異世界転移するような人が平凡な高校生だと思った?

47話 絶望の洗礼 II

 暗いダンジョンの中で、ただひたすらに走る三人組がいた。

 ダンジョン内には、様々な方向から魔物の咆哮が聞こえる。だが、それは威嚇と言うよりは、何かをわらっている様にも見える。

「そこを右!」

 だが、そんな事を考察している余裕は祐には微塵もない。魔物の吠える方向からは遠ざかるように、そしてマップを更新しながら、出来るだけ後退はしない様に、道を進むだけで精一杯だった。

「『ライト!』」

 どうやら、魔物は完全に俺らを狙って追ってきている事にプラスして、どんなにこちらが気配を消しても、奴らは何故か俺たちを探知して追ってくることが、ここ数分でわかったこと。

 そうなると、逆に明かりを付けた方が動きも良くなると判断して祐が初級魔法『ライト』を発動させた。

 以前、試した時は、昼間だったので、どれほどの効果があるのか、よく分からなかったが、こうしてダンジョンで使った時、数十メートル程まで、しっかりと照らし、十分すぎるほどの役割を果たしてくれた。

 だが、それと同時に、目の前の通路から頭に角の生えた、蛇の魔物が現れた。

(ヤバい!マップばかり見すぎてた!)

 魔物の叫び声を頼りに避けていたのがここに来て裏目に出た。蛇では叫ぶはずもない。

 ここで止まったらアウトだ。明かりのせいもあり、一瞬でここ一帯に、魔物が流れ込んでくる!

 相手は蛇の魔物。毒を持っていたら今の俺たちに解毒する方法はない。もしかしたら、ミスラが解毒する魔法かなんか知っているかもしれないが、悠長に回復する時間なんてない。なら高威力の魔法で吹き飛ばす以外に手はない。

 ミスラの雷は、ダメージは稼げても、物理的な威力はそこまで無い。運良く気絶出来たら良いが、それは流石に賭けが過ぎる。

 魔法の多種同時発動....いけるか........?いや、やるしかない。

「『紅き紅蓮の───』」

「『エクステンドサンダぁぁぁ!!!』」

 詠唱の途中で、一瞬、誰だか見間違うほどの大きな声で、魔法名を発した人物に、祐は驚愕する。

 先に魔法を発動させた人物、ミスラは、ある物体を片手に、バヂヂヂ!!!という凄まじい音を立てて雷を発現させている。


「シュナ!!」

「....ん!」

 そして、ミスラは隣にいるシュナの名前を叫ぶと、片手に持っていた物体を投げる。すると、雷は、ミスラから、その謎の物体に全て吸収され、放電する。どうやら、あの謎の物体の正体は、金属の塊らしい。

 シュナはその金属の塊から雷が逃げる前に、自慢の剛腕でそれを殴った。

 雷を帯びた塊は、レールガンとなって、一直線に蛇に向かっていき、頭を貫通して轟音を立てて粉々にした。

「え、えぇ....」

 突然の2人のコンビネーションに、走りながらも驚愕を隠せない祐。

「ミスラ!ミスラ!  ユウ!驚いてる!せいこウ!!」

「そうですね〜。打合せしておいた甲斐がありましたね。シュナ」

「...いや、何してんのさ。この非常時に君たちは....」

 どうやら、先程の息ぴったりのコンボは、計画通りの犯行らしい。

「こんな非常時だからこそ、突然の最高のコンビネーションが光るのでしょう?」

 ダンジョンの暗さで、よく見れていなかった2人の顔は、追い詰められて必死と言うよりは、この状況を苦とも思わず、楽しんでいるように見えた。

 そんな二人を見て、あれほど回復しずらかった精神の疲れが、ドっと緩んだ気がした。

「....はぁ....程々にな...けど、助かった」

 打とうとした魔法は途中で中断したが、魔力は戻ってこない。無駄になった気分だが、その代わり、少しだけ心の余裕が出来たし、よしとしよう。

 状況的には何かが変わった訳では無い。というか温存したい魔力も使って逆悪いとも言える。けど、何だか死ぬ気がしないな。

「ユウ、そこを左」


「分かった」

 正直、左からは魔物の叫び声が多くしたが、シュナが指示してきたのは珍しかったので、信じて進むことにした。



***



 シュナの言葉の通り、左に進んで1分ほど経過したが、不自然なことに、ずっと分かれ道がないのだ。心做こころなしか、天井が高くなったような気がする。

 そのまま突き進んでいると──


「......っ!」

 驚くべきことに、ずっとゴツゴツとした入り組んだ洞窟のような道だったのが、ここにきて、大理石で出来た通路に変わった。分かれ道のない一本道、そして大理石の通路。ここまでくれば、一体この先に何があるのか、何となくわかるだろう。

「ようやく....か?」

「まだわからないですけどね。ただの罠かも知れません」

「....流石にこれは希望的観測で見ていいとおもうんだが」

 慎重に行くのは結構だが、正直この通路が罠だったら、後ろからくる大量の魔物のの群れを相手しなきゃ行けなくなるんだ。ここは神様に....いや、自分が信じる何かに祈って進んだ方が良い。

「いいえ、祈らなくていいです。フラグを立てるのはやめなさい。そんなに祈りたいなら私に祈りなさい」

「お前はフラグに親でも殺されたのか....」

 以前もそうだったけど、異様にフラグを嫌ってる節があるな。

 そんな戯言を言っていても、走っていればいつかその時はくる。俺たちをお出迎えしたのは、見上げてしまうほどデカく、そして、どこもかしこも骸骨が埋められてある悪趣味なドア....の前に佇む魔物達だった。

 推定30匹。

 ここまで来て、まだ俺らを消耗させようとしてくるらしい。

 この状況では、仮にこの魔物達を倒してもボス戦前にコンディションを整える時間はない。ならやる事は決まってる。

「最後の戦いだってのに、全く、ちょっとは感傷に浸らせろっての......ミスラ、シュナ、いけるな?」

「余裕です」

「強い敵!楽しミ!」

 「よっしゃ、じゃあ....正面突破だ!!!」


 祐は次元水晶から黒曜剣を取り出す。正面突破するにしても、流石にここに来るまで、魔法に頼りすぎていたため、剣を使うことにした。だが、その意図は、魔法を温存する為ではなく、試しときたいことがあったからだ。

「真似....させてもらうぞ.. 『障壁プロテクション』『身体強化ブースト重力操作:増幅グラビティブースト』」

 その3つのスキルを使うと、祐は、体が何倍にも重くなった感覚に陥った。

(あいつはあんなに涼しい顔でやってたってのにな)

 『重力操作:増幅グラビティブースト』はその名の通り、重力を増幅させるスキルだ。だが、本来の使い方は、物にかけたり、敵にかけて動きを制限するという物が主流。自分にかけて重力を増幅させるような者は、相当な実力に自信があるか、またはただの馬鹿である。

 祐は、はじめに見た使い手に影響もあり、これが本来自身にかけるものでは無いことは、自らの体で実感した。

「うぉっ!?」

 ギリギリ転びかけるのを耐えると、祐は直ぐに『重力操作:増幅グラビティブースト』を解除して体制を整える。

(あいつ、こんなもん使ってたのか....)

 どうやったって自分にかけるんじゃ感覚は狂うし、スピードは出ないしデメリットが大きすぎる。

 取り敢えず使えないなら考察は後にして、今は正面の魔物達をどうにかしなければならない。

「ミスラ!サポート任せた!」

 数が多く、剣で斬りにかかるのはいいが、サポートがないと、あっという間に数で潰される。

「分かりました! 」

「あとシュナ、これを使え」

 次元水晶から2つの物体を取り出すと、シュナに投げ渡す。

「なに?こレ」

「シュナ専用の武器だ。両手に嵌めて殴ってみてくれ」

 細かい説明は省いたが、自分専用という言葉に、目をキラキラさせているのを見ると、必要ないようだ。

 シュナに渡したのは黒曜石で出来たメリケンサック。形状が形状なので、中々失敗しながらも、どうにか形になった物だ。こちらも、鑑定してみると、魔剣もとい魔拳というステータスがついていた。能力は俺のと同じ、凄く硬いらしい。

 シュナは、早速両手にメリケンサックを嵌めると、先行して魔物の群れに突っ込んで行った。

 囲まれそうになったら、ミスラが魔法で迎撃しながらも、シュナは骸骨の魔物へ距離を一気に詰めると、骸骨の胸あたりに向けて、殴る。

 ズドンッ!

 結果はもちろんと言うべきか、骸骨が胸が粉々に粉砕され、頭と足だけが残り、絶命した。

 正直、いつもシュナの殴りは1発で敵を木っ端微塵にしてるからあまり変化が見られない。

「これ......硬い!....つよイ!」

 どうやら、本人は気に入ったようだ。殴りが強化されているかは分からないが、音は確かに強そうになってたな。

 シュナはまるで玩具を貰った子供のようにはしゃぎ、魔物をどんどん屠っていく。

「じゃあ俺もそろそろ、やらないと......なッ!」

 祐は剣を構えると、ミスラの方に向かった魔物を首から叩き斬る。

残り26匹。

 さすが100層の魔物と言うべきか、ミスラの魔法が鬱陶しいと感じたのか、後ろに下がり始めた。だがそれは悪手だ。知能は高いと言っても、シュナのように、考えるほどの頭は持っていないらしい。

 ミスラは下がり始めている魔物に気づいて、自分も魔物にギリギリ魔法が届く所まで前に進む。

 コウモリの魔物が超音波らしき音を出してきたが、直ぐにミスラが『サンダー』で地面に落とし、祐がトドメを刺す。すると、剣を地面に突き刺している祐に出来た隙を狙って、ヘルメットより一回り大きな、蟻のような魔物が3匹ほど迫ってきた。

 器用にも音は立てずに、完全に祐の死角からの攻撃だったが、熱源感知がある今、骸骨のような、特殊な気配の遮断の仕方でない限り、祐に死角はない。

 先頭の1匹だけは、気づいてはいても、間に合わない為、ミスラが『サンダー』を放ち動きを止めさせ、その間に祐が真っ二つにする。

 あとの2匹は、完璧な奇襲だと思っていたものが失敗したことによほど驚いたのか、先頭の蟻を真っ二つにした瞬間の隙を、見逃してしまう。

 だが、流石は100層の魔物、スピードはあるようで、横に振り払って2匹まとめて斬ろうとした俺の剣は、当たることは無く、蟻二匹が、すばしっこく散開して、祐を挟み撃ちにする作戦に変えたようだ。

 それを見たミスラは直ぐに魔法を打とうとしたが、祐が視線を送り、サポートは無用。と伝える。

 ギリギリまで蟻を引きつける祐。

──まだだ...........まだ......

 魔物達が追って来ているはずなので、悠長に避けながら戦う時間はない。だから俺は、居合の構えをする。右手で黒曜剣を掴み、左の腰に納刀した状態のように吊り下げ、左手は左腰に吊り下げている黒曜剣に添える....のではなく、何故か右腰のポーチに手を突っ込む。

 傍から見れば、まるで手を塞がれている状態で、死刑執行を待つ罪人のようだ。だがその実、祐の目は、全く絶望に染っておらず、不敵な笑みを浮かべてきた。

「ここだ!!!」

 2匹の蟻が飛び上がり、祐を挟み撃ちにして、クワガタのような口を開け、祐の首を狙う。

 一体は左腰に吊り下げていた黒曜剣で両断される。だがもう蟻は反対側にもう一体いる。降り抜いた剣で斬るには間に合わない。避けるか、せめて首や頭を髪ちぎられるのを防ぐかしか、手段がないように見えた。

 だが、祐はそのまま動かずに、右腰のポーチに突っ込んでいる左手を思いっきり引き抜くと、そこから、もう一本、黒曜剣が出てきて、反対の蟻は驚愕する間もなく真っ二つにされた。

「ふぅ、危なかったぁ....ポーチに水晶を入れておいてよかった」

 明らかに剣が入るほどの大きらではないポーチの中には、次元水晶を入れていた。

 この黒曜剣は、100層に上がる前に、予備として作っておいたものだ。結構魔力を使うため、1本しか作れなかったが。

 さて、シュナが今火を噴くトカゲを、足で踏んで口を塞ぎ、メリケンサック付きの拳でトドメを刺したのを確認し、残り21匹。

「まだ多いな」

 何故俺達が、魔物達を無視してボス部屋に入らないのかと言うと、ドアを開けて入ってから直ぐに閉めるという動作だけでも、このドアの大きさでは、魔物が半数以上は流れ込んでくる可能性があるからだ。

 ラスボスと戦いながら雑魚処理もするのは流石に負担がかかりすぎる。

 だから、今も尚、追ってきているはずの魔物達が来る前に、出来るだけ数を減らしてから入ろうという作戦だ。

  スペアの黒曜剣を次元水晶を戻していると、シュナが背中を合わせてきて、こんなことを言ってきた。

「ユウ 弱いやつで数を稼ぐの ズルい」

「シュナさん? 俺らは競い合ってるわけじゃないからね? 逆に今の状況的に、兎に角数を減らしてくれた方が、助かるんすけど....」

「....甲斐性なし」

 俺の心にクリーンヒット!!!

オーバーキルだ。

 ちょっとシュナさん俺に冷たくない..?いや、当たり前なんだけどさ....

 「....ん.......?ちがった? 」

はい?何が?

 よく分からないが、もしかしたら表現を間違えたのかもしれない。本当はもっと優しい言葉を言おうとしてたんだなきっと。うん。そのはずだ。

「ん....ひ、貧弱!貧弱ぅ!」

 シュナさん!? 何言ってんの!?誰だ!この子にジョ〇ネタなんか教えたの!!!

「......やる気..デタ?」

 それ言っちゃいかんでしょ....無駄に上目遣いなのが可愛いからいいけど。

 ある意味やる気はでた。

「あ、ぁぁ..ここまで言われちゃ黙っていられないな。3分で全部片付けてやるぜ」

「..その意気」

 恐らく、シュナに変なことを吹き込んだ犯人には後で詳しく説明してもらうとして。

 俺とシュナは同時に駆け出す。短期決戦だ。魔物のオリジナルスキルなんて調べている時間はない。

 俺は俺の方法で、初めはあまりスピードを出さずに魔物に詰め寄り、残り5メートルほどのところで、急加速する。すると魔物は、予測していた迎撃するタイミングが乱され、懐に入られると共に両断された。

 まるで今までのように、何かのスキルが働いたように見えるが、実際は、別に特別なことではなくて、バスケやサッカーなどのスポーツでよくある技だ。相手を抜きたい時などに、初めから全速力で行くより、遠くにいる時はあまり速度を出さず、近くなってきた時に、加速する。そのスピードの変化が大きければ大きいほど、突然の変化に相手は目で追えず、何も出来ずに抜かされてしまうというものを応用したもの。

 祐にとって、唯一できる「技」とも言って良い。今までのスキルや、魔法といったものは、「技」と呼ぶにはおこがましい、言うならば「手段」に過ぎなかった。

 ここにきて、小細工程度だが、成長していると実感し、心は冷静に、だが体は「まだまだやってやる」と言わんばかりに興奮している。

残り15匹

 この調子なら、ノーダメージでいける自身はあったが、そろそろ時間のようだ。

『グギャァァァァ』

後ろから、魔物の声が響いてくる。もう結構近くまで来ているようだ。

「ミスラ!」

 俺の合図とともに、ミスラがこっちに走ってくる。詠唱をしながら。

『刹那の光、万象を照らし、その姿を表したまえ!』

『フラッシュフィールド!』

 打ち合わせ通り、俺とシュナは目を瞑り、一瞬の閃光が消えるのを待つ。

 いずれ、俺とシュナの肩に、トンという合図がしたと共に目を開き、3人でボス部屋にダッシュ。俺は右のドアを、シュナは左のドアをタックルして開ける。

 本来ならもっと最終戦っぽく行きたかったが、そんな余裕はない。3人が中に入ったのを確認し、直ぐにドアを閉める。フラッシュバンから回復した魔物達が数体流れ込んできたが、想定より少なく、これなら何とか倒せるという範囲でドアは完全に閉じた。

 少なからずフラッシュの効果があるのか、周りは暗く、動くことが出来ない3人。

(気配は....流れ込んできた分の魔物だけ..熱源もなし....またスキルじゃ探知できない魔物か....?)

10秒ほどの沈黙、数体の魔物達も、緊張してるのかわからないが、微動だにせず、静かにしてる。

 目はまだ慣れない。が、それより前に、部屋全体が明るくなった。

(ミスラの魔法ではない....ということは、この部屋の構造か....?)

 そこは、球場ほどの広さの部屋だった。障害物は何も無く、天井は恐ろしく高い。地面も壁もよく分からない、だが入口付近とは少し違う、白い大理石のような素材でできていた。だが、90層の部屋よりも滑らかな地面で、不思議な雰囲気を醸し出している。まるで、何かの儀式でもしたら様になりそうな感じで──

「下に....何か描かれていますね。これは、刻印?」

 このバカ広い部屋の地面には、ドア付近にいる俺たちまで届くほどの魔法陣。もとい刻印が刻まれていた。刻印と魔法陣の違いは俺にはよく分からないが。

「ミスラ、刻印ってどんな───」


 どんなものなのか。それを聞こうとしたが、突然の地鳴りに言葉を失ってしまう。

「祐、シュナ....来ますよ」

 ミスラのこの言葉が合図になったように、刻印が光だし、光の嵐が巻き起こる。荒れ狂う光はやがて、真ん中に集まり、何かを形作っていく。ドクン、ドクン、と心臓の音がなると共に、光は儚く消えてなくなる。そしてそこに残ったのは、純白という言葉が良く似合う程に白い。だが、白いだけではなく、その鱗は一つ一つが光を反射して、神聖視さえしてしまうほど、神々しい..





──────龍だった。


コメント

  • 海無し

    水晶が推奨になってる?

    1
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