれ。」
「ありがとうございます。」
ローウィンスは近衛騎士2人を連れて出ていった。
さて、あとは明日の盗賊退治のメンバーを決めて、風呂に入って寝るか。
「イーラ。明日は空いてるか?」
「もちろん空いてるよ!なにかあるの?」
もちろんってイーラはこの村で仕事を割り当てられていないのか?まぁその方が俺が何かするときに連れていけるから助かるが。
「ちょっと調子に乗ってる盗賊を退治して金を稼ごうと思ってな。サーシャも昼は空いてんだろ?」
「行くー!」
「我も空いておるよ。楽しそうじゃから行こうかのぅ。」
「…わたしも行きたいです。」
「もちろんお伴します。」
「僕も連れていってくれるよね?」
「私も行きたいよ〜…。」
アリアとニアとヴェルが行きたがり、セリナが口を尖らせて不貞腐れたように呟いた。
盗賊を見つけるのにセリナの力はあった方がいいな。
「アリア。セリナの代わりは立てられないのか?」
「…アオイさんに代わってもらえれば問題ないかと思います。アオイさんの代わりはサラとテンコさんにお願いしようと思います。」
「妾はかまわんよ。といっても今は体がないからカレンが良ければじゃがな。」
「カレンはいいよ。」
「自分も大丈夫なのです。」
「テンコ、リキ様と行きたい。もう畑、大丈夫。」
そういや前に魔王退治に行くときはテンコを置いていったんだよな。本人が行きたがってるのに何度も断るのはかわいそうか。
「じゃあテンコも行くか、セリナも行くぞ。」
「「はい!」」
視界に入ったウサギがウズウズしているが、行きたいのか?でも何もいってこないってことは仕事があるからいけないとか?
「あたしも行きたいな♪」
俺がウサギに声をかけようとしたら、ヒトミが声をかけてきた。
だいぶ大人数になったな。たまにはそういうのも悪くないか。
「じゃあヒトミも連れて行く。ウサギも行くか?」
「行く!」
ここまで大人数になったなら一人増えても変わらないからな。
「そしたら明日の朝食後にイーラに乗って行くから準備しておけ。」
「「「「「「「「「はい。」」」」」」」」」
明日の参加メンバーを決めたあと、アリアが奴隷全員に身分証を配った。だからついでに俺は町に行っても人通りが少ないところには近づくなとだけ注意をしてから、風呂に入って1日の疲れを癒した。
風呂から出ると、ちょうどローウィンスが帰るとのことだったから、門まで見送った。
ローウィンスと一緒におっさんも帰ったが、エイシアは残るそうだ。
「お前はローウィンスが住むまで一人なのか?」
「はい。」
「なら、飯はうちで食うか?1人分増えたところで作る手間は変わらないだろうし、その方が早く馴染めるだろ。」
こいつのことはまだほとんどわからないから信用しきれないが、いつまでも村の異物であっては困る。異物が混じるとストレスを感じるものだからな。
だからこいつのことを知るのとガキどもに早く馴染んでもらう意味を込めての誘いだ。
「ありがとうございます。リキ様がそうしてかまわないのであれば、ご一緒させていただきたいです。」
「なら好きにしろ。飯は朝昼夕とあるが、俺が毎回いるとは限らない。俺がいないときはアリアかサラが仕切ってると思うから、それに従ってくれ。まだマナーや常識を学んでないやつばかりだから気にくわないこともあるかもしれないが、大目に見てやってくれ。なんかあったら俺かアリアにいえ。直接俺の仲間になんかしたらローウィンスの部下だろうが容赦しねぇからな。」
「心得ました。」
近衛騎士の副隊長が平民からこんなことをいわれて嫌な顔1つしないってのは凄えな。
こいつの反応を見ようと思ったのに完全なるポーカーフェイスで全く読めない。
「べつに脅してるつもりはないから気楽に生活してくれ。」
「ありがとうございます。」
「んじゃ、おやすみ。」
「おやすみなさい。」
屋敷の前でエイシアと別れて、俺は自分の部屋に向かい、眠りについた。
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