裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚
187話
椅子に座らされた精巧に作られた人形を見て、アオイが予想外のことをいった。
アオイが見ているのは一番左に座らされている人形だ。その人形は長い白い髪をしていて、額の両端から白い角が生えている。
カレンが鬼化したときの姿に似ている。
鬼化したカレンを少し成長させて大人の雰囲気を纏わせつつ綺麗にした感じというべきか。べつにカレンの見た目は普通だ。子どもらしい可愛さはある。女として可愛いとは少し違うがけっしてブサイクなわけではない。ただ、この人形の方が少しだけ綺麗というだけで、カレンを否定してるわけではない。たぶん見た目年齢的なもののせいかもしれない。この人形の方が見た目年齢が俺に近いからな。
俺に近いといっても俺よりは年下にしか見えない。
だから、いくら鬼の姿をしているからといってアオイの体といい張るには無理があるだろう。
…いや、そういや基本声しか聞かないからオバ………年上だと勘違いしていたが、ステータス表記は14歳だったな。それなら納得出来なくもないか。…ん?でも、アオイは焼き殺されたんじゃなかったか?それで肉体がこんなに綺麗に残ることなんてあるのか?
「嬢ちゃんは何をいってんだ?体は既にあるじゃねぇか。」
俺がアオイの発言にたいして考えていたら、店員が眉根を寄せながらアオイに問いかけた。
たしかにアオイが魂だけの存在だと知らなければそう思うわな。
「これは仲間から借りた体でのぅ。妾の本体はこの刀じゃよ。魂だけの存在といった方が正確かもしれぬのぅ。」
俺が余計なことを考えている間に2人が話を進めていくが、アオイが魂だけの存在っていっていいのか?
「もしかして蘇生の方法を知っているのか!?」
店員が驚いた様子で質問してきたが、急に話が飛んだな。なんでいきなり蘇生したことになるんだ?だったらまだ成仏できなかったの方が俺的にはしっくりくる。
だが、店員のこの食いつき具合は使えそうだな。
「妾は「待て。」…。」
俺はアオイの返答を遮り、店員を見た。
「あんたは蘇生の方法が知りたいのか?」
「あぁ!あとはそれだけなんだ!知ってるのか!?」
ここからは駆け引きが重要になるだろうなんて思っていたら、店員は即答してきやがった。
まぁいい。これだけあからさまに蘇生の情報を欲しているなら多少の悪条件くらいは飲んでくれるだろう。…たぶん。
そもそも俺もアオイも蘇生の方法なんか知らないんだけどな。だが、うちには1人だけ知ってる可能性があるやつがいる。もちろんアリアだ。
「もしかしたら俺の仲間が知っているかもしれない。だが、ただで教えるわけにはいかねぇな。」
「俺が出来る範囲ならなんでもするから教えてくれ!」
「そうか。…じゃあその鬼の人形と交換でどうだ?」
「そんなんでいいのか!?もちろんいいぞ!ありがとう!」
…え?この人形って金貨200枚は超えるような出来だよな?それと交換を即答するだと!?もしかして蘇生の情報って相当価値があるものなのか?
いや、普通に考えて蘇生ができるなら相当価値があるはずだよな。今まで蘇生の話なんて聞いたことねぇし、あるなら勇者が死んだからってまたすぐ勇者召喚する必要がないもんな。
これは完全にミスったな。普通に考えればわかることなのに人形をタダで手に入れられそうって思ったら、他のことに頭が回ってなかったわ。
というかそんな情報をそもそもアリアは知っているのか?
「…先にいっておくが、俺の仲間が知っている可能性があるだけで、知らない場合はこの話はなしだからな。」
「もちろんわかってる。」
「そうか…。ちなみにこの人形は買うとしたらいくらなんだ?」
「これか?これは試作品で売り物じゃないんだが、あんたになら売ってもいいか。素材の価値なんかを考えたら金貨500枚くらいか?いや、もしかしたらその嬢ちゃんの体かもしれないし、その分の素材を引いたら金貨400枚くらいか?」
…買えねぇな。やっぱり情報と交換するしかねぇが、どっちの方が価値があるのかわからねぇ。
「アオイの素材ってなんだ?アオイの死体をベースにでもしてんのか?」
「嬢ちゃんのかはわからねぇが、アラフミナに行ったときにたまたま廃村で拾った鬼の骨をベースに肉付けした作品だ。たまたま背骨以外の骨が綺麗に残ってたからな。本当は売るつもりの素材として拾ったんだが…まぁいろいろあって人形の試作として使って出来たのがこれだ。」
店員が説明しながら鬼の人形を指した。
カレンがアラフミナの王都にいたことを考えればアラフミナの廃村で拾った骨がアオイの骨の可能性は十分にあるな。
「他の4体は?」
「他のも綺麗に残ってる骨を探して肉付けした作品だ。練習のためにな。」
「練習ってことは何か作る予定のものがあるのか?」
「それはまだいえない。蘇生の情報をもらえたら話してもいいけどな。」
この流れだと誰かを生き返らせるつもりでその体を作ってるんだろうが、いえないってことはバレたらマズい相手なのか?
俺が知って困るような相手なんていないだろうが、まぁそこまで興味はないからいいか。
「わかった。今はその情報を持ってる可能性のある仲間が別行動しているから、一度帰ってから明日また来る。」
「楽しみに待ってるぞ。」
そんなに期待されても困る。
アリアなら知ってるだろうと当たり前のように思っていたが、普通に考えたら王族が知らないようなことを一個人が知ってるわけねぇな。
でもアオイの体かもしれない人形を見つけちまったら他を買うなんて選択肢は取れねぇし、どうにか金貨400枚集めるしかねぇか。もしくは別の条件をつけてもらうか…。
どっちにしろ帰ってアリアに確認を取ってからだな。
俺は店員に別れをつげ、イーラたちを連れて店を出た。
まだ夕日がオレンジ色に染まり出したくらいの時間ではあったが、宿までは遠いから真っ直ぐ帰ることにした。
宿に着いた頃には既に暗くなり始めていたからちょうどいい時間だ。
鍵はいつも通りアリアに渡してあるんだが、もう帰っているかなと思ったときに気づいてしまった。
以心伝心の加護で蘇生の方法を知っているかの確認をすれば良かったということを。
まぁここまで来たんだから直接話せばいい。
そう開き直って、宿の扉を開けた。
部屋の中にいたのはアリアとサーシャだけだ。ウサギはアリアと一緒じゃないのかと思ったが、アリアがいるならとりあえずいいか。今回のメンツなら何かあっても逃げるくらいはできるだろうしな。
アリアはベッドに座って本を読んでいたみたいだが、俺たちが扉を開けたことで気づき、読んでいた本に何かを挟んでから閉じた。
「…おかえりなさい。」
「あぁ、ただいま。」
とりあえず部屋の中にある6人がけの椅子に座るとアリアが本をマジックバックにしまってからアイテムボックスに入れ、俺の前に座った。
まだ話があるともいっていないのに空気を読んだのか?
「…『ソウルシェア』の詠唱文を見つけました。一度使えば人形使いのジョブが手に入るようです。」
アリアはそういって、木でできた小さな人形をテーブルの上に置いた。
「…人形使いレベル1で手に入る『人形操作』のスキルで簡単な操作は可能のようです。慣れれば戦闘も出来ると思います。」
アリアが説明しながら、手を触れずにテーブル上の小さな人形に奇妙なダンスをさせている。アリアには悪いが人形が気になって話がイマイチ頭に入ってこない。
そもそもアリアはなんの話をしているんだ?
…………そうだよ。アオイが人形を動かす方法を調べてもらってたんじゃねぇか。
このダンスの意味はわからないが、今日取得したばかりでこれだけ動かせるなら、練習次第でなんとでもなりそうだな。もしかしたらアリアだから出来るって可能性もあるが、そこはアオイに頑張ってもらうしかない。
「『ソウルシェア』と『人形操作』は何が違うんだ?」
「…大まかにいえば、魔法かスキルかの違いです。『ソウルシェア』はMPを使って人形を自分の分身として使います。『人形操作』は自分の意思で人形を操ります。『人形操作』はジョブ固有のスキルのようなので、人形使いをジョブに設定する必要がありますが、MPやPPなどは消費しないようです。」
「それだけ聞くと『ソウルシェア』を使うメリットはなさそうだな。」
ならアオイにも人形使いを覚えさせて、『人形操作』の練習をさせるのがいいか。
「…『ソウルシェア』の利点は簡単な命令なら自動で動きます。ただ、わたしには不向きのようです。オススメもしません。」
「なぜだ?」
操作が簡単ならそっちの方がよくねぇか?
「…魂への直接的なダメージを負う可能性があるからです。」
「は?」
わけわからん話になってきた。
「…本に書いてあったとおり、ソウルシェアは人形に自分の魂を分ける魔法のように感じました。この状態で人形がやられた場合は魂が肉体に戻ると本には書いてありましたが、イーラの『捕食』のようなスキルで取り込まれた場合、返ってくる保証がありません。」
魂うんぬんいわれても正直よくわからん。あれって実際に存在するかの証明が出来ないようなもの………だと思ってたが、アオイがいるんだからこの世界では常識的なことなのかもしれないな。
「返ってこないとどうなるんだ?」
「…程度によりますが、最悪は消失すると思います。」
え?死ぬとかじゃなくて消失?
「存在が消えるのか?」
「…魂が消失して、肉体だけが残るのではないでしょうか?」
俺が質問してるんだが…。アリアも実際に見たことあるわけじゃねぇからわからねぇのか。
とりあえずアリアがオススメしないとハッキリいってるんだから、『ソウルシェア』はジョブを取得させるため以外に使わせるのはやめておこう。
「とりあえず『ソウルシェア』はジョブを取得する手段として使うだけにするのが良さそうだな。それで、魂繋がりでアリアに聞きたいことがあるんだが。」
「…はい。なんでしょうか?」
「アリアは蘇生の方法を知っているか?」
「…………………アオイさんの状態になれる可能性なら知っています。」
アリアがピクリと反応した後、しばらく無表情で黙って何かを考えているようだったが、答えてくれた。
やっぱりアリアはなんでも知ってるな。
だが、これだけ渋ったということは何かあるのか?
「それは聞いたらマズいのか?」
「…まだ可能性があるというだけで、わたしでは検証自体が出来ないため、知っていると答えていいか迷いました。リキ様からいただいた本に書いてあったことなので、話すことは問題ありません。」
「じゃあ教えてくれ。」
「…はい。『御霊降ろし』というスキルで蘇生できる可能性があります。ただ、所持者が少ないので、そのスキルを使える人を見つけること自体が難しく、本当にできるかを試すことも出来ません。読んだ本には、本来の『御霊降ろし』は魔物の素材を使った武器防具にその魔物の魂を降ろして一時的もしくは永続的に強化するスキルらしいのですが、そのスキルを人間の死体や骨などにも使用できるのではないかということが書いてありました。本にも可能性という形で書いてあり、検証は出来ていないようです。」
ようは可能性はあるけどレアスキルだから持ってるやつがほとんどいなくて、試すことも出来ないってことか。
まぁあの店員に情報だけ渡してあとは自分でスキル持ちを探せってくらいであの人形と釣り合うだろ。
魂だけだろうが蘇生なんだからそれくらいの価値はあるはずだ。この世界はゲームのようでゲームじゃないから、死んだら復活出来ないのが当たり前みたいだしな。
「とりあえずわかった。ありがとう。そしたら明日の午前中にもう一度南側の人形屋に行くんだが、そんときにアリアはその話を店員に教えてやってくれ。」
「…え?蘇生の方法は人に知られるといろいろと問題があると思いますが、いいのですか?」
アリアにしては珍しく、一瞬呆けた顔をしてから真顔に戻り、聞き返してきた。
「かまわない。その辺の交渉やらのお話し合いはキッチリするから気にしなくていい。」
「…はい。」
アリアと話している間にいつのまにか全員帰ってきてたから、全員で宿の食堂に下りて晩飯を食い、それぞれシャワーを浴びてから眠りについた。
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