喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

20

 ロッカード二体。水魔法を使えるのがサクラ一人だけなので取り敢えず二体同時に相手取る事は出来ない。一体ずつ確実に仕留めていく事にしよう。「サクラ」「何ですか?」「今日はあれから逃げないからな」 俺がサクラの後ろのロッカード二体を指差す。サクラは俺の指で差し示された方へと顔を向ける。サクラもロッカードを視認し、それ故か数歩たじろぎ、俺にぶつかる。やっぱりまだ怖がってるか。「安心しろ」 背中から俺にぶつかって立ち止まったサクラの肩を軽く叩き、俺が前に出る。「サクラは後ろから水魔法を当ててればいい。あれは俺とリトシーで相手しているから、焦らず、一体ずつに当てていけ。一応横にファッピーがいれば不測の事態が起きても大丈夫だろう」 リトシーとファッピーで一体を相手取り、もう一体を俺だけで相手すれば大丈夫だろう。昨日の戦闘で俺はロッカードの攻撃を喰らう事無く逃げおおせる事に成功している。目玉間を攻撃して動きを止めてからフライパンで連打。動きが回復したら一度避けるを繰り返していけば充分時間を稼ぐ事が出来る。 リトシーも目玉に突撃して行動不能にしていく事が出来るが、敏捷がそこまで高くないので不意の一撃を受けるかもしれない。なので今回サクラと同様に後衛に配置するファッピーに炎で援護をして貰う。同じ前衛してしまうとサクラの守りが無くなるし、そもそもロッカードの動きを止める一撃を繰り出せない。いや、一応体当たりが出来るがそれでもリトシーと同じように足止めとして働くか分からない。なので今回はファッピーは後衛。「もう、サクラはあいつらに怖がらなくていい。俺達がいるし、お前はあいつに対する有効打を持っている。決して勝てない相手じゃない」 包丁とフライパンを構え、ゆっくりと近付いてくるロッカードに注意を向ける。リトシーも俺の横に着く。「さて、行くか」「しーっ」 前進してくるロッカードへと向けて走り出し、直ぐ様一つだけ存在する眼球に包丁を突き刺す。「ぶごぉ⁉」 例の如く悶えてその場に崩れ落ちる。その間に俺はフライパンで少しでもとダメージを与えていく。「しーっ!」「ぶごぉ⁉」 リトシーも攻撃態勢に入っていたロッカードの目玉に向かって頭突きを繰り出し、一時的に行動不能にする。 ただ、リトシーの場合はそれだけでは終わらなかった。「しーっ!」 一鳴きすると、リトシーの足元に光り輝く円が出現した。ただの円じゃなくてその中に三角やら四角、様々な紋様が描かれている。これって、俗に言う魔法陣か? 魔法陣の光が一段と輝くと、ロッカードを囲うように木の根が地面から出現した。細いがその数は二十を超えている。木の根達が身動きを封じられたロッカードに向かって伸びていく。 ……え? リトシーって攻撃魔法使えたっけか? と呆けてしまったが、直ぐに攻撃魔法でない事が窺えた。 木の根はロッカードに向かって襲い掛かる事無く、ロッカードを囲うドームを形成していった。瞬く間にロッカードの姿は木の根の向こう側に消えて行った。 ……あぁ、これって昨日のあのドームと同じか。そして、これは多分【初級木魔法・補助】だろう。リトシーの覚えている魔法はそれしかないし。「ぶごぉ!」「っと」 リトシーが作り出した木のドームに意識を奪われていたら、何時の間にか視界が回復したロッカードが突撃してきた。俺はそれをギリギリで避ける。少し服を掠ってしまったが、生命力に何の変動も見られない。流石に服を掠っただけでは接触判定は出ないようだ。 攻撃が空振り、改めて敵である俺の方へと向いたロッカードの目をもう一度包丁で一刺し。これでまた悶えて一時的に行動不能となる。 と、横から轟音が響いたのでそちらに顔を向ければ、木のドームが揺れてミシミシいっていた。どうやらリトシーが目玉に攻撃したロッカードも回復して行動を再開させたようだが、木のドームによって更に動きを制限されそれを壊そうと体当たりをしているのだろう。結構な強度があるな、あれ。でも少しずつひびが入っていっているので、あまり過信は出来ないが。 これならファッピーの援護は必要無さそうだな。取り越し苦労だったか。 と言うか、あれだ。俺必要あったか? リトシーだけでも二体相手取れた気がして止まないのだが……。 いやいや、さっきも言った通り不測の事態ってのもあるから、この判断は間違ってない。余裕を持って取り掛かった方が何事も対処しやすいからな。「しー……」 と、今現在お手透き状態となっているリトシーが飛び跳ねて俺の下へと寄って来た。「どうした?」 フライパンでロッカードに微妙にダメージを与えている俺に一瞬視線を向け、それを直ぐ様後方へと体ごと向き直る。リトシーの視線の先を追えば、棒立ちとなっているサクラがそこにいた。傍らにいるファッピーが心配そうに見ているのに気付いていて、頭を撫でているが僅かに震えている。フードの奥にある顔も少しだけだが青くなっている。 ……しまったな。直接相手取らないから幾分かは精神的な負担が少ないと思ったが、そうでもなかったようだ。 一昨日の記憶を呼び起こして、ロッカードに恐怖してしまっている。いくら俺とリトシーが相手取り、サクラに近付けさせないようにしているとは言え、それでも怖いものは怖いか。震えて萎縮してしまっている。 早まったな。もう少し考えてから行動に移せばよかった。「……仕方ないな」 今回は逃げないと言ってしまったが、無理をさせてまでやらせるべきではないな。時には荒療治も必要だが、今回はお呼びではない。大人しく引いた方がいいか。無理に対峙させると余計に悪化しかねないしな。 ――昨日のように、異常なくらいに怯えてしまう可能性もある。そうはならないようにしないと。「っと。リトシー、悪いがこいつ等の相手してくれるか?」 ロッカードが動いた気配があったので、振り返りざまに包丁で眼に一撃加えながらリトシーにこの場を頼む。「しー」 リトシーは力強く頷いてくれた。頼もしいな。「悪い」 俺はリトシーにこの場を任せ、包丁とフライパンを腰に戻し、直ぐ様サクラの元へと戻る。「サクラ」「……オウカさん」 声を掛けると、少し震えた声でサクラが青くなった顔をこちらに向けてくる。「ふぁー」 と、俺と入れ替わるように、ファッピーがリトシーの方へと飛んで行った。リトシーだけに任せたくなかったのだろう。あいつも仲間想いだな。「……あの」 そこから更に何かを言おうとしたが、口を開閉はさせても言葉が出なかった。瞳も少し揺らいでいる。 これは、ちょっとヤバいのかもな。やっぱり気を急き過ぎたか。もう少しゆっくりと段階を踏んでいくべきだったかな。「無理そうか?」「…………」 俺の一言にサクラは軽く目を見開くが、直ぐに顔を伏せる。「無理そうなら諦めるぞ。さっきは逃げないって言ったが、流石に無理強いはさせない」「…………」「本当に駄目なら、今直ぐ逃げ出すぞ」 フードで表情が隠されていてどんな顔をしているか分からないが、サクラの返答を待ってみる。「…………」 が、サクラは返事をしない。自分の中で色々な葛藤でもあるのだろうか? それとも何かを堪えているとか? 表情が見えない分、どうして黙っているのか分からないが、もう次にするべき事は分かった。「……今回は逃げるぞ」 俺は一言簡潔にサクラに告げる。即答出来ないとなると、やはり恐怖の方が勝っていると言う事だろう。「……すみま、せん」 顔を伏せたまま声を絞り出すようにして謝ってくるサクラ。「気にするな」 やはり恐怖が勝っていたのだろう。声が震えている。「じゃあ、直ぐに逃げ」「しー!」「ふぁー!」 唐突も無く、後方でロッカードを相手しているリトシーとファッピーが大きな声を上げる。 どうした? と思い振り向いた瞬間に俺はサクラを瞬間的に押して突き飛ばした。「ぐっ」 サクラを突き飛ばして直ぐ後、俺はロッカードの下敷きになった。体で押し潰され、生命力が一気に三割削れる。残りが四割。昨日の戦闘から生命薬で回復させていなかったので半分を切ってしまった。 ロッカードが体を持ち上げたので、急いで腰に戻している包丁に手を伸ばす。が、それを阻止するかのように両手を足で踏みつけてくる。これで一割生命力が削られる。 俺は状況を理解しようとリトシーとファッピーの方へと顔を向ける。 そこにはロッカードが……二体。俺が相手していた一体と、丁度今リトシーの木のドームから抜け出した一体。 その他に、アギャー三体とホッピー二体がリトシーとファッピーを包囲していた。 ……ちょっと待て。どうしてモンスターが増えてるんだ? さっきまではロッカード二体だけだったのに、数が倍以上に増えている。 って、もしかして。STOはモンスターとの戦闘中でもお構いなしに新たなモンスターとエンカウントするのか? うわぁ、それは誤算だったな。 現在はリトシーとファッピーで合計六体のモンスターと戦っており、少し苦戦している。ファッピーが炎を吹いてもアギャーは難なく避けて攻撃を加えていく。リトシーも頭突きで攻撃しているがホッピー相手にもあまり効いておらず、同時に攻撃した際には押し負けた。木のドームを出す暇もなく、ロッカードも二匹に攻撃を仕掛けている。 俺の方はロッカードに踏まれて身動きが取れず、為す術がない。足は動かせるが、中国雑技団のように体が柔らかくないのでロッカードを蹴る事が出来ない。 くそっ、一昨日と同じじゃないか。注意を疎かにするなっての。ちゃんと周りに気を配っていれば対処出来ただろうに。同じ過ちを二度繰り返すなんて馬鹿か俺は。 せめて腕が片方でも使えれば直ぐにロッカードの目に包丁を刺してリトシーとファッピーの援護に回れるのに。「ぶごぉ」「うっ」 ロッカードがボディプレスをかましてきた。また生命力が減り、もうほんの僅かにゲージが残っているだけだ。これで次の一撃で死に戻り確定だ。 続け様にロッカードが体を持ち上げていく。攻撃態勢に入ったか。仲間を置いて先に死に戻りするのは、気分が悪いな。少しばかりの救いは所要品の購入や耐久度の回復の為に金を使い、所持金が20ネルしかないことか。半分になってもそこまで痛くない。 ……シンセの街に戻ったら、皆に謝ろう。 俺が諦めて、体の力を抜いた時だった。「オウカさんっ!」 サクラが、叫んだ。「水よ、我が言葉により形を成し、彼の敵を撃ち抜けっ!【ウォーターシュート】!」 ロッカードの目玉に勢いよく撃ち出された水が直撃し、体勢を崩して後ろへと転がり、光となって消え去った。 声のした方を見れば、肩で息を切らしたサクラがメニューを開いているのが見えた。 と、俺の真上に急に液体が現れてそれが降り注いでくる。すると、俺の生命力が三割回復した。どうやらサクラが生命薬を俺に使用したようだ。もう一度生命薬が降り注がれ、生命力が六割にまで戻った。「オウカさんっ」 サクラが急いで俺に駆け寄ってくる。「……すみません、僕の所為で」 頭を下げて来るが、俺はサクラの額にでこピンを食らわせて中断させる。「いたっ」「リトシーとファッピーを先に助けるぞ」「……はいっ」 何を言うにしても、今も奮闘している二匹と一緒にモンスターを蹴散らすのが優先だ。「サクラ」 俺はフライパンを抜き、コマンドウィンドウを表示させな、サクラに背を向けたまま礼を述べる。「助かった。ありがとう」 今にもファッピーに襲い掛かりそうになっているロッカードの目玉に向けて【シュートハンマー】を発動させフライパンを投げる。フライパンは寸分の狂いもなくロッカードの目玉にぶち当たり、行動不能にさせる。 フライパンをキャッチした俺はそのまま駆け出してリトシーが相手しているホッピーを蹴り飛ばし、隣にいたアギャーにヒットさせる。二匹とも目を回して行動不能となり、その隙を狙ってフライパンで叩き、包丁で滅多切りにする。それによってアギャーとホッピーは光となった。 俺が無防備な二体に攻撃を加えている間に、ファッピーがホッピーに火を吹き続けて倒し、リトシーが魔法を発動させロッカードを木のドームに閉じ込め、ファッピーに攻撃しようとしていたアギャーの進路上に立ってファッピーを庇った。「水よ、我が言葉により形を成し、彼の敵を撃ち抜けっ。【ウォーターシュート】」 俺の【シュートハンマー】を喰らって身動きが取れずにいたロッカードに向かってサクラが【ウォーターシュート】を放ち、撃破。サクラの方に顔を向ければ、どうやら何かが吹っ切れたようで、ロッカードに対する恐怖は無くなっているように見える。 最後に、俺がアギャーの動きを止めてファッピーが止めを刺し、サクラが水魔法でリトシーの木のドームを壊して出てきたロッカードを倒して無事……とまではいかないが誰も死に戻りする事無く勝利する事が出来た。
『ホッピーを一体倒した。 アギャーを一体倒した。 ホッピーが一体倒された。 アギャーが一体倒された。 ロッカードが三体倒された。 経験値を133手に入れた。【初級小刀術】のスキルアーツ【小乱れ】を覚えた。 ホッピーの尻尾×1を手に入れた。 アギャーの胸肉×1を手に入れた。 サクラがアギャーの腿肉×1を手に入れた。 サクラがロッカードの外殻×2を手に入れた。 レベルが上がった。              』


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