喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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 ドッペルゲンガーの姿が完全に見えなくなり、漸く終わったのだと実感する。カンナギとリースはそれぞれの得物を軽く振り払うと、鞘や袖の中に仕舞い込む。「…………ふぅ」 膝に手を付き、深く息を吐く。 時間にすると十分……いや、それよりも遥かに短い時間だったと思う。なのに、終わった瞬間に猛烈な疲労感が襲い掛かってきた。それだけ、先程の戦闘の密度が濃かったのか。はたまた戦闘の速度について行こうと必死になり過ぎたからか。 いや、朝が早かったからというのが一番の理由になってるかもしれない。ここまでかなり動いて、疲れの大波の他に睡魔も押し寄せてきている。 まぁ、兎にも角にも、これで俺も晴れて召喚具を入手する事になる。つまり、拠点にあいつが来るって事か。リトシー達混乱しないといいけど。「いやはや、この場合はお疲れ様と言う言葉を送るのが正しいかな」 透明な壁が消えると、唯一の出入り口から地神が拍手をしながらこちらに歩いてくる。って、お前はさっきふっと消えなかったか? だったらふっと現れてもいいようなものを。 と、思っても口にはしない。疲れてるから面倒だし、眠いし。「三人は己が従えるそれぞれの召喚獣よりも強い事が証明された。よって、召喚獣も強者の下に参じる者として、相応の力を発揮する事となるだろう」 地神は拍手をやめ、俺達それぞれに顔を向ける。そして地神が手のひらを上に掲げると、光が集まり三つの召喚具へと姿を変える。「では、受け取れ」 手を振り下ろす動作をすると、三つの召喚具はそれぞれの持ち主になった俺達の方へと飛んでくる。反射的に、飛来してきたそれを掴む。
『【影人の真球】を手に入れた。 これにより、召喚獣【ドッペルゲンガー】を召喚する事が可能になりました。 召喚具を入手した事により【サモナー】にチェンジする事が可能になりました。』
 すると、ウィンドウが表示され、俺が【テイマー】の他に【サモナー】も選択出来るようになった旨を伝えてくる。 ウィンドウが消えると同時に、俺の召喚具【影人の真球】も光となって俺の胸の中へと消えた。今まで見てきたプレイヤーは召喚具は普通に装備していたから、入手と同時に自動装備されると思ったが違うようだ。 多分、今の俺は【テイマー】だから、召喚具は装備されなかったとか、そう言うのだろうか? まぁ、深くは考えなくていいか。召喚具手に入った事には変わりない訳だしな。「さて、用件も済んだ事だろうし、地上まで送ってやろう」 俺達に召喚具が渡ったのを確認した地神は柏手を大きく打つ。それに少し遅れる形で光が俺達三人を包んでいく。目の前が真っ白になるが、この光は眩しいと感じない。目に痛くなく、熱も帯びてないから不思議だ。 白い光が晴れると、俺達はクルル平原東部に突っ立っていた。草原ではなく、セーフティエリアである道のど真ん中に。流石に穴の真ん前に転送して運悪くモンスターとエンカウントなんて事態にならないように配慮しているようだ。 空はまだ薄暗い。けど、陽の光が穴に入る前よりも射してきている。朝焼けの光は目に沁みるな。 一応現在の時刻を確認すると、午前五時三十分少し過ぎ。朝早く集合してからまだ一時間も経ってないのか……。時間確認すると先の戦闘が自分にとってどれ程濃密だったかがより実感出来てしまう。「あー、結構早く終わったなー」「だな!」 カンナギが軽く伸びをして、リースは腕を組み力強く頷く。この二人は眠くないのだろうか? 「二人共、お疲れ様でした。そして付き合って頂きありがとうございました」「うむ! お疲れ様! こちらこそありがとう!」「……お疲れ、こっちもありがとな」 カンナギが俺とリースに労いと感謝の言葉を掛けて来たので、俺達は同じように返す。 カンナギの御蔭で俺に新たな戦力が加わり、今後の俺の戦闘についてのある考えが浮かんできた。疲れはしたがかなり有意義だった。わざわざ声を掛けてくれて感謝だ感謝。あと、代わりに金払って貰ったから、絶対上乗せして返そう。うん。絶対に。「もし、二人共この後時間があれば試しに召喚獣を喚んで戦ってみませんか?」 と、カンナギがそんな提案をしてきた。召喚獣を喚んで戦うって、そこの草原でモンスターと戦うのか? それともPvPって事か? よく分からないのは俺の頭が働かなくなってきたからだろうか?「それはそこでモンスターと戦うと言う事だろうか⁉」「はい。あ、でもまずは【サモナー】にチェンジしないといけないので街に戻らないといけません」 同様の疑問をリースも抱いたらしく、草原を指差して俺の代わりに質問をする。リースの質問を受けたカンナギは首を縦に振る。 モンスターと戦闘、か。まぁ、流石に召喚獣の力量が分からないのにいきなりPvPは無謀か? まずは手頃な奴を相手にして召喚獣の特性を把握しておくのが重要か? で、【サモナー】と【テイマー】のチェンジは街でしか行えないと。それは召喚獣の召喚時間を使い切った時にパートナーモンスターに頼る、またはパートナーモンスターがやられてしまったから召喚獣に頼る事を阻止する為か?「そうか! 私は構わないぞ! では、街に行くとしよう!」 リースは大きく頷く。そして二人は視線を俺へと向けてくる。 ここは空気を読んで俺も行く、と言いたい所だがもう限界が近い。「……悪い、俺はパスだ」 首を横に振り、不参加を表明する。その際に、体がふらついてしまい、体勢が崩れて後ろに倒れそうになる。何とか踏ん張って尻餅は回避する。「って、オウカ大丈夫?」「……あぁ。単に疲れて眠たいだけだ」 カンナギが心配そうに俺の顔を覗き込んでくるが、本当に疲れと眠気が襲い掛かってきているだけだから大丈夫だ。うん。「疲れているのなら仕方ない! オウカ君! 存分に休みたまえ!」「…………あぁ」 因みに、リースの大声はさっきっから俺の頭にがんがんと響いて来て、頭痛が発生してきている。眠気と疲労が重なると、リースの声によるダメージは凄いな。労ってくれるのは嬉しいが、もう少し声のボリュームを落として欲しい。「って、お前等は疲れてないのか?」「全然」「全く疲れは感じないな!」「……そうか」 で、カンナギとリースの二人は全く大丈夫との事。タフだな。朝に強いタイプなのだろうか? まぁ、今はそんな事どうでもいいか。「じゃあ、オウカとはここで解散ね。また会おう」「そうだな! ではオウカ君! また!」「……あぁ」 二人は手を振りながらシンセの街へと向かって走り去って行った。リースは竜巻を発生させながら……。まぁ、今日はあの竜巻に巻き込まれる人はいないからいいか。カンナギは、ほぼ同じ速さで走ってるから大丈夫か。「…………」 ログアウトする為にメニューを開く。取り敢えず、現実世界に戻ったら寝よう。「ふぁ……」 つい欠伸が出てしまう。早く戻ろう。でも、仮眠取るにしても寝過ぎて十三時を過ぎてました……何て失態は犯さないようにしないとな。 ログアウトし、直立から横になった感覚と、慣れ親しんだベッドの感触が伝わってくる。このままDGを外さずに眠りたいけど、少しの間堪えてDGを外す。そしてタブフォを手繰り寄せてアラームを再セットする。これで寝過ごす事はないだろう。 タブフォを投げ出して、眠りにつく為に布団を被って目を瞑る。 すると、直ぐにタブフォのアラームが鳴り響く。「…………」 もしかして、六時前にセットでもしてしまったとか? 身体は怠いが必死に手を伸ばしてタブフォを掴む。アラームを止めようと画面を仕掛けた所で手が止まり、少し眠気が醒める。「……え?」 ちょっと目を疑った。軽く目を擦り、画面を確認する。正確にはアラーム設定時刻と現在の時刻を。 …………何か、十三時ってデカデカと表示されてるんですけど。 あぁ、どうやら俺は直ぐに眠りに落ちたようだ。そしてアラームを十三時に設定していたようだ。 …………約束の時間、丁度なんですけど。


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