スキルを使い続けたら変異したんだが?
第十二話 緋と紅
「継……承者……?」
突拍子もなく現れた単語を俺は繰り返す。
「無駄話をしている暇はないよ?
レベル50ってことは、あともう三十秒ぐらいで効果切れちゃうし」
そんなリアナの警告で、俺はこのスキルの説明を思い出す。
発動時に様々なバフを受けるが、レベルによって変動する効果時間内に敵を倒せなかった場合は――死。
正直、俺には失うものはゴールドぐらいしかない。だが、彼女が背後のレナを見逃すとは思えなかった。
体制を立て直すため、一度剣を引いて後ろに跳ぼうと地面を蹴――
「――え?」
直後、俺は目を疑った。気づけば、リアナの姿が遥か遠くにあった。
……違う、俺が、アイツから離れた? 軽く地面を蹴っただけなのに? これがクリムゾンブレイズのバフの効果か?
って、そんなことを考えている場合じゃない!
覚悟を決め、一歩踏み込む。
今度は意識していたため、行き過ぎることはなかった。
狙い通り、リアナの頭上へ。紅のオーラを纏った刀身を振り下ろす。
彼女は口元を歪め、もう片方の手にも刃を生み出し、交差させて受ける。
紅緋色の閃光が弾けた。
数舜遅れて轟音が響き、リアナの足元、太い木の根がひしゃげた。それでも、彼女自身には傷のひとつも見て取れない。
「うん、いいよ! そう、ここからが本番だもんねっ⁉」
紅玉に似た瞳に、狂喜の色が宿った。
彼女が両腕を払う。後方へ吹き飛ばされるが、両足で地面を捉えて最短で留める。
不意にそこへ影が落ち、俺は横へ跳ぶ。寸前まで居た場所へ緋の斬撃が十字に走り、深々と抉った。
不思議と恐怖はなかった。それどころか、愉しささえ覚えた。
 ――あれ、いいな。
降り立ったリアナへ真紅の剣を投擲すると同時に飛び込む。
彼女は一瞬眉をひそめるが、空へ弾き上げた。
その隙に俺は懐へ入り込み、“真紅の光を纏った拳”でその腹部を捉える。
「ッ、おおおぉお――ッ‼」
渾身の一撃だった。
腕を振り抜く。リアナの体は、それこそ木の葉のように軽々と宙へ舞った。
――まだだ。まだ、物足りない。
彼女の姿を目で追って、先ほど天高く跳ね上げられた得物が視界に映った。
全身の筋肉がみしりと唸る。大地を砕くほど強く踏みしめ、飛翔する。
刹那に己の剣の柄を掴み、さらに上へ。刀身が再び紅の輝きを宿した。
下方で体制を整えたリアナの姿が見えた。
  天地の違いはあれど、奇しくもあの技の間合いだった。
――いけるッ!
俺は、虚空を蹴った。一歩で彼我の距離を詰め、紅刃を振るう。
緋色の刃を構えた彼女は、最後まで嗤っていた、
直後。
天から降る紅の雷撃がリアナを捉え、地へと討ち落とす。
「はあっ……はあっ……!」
土煙が舞う中、俺は輝きを失った剣を地面に刺し、息を整える。
手応えは、あった。それを証明するかのようにタブレットが現れる。
経験値:0
ゴールド:0
ドロップ:
ユウト・カミシロ:緋桜
ドロップアイテム。赤色の文字ってことは、ユニーク装備か……。
いつもなら狂喜乱舞するところなのだが、さっきの技の反動か血液が鉛になったかのように体が重く、それどころではなかった。
さっきまでの感覚は一体……? まるで、自分が自分でないような――。
「カミシロ君、大丈夫……!?」
今まで様子を見ていたレナが駆け寄ってくる。
その姿を見て俺はホッと胸を撫で下ろした。
「よかった。無事だったか」
「ごめんっ。PT組んでたのに全然援護できなくって。あなたの言う通り、MPを取っておけば……」
レナが深々と頭を下げる。
余程思い詰めていたのか、その手の甲は真新しい爪痕に血が滲んでいた。
俺は首を横に振る。
「大丈夫だって。前衛にあんだけ接近戦されたら、援護だってしようがなかっただろうし。
……、それよりアイツはなんだったんだろうな」
煙が晴れる。隕石が落ちたかのように大地が穿たれていた。
その中央に少女の姿はない。恐らくは光となって消えたか。
「あーあ、負けちゃった」
「ッ!?」
聞こえるはずのない声に、俺とレナは反射的にそちらを振り返る。
その主は、潰れたはずの大樹の根に座っていた。
上機嫌に足を揺らしながら無傷の姿で。
まるで、最初に邂逅した時間に巻き戻ったようだった。
愕然とする俺たちを見て、リアナは無邪気に微笑んだ。
「ふふ、驚いた?
  安心して、ちゃんと倒されたからクリムゾンブレイズの副作用はないはずだよ」
何を言っているか理解できない。
そんなことに構うことなく少女は揚々と続ける。
「でも、まさかバフ効果だけで圧倒されるとは思わなかったなぁ。
このエリアじゃステータスの限度はゴーレムに準じるとはいっても、すごいよ。
流石リアナのスキルの継承者だね」
にっこりと笑顔を向けるリアナへ、俺はずっと疑問に思っていたことを訊ねる。
「……お前は、一体何者なんだ?」
「私? 私は本来ならここに居るはずのない存在。
率直に言うと、開発スタッフに削除されたはずの没キャラってところかな」
「没キャラ……って、まさかNPC?」
俺の問いかけに彼女は、むっとした顔をして首を横に振った。
「NPCじゃなくて、リアナね。
まあ、役割的にはそんなところだけどね。ただ、私はそんじょそこらのNPCとは別格の超優秀な頭脳を持っていたの」
ふと思い出す。そういえば、このゲームには最新のAI……人工知能が使われていると。
まさか、彼女がそうだというのだろうか。
突拍子もなく現れた単語を俺は繰り返す。
「無駄話をしている暇はないよ?
レベル50ってことは、あともう三十秒ぐらいで効果切れちゃうし」
そんなリアナの警告で、俺はこのスキルの説明を思い出す。
発動時に様々なバフを受けるが、レベルによって変動する効果時間内に敵を倒せなかった場合は――死。
正直、俺には失うものはゴールドぐらいしかない。だが、彼女が背後のレナを見逃すとは思えなかった。
体制を立て直すため、一度剣を引いて後ろに跳ぼうと地面を蹴――
「――え?」
直後、俺は目を疑った。気づけば、リアナの姿が遥か遠くにあった。
……違う、俺が、アイツから離れた? 軽く地面を蹴っただけなのに? これがクリムゾンブレイズのバフの効果か?
って、そんなことを考えている場合じゃない!
覚悟を決め、一歩踏み込む。
今度は意識していたため、行き過ぎることはなかった。
狙い通り、リアナの頭上へ。紅のオーラを纏った刀身を振り下ろす。
彼女は口元を歪め、もう片方の手にも刃を生み出し、交差させて受ける。
紅緋色の閃光が弾けた。
数舜遅れて轟音が響き、リアナの足元、太い木の根がひしゃげた。それでも、彼女自身には傷のひとつも見て取れない。
「うん、いいよ! そう、ここからが本番だもんねっ⁉」
紅玉に似た瞳に、狂喜の色が宿った。
彼女が両腕を払う。後方へ吹き飛ばされるが、両足で地面を捉えて最短で留める。
不意にそこへ影が落ち、俺は横へ跳ぶ。寸前まで居た場所へ緋の斬撃が十字に走り、深々と抉った。
不思議と恐怖はなかった。それどころか、愉しささえ覚えた。
 ――あれ、いいな。
降り立ったリアナへ真紅の剣を投擲すると同時に飛び込む。
彼女は一瞬眉をひそめるが、空へ弾き上げた。
その隙に俺は懐へ入り込み、“真紅の光を纏った拳”でその腹部を捉える。
「ッ、おおおぉお――ッ‼」
渾身の一撃だった。
腕を振り抜く。リアナの体は、それこそ木の葉のように軽々と宙へ舞った。
――まだだ。まだ、物足りない。
彼女の姿を目で追って、先ほど天高く跳ね上げられた得物が視界に映った。
全身の筋肉がみしりと唸る。大地を砕くほど強く踏みしめ、飛翔する。
刹那に己の剣の柄を掴み、さらに上へ。刀身が再び紅の輝きを宿した。
下方で体制を整えたリアナの姿が見えた。
  天地の違いはあれど、奇しくもあの技の間合いだった。
――いけるッ!
俺は、虚空を蹴った。一歩で彼我の距離を詰め、紅刃を振るう。
緋色の刃を構えた彼女は、最後まで嗤っていた、
直後。
天から降る紅の雷撃がリアナを捉え、地へと討ち落とす。
「はあっ……はあっ……!」
土煙が舞う中、俺は輝きを失った剣を地面に刺し、息を整える。
手応えは、あった。それを証明するかのようにタブレットが現れる。
経験値:0
ゴールド:0
ドロップ:
ユウト・カミシロ:緋桜
ドロップアイテム。赤色の文字ってことは、ユニーク装備か……。
いつもなら狂喜乱舞するところなのだが、さっきの技の反動か血液が鉛になったかのように体が重く、それどころではなかった。
さっきまでの感覚は一体……? まるで、自分が自分でないような――。
「カミシロ君、大丈夫……!?」
今まで様子を見ていたレナが駆け寄ってくる。
その姿を見て俺はホッと胸を撫で下ろした。
「よかった。無事だったか」
「ごめんっ。PT組んでたのに全然援護できなくって。あなたの言う通り、MPを取っておけば……」
レナが深々と頭を下げる。
余程思い詰めていたのか、その手の甲は真新しい爪痕に血が滲んでいた。
俺は首を横に振る。
「大丈夫だって。前衛にあんだけ接近戦されたら、援護だってしようがなかっただろうし。
……、それよりアイツはなんだったんだろうな」
煙が晴れる。隕石が落ちたかのように大地が穿たれていた。
その中央に少女の姿はない。恐らくは光となって消えたか。
「あーあ、負けちゃった」
「ッ!?」
聞こえるはずのない声に、俺とレナは反射的にそちらを振り返る。
その主は、潰れたはずの大樹の根に座っていた。
上機嫌に足を揺らしながら無傷の姿で。
まるで、最初に邂逅した時間に巻き戻ったようだった。
愕然とする俺たちを見て、リアナは無邪気に微笑んだ。
「ふふ、驚いた?
  安心して、ちゃんと倒されたからクリムゾンブレイズの副作用はないはずだよ」
何を言っているか理解できない。
そんなことに構うことなく少女は揚々と続ける。
「でも、まさかバフ効果だけで圧倒されるとは思わなかったなぁ。
このエリアじゃステータスの限度はゴーレムに準じるとはいっても、すごいよ。
流石リアナのスキルの継承者だね」
にっこりと笑顔を向けるリアナへ、俺はずっと疑問に思っていたことを訊ねる。
「……お前は、一体何者なんだ?」
「私? 私は本来ならここに居るはずのない存在。
率直に言うと、開発スタッフに削除されたはずの没キャラってところかな」
「没キャラ……って、まさかNPC?」
俺の問いかけに彼女は、むっとした顔をして首を横に振った。
「NPCじゃなくて、リアナね。
まあ、役割的にはそんなところだけどね。ただ、私はそんじょそこらのNPCとは別格の超優秀な頭脳を持っていたの」
ふと思い出す。そういえば、このゲームには最新のAI……人工知能が使われていると。
まさか、彼女がそうだというのだろうか。
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