喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

72

 ボボナの実を探す事一時間。道中で普通にモンスターが襲ってきて、その都度倒してポイントを稼ぎ、何気なく生えているデカい薬草を採取したりした。「あったな」 今、俺達の目の前にボボナの実が木に生っている。青い皮に包まれた少々湾曲している棒状の実がいくつも連なっている。テレビで見た木に生るバナナそのものの姿だ。「こっちのボボナの実にはイワザルなんて群がってないな。……て、大きさあれより少し小さくないか?」「そう?」 俺の疑問にアケビは首を傾げる。イワザルの群がっていたボボナの実よりも明らかに近い場所に俺達は立っているのにあれと同程度の大きさに見える……気がする。イワザルが群がっていたのと、視界に入れている距離の違いもあるのだが。「直ぐに採れんだから別に気にしなくてもいいんじゃないか?」 腕を組んで思案している俺にツバキが簡潔に言ってくる。まぁ、確かにな。ボボナの実は俺が手を伸ばせば最下段に手が届くくらいに低い位置に生えている。あれとは大違いで簡単に採れるだろう。「と言うか、何でこのボボナの実は低い位置になってるんだ?」 が、ここでも疑問発生。木に生るとしても、ここまで低い位置には生らないだろう。「そうしないと【縮小化】したプレイヤーが採れないからじゃない?」「だったら、あのイワザルが群がっていたのは何なんだよ?」「知らんて」 ツバキの仮定に俺が反論すると、軽く肩を竦める。少なくとも、ボボナの実と言う同じ種類の樹であるのに、違いが出るのは可笑しくないか? 個体差で済まされるとお仕舞いだが、ここはゲームの中なので流石に個体ごとになる位置を変えるような仕様にするのは手間がかかり過ぎる筈だ。「取り敢えず、採ってくる」 とアケビは軽快にボボナの実へと向かって走って行く。そう言えば、アケビも【採取】スキル持ちだったな。忘れていた。今の今まで薬草見掛けたら俺が真っ先に採ってたからな。「――――あっ」 が、道半ばでアケビの姿が掻き消えた。まぁ、消えたといっても下に落ちて行っただけだが。「……低い位置になってる理由は、もしかして単に俺達のいる場所の方が高い位置にあるだけか?」 丘陵状態か、もしくは崖になっているか。可能性としては後者だな。いや、前者でも角度が急過ぎたらいとも容易く転げ落ちていくか。で、今いる場所からそうなっていると見て取れないのは奥に向けて微妙に昇りの傾斜になってるからか? まぁ、崖とかがあるなら、だけど。「いや、クルルの森には崖や丘陵なんて存在しない筈だけど」 と、カエデが否定してくる。そうなのか? まぁ、俺達よりもゲームを進めているプレイヤーの言葉だから信憑性はある、か。「だったら――」 と、俺が口にした所でアケビが這い上がってくる。どうやら足を踏み外して落下した際に辛くも何かを掴んで事なきを得たようだ。息も絶え絶えで顔を青くして必死で攀じ登り、トボトボと肩を落としながら戻ってくる。「……危なかった」「アケビ、おかえり」 額を拭う動作をして帰還するアケビの肩にそっと手を置く。何と言うか、御苦労様だ。きまいらが心配そうに寄って行き、アケビの足に首の付け根を擦り付ける。アケビはきまいらを抱き抱えて頭を撫で、心配ないと告げる。「まさか、穴があるとは思わなかった」「穴かよ」 深く息を吐くカエデの言葉に俺は近付いて確認すると、確かに丸い穴がぽっかりと開いていた。大体人が二人同時に落ちるくらい余裕のある幅だ。足元見なければ気付かないか? と思っていたら、穴の中から何かがせり上がってきて、穴があるとは思えないくらいに綺麗にぴったりと塞がれた。「しかも、軽く蓋されてて一見して分からなかった」「凝ってるな」 古典的な罠だなと思う前に、どうしてこんな場所に穴なんか仕掛けられてんだよ? 他のプレイヤーが【罠設置】とかのスキルでモンスターを嵌める為に落とし穴を掘ったのか?「……下に、クォールがいた」「クォールって穴掘んのか?」 アケビの説明では確かあの六本脚の蜘蛛は糸で罠を張るタイプではなかったか? と言うか、実際に糸を飛ばしてきた記憶があるのだが。そしてウィキの項目に穴を掘って中で待ち構えている何て記述は存在していなかった。「多分、巣穴なんじゃないか? ボボナの実を狙ってくるモンスターとかの近くにそんな罠のような巣穴用意して捕食する、とかそんな感じだと思うぞ」 俺の疑問にツバキが答える。「そんなクォールもいるのか?」「北の森にはな。こっちの方にはいない筈だけど、何故か流れて来てるらしいな」 どうやらそんなクォールもいるようだ。と言うか、北の森だと足元も注意して行かなければいけないのか。でも、そうなるちウィキに記載されていなかったのはどうしてだ?「……糸吐き出されて、危うく雁字搦めになる所だった」 短剣なかったら死に戻ってたかも、とアケビはガクガクと震え出す。落とし穴プラス糸と二重の罠で獲物を逃がさない工夫をしているようだ。「あと、巣穴の上を飛び越えても急に蓋が開いて中から噴出された糸で絡め取られて引き摺り込まれる」 シェイプシフターが一度それで捕まった、とカエデが補足説明を加えてくる。つまり、正確に巣穴を避けて行かないと危険が確実に襲い掛かってくるという事か。「……これ、下手するとここら一帯にクォールの巣穴だらけって可能性ないか?」「……ありますね」 皆の所に戻って来た俺の言葉にサクラが頷く。接触しない限りあの蓋が落ちる事はないとしても、地雷原を歩くように慎重に行かないといけないのか。しかも、地雷と違って宙に浮いているフレニアすらも捕まる面倒なトラップと化している。 こういう時に【罠感知】のスキルでも持っていれば苦労はしないんだろうな。もし、それで反応するならばだけど。「まぁ、行かない事には始まらないぞ? それに、さっきのよりは全然マシじゃね?」 と、ツバキが普通に歩き出していく。視線は地面を向いているが足取りからしてまるで警戒していない。「おい、そろそろ」「えっと、フレニアだっけか? ちょっと来てくんない?」 巣穴だぞ、と俺が注意する前にツバキが立ち止まってフレニアを呼ぶ。フレニアはやや渋りながらもツバキの方へと飛んで行く。流石に出会ってから日も浅く、あまり絡んでもいないのでそれ程打ち解けていないらしい。あと、単純にサクラがツバキに対して未だに人見知りを発動しているからかもしれないが。「今から蓋に触るから、開いた瞬間に火ぃ吹いてクォールを倒してくれ。倒せば巣穴自動的に消えっから」 と、言いながらもう既に蓋に接触して穴の底へと落としていく。フレニアは言われた通りに火を穴の中へと目掛けて吹きかける。
『ホールクォールが一体倒された。 ポイントを1手に入れた。   』
『Point 565』
 ウィンドウが表示されて倒された事がこちらにも伝わってくる。それに遅れる形で穴の中から光が天へと昇って行くのが見えた。 どうやら巣穴の中に潜むのはホールクォールと言って、クォールとは別種のモンスターらしい。だからウィキのクォールの欄に穴の中で待ち構える等と記載されてなかったのか。「取り敢えず、俺が巣穴見付けてフレニアが焼いてくから後について来てくれ。それでいいよな?」「れにー」 フレニアは頷き、どんどんと前へと進んで行くツバキの後を追っていく。これによってサクラの安全が保障されると分かったから素直について行ってるんだろうな。俺達は一列になってツバキの歩いた跡をなぞるように進んで行く。 ツバキは度々ピタリと止まると、フレニアに目を向けて地面を指し、刀で地面を叩いて蓋を開ける。フレニアはそこに向けて火を吹きつけてホールクォールが何かをする前に焼き尽くして光と還す。「ツバキは【罠感知】のスキル持ってんのか?」「いんや。【観察眼】の応用だよ。他の地面と僅かに違う場所を見て判断してるだけ」 ツバキの習得している【観察眼】は応用が利くようだ。なら、俺も【罠感知】のスキルではなく【観察眼】のスキルでも習得するか? でも、SLの消費数が多いと言っていたからな。そこは今後の方針とよう相談だろう。 で、フレニアが止めを刺す事によって俺達の方にだけポイントが入っていく。巣穴を見付けているのはツバキなのに、美味しい所だけこちらが奪っているようで何か悪い気がする。 ツバキ達が倒してもいいんだぞ? と訊くとツバキ達パーティーの遠距離攻撃手段はカエデの長弓だけで、矢が無くなったので無理。本来ならソロイベントに参加しているもう一人が遠距離近距離の両方に対応出来る魔法剣士タイプであるらしいが、今この場にいないので巣穴を駆除するには俺達の……特に相手の弱点を突けるフレニアの力が必要だから気にするな、との事。「それに、さっきので結構時間使っちまったんだし、少しでもポイント貯めとけって」 と笑いながらツバキは言ってくる。「ツバキ達はポイントいいのか?」「へーきへーき」 俺の質問にツバキは軽く答え、巣穴の蓋を落としていく。もしかして、ツバキはあまりランキングに興味を示していないとかか? それなら納得は出来る、か。 巣穴を駆除していき、俺達は無傷でボボナの実の真ん前まで辿り着く事が出来た。「ツバキ、助かった。ありがとう」「そんな事よりほら、念願のボボナの実が目の前にあんだから早く採取しとけよ」 ツバキの言葉に促され、ボボナの実に触れて、採取する。どうやら房一本一本に判定があるらしく【採取】スキル持ちの俺とアケビは次々とボボナの実を採取し、計二十本手に入れる。ツバキ達は採取しないのか? と訊くと「じゃあ、折角だから少し」と言って三本程カエデが採取する。「改めて。助かった。ありがとう」「ありがとうございました」「……ありがとう、ございました」 採取し終えた俺達パーティーはボボナの実を採取する為に色々と手を尽くしてくれたツバキとカエデ、リークに頭を下げて礼をする。「いやいや、だからこれはリークを保護して貰った礼なんだから、気にすんなって。こっちも役に立ててよかったよ。なぁ?」「うん」 ツバキは手を横に振ってそんな事を言い、同意を求められたカエデも頷く。「まぁ、そんな訳で。これにて解散か?」「そうだな」 もうこれ以上ツバキ達の自由を縛る理由なんてない。俺の言葉にツバキは「そっか」と言いながら【鳥のオカリナ】を呼び出して使用する。カエデも鳥をここに呼ぶ。「俺達は一度集落に戻って消耗品を蓄えてくるわ。あと、何か困った事あったら気軽に行っていいからな? これも何かの縁だし。で、こっちが困った事になったらもしかしたら連絡入れるかもだから、そこんとこよろしく」「あぁ」 ツバキとカエデは鳥の背中に乗り、リークは最後にリトシーと握手を交わしてツバキの載っている鳥の頭へと飛び乗る。「じゃあな」「またね」 互いに手を振りながら別れの挨拶を交わす。「……で、俺達も結局は集落に戻るんだよな」「そうだね」「ですね」 こっちもクエスト達成の為、そして損失した包丁と消耗したアイテムを買いそろえる為に集落に戻る必要がある。 ……ここで別れを告げたが、下手すると発着地点でまた出会うかもしれないと思いながらも、俺達も【鳥のオカリナ】を使って鳥を呼ぶ。


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