草食系男子が肉食系女子に食べられるまで

Joker0808

第12章 後編11 草食系とお嬢様

「おい! どこに行く!」
「用事あるって言っただろ、帰んだよ」
 雄介は北条のに向き直し、そういうとまた帰ろうと足を進める。しかし、そうはさせまいと、取り囲んでいた男子生徒たちが雄介の行く手を遮ってくる。
「悪いがまだ行かせるわけにはいかん! ちゃんと返事を聞かせろ! そうしなければ、もっと面倒な事になるぞ!」
「どういう事だ?」
 何か焦るように言う北条。雄介はそんな、先ほどまでとは様子の違う北条に疑問を抱き、北条の方を向き直って話を聞くことにした。 周りの男子生徒達も何やら神妙な面持ちだ。
「加山さんのファンクラブが、我々を含めて二組存在する事を知っているか?」
「まぁ、何となくな…」
 雄介は以前に絡まれた奴らの存在を思い出す。彼らはどこか暴力的だった感じがした。雄介は追いかけまわされた挙句に、集団で襲い掛かってきそうな勢いだったのを覚えている。
「我々は加山優子を応援する会は、加山さんと自分たちが釣り合わない事を自覚し、陰ながら憧れ、彼女の幸せを心から願う団体だ」
「……あぁ、うん。あっそ」
「真面目に聞かんか!」
 何を言っているんだこいつらは、という視線を北条達に向けながら、雄介は眠たそうに話を聞いていた。流石にこのグループよりやばいグループは無いんじゃないか? などと思いながら雄介は続きを聞く。
「だが、もう一つの団体。加山さんを崇拝し崇める会のメンバーは……」
「もっと、やべー団体があった……」
 軽く宗教まがいの事をやっていそうな団体の存在を聞き雄介は、一体どんな奴がそんな組織に属しているんだろう? と若干気になり始めていた。
「奴らは加山さんを崇拝し、女神として敬い、神のように崇めている。加山さんのためならなんだってやる奴らだ…」
「お前らとかわんねーだろ、もういっそ一つにまとめろよ……」
「何を言っているまったく違う!!」
 北条は雄介の言葉にすごい剣幕で怒鳴りだした。よほど、もう一つのグループと同じ扱いをされるのが侵害なのか、額に血管を浮かべている。
「我々は、加山さんが幸せになってくれるのなら……彼女を幸せにしてくれる奴が現れたのなら……陰ながら応援するだけだ。しかし、奴らは違う!! 加山さんにもし、良くない虫が現れた時には、実力行使にも打って出るとんでもない奴らだ! 過去にも加山さんに無理やり近づいた男子生徒を集団でボコボコにしている! そんな危険な奴らだ!」
「集団で今、俺を囲んでるお前らはなんなんだよ……」
 内心では同じような組織じゃないかと思う反面。そんな奴らまで絡んできたら面倒だと思う雄介。そんな雄介に提案があり、今日北条は雄介を呼んだらしい。
「俺達は奴らが嫌いだ、加山さんの幸せを考えず、自分たちの尊敬する理想の加山さんを守ろうとして、加山さん自身まで傷つけかねないやつらが……」
「あぁ、そうなの……んでなに?」
「お前がこれから、加山さんを幸せにすると誓い、加山さんを守ると宣言するのならば、我々の力でお前と加山さんを全力で守ろう」
「はぁ?」
 北条や他の男子生徒が胸を張って答える。そして北条は話を続ける。
「もう奴らは、邪魔なお前を消すために動きだしている! 加山優子という人間を女神として崇めるようなバカの集まりだ! 何をするかわからん!」
「お前らが言うな!!」
 盛大に突っ込む雄介。北条は焦りの表情を浮かべながら、雄介に続ける。
「あまり認めたくないが……お前と話している時の加山さんは、本当に楽しそうだ……。そんあ相手が、自分のせいで怪我をしたら加山さんはどう思う? 深く傷つき、自分を責めてしまう! だから、俺たちがお前らを守ろう! だから、お前は彼女を幸せにしろ!」
 黙って聞いていた雄介だったが、北条の一方的な物言いに対して段々イライラしてきていた。北条達の気持ちを雄介はわからないわけでは無い。だからこそ、雄介は言わなければ収まらなかった。
「勝手に言うな、お前らは好きでもない女と付き合えんのかよ」
「なんだと! あれだけの好意を向けられているのに、なんだその言い方は!」
「事実だろ! それに、そんなに加山の幸せな顔が見たいなら自分たちで加山を笑わせて幸せにする努力をしろ! 人に頼んな!」
 少しムキになり始める雄介に、北条をはじめとした他の男子生徒たちは若干たじろぐ。
「大体、何が自分たちじゃ釣り合わねーだ。加山だって普通の女子高生だ、お前らとなんも変わんねーよ! 少しは仲良くなる努力とか、話すきっかけでも探して見ろ!」
「お前に何がわかる! 加山さんから好意を向けられ続けるお前に!! 彼女がお前を好きなら! 彼女の幸せを考えて身を引く我らの何が悪い!」
 北条も雄介に負けじと、感情的になる。雄介はだんだんと北条という男がわかって来ていた。真っすぐに、ただ加山が好きで加山の幸せを考えている北条というやつの事が……。
「悪いに決まってんだろ! お前らはなんも行動をしてねーじゃねーか! もし俺が仮に加山と付き合ったとして、百パーセントあいつを幸せに出来るなんて保証はないんだぞ! お前らは結局、自分が出来るか分からないから、怖いから他人に任せてるだけだ! そんなの好きとは言わねーんだよ!!」
「なんだとぉ~! 貴様ぁ!!」
 北条は雄介の胸倉をつかむ。雄介は表情を変えずに、北条にされるがままで動かない。そして雄介は、感情的になるのをやめて、静かにいう。
「そんなに悔しいなら、自分で加山の心を掴んで、幸せにしてやった方が確実だぞ。守ってやりたいんだろ?」
「……」
 雄介の言葉に、北条は落ち着き、雄介から手を離した。 雄介にも北条の気持ちが良くわかる。守りたくても自分じゃ守れないから、他人にすがり、すがってでも守って欲しい人がいる。この気持ちが……。
「……お前の言う通りだ、ここに居る奴らは皆、加山さんに声すらかけた事がない。自身もない。だから、お前に頼んだ。でも、間違いだったな……」
 北条はそういうと、空を見上げた。他の男子生徒達も何かを考え込んでいる。雄介は案外こいつらは悪い奴ではないのだろうと思い、ふと笑みを浮かべる。
「俺は明日、加山さんに告白する」
「いきなりだな」
「思い立ったが吉日という。どうせ振られるだろうが、今までの俺はそれも怖くて言えなかった……」
 北条の突然の告白宣言に、雄介を含めその場に居た全員が驚き、ざわつく。 そんな北条に雄介は……。
「がんばれよ、応援してる」
 そう一言、北条に言う雄介。北条はそんな雄介に笑みを浮かべながら、ため息交じりに言う。
「嫌味か、お前」
「純粋な応援だ。俺は加山の事はなんとも思ってねーから」
「そうか……これからは、ライバルだな!」
「やめろよ、気持ち悪い」
 最初は変な奴だと思っていた雄介だったが、北条の人柄が少しわかった気がした。ただ、純粋に加山が好きだけど、自分に自信のない優しい奴の事が……。
「だが、この会はやめん! 奴らは許せんからな! お前も気をつけろよ!」
「大丈夫だ、その手の者にはなれつつある。それに……」
「どうした?」
「なんでもねぇ……俺は帰るぞ。忠告、ありがとよ」
 そういって雄介はその場を離れた。もう誰も雄介の行く手を遮るものはいなく。去り際に、北条から「友人として、やつらに襲われたら力になってやる」そう言われ、悪くないと思いながら、雄介はその場を去った。そして同時にこう思った。
「なんだこのややこしい展開わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


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