136話 閑話 沙耶#2

は…………？
美月が死んだ？
昨日の夜はあんなに普通に話をしていたのに？
今まで身近な人が死んだことの無かった私は、美月が死んだと言われても、なかなか頭が理解できない。
あまりの衝撃でテンパったのか、何故か夏蓮の心配をしてしまった。

「夏蓮！だ、大丈夫？」

そして、夏蓮の方を見て私は産まれて初めて、この親友に対して恐怖の感情を抱いた。
そこにあったのは、表情の抜け落ちた顔、そして、何処までも奥が見えないような瞳があった。

「夏蓮………？」

「………………ありえない！美月君が死ぬなんてありえないい！嘘つかないで！！」

そう言いながら、歪な笑顔を浮かべている。
私は美月とは、異世界に来るでほぼ関わりを持ってなかった。
だけど、夏蓮は違う。
ずっと、昔からの大切な友達。
そんな人が死んだと言われたのだ、信じれる訳がない。

夏蓮が動揺しているのを見て私は逆に冷静になった。
周りのクラスメイト達は、まだどのような反応をすればいいのか判断がつかないようだ。
確かにクラスメイトの多くの人間は美月に対していい感情を抱いて無かった、だが、ダンジョンでは勇義と対等に戦い、自分達よりも強いことを思い知らされた。
そして何より、日本に生きていて誰かを殺すなんてことは滅多にない。
だから、美月がメイドを殺したって話と、美月が死んだってことが本当なのか判断がつかないんじゃないか？

再び夏蓮の方に視線を戻すと夏蓮はまだ美月は死んでない！と王様に対して訴えかけている。
一国の王に対してこれ以上の無礼は不味い。

「夏蓮落ち着きなよ！貴女が何を言っても話は進まないわ。それより真偽を確かめる方が先決でしょ？」

「沙耶ちゃん？…………ごめん。私、冷静じゃなくなってた。でも真偽を確かめるってのは？」

やっといつもの夏蓮が帰って来た気がする。
そして、真偽…………

「さっき国王様が言ってたでしょ？見つかったって………。」

何をとは言わない。
言ってしまえば美月が死んだって確定してしまうような気がしたから。

「王様、先程はすいません。美月君を見せてもらってもいいですか？」

夏蓮は少しの時間を掛けて覚悟を決めたのか、そう告げた。

「ああ、構わんよ。今すぐ連れてこよう。」

本音では、何か適当な理由をつけて国王が美月君を隠そうとするのを期待してた。
それなら国王が嘘をついている可能性があるから。
でも、私のそんな期待は裏腹に国王は淡々と近衛兵に指示をする。

そして、運ばれてきたのは棺。
その中には美月の穏やかな顔がある。
クラスメイト達もその棺の中を見て、一様に鎮まりかえる。

あぁ～。
今までは、口ではなんと言っていても、本音では死んだなんて嘘だと思っていたので冷静に行動出来ていたが、ここまでの証拠を見せられて、いやがおうにも美月の死を自覚させられた。
何も物を考えることが出来ず立ち尽くす。
そんな状態でいると突然隣から笑い声が聞こえてきた。

「フフフフ。」

突然笑い出した夏蓮にクラスメイトみんなから動揺の視線が集まる。
私はまだ美月の死の動揺を乗り越えてないけれど、あまりの夏蓮の変化に体が動く。

「ど、どうしたのよ？」

こうは言ったものの、実際は美月の死を自覚し、頭がおかしくなってしまったのかと思ってしまっていた。
夏蓮は笑顔の顔を見せると、まるで嬉しいことを母親に報告するかのように、私の耳元で話す。

「美月君は死んでないよ。」

何を？
やっぱり気が触れてしまったのだろうか？

「な、何を根拠に？」

「だって、これは美月君じゃないわ。見て呉れをいくら似させてもわたしには分かるもの。」

私の親友の言葉に信じてあげたいと思ったけど、私はそれを信じれ無かった。
目の前にある証拠を私の頭は否定することが出来なかった。