甘え上手な彼女

Joker0808

♯28




「今日、返事をすることになった」

「そうか、おめでとう」

 休日明けの学校のお昼休み。
 前回に引き続き、高志達四人は屋上で食事をしながら、優一の話しを聞いていた。
 優一を尾行していたことは、三人だけの秘密になっていた。

「なにを言ってるんだ? 断るに決まってるだろ」

「は? お前彼女欲しいって言ってたじゃないか」

「それにあんなに可愛かったら、別に問題ないんじゃない?」

 高志と紗弥の言葉に、優一はフンと鼻を鳴らすと、顎に手をあて遠くを見つめながら言う。
「いや、なんか違うなって……あの子には、もっとふさわしい奴が居るんじゃないかって……」

「格好つけてないで、本当の事言えよ」

 高志はあからさまに作ったような言葉を口にする優一に、呆れた様子でそう聞く。
 すると、優一は溜息を一つ吐き、購買で買ってきた牛乳を飲みながら、高志達に話す。

「あの子が好きなのは、喧嘩してる俺なんだよ……」

「? どういう事よ?」

 尋ねたのは、由美華だった。
 あれだけ良い感じでデートしていたにも関わらず、なんでこのような結果になったのか、三人は気になっていた。

「あの子とこの前デートしてさ……確かに楽しそうなんだけど、なんか違和感があって……んで、帰り際に聞いてみたんだよ。俺の何処が好きなの? ってな」

「そしたら、なんて答えたんだよ?」

「強いところって言われた……」

「あぁ……」

 高志は優一の言葉で、なぜ優一が告白を断る事にしたかがわかった。
 しかし、紗弥と由美華は「それがどうかしたの?」と言う感じで、きょとんとしている。
 そんな二人の為に、高志は優一の許可を取り、説明を始める。

「こいつ、元々は結構強い不良だったんだよ」

「「え?! 絶対嘘」」

「そこでハモるなよ! 本当だわ!」

 よほど想像が付かなかったのだろう、紗弥も由美華もかなり驚いていた。

「一匹狼っていうか、結構強くて有名で、まぁ色々あって今はこんなんだけどな」

「おい高志、こんなんってなんだ、こんなんって!」

 文句を言う優一を放っておいて、高志は説明を続ける。

「要するに、こいつはそんな昔の自分が大っ嫌いなんだよ」

「そういうことだ……強いところって言うのは、俺が喧嘩してた時の面影……今の俺を
好きになってくれた訳じゃない……」

 何かを思い出すかのように、優一は断る理由を話す。
 優一の昔の強さと今の強さは意味が違う。
 それをわかってくれる人で無ければ、優一は彼女にする気がなかった。

「そうなんだ……ん? でもまって、じゃあなんで八重君も元不良?」

「俺はそんな悪い子じゃないよ、こいつとは……まぁ、いろいろ合ってな……」

「あったなぁ……色々」

「ほうほう、男の友情的な?」

「「いや、そんな物は一ミリも無い」」

「そんなハモら無くても……仲良いの? 悪いの?」

 質問してきた由美華に、高志と優一は真顔で声をそろえて答える。
 
「ま、中学時代にこいつと一緒に居ることが多かったってだけだよ。気がついたら進学先までいっしょだった」

「腐れ縁っていうか、気がついたら一緒にいる関係だな」

 互いの顔をみながら、優一と高志は交互に答える。
 その様子を見て、由美華と紗弥も顔を見合わせて笑う。

「なにか可笑しな事言ったか?」

「ウフフ、なんでもないわ」

「? 紗弥?」

 由美華と紗弥の表情の意味が理解できず、高志は首をかしげる。
 






 放課後、高志は紗弥と由美華に連れられて、体育館の裏に来ていた。
 目的はもちろん、優一の告白の返事を見守る為である。

「またここかよ……」

「芹那ちゃんはまだ見たいね」

「そうみたい、約束の時間まで、あと数分あるし…」

 三人は体育館裏の倉庫の裏に隠れながら、優一の様子を見ていた。
 優一は壁に寄りかかりながら、スマホを弄り、芹那を待っていた。

「あ、来たわよ」

「ほんとね! 可愛そう……今から振られるのにあんなニコニコして…」

「可愛そうと思うなら、二人きりにしてあげるべきなのでは?」

 振られるところを覗き見られる。
 当人だったら、そんなの絶対に嫌だろう。
 高志はなんだか罪悪感を感じながら、優一と芹那の様子を見る。

「あ、あの……返事を……聞かせて下さい!」

「………俺は、君が思ってるほど、やさいくない……だから……」

「知ってます! でも、本当は優しいこともしってます!」

「そんな事ないよ……悪いけど、俺は君とは付き合えない。ごめん」

 優一は言い切った。
 しっかりと頭を下げて、芹那に告白の返事をした。

「な、なんでですか!」

 芹那は、必死にそう尋ねる。
 優一は真剣な表情で芹那を見ながら、ハッキリと言う。

「君は俺の強いところが好きだって言った……正直、俺は喧嘩が強い自分が嫌いなんだ……悪いけど、自分の嫌いな部分を好きな人とは付き合えない。ごめん」
 
 優一にしては、いつにも増して真剣だった。
 本当に真剣に彼女の事を考えて、答えを出したのだろう、表情もどこか悲しげだった。
 そんな優一に芹那は何と言うか、覗き見をしている高志達三人が緊張した面持ちで見ていると、芹那は優一の顔を見て言った。

「喧嘩? いえいえ、私は力強い貴方が好きだって言ったんですよ?」

「え?」

(((え????)))

 当人である、優一はもちろん、隠れていた高志達三人も首を傾げる。
 それは一体どう言う意味なのだろうか?
 芹那以外のその場に居る四人が、説明を求めていると、芹那は話し始めた。

「わ、わたし……じ、じつは結構なM体質で……虐められのとか、痛いのとか……大好きななんです~」

「え…っと……あの?」

 体をくねらせながら、芹那は頬を赤らめて吐息を漏らす。
 何やら要すがおかしいと、高志達も見ていた。

「駅前で、那須さんの力強い蹴りを見て……一目惚れしたんです……この人に蹴られたいって……」

「まて! なに? どう言う事?! 俺すごい恐怖を今感じてるんだけど!?」

「はぁ……はぁ……那須さん……私のご主人様に……是非」

「変態だぁぁぁぁ! しかも俺の苦手なタイプの!!」

 優一はそう叫びながら、芹那から距離を置き始めていた。
 倉庫の裏で聞いていた三人も開いた口が塞がらない状態だった。

「まて! 俺にその趣味は無い! それに女の子を虐めるなんて出来ない! それこそ俺以外の趣味の合う男と……」

「那須さん以外には居ません! 私は那須さんを本気で好きですし! ほ、本気で……虐めて欲しいと……」

「高志ぃぃぃ!! そこに居るんだろ!? 頼むから助けてくれ!! 俺この子苦手だぁぁぁ!!」

 助けを求める友人の声を高志はあえてスルーした。
 倉庫の裏で話しを聞いていた高志達三人は、気まずそうな顔をしながら、互いに顔を合わせていた。

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