草食系男子が肉食系女子に食べられるまで

Joker0808

第17章 帰宅と登校5

 凛の様子に雄介は戸惑いながら先ほどの事を話す。
「先を越された……」
「あーあ、凛どんまい」
 ショックを受ける凛と、それを見て凛を慰める慎。 そんな兄弟の姿を雄介は不思議そうに眺めていた。
「で、でも…まだ決まったわけじゃないんですよね!?」
「えっと…まぁ、俺は記憶が無いしね……今は保留かな…」
 雄介がそう言うと、凛はパアっと顔を明るくさせて雄介の方に詰め寄る。
「そうですよね! 急にそんな話をされても答えられないですよね!!」
「う、うん……そうだね…」
 凛の迫力に押され、雄介は半歩ほど後ろにバックする。 そうこうしている間に、また玄関のチャイムが鳴った。 玄関に行ってみると、堀内と江波が何やらいがみ合いながらやってきた。
「だからなんでいつもお前は俺と居るんだよ!」
「何よ! その私があんたに付きまとってるみたいな言い方! あんたが私に付きまとってきてるんでしょ!」
 玄関先で言い争いを続ける二人を見て、雄介はもう付き合っちゃえば良いのに、そう思いながら二人を見ていた。
「よ、今村! 来たぜ」
「お邪魔します。もう誰か来てるみたいね」
 取っ組み合いをしながら雄介たちの方を見て言う二人。 雄介はそんな二人を見て苦笑いをしながら、とりあえず二人を引きはがす。
「本当に仲が良いんだね……」
「今村、教えといてやろう、俺は女の子は基本好きだがこいつは嫌いだ」
「私は基本こいつが嫌いよ」
 何やらギスギスした雰囲気の二人、ここに来る途中で何かあったのだろうか? そんな事を考えながら雄介は二人をリビングに案内する。
「ん、また二人一緒か、お前ら仲……」
「「良くない!!」」
 慎がリビングに入ってきた二人を見て言いかけたところで、本人二人が声を揃えて否定する。 そんな二人を見て雄介は再度、本当に仲が良いなと思う。
「お、おうすまん……それより、あの陽気な人誰?」
 慎が指さしたのは、徹だった。 何やら張り切って色々と指示を出し、今村家のリビングを魔改造している。
「ふむ……これでは少し狭いな…。よし! そこの壁をぶち抜いて改築しよう! 大丈夫だ、私の会社は建築業もやっている。早速業者を手配しよう…」
「いや、やめて下さい! どんだけ張り切ってんですか!」
 スマホで業者に連絡を取ろうとする徹を雄介は止める。 徹はまたしても腑に落ちない顔で雄介に「そ、そうか?」と言い。それを見ていた倉前さんまでも「広くなりますよ?」などと言っていた。 雄介は、この人たちにとってお金って何なのだろう、そう思いながら二人を説得していた。
「なんか、すごいな……」
「そ、そうね……」
 徹の無茶苦茶な様子を見ていた堀内と江波は若干引いていた。 既に徹によってパーティーの準備がされたリビングは、豪華な料理が置かれ、部屋は再度掃除をした様子でピカピカだった。
「で、あれは誰なんだ?」
「えっと……社長…」
「は? どこの?」
「星宮財閥の……」
 星宮という名前を聞いた瞬間、慎は驚き言葉を失う。 最初はおそらく半信半疑だったのだろうが、あの無茶苦茶加減を思い出し納得したのだろう、今はなぜかペンと色紙をさがしている。
「サインもらっとこ…」
「そこまで……」
「だって星宮財閥だぞ! 何か御利益があるかもしれん」
「大仏じゃないんだから……」
 話を聞いていた堀内と江波も驚き、アタフタし始める。
「え! マジか! あの日本一の金持ちとかいうあの! まさかと思うけど、織姫ちゃんのお父さんなんじゃ……」
「あぁ、そうだよ。その事でさっき色々あったけど……」
「俺挨拶してくる!」
 織姫の父と聞いたからか、それとも財閥の社長と聞いたからか、どちらか分からないが、下心があるのは確かで、堀内は徹の元に向かって行った。
「ん? それにしてもなんで堀内が織姫の事を知っているんだ……あった事あるのか?」
「あぁ、前に今村が私達に紹介してくれたの……織姫ちゃんの事情も話してくれたから、面識がない訳じゃないわよ」
 江波が不思議そうに考える雄介に言う。 雄介はそうだったのかと納得し、織姫の事を考えてしまった。
「何赤くなってるの?」
「え、本当? いや…少し熱くて……」
「そう…」
 雄介は顔を隠しながら、赤くなった顔が戻るのを待つ。 そんな中、江波が深刻な顔で雄介に話す。
「ねぇ、今村……」
「ん? どうかした?」
「うん……その、お礼が言いたくて……」
「え? なんで?」
 雄介は言葉の意味が分からなかった。 別に江波にお礼を言われるような事をした覚えが無かったし、どちらかと言うと、色々教えてくれたお礼を言いたかった雄介。
「私さ、今村に助けられたから……いまの今村は忘れちゃってるかもしれないけど、その時私は今村をひどい目で見ちゃったんだ……」
「そう…なんですか?」
「うん、身を挺して守ってくれたのに……私、最低だよね……」
 雄介はなんと答えて良いのか分からなかった。 しかも記憶を無くす前の話をされても、今の雄介には他人目線での意見しかいう事が出来ない。
「あの、自分は記憶が無いのであまり大きな事は言えないですけど、きっと自分は守れただけで満足だったと思いますよ」
「え……」
「だって、助けたのに見返りを求めるのはおかしいじゃないですか。それに、江波さんに怪我が無かっただけで、自分は満足だったと思います」
 雄介の言葉に江波は優しく微笑み、いつもの調子に戻る。
「あ~あ、ライバルが居なきゃ、私が付き合いたいよ~」
「え? 今なんと?」
「なんでもない! でも、今村がモテる理由わかったかも……」
「はぁ……」
 江波はそう言うと雄介の側を離れ、徹と話をしている堀内を連れ戻しに向かった。 残された雄介は言われた言葉の意味を考えていた。
「うーん……俺はそこまでモテるんだろうか?」
 鏡で見た自分の顔も多分普通で、慎と比べると当たり前だが見劣りする。 スタイルも普通だし、体力も普通。 病院でやった、学力テストの結果が良かっただけの普通の高校生だ。
「……わからんな」
 雄介が自分が異性にモテるのか考えていると、またしても玄関のチャイムが鳴った。 今度は誰が来たのだろうか? そう考えながら、雄介は玄関に向かった。

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