先輩はわがまま

Joker0808

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 先輩のインフルエンザが治ってから数日後の事。

「うつった……」

「もう、だから言ったのに……」

 先輩は俺にスポーツドリンクを差し出しながら、文句を言う。

「次郎君、インフルエンザを舐めすぎ」

「予防注射してたのに……」

「馬鹿ねぇ……そんなの気休めよ……でも、約束だから…」

「……そうですね、お世話になります……」

「良いから寝てなさい……」

 先輩は優しくそう言って、俺の額に氷袋を乗せる。
 そして、先輩は俺の手を取り優しく握って、そのまま雑誌を読み始める。
 先輩は約束通り、俺の看病をしてくれた。
 いつもはわがままばかりの先輩が、俺の為に洗濯をし、俺のために買い物に行ってくれた。 それだけで涙が出そうなほど嬉しいのだが……。

「きゃっ! なんで泡が溢れてくるのよ!!」

「………」

 洗濯をしようとして、先輩は操作と洗剤の量を間違え、洗濯機から泡が噴き出し。

「おかゆって……こんなに黒かった……かしら?」

「………」

 おかゆを作れば、どうやったらそんな色になるの? と問いたくなるような色の物が出来上がりと、正直に言ってしまうと、気持ちだけで十分ですと叫びたくなってしまう。
 しかし、先輩が自分から頑張ろうとしているのだし、何よりここでそう言ってしまうのは、先輩に余計な仕事を増やさないでくれと言っているようなものだ。
 なので、俺は何も言わず、眠ったふりをする。
 あぁ……治ったらまとめて全部片付けるか……。

「きゃ! 爆発した!!」

 何が!?





 俺のインフルエンザも完治し、大学も冬休みを迎え、いよいよ明日はクリスマス。
 ……と言った今日の昼下がり、俺は先輩へのプレゼントを受け取りに、店に行き、今は帰り道だった。

「まさか、クリスマスに彼女と過ごす日が来るなんてなぁ……」

 俺は街の様子を見ながら、上機嫌で家に帰って行く。
 問題はこのプレゼントを何所に隠しておくかだ。
 前に隠していたエロ本は先輩にあっさり発見されてしまった。
 しかも、それが女子高生物だった事が先輩を怒らせ、処分されてしまった。
 
「う~ん……見つかる訳にもいかないし……どうすっかな?」

 帰る途中、俺は隠し場所の候補を考えながら、帰宅していた。
 そんな帰り道の途中、俺は思いがけない人物と遭遇した。

「あれ? あの人って……」

 視線の先に居たのは、俺の行きつけの喫茶店のマスターだった。
 何やらキョロキョロと挙動不審な様子だった。
 声を掛けようかと考えたが、そこでの仲でも無いと考え、俺は気づかない振りをして通り過ぎようとする。

「あ、君は確か………」

 声を掛けられてしまった……。
 まぁ、何かあったのかもしれないし、いつも美味しいコーヒーを入れてくれるお礼に、話しだけでも聞いてみよう。

「あ、えっと……喫茶店の…」

「こうしてちゃんと話しをするのは初めてだね」

「えぇ、どうかしたんですか? キョロキョロして」

「あぁ……実は……」

 あ、ヤバイ……コレ絶対厄介な奴だ……。
 だって、なんか建物の陰に、マスターを見つめる女子高生が居るもん……。
 確かあの子って、あの喫茶店で働いてる子……だよな?
 なんであの子が、マスターの後を?

「信じられないかもしれないんだけど……私は今ストーカー被害にあっていてね……」

「えっと……もしかして女子高生とかだったりします?」

「な、なんでわかるんだい!?」

 だって、後ろに居るもん……。
 目をぎらぎらさせて、電柱の陰からこっちを見てるもん……。

「そ、それで、キョロキョロしながら歩いていたと?」

「そ、そうなんだよ……彼女、雇ってもう二年になるんだけど、つい二ヶ月くらい前に急に僕に求婚してきて……」

「告白じゃ無くて求婚ですか? それはまた……」

「しかも、婚姻届けまで……」

「ホラーですね……」

 そのストーカー、今もこっちを見ながら、息をはぁはぁさせてるんだが……。
 正直この件に関しては、俺はあまり関わり合いになりたくない。

「最近だと、着替え中に更衣室の中に入って来たり……」

「変態ですね……」

「盗撮されたり……」

「マスターも大変何ですね…」

 俺も最近、女子高生には困らされる事が多いからな……。
 どうしてもマスターには同情しちまうな……。

「そんな時だったよ、君が珍しく女子高生と店に来たのは」

「あぁ……あの時ですか…」

 あの時とは、俺が愛実ちゃんからの告白を断った日だ。
 妙にマスターがこちらをチラチラ見ていると思ったら、そういうことだったのか……。

「君があの女子高生を説得しているのを見て、僕も彼女に諦めるよう説得をしたんだけど……」

「ダメだった……と?」

「うん……それどこらか家まで上がり込まれてしまった……」

「相当ですね……」

 その危ないストーカー女子高生は、今もマスターを見て息を荒げているわけなのだが、マスターはそれに気がついていない。
 今日はお店は定休日だったはず。
 休みの日までマスターをつけ回しているのであれば、流石に笑い事ではすまない。

「今から帰るんだけど……今日は幸いにも彼女に会ってないから、無事に一日を終えられそうだよ」

 マスター、それは勘違いです!
 見られてます、メチャクチャ見られてます!
 しかもあの子は絶対にヤバイ子です!
 すぐにバイトも解雇して下さい!!

「あ、あの……解雇とかって考えないんですか?」

「うーん……結構バイトの子も少なくてね……あの子もかなり仕事出来るから、抜けられるとこまるんだよ……そう言う事もあって、最近悩んでて……」

「そ、そうなんですか……えっと、ちなみにご結婚とかは?」

「あぁ、店が忙しくて、そう言う暇がなくてね……もう30だって言うのにねぇ……あはは」

「そ、そうでうか……女子高生に手を出すわけにもいきませんもんね……」

 結婚とか言うワードを出したからだろうか、マスターの背後に居る女子高生の目が濁っている気がする。
 ヤバいなぁー……このままじゃ、そのうちマスター刺されるんじゃ……。

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