甘え上手な彼女

Joker0808

♯27

「俺は何をやってんだ?」

 そんな事を思いながら、高志は優一のデートを遠目から見ていた。
 現在はショッピングモールでウインドウショッピングを楽しむ、優一と芹那。
 高志は先ほど買った、猫用の爪研ぎ板を持って向かいの店の陰から、二人の様子を覗き見る。

「意外とお洒落してるな……」

 優一の格好を見ながら、高志はそんな事を呟く。
 高志と一緒にゲーセンに行くときは、優一は基本ジャージにTシャツだったが、今日に限ってはちゃんとした格好をしていた。
 髪型もしっかりセットしてあり、かなり気合いが入っている様子だった。

「う~む……あいつ、デート中に喧嘩とかしなきゃ良いけど……」

 この前も頭に血が上って、状況を忘れて喧嘩を始めてしまった優一が、高志は心配だった。 普通にデートして終わると良いと思っていると、突然高志は誰かに肩を叩かれた。
 驚いて振り返ると、そこには私服姿で、両手に買い物袋を下げた、紗弥と由美華がいた。

「何やってるの? こんなとこで?」

「紗弥、それに御門さん。なんでここに?」

「今日は由美華と買い物に来てたの、そしたら高志が居るから」

 そう言えば、そんな事を言っていたかもしれないと、高志は思い出す。
 由美華は紗弥と二人買い物が相当嬉しいようで、もの凄く上機嫌にニコニコしていた。

「八重君、ちょっと紗弥借りてるからね、あんまり返したく無いけど」

「貸し借りの問題じゃないと思うけど……何を買ったんだ?」

「服が中心かな、あとは下着とか?」

「あぁ、確かにそう言うのは、俺とは買いに来れないわな」

「私は良いんだけどな~」

「そんなのダメ! これからもさ、紗弥の下着は、わ…私が…う…ウフフ」

「由美華? なんか目が恐いんだけど……」

(女同士って、こんな感じなのか?)

 由美華から危険な臭いを感じつつ、高志はハッと思い出して、先ほどまで優一がいた場所を見る。
 しかし、既にそこには優一の姿が無かった。

「あ、見失った……」

「どうかしたの?」

「誰かを見てたみたいだったけど?」

「いや、実は……」

 高志は、事の経緯を二人に話して聞かせた。
 
「え、じゃあ今、このショッピングモールで那須君がデートしてるの?」

「あぁ、さっきまで向かいの店に居たんだが、いつの間に見失っちまった」

「そう言えば、行ってたわね、デートする事になったって」

「色々気になって付けてたんだが、なんか大丈夫そうだし、俺は帰ろうかな……チャコも待ってるし」

 そう言って帰ろうとする高志を紗弥と由美華は、高志の肩を掴み引き留める。

「えっと……なにか?」

「面白そうだから、もう少し見ていきましょう」

「紗弥が行くなら私も」

「あんたら買い物してたんじゃ無いの?」

「「終わって暇だから」」

「あ、はい……」

 高志そのまま、二人と共に優一を探し始めた。
 優一に提案したデートコースは、高志と紗弥のデートコースをそのまま教えたものだ。
 なので、次に何処に行くかは容易に想像出来た。

「あ、いたな」

「ホントね、まんま私たちのデートコース」

「こんなお洒落なお店で、二人で何を食べたの?」

「クレープだったな」

「初めてあーんしたわよね?」

「今、それを言わないでくれ……」

「えぇ!! 紗弥、私にはしてくれたこと無いのに~」

「今度してあげるわよ」

「絶対よ! 紗弥絶対だからね!」

(必死だな……)

 高志達がやってきたのは、高志と紗弥が初めてのデートで来たクレープ専門店だ。
 店内にはもちろん優一と芹那が居た。
 高志達三人は、クレープ店の向かいにあるファースフード店で、二人の様子を見ていた。

「別に見てても面白い事なんて無いと思うんだが……」

「なんとなく、他の人がどんなデートをするか気になったのよ」

「そう言うもんかねぇ……」

 高志は注文したハンバーガーを口にしながら、紗弥に言う。
 見ている感じ、二人はただ楽しく話しをしているだけの印象だった。
 別に特別何をする訳でもなく、会話を楽しんでいる感じだった。

「なんか動きがないわね」

「動きってなんだよ」

「だって、紗弥達はあ~んしたんでしょ?」

「し、しましたけど?」

 由美華の言葉に、高志は頬を赤らめながら答える。
 そんな高志を見ながら、紗弥はクスリと笑い、由美華はどこか不機嫌そうだった。

「あの二人は、まだ付き合ってる訳じゃないんだし、そんな事しないだろ?」

「そうかなぁ~? なんか良い雰囲気だけど?」

 高志は、由美華に言われ、もう一度優一の方を見る。
 優一は笑顔で芹那とクレープを食べていた。
 向かいに座る芹那も楽しそうだった。

「これ食ったら、帰らないか? なんか見てても何もなさ過ぎてつまらない」

「う~ん……確かに」

「私はどっちでも良いわよ、帰るんだったら、そのまま高志の家行ってもいい?」

「え! 紗弥は今日私と一緒にいる約束でしょ!?」

「でも、由美華、夕方から用事があるんでしょ?」

「う……そ、そうだった……」

「そろそろ時間でしょ? 丁度良いから、私と高志も帰りましょう」

「う~……まぁ、今日は紗弥の下着選べたから良いか……」

 涙目で頬を膨らませながら、由美華は言う。
 そんな由美華を見ながら、高志は一体どんな下着なのかと、疑問に思い、同時に想像してしまい、顔を赤く染める。

「じゃあ、これ食べたら行きましょう」

「う~、八重君! 紗弥にはまだ手を出しちゃダメだからね!」

「急にどうしたんだよ…」

「だって、紗弥の初めてはわた…ごほん、ごほん……なんでもないわ」

「今凄い危ない事を言おうとしてなかった!?」

「………言ってないわ」

「その間はなんだよ……」

 もしかして、自分が危険しするべき恋のライバルは、由美華なのではないかと思い始める高志。
 三人はそのまま食事を済ませ、優一に気がつかれないように店を後にした。
 別れ道で、最後の最後まで由美華が紗弥の腕を放さなかったのは、言うまでもない。
 そして、現在は高志と紗弥の二人きりで、自宅までのまでの道を歩いていた。

「久しぶりに由美華と買い物したけど……あんなに嬉しそうにしてくれるなんて思わなかったわ」

「それだけ嬉しかったんだろ? あんまり放っておくと、嫌われるぞ?」

「そうね、由美華とは友達で居たいし……」

「昔から、仲良いんだな」

「うん、友達の中では一番好きかな」

「……それ、御門の前では絶対言わない方がいいぞ」

「? なんで?」

 そんな事を言われた日には、由美華が紗弥に何をするかわからないから、などとは言える訳もなく、高志は短く「何でもだ」とだけ言う。
 すると、紗弥は何を勘違いしたのか、小悪魔のような笑顔で高志に言う。

「もしかして、高志以外の人に好きって言って欲しくないの?」

「そ、そんな事はない、俺はただ……」

「ウフフ、可愛い。仕方ないなぁ~、じゃあ高志にしか好きって言わないであげるよ」

「だから、俺の話しを!!」

 高志は必死に弁解をしようとするが、紗弥には聞き入れてもらえなかった。

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