家族に愛されすぎて困ってます!
52話 文化祭3
 楽大高校校内文化祭が始まって2時間半が経過した。
「後30分か」
 30分後にはお昼の12時を迎える。そこで仕事の当番も変わり、春鷹も晴れて自由の身になる。
 ラストスパート!と自分に気合を入れ、文化祭は何処を回ろうか考えていた、その時だった────
「やめてくださいっ」
「────?」
 距離にして数メートル先。メイド服に身を包んだ大星が、客であろう男子生徒に手首を掴まれていた。
 大星は嫌がって男の手を払おうとするが、掴んでいる力が強いのか振り払えないでいた。
 一方で男の方は、可愛い女の子にちょっかいを出せて楽しいのか不敵な笑みを浮かべていた。周りの男2人も同様。
 ネクタイの色が違うのでおそらく先輩だろう。
「なぁ、仕事いつ終わんの?終わったらさ俺達と一緒に文化祭回らね?」
「い、いや......それはちょっと......」
「えー良いじゃん。一緒に行こうよー」
「こ、困ります......」
「ノリ悪いね〜。変な事はしないからさー」
「で、ですから......」
 状況から察するにナンパのようだ。
 手首を掴んで大星を逃がさず、必要以上に口説いている。迷惑極まりない。
 男達は少しチャラチャラした感じで、ワイシャツのボタンは2つ外し、腰パン。さらに、校則違反であるピアスも付けていた。
 周りの人達も気づいて止めに行きたいが、相手が相手だ。恐怖で止めに行けないのだろう。無理に首を突っ込んだら、暴力を振るわれるかもしれないという恐怖。
 周りの大星ファンクラブ達も下唇を噛んでいた。
「────ちっ」
 春鷹に怒りが湧く。握る拳の力が強まる。
「あ、あの、会計いいですか?」
 いつの間にか会計のお客が来ていた。
 しかし、今はそんなことをしている場合ではない。
「すみません。今すぐ事を済ませてくるので、少し待ってて貰えませんか?」
「え?あ、はい。分かりました」
「......それと、誰でもいいので教師を連れてきてもらえませんか?お礼と言ってはなんですが、お代はこちらが持ちます」
「え、いいんですか?......分かりました。誰か呼んできます」
「助かります」
 優しい客で助かった。ありがとうございますと心の中で改めて礼を言う。
 そして、春鷹は事を済ませに席を立った。
「なぁ、別にいいだろ?ちょっと遊ぶだけじゃん」
「で、でも............」
「もう強引に連れて行っちゃえば良くね?」
「それ、ナイスアイデア!」
「ほら行こうぜ」
「や、やめて下さい......────」
「────女遊びなら他でやってもらえます?」
 強引に連れて行こうとする男の手を春鷹は強く握った。
「......あぁ?」
「近衛君......」
「ここはそういう店ではありませんので。うちのクラスの看板娘を強引に連れていくのはやめて貰えませんか?」
 春鷹は男の目を一時も離さず言った。
「少しくらい良いだろ?他にもメイドは沢山いるんだし」
「生憎、そういったサービスはしていませんので」
「あぁ?お前俺の事舐めてんの?王子様気取りしてんじゃねぇよ。そういうのムカつくんだよ」
「王子様を気取ろうなんて微塵もありません。それに、今のお客様方の方がムカつくことしてますよ」
「っ!......おめぇみたいなガキには教育が必要みたいだなっ」
「ピアスを付けている貴方の方が教育が必要なのでは?」
「この野郎!舐めてんじゃねぇぞ!!」
 男が春鷹の胸ぐらを掴む。
 春鷹は歯を食いしばり、顔面へのパンチに備えた。
────ドカッ
 男の右手の握り拳が春鷹の左頬を殴った。
「おらぁ!」
「いっ......」
 覚悟していた事とはいえ、予想以上に痛かった。
 春鷹はその場で倒れた。
「近衛君!!」
 倒れた春鷹に大星が全力で駆け寄った。
「お、おい。なにもマジで殴んなくても......」
 男の友人の一人が引き気味に言った。まさか、本当に殴るとは思わなかったようだ。
「......っ」
 殴った本人も少し怯えていた。やってしまったという顔だ。
「おい!何やってんだ!!」
 数秒の沈黙を破ったのは体育教師の平山だった。
「おい......何で教師がいんだよ」
「事件が起こるって呼ばれて来てみたら......。2年の松田、それに佐藤と長山か。今すぐ生徒指導室に行こうな」
「くそっ......」
 体育教師の平山に3人の男は連れて行かれた。
「いっつ......」
「近衛君大丈夫!?」
「......あぁ、大丈夫だって。気にすんな。それより、大星も大丈夫だったか?」
「え?」
「しつこくナンパされてただろ?ああいう奴も現代にいるんだな」
 大星の手首には手形があった。それほど強く握られていたのだろう。
「近衛、あんた結構男らしいとこあるじゃん」
 いきなり登場してきたのは少し頬を赤らめた柔風だった。
「生まれて初めて人に殴られたわ。いてて......人の力ってすげぇんだな」
 左頬には激痛が。それに、殴られた拍子に唇が切れたのか口からは鉄の味がした。左の奥歯は抜け落ち、今も口の中に抜けた歯が残っている。
「......ごめんね、近衛君。......っ、私のせいでっ痛い思いをして。......本当にごめんなさい」
「気にするなって言っただろ。それに、これは俺が自発的にやったものだから、全部俺のせい。だから......その、泣かないでくれ」
 大星からは大粒の涙が。
 感謝、恐怖などの様々な感情や思いが入った大粒の涙だった。
「────暴力沙汰で停学、多数の校則違反で退学って所かしら」
「......伊藤さん。できれば一緒に出てきて欲しかったよ」
 意外とメイド服が似合っている伊藤さんだ。
「近衛君のその勇気や度胸は立派ものだったわ。私も行きたかったけど......怖くて行けなかったわ。だから、貴方がした事は......本当にすごい事だと思う」
「そりゃどうも。......よいしょっと」
「近衛君......?」
「何処へ行くの?」
「仕事。まだ残ってるんだよ」
「保健室は......?」
「終わったら行くよ」
 あんた事をしたら、痛くてもカッコつけたくはなる。
────ガシッ
「......うん?」
 急に見知らぬ眼鏡の男から肩を組まれる春鷹。
 春鷹が困惑していると、その眼鏡の男からは、ぐっ!と親指を立てられた。
「え?何?誰?」
 そのまま、何も言わずその男は教室から立ち去って行った。
 その男が大星ファンクラブの会長だということを春鷹が知るのは、もう少し先の話である。
 
 コメントでの誤字の報告ありがとうございます!
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コメント
ペンギン
面白いです!
今後の展開が気になります!ww
更新楽しみにしています!