異世界スキルガチャラー

黒烏

絶望と悲鳴

「どうして追いつかないの!?向こうは歩いてるはずなのに!」

ルカは、マモンの背中を必死に追い続けていた。
奴はルカの数メートル先を悠々と歩いているだけで、ルカの方は全力疾走している。
が、一向に距離が縮まらない。
先程からこの「数メートル後ろ」の位置に固定されているかのようにマモンに接近できないのだ。
そのような状態でマモンを追い続け、行き着いたのは遺跡で辛うじて形を残していた巨大な広間である。

「こんな大きな広間があるってことは、ここは昔に相当な場所だったんでしょうね」

マモンは広間に足を踏み入れる。そこにはアラクネラとその手下達に捕まえさせたエルフ族が囚われていた。
啓斗がディーラと会話を交わした後、マモンは彼らに、ここに監禁場所を移すように指示していたのだ。

「あら、遅かったわね。結構前からずっと後ろにいたんじゃなくて?」

数十秒ほど遅れて追ってきたルカに、楽しそうに言う。

「……私に何をした!?」
「あら、何をしたってほどのことなんてしてないわよ。気づかないアナタが弱いのよ」

叫ぶルカに、マモンは冷ややかにそう答えた。

「さあ、お楽しみはこれからよ。わざとここまで誘導したことにも気づかない?」
「まあ、結局のところ、アナタは大切なものを失うのは変わりないけどね?」

マモンがその言葉を放つと同時に、ルカの足元に大量の鎖が出現する。

「な、に!?きゃあ!」

ルカの抵抗を許さず、鎖はあっという間に彼女を拘束してしまった。

「うふふ、油断しすぎね」
「大丈夫よ、鎖に縛られても死にはしないわ。そういう風に調整しておいたから」
「ただし、アナタの力は封じられちゃうけどね!」

ルカの体から力が抜けていく。さらに、龍の体も元に戻ってしまった。
マモンはツカツカとエルフの1人、気絶している青年に歩み寄る。

「最初はこの子で良いかしら」

すると、ズルズルとルカの体がマモンに引き寄せられる。鎖が無理やりルカの体を移動させているのだ。

「よーく見なさい。数も少ないアナタの仲間、エルフ族が全員死んでいく様を」

そしてマモンは、一切の躊躇ちゅうちょなくその青年の首を刎ねた。
鮮血が飛び散り、頭が吹き飛ぶ。
頭を無くした首からは血がとめどなく流れている。
空中に跳んだ頭は、ゴトンと鈍い音を立てて遺跡の床に落ちた。
その一連の状況に、ルカは声も出なかった。
ただ、目を見開いて頭のない遺体と、遺体から分離した頭を見つめていた。

「あら、意外とリアクション薄いわね?それとも、声も出ないってことかしら?」
「まあいいわ。いいリアクションが見れるまで、一人ずつ試せばいいだけですもの」
「それじゃあ、次はこの司祭さんにしましょう。この人の護符、役に立ってくれたわ」

そう言って次は体を真っ二つに切断した。
切り離された胴体と下半身の裂け目から溢れんばかりに血が吹き出る。

「あ……あああ……」

その姿を見て、ようやく意識が正常化したルカは、絶望の呻きを漏らす。

「そうそう、そういう顔が好きなのよ。ほら、ドンドン行くわよ。もっと絶望なさい?」
「たっぷりアナタから希望を奪った後に、その龍の力を頂くわ」

そう言ってマモンは、次のエルフに目を向ける。

「じゃあ、次はこの子にしましょうか」

次に、壁にもたれかかって項垂うなだれている少女に目をつける。

「ほら、顔をよく見て死に様を確認なさい?」

髪を掴んでルカに顔を見せる。

「……!!!」

その少女は、ルカにとって大切な存在の1人だった。
ルカがずっと暮らしていたエルフの里は、地龍を祀り、様々な儀式を行うための場所。元々人の数が少ないのだ。
よって、必然的に子供の数も少なくなる。
現に、この広間内でルカと同年代のエルフは男女合わせて4人。
ルカより年下の少年少女に至っては、いない。
その中でこの少女は、ルカが幼い頃から一緒に遊んだり追いかけっこをしたりした仲だった。

「その表情、この子はちょっと特別なのかしら?」

髪の毛を掴んでグイッとルカに顔を見せる。
彼女は少しだけ意識を保っていた。
だが、それはルカの精神には逆効果だった。
涙をにじませた目でルカを見つめ、ほんの少しだけルカに向かって手を伸ばす。
その手はルカに届くことはなかった。
少女は、マモンの右手に腹部を貫通されて絶命した。
はたりと力なく落ちた手は、ルカの罪悪感と絶望をさらに増長させる。

「あら、どうしたの?真っ青よ?ほらほら、まだ始まったばっかりなんだからギブアップしちゃダメよ?」
「でもそうね、このまま一人一人やってたら時間がかかるわね」

マモンは背筋が凍るような笑みを浮かべ、クモを呼び寄せる。

「全身でアナタのお仲間の血を浴びなさい」

大量に現れたクモは、口から吐き出した糸でエルフ達を縛り上げて部屋の中心に集める。

「ほーら、しっかり見て。生物の中身が全部同じだってことを教えてあげる」
「クモの毒の麻酔って強力ね。抵抗も一切出来ないんだもの。ここだけはあの蜘蛛を褒めてあげてもいいわ」

マモンは右手の親指と中指を合わせる。

「3秒だけ、お仲間にさよならを言う時間をあげるわ」



「3……」

ルカは、自分の無力さを心から悔やんだ。先程まで地龍の力で大はしゃぎしていた自分を心底馬鹿だと感じた。
だが、どれだけ悔いても結果は同じ。
今、ルカにできるのはただ覚悟することのみ。

「2……」

心臓がドクドクと早鐘を打つ。

「1…」

一筋、ルカから涙が流れた。恐怖で麻痺していた悲しみが涙という形で出てきたのだ。

「ゼロ!」


思わず目を閉じた。
だが、体に血液がかかる感触は無い。
恐る恐る目を開けると……













「ギリギリセーフ……か。遅くなってすまない」

目の前には啓斗が立っていた。
マモンは左目を抑えて啓斗を睨みつけている。

「試しに指先からわざと出血して飛ばしてみたが、精密射撃にはうってつけだな」

啓斗はいたって冷静にマモンの様子を伺っている。

「このガキ……魔力切れを起こしてたはずなのに……」
「お前の仲間・・のお陰だよ。さて、お引き取り願おう」

憎々しげなマモンと、どこまでも冷ややかな啓斗。
両者は睨みあったまま、まだ動かない。

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