喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

before 04

「おーい、そろそろ行くぞー」「おーう」
 昼食を食べ終え、自分は級友の圭太と慎太と共に教室を出て行く。貴重品と、体操着の入った袋を携えて。 午後一番の授業は体育。昼食を食べた後に身体を動かすと、次の授業に睡魔がどっと襲い掛かってくるのでなかなかに厄介だ。 寝ないように毎度太腿や頬をつねったりして無理矢理覚醒している。 そして毎度毎度、早く授業が終わって部活の時間にならないかと心の中で願っている。
 自分が在部しているこの高校のサッカー部はそこそこ強い。いや、そこそこじゃないな。県内では強豪の一つとして数えられている。 事実、全国大会出場も何回か経験している。ただ、ここ五年は全国への切符を逃している。 二年前はあと一歩と言うところまでは行ったが、延長戦の末に最後のPKで負けてしまったのだ。
 当時サッカー部の部長だった兄の試合を観戦しに自分は両親と共に会場に赴いていた。兄は奮闘していた。兄がいなければゴールを決められた場面が何回かあったし、同点に追いついたシュートを放ったのも兄だった。 結果として負けてしまったけど、兄の頑張りは本物だった。家に帰っても悔し涙を流していた兄に自分と両親は励まし……は逆効果だと思って自粛したけど、兄が自身を責めないようにフォローした。
 で、自分も兄の影響で昔からサッカー小僧だった。小学校の頃は地元のサッカーチームに所属して何度か優勝を経験し、中学時代には県大会優勝し、一応MVPに輝いた。サッカーで活躍出来たのも、昔から一緒にサッカーで遊んでくれた兄の御蔭だし、優勝した時は誰よりも自分を祝福してくれた。 だから、自分は兄の無念を晴らすべく、そして兄の遺志を継ぐ為に自分はこの高校にスポーツ推薦で入学し、サッカー部に身を置いている。 絶対にこの部を全国に導いてやる。そのようない意気込みを抱きながら日々練習に励んでいる。 サッカー部の皆の力量はやはり高い。特に三年生の先輩方が一際目立っている。兄が部長を務めていた時からサッカー部に籍を置いていた事もあり、当時の悔しさをバネにして日々研鑽を積んでいたからだろう。 もうあの時のような思いをしない為にも、特に三年生の先輩は今も必死になって練習に励んでいる。 ただ、それでもオーバーワークにならないように適度にガス抜きをしたり、コーチに頼んで勝利のみを追求するんじゃなくてきちんとサッカーを楽しめるような練習メニューを組み込んでいる。 それらの影響もあって部内の雰囲気はギスギスしておらず、先輩後輩の仲は良い。後輩いびりはないし、先輩方は厳しい面も勿論あるけど優しく、頼りになる。チームとしてかなり恵まれている部類だ。
 さて、今日の体育の授業は男子はサッカー。女子はバドミントンとなっている。 自分と同じクラスにサッカー部は四人いるので、戦力に差が出ないようにと二人ずつ分かれるようにチームを組む。 サッカー部員は基本的に授業ではパス回しを主にして、ドリブルやシュートは自粛している。言っては何だが、本気を出すと部員同士の対決になってしまう可能性が高いのであまりボールを持たないようにしている。 ただし、それも勿論例外はある。 サッカー部員じゃなくても、上手い人と言うのは当然いる。 所謂天才だったり、運動神経が良かったりする人がそうだ。 そして、このクラスにも当然そう言った人種が存在している。
 パス回しが上手いとか、ドリブルが上手いとか、カットが上手いとかではない。それらの技術は平均よりやや上程度だけど、ボールが該当人物にあたる級友に渡るとサッカー部員でもおいそれとボールを奪い取る事が出来ない。 ボールを保持するのがとても上手いのだ。ボールを奪おうとする足の動きが初めから分かっているかのように、足が届かない場所へとボールを即座に移動させたり、回り込んだりする。 数人で囲んでもガードが固くてなかなか切り崩す事が出来ず、隙を見てパスをされてしまう事もある。 しかも、体力お化けでもあるのか級友はフィールドの端から端まで常に駆け回っているので何時ボールが渡るのか分からない。 そしてシュート力もかなりある。蹴りの威力が強くて、ボールがゴールを飛び越えてあわや校舎の窓ガラスを割りそうになった事もある。あと、ボールを弾いたキーパー曰く手が痺れる程に強烈だったとか。
 攻めもよし、守るもよしだが、唯一ゴールキーパーだけは向いていない。 ゴールキーパーの役目はゴールを守る事。だけど、何故かゴールを守らない。 いや、それは正確じゃない。ボールが来たら紙一重で避けてしまうんだ。パスを受けたりするときはそうでもないのに、何故かシュートはぎりぎりで避けてしまう。 本人曰く、それは癖だそうで自然と身体が回避行動を取ってしまうのだそうだ。 なので、ゴールキーパーは以後やっておらず、級友はオフェンス、ディフェンスをこなしている。
 で、本日そんな級友は自分と同じチームとなった。 じゃんけんの結果ボールは最初相手チームから蹴る事となったので、自分はゴール付近まで下がる。 級友が対戦相手でないのは残念だけど、味方なら心強いのも事実なので素直に喜ぶ。 ボールが蹴られ、ゲームが開始される。
「桜花、パス!」「あぁ」
 早速ボールをカットした級友の一人椿が、件のゴールキーパー以外万能な級友――桜花へとボールをパスする。 桜花はそのままボールを保持し、迫り来るサッカー部員二人からボールを守り進み、チームメイトへとパスを繋げる。 パスを受けたチームメイトはそのままゴールを狙うが、キーパーに阻まれ得点とならず。 キーパーが蹴り上げたボールは真っ直ぐと自分の方へと落ちて来たので、胸トラップで衝撃を和らげて足元に落とす。
「寛太、パス!」
 少し遠くで椿がパスを要求したので、即座にパス。そしてそのまま突き進んでチームメイトにパスを渡すも阻まれて相手チームにボールを奪われる。 椿と、そして桜花は盗られたボールを奪い返す為に追い掛けて行く。 桜花が無事にボールを取り戻すと、椿にパスをして椿がシュート。ゴールキーパーの股下を抜けて得点となった。
「やったぜごへぁ⁉」
 ゴールを喜んで桜花とハイタッチを交わそうとした椿だが、運悪くキーパーが蹴ったボールが彼の後頭部に直撃してしまった。
「あぐぐぐ……」「わ、悪い! わざとじゃないから!」
 そう言いつつ、申し訳なさそうな顔をしているキーパーは即座にボールをキャッチして別の方へと蹴り出す。
「大丈夫か?」「お、おぅ……」
 自分は椿へと近寄り安否の確認。後頭部を擦りつつ立ち上がったので、取り敢えず大丈夫そうではある。が、外見上は問題なくても影響は出ているかもしれないので、注意喚起はしておく。
「だけど、無理はするなよ?」「分かってるよ。ちょっと駄目そうなら保健室行くから。でもまぁ、桜花の蹴ったボールじゃなくてよかったって思ってるよ」「それは同感」
 自分と椿は、ボールを奪い取ってサッカー部員二人を相手取っている桜花を見て、それとなく頷き合う。

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