喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

130

「「「すみませんでした」」」 ゴダイ、アサギリ、ツツジノの三人は地面に額を擦り付けながら俺達に謝ってくる。 結構な時間殴り合い、生命力よりも先に体力の方が尽きたらしく、三人ほぼ同時に地に伏した。取り敢えず体力を回復させたらまたリアルファイト勃発と言う展開になりそうだったので、生命力だけを【生命薬】で回復させ、体力は時間経過で回復するのを待った。 で、体力が回復した三人はその間に冷静さを取り戻したようで直ぐに土下座を開始して現在に至る。「別に謝る事でも」 乱闘には驚きはしたが、三人がこちらに謝る要素はあったか?「いや、ほら。急に俺等で殴り合いし始めて余計に怖がらせちまっただろ?」 ゴダイは地面に目を向けたまま何に対して謝っているのかを説明する。 怖がらせ……サクラとアケビは怖がってなかった筈。単にいきなりの事でびっくりして硬直してただけの筈。いや、まぁ。あくまで俺が外観で判断しただけだから憶測でしかないけど、サクラに関してはその時涙浮かべてなかったし、今も浮かべてないから怖がってないと思う。アケビは……よく分からん。何時もと同じように見えるし。 パルミー、スビティー、フレニアに関しても全然怖がってなかったし。だから謝るような事でもないと思う。あくまで、俺はだけど。「……にしても、気にしてたんだな」 俺は未だに額を地面に擦り付けている三人にそれとなく口にする。何を、とまでは言わない。と言うか、言えない。「……まぁ、な。ははは……」 理解した様で、ゴダイは乾いた笑いを上げる。「ただ、まぁ、他人から言われる分にはいいんだ。ただ、身内に言われると……腹が立つ」 漸く頭を上げたゴダイがそんな事を呟く。「どうしてだか分かんねぇんだがな。他人に言われればそうかぁ、そうだよなぁぐらいにしか思わねぇんだけど、こいつらに言われっと無性に腹が立つっつーか」「お前が言うなと言う気持ちが強くなる」「で、言われただけで気に障り、さっきのように喧嘩に発展してしまう訳で」 ゴダイの言葉にアサギリとツツジノも顔を上げて口々に言う。それぞれに顔にコンプレックスを抱えているようだが、どうにも仲間内限定で沸点がかなり低く設定されてしまっているようだ。「つー訳で、別にサクラやアケビ、パルミーにスビティーが怖がってたのは気にしてねぇんだ。と言うか、怖がらせねぇようにと思って何時も兜被ってんだけどな」 どうやら、アケビが怖がっていた事にも気付いていたようだ。「なら、どうしてさっき兜外したんだ?」「初対面で兜を被ったまま挨拶するのは無礼だろう」 俺の問い掛けにアサギリが答える。確かに、互いに顔を見合わせないまま挨拶するのは失礼な気もする。「まぁ、それが裏目に出ちゃうんですけどね」 ツツジノは苦笑いしながら捕捉してくる。礼儀としてはいいけど、兜の下の顔を晒してしまうとその後は……と言う事か。 でも、自分達でそう思ってるなら顔を変えればいいのではなかろうか? STOではメイキングで顔を変えられるのだからコンプレックスを抱えながらゲームをしなくてもいい筈だ。「メイキングで顔を変えようとか思わなかったのか?」「思ったんだけどな。と言うか、実際やり始めはメイキングした顔だったんだよ」 既にゴダイ達はメイキングで顔を弄った事があるらしい。「けどな、何つーか、自分じゃない顔でゲームやんのが気持ち悪くてよ、直ぐに実際の顔を反映させたんだよ。俺達は」「ゲーム内の鏡やガラスに映った自分の顔を見て落ち着かないと言うか何と言うか」「これ、僕じゃないって気持ちが強くて」 三者三様に、メイキングした顔に違和感を覚えたようだ。コンプレックスを抱えているとしても、やはり自分の顔と言う事か。何時もの見慣れた顔でないと、違和感があって仕方がないようだ。 まぁ、俺も自分とは違う顔が鏡に映ったら戸惑うと思う。「そんな訳で、今もリアルと同じ顔でゲームやってるって訳だ」「極力怖がらせないように、兜を被ってな」「大型武器を扱ってるので、甲冑姿でも違和感ありませんし」 甲冑姿はそれが理由になってるようだ。確かに、大剣とか持ってると甲冑姿でも違和感ないな。違和感よりもそれっぽいって感じがする。「で、もう一度言うけど悪かったな。怖がらせてよ。じゃあ、俺達はもう行くから」 もう一度謝罪をすると、ゴダイ達は立ち上がって何処かに行こうとする。「あ、あの」 それを……サクラが呼び止める。「もし、よろしけれ、ば」 さっきと一緒でどもりながらも、必死で言葉を紡いでいく。「僕達、と、一緒に……ボスと、戦い、ません、か?」 本当に、今日のサクラはどうしたのだろうか? まさか、サクラの口から他プレイヤーと組もうと言うとは思わなかった。傍らにいるアケビも驚いている。「えっと、俺達は別に構わねぇけど……」 ゴダイはアサギリとツツジノと顔を見合わせた後、サクラに対して尋ねる。「いいのか?」 恐らく、サクラが無理をして自分達を誘っているようにしか見えなかったからそう言ったのだろう。実際、俺から見てもサクラは無理をしているように見える。「は、い」 サクラは決して目を逸らさずに軽く頷く。その様子から、今までにない強い意思がサクラから感じる。一体、何がサクラを後押ししているのかは分からないけど、必死で変わろうとしていると言う事は窺える。「……そうか」 ゴダイは軽く息を吐くと、サクラから目を離して俺とアケビの方へと向く。「オウカとアケビもいいのか?」 そして、俺達にも尋ねる。こちらはサクラに対してのと意味合いは違うと思う。サクラは俺とアケビに何も言わずにゴダイ達をボス討伐に誘っている。それに対しての確認だろう。「あぁ」「はい」 俺とアケビは首肯する。ボスと戦うとなると、なるべく戦力が多い方がいい。ゴダイ達も一緒に戦ってくれるとなれば渡りに船だ。ゴダイ達は大型武器を使用するので、重要なダメージ源になるし、その御蔭で俺も皆の補助に回りやすくなる。 それにサクラが一生懸命誘ったんだ。無碍にする事なんて出来ない。「……なら」 ゴダイは頷くと、アサギリとツツジノへと目を向ける。それを察知した二人は軽く頷き合ってアサギリはアケビ、ツツジノはサクラの方へと、ゴダイは俺の方へと歩いてくる。「改めてよろしくな」 ゴダイが俺に手を差し出してくる。「あぁ」 差し出した手を掴み、握手を交わす。アサギリとツツジノもそれぞれアケビとサクラと握手をし、俺達は共同戦線を組む。「じゃあ、まずは互いにどんな事が出来るか口頭で伝えあって、少しばかし実戦でもしてみるか?」「そうだな」 いきなり実戦なんて真似は出来ないしな。そんな事すれば足の引っ張り合いへと発展しかねない。きちんと相手の行動を阻害しないように、そして相手の行動を補助出来るように知っておくのは重要な事だ。 この間のイベントの時では、互いに邪魔にならないようにだけ注意しながらアンデッド達を屠ったり、【十晶石の幻柱】を壊したりしただけで、お世辞にも共闘とは言えなかった。 今回は共闘だ。互いの持ち味を上手く活かせるように行動出来れば、無駄も少なくなり、ボス撃破もしやすくなる。だから確認作業は重要だ。「おっと、その前にまず互いにフレンド登録済ませちまうか」「だな」 確認を取る前に、まだしていなかったのでフレンド登録を開始する。 俺達がフレンド登録をしている間、パルミー、スビティー、フレニア、カギネズミの四匹は親睦を深めるかのように追い駆けっこをしていた。 こいつらはもう完全に打ち解けているようでよかった。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品