異世界スキルガチャラー

黒烏

希望無き終焉

「クオオオオオン!!」

ルカが変身した巨大な緑龍は、いきなりベルフェゴールに襲いかかる。

「うわっと、こりゃ凄いね。さっきまでの比じゃないくらいヤバそう」

振り下ろされた右前脚を避けながら、龍を見据える。

「そうだな、これ以上時間かけらんないし……」

そう言って奥で高みの見物を決め込んでいるマモンを見る。

「マーモーン! 見てないでちょっとくらい手伝ってよー!」
「あら、面白い見世物だったからつい見入っちゃったわ。ごめんなさいね」

ベルフェゴールの苦情にもマモンは一切動じない。

「クアアアア!」

龍は、口に風の力を溜め始める。
だが、チャージも一瞬だった。
超高密度に圧縮された風のブレスがベルフェゴールに吹きかかる。

「痛っ!?」

間一髪で避けたかに見えたが、頬を掠めた。
掠めた所がパクリと切れ、一筋の血が流れる。

「うーわ、マジでヤバイやつだこれ」

流れた血を拭いとりながら、ベルフェゴールはこう言った。

「ねぇ、ケイト君を襲う僕にかまうのも良いけどさ」
「後ろにマモンがいて、その近くに君の仲間が捕まってることも心配したら?」

龍は、その言葉で我に返ったように背後を振り向く。

「一手遅かったわね。サヨナラを言う時間はもうあげないわよ!」

マモンがパチンと指を鳴らすと、エルフ達の体が次々と消滅していく。

「……………!!!!!」

龍は、風のブレスをマモンに向けて放った。
否、放とうとした・・・・・・

「はい残念、君も負けるんだよ。40%くらい本気出したパーンチ!!」

ベルフェゴールが放った正拳突きが腹を捉える。その衝撃は龍の体内を駆け抜け、膝を折って崩れ落ちる。
床に倒れた瞬間、龍の体は光と共に消え、重症のルカだけがそこにいた。





「ベル、パワーロック外して倒したのは良いけど、あっけなさすぎない?」

啓斗とルカ以外のエルフを全て始末し終えた後、マモンとベルフェゴールはのんびり会話していた。

「いや、無駄に長引かせるよりは良くない? さっさと帰りたいんだよ」

既に血は止まった顔の傷を擦りながらベルフェゴールは言う。
ふと、視界の端で動くものが見えた。

「へぇ、まだ動けるんだ」

ルカは立ち上がっていた。
その目は、まだ絶望に染まっていない。

「やるね。その精神力は本物だと認めよう。実力が伴ってないど」
「そうね、正直言ってちょっと期待外れだったわ」

2体の悪魔は、足を引きずって近づいてくるルカをじっと見ている。

「ねぇ、ベル。あの異世界人は殺しちゃダメなのよね?」
「うんそうだよ」
「でも、あのエルフの子を殺して、能力を全部奪い取っちゃダメとは言われてないわよね?」

ツカツカとルカに歩み寄り、頭に触れる。

「この子を殺せば、彼の恨みも増しそうじゃない?」
「徹底的だねぇ。ま、僕は止めないよ」

マモンが手刀を構え、首に手を当てる。
ベルフェゴールは、ぼんやりと通路の奥を見つめながらこう言った。

「そういえば、さっきここに来るまでにエルフの女の人、見かけたんだー」
「今頃、僕らをどうにかするために命懸けの呪術でもやってんじゃない?」

その言葉に、マモン、ルカ、啓斗の全員が目を見開いた。

「ベル……わざと見逃したの……!?」
「いいじゃんいいじゃん。人生、楽して楽しめるのが1番じゃない?」
「アンタの「楽しい」と私達の「トラブル」の境目が分からなくていっつも迷惑なのを覚えときなさいよ!」 

次の瞬間、2人の悪魔の周囲に強風がまとわりつき始める。
ルカは風圧で吹き飛ばされた。

「お、これは強制送還されるタイプの奴じゃない? 最後まで楽しませてくれるねぇ」
「ベル、それ本気で言ってる? 場所が万が一だった場合を考えたら危険極まりないのよ?」

風はドンドンと勢いを増していく。
遂にベルフェゴールとマモンの姿は見えなくなってしまう。

「うはっ、これすご……」
「こんなことなら、もっと脱走者に注意を払うべきだっ……」

その言葉を最後に、風の音しか聞こえなくなる。
そして風の渦が消滅すると、そこに2体の悪魔の姿は無かった。
ルカはその場で崩れ落ちた。








2分後、ようやく啓斗が立ち上がる。

「ハァ……ハァ……ダメだな。普通の【ヒール】じゃ、やっと動けるようになるまででこんなことに………」

啓斗は左腕を折られた後、ずっと【ヒール】を使い続けて回復をしていたのだが、間に合わせることができなかった。
更に、魔力を集中させてどうにか骨折は治したが、全身を治す前に再びMPが切れてしまい、傷は体中に残ったままになってしまった。

「……ほぼ何も出来ずに負けた。しかも、確実に手を抜かれていた」
「……主要の戦闘スキルも奪われた。ルカの仲間まで殺された」
「あの風でルカを助けたのは、ディーラさんか……」
「どうせ何も守れない……か………」

足を引きずりながらルカに近づき、気を失った彼女を抱き抱える。
そのまま広間を後にした。



広間には、おびただしい数の血痕と血溜まりだけが残った。

コメント

  • Kまる

    悲しい…

    0
  • ノベルバユーザー147775

    続き気になります!!!!!

    0
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