Number
#7 一期一会
「ねえ、舜くん、一個聞いてもいい?」
「なに?」
教室のいつもの席で、うみちゃんはにこにこと微笑みながら聞いた。
「私たち、付き合ってるんだよね?」
「? そうじゃないの?」
「じゃあなんで今までとそんな変わらないの?」
「……そんな変わるもんなの?」
そうです恋愛初心者です。ちょっと運命的な出会い方して、その相手が転校生で、しかも可愛かったり自分のこと気にかけてくれたりしちゃったら、もうコロッと落ちる恋愛初心者ですが、何か。
まあうみちゃんの言葉から分かる通り、僕達は付き合い始めて一週間ほど立つが、何一つ変化がない。いや僕もわかってはいたよ。どうすればいいんだろうって思い悩んで頭も抱えたよ。
うみちゃんはここ数日変わったことを何も言わないし、このままでいいんだと少し自信が持てた部分もあるよ。だがしかし。
だが、しかし。
やっぱり何かしらの変化を求めるものなんだよな、恋愛ってのは。
そういえばうみちゃんは、今までの恋愛遍歴とかどうなってるんだろう。聞いてもいいものか、否か。
それにしても、何から? どこからスタートするのが正解なの? 世のリア充は一体何をしているの?
「ねぇ、聞いてる?」
一緒に帰る、とか? 手を繋ぐ、とか?
「じゃあ……一緒帰る?」
「うん、いいよっ!」
弾んだ声で答えるうみちゃんに、自分の答えが正解だったと知る。下手したら往復ビンタとかかまされかねない。うみちゃんはそんな人じゃないけれど、やはり僕はマンガの読みすぎかもしれないな。
二月も後半に近づくと、だんだん春らしさが出てくる。もちろんまだ風は冷たいし、校舎内でも寒いくらいだ。
今日竜太郎と学校に来る時に見つけた木が、小さな花を主張していたのを思い出す。黄色く咲いた花が木を埋め尽くす様子は、目に鮮やかだった。そういえば、黄色い花から咲き始めるんだっけか。桜や梅はいつごろからだろう。
普段意識しない街並みも、うみちゃんと歩くとなると少し新鮮に感じる。
二人の間を時折過ぎる風が、うみちゃんの髪とスカートをなびかせる。後ろに髪が流れたおかげで、うみちゃんの顔が良く見える。いつもは隠れた整った眉が、幸せそうに下がっているのが見えた。
放課後。
僕らは隣を歩いている。
思えば二人で歩くのなんて今まであっただろうか。……いや、あったわ。連れ回された思い出あるわ。
僕が考え事に思いを巡らせていた時、うみちゃんがふいに口を開いた。
「どうして私を好きになってくれたの?」
帰り道。閉鎖された教室とは違う、開放的な外の空気。遠くで聞こえる車のクラクション、散歩する犬の鳴き声。
「それは……多分、ほんと、出会った時から惹かれてたんだと思う。うみちゃんは無意識だったかもしれないけど、一つ一つ言葉が……うん、なんか、嬉しくて。気づいたら好きだった」
しどろもどろになりながら答える僕に、うみちゃんが投げかける笑顔はものすごく優しかった。
出会った時からまだ一ヶ月も経っていない。それなのに僕らは友達とかいう枠を超えてしまった。少し早すぎやしないか、と思うけれど、都会じゃこんなのよくあることだろうと考えを振り切る。
あの日……僕がうみちゃんに出会った日。
今思い出せばあの日こそ僕の分岐点で、あの日がなかったらこんなこともないんだろうな、としみじみ思う。ほんとに、不思議だ。
隣を歩くうみちゃんに速度を合わせる。
二人同じように動く影は、少しだけ僕の方が長い。
夕焼けが世界を赤く染めている。
「舜くんは……君は、まだ何も私のこと知らないのに」
まっすぐ前をむいたまま、うみちゃんがしっかりした口調で言った。言葉とのギャップを感じる。
左に僕、右にうみちゃん。うみちゃんは右側に持ったスクールバッグを前後にブンブン揺らしながら、速度を早めたり遅めたりする。
何を考えているんだろう。
「うみちゃんは、何かを抱えてるよね?」
「えっ?」
「んー……たまに、思うんだけど。歌う歌はいつも切ないし、悲しそうな顔するし。なにか、あるよね?」
「……いずれ、ちゃんと話すよ」
ほら、また。安心させようと笑っているのかもしれないが、うみちゃんは笑えていない。なんだかひどく苦しそうなのだ。
「そういえばさ」
表情をパッと変えてうみちゃんが切り出す。これ以上追求しないほうが良さそうだし、先程の話題は心の中に留めておこう。
「私、バレンタインあげられなかったじゃん。作ったんだけど、あの日色々あったでしょ?」
「あ~……雑誌……」
「ん? 雑誌?」
「や、なんでもない」
そういうことね……。あの雑誌は、僕にチョコを作るためにか。
『大好きなあの人に、想いを伝えちゃおう』
飾られた雑誌の表紙が、脳内を占めた。
「だから、ホワイトデー待ってて?」
「ぅす」
「あはは、強そう」
笑ううみちゃんが可愛くて、僕は両腕の筋肉を見せつけてさらにウケを狙った。「まだまだだね」真顔に戻って言われたので、少し悲しくなった。こんなのも楽しいと思える。恋の力は最強だ。
「ていうか、お願いがあるの」
「ん?」
「『君のためのラブソング』で、曲作っちゃダメかなあ?」
「ブフッッ!」
静かな通りに、僕の声が目立った。スズメが一羽飛んでいった。
「ダメ?」
「や、あの、その……ダメっていうか、いいけど、うみちゃんさ、」
「うん?」
「やっぱ知ってたんだね……知ってるだろうなってのは思ってたけど」
「知ってたよ~」
「なんで? なんで知ってるの?」
「そりゃあ……」
何故か口ごもる。
しばらく無言の状態のまま、僕達は歩みを進める。気づけばあの日と同じ、老人ホームの道を歩いていた。木々が立ち並ぶ通り、左手には老人ホーム、右手には穏やかに流れる川が一本。夕方の陽が、影になった通りに差している。
「ベンチ、座ろうか」
時計を見るとまだ五時前。全然時間はあるが、僕は曲がりなりにもうみちゃんの彼氏。あまり遅くならないうちに帰るべきだ。
隣に座った僕達は、お互い何を話すべきかわかっていなかった。ベンチの上に無防備に置かれた手の、真っ白に透ける肌が目に刺さる。
もっと知りたい。触れたい。膨らんでいく思いは、臆病なまま、自分の中に隠れようとする。
数センチ、もしくは数ミリ、僕の手を離して置く。触れそうで触れないギリギリライン。
「じゃあ、教えてよ。うみちゃんのこと、もっと」
赤くなっているであろう頬が、どうか夕陽に隠されてバレませんように。
「んーとね、好きな食べ物は肉だよ。でも甘いものも大好き。野菜も好きだよ。なんでも食べるよ。でも銀杏とレバーは苦手かな。」
「食べ物で尺取りすぎてない?」
「好きな色は赤かなあー。情熱って感じするじゃん? ガーネットって言葉好きなんだよね。かっこいいよね」
「純粋なものは紫らしいよ?」
「ふーん」
「扱い雑!!?」
「好きな動物は羊だよ。もふもふしてて可愛いよね! 嫌なこと忘れるなら牧場行きたいよね。行ったことないけど」
「黒髪ロング赤い口紅の性格猫が、羊好きなの……?」
「見た目とか関係ないでしょ!」
「好きな言葉は一期一会! どう?」
指折り赤く染まった空を見ながら好きなものを言っていくうみちゃんが可愛くて、なんだかすごく子供っぽく見えて、僕はじっと見つめていた。
目を輝かせながら僕の方を見たうみちゃんは、目が合うとすぐに眉根を寄せた。
「……何その顔、普通じゃんって顔してこっち見ないで。」
「いや、別にそんな顔してないよ?!」
「してるよ! 大事だよ、一期一会! 私と舜くんが今こうして語り合ってるのも一生に一度きりの機会だよ!」
「また大げさな……」
「大げさとか……大事じゃん」
「はいはい」
以前とは変わったうみちゃん。あの頃は──といっても数週間前だが──彼女の考えていることが全くわからず、振り回されて、気づけば好きになっていた。誰よりも綺麗で、不思議な人で、目が離せなかった。今も、充分だけど。
やけに静かになった。あしらったから怒っているんだろうか。
隣を見ると、うみちゃんは僕と反対の方向を向いていた。拗ねているんだろう。
「うみちゃん?」
呼びかけても返事なし。
とんとん。
肩を叩いても嫌がる素振りを見せるだけでこちらは向かない。
こうなったら。
ぷに。ぷにぷにぷにぷに。
うみちゃんの頬に容赦なく人差し指を刺す。一回でやめるつもりだったが、あまりに気持ちいいので何度も繰り返してしまう。手が止まらない。
空いた方の手で僕の頬を触る。硬い。うみちゃんの頬はふにふにしている。俗に言うマシュマロ肌?
「……やめてくれませんか」
やっと声を出した、と思ったら涙声。しかも敬語。
「ごめん」
「なんで謝るの」
「あしらったから、怒ってるんでしょ」
「別に……君は悪いことしてないもん。ちょっと感傷に浸ってただけです」
「なんで今浸るのさ」
「浸るべき時だったんだもん」
「やっぱ僕のせいだよそれ」
「うるさいよ!」
振り向いたうみちゃんの目からは、まるで空から星が降ってくるように、キラキラと涙が溢れ出ていた。
三秒。目が合ったまま、僕達は止まる。なんだかデジャブ。
そのままうみちゃんの顔が歪む。うみちゃんをこんなに泣かせたのは僕だ。
迷った後に、僕の腕がうみちゃんを包む。うみちゃんは一瞬跳ねて、そのまま僕に委ねる。
「ごめんね」
耳元で呟いて、僕は頭を撫でた。
「なに?」
教室のいつもの席で、うみちゃんはにこにこと微笑みながら聞いた。
「私たち、付き合ってるんだよね?」
「? そうじゃないの?」
「じゃあなんで今までとそんな変わらないの?」
「……そんな変わるもんなの?」
そうです恋愛初心者です。ちょっと運命的な出会い方して、その相手が転校生で、しかも可愛かったり自分のこと気にかけてくれたりしちゃったら、もうコロッと落ちる恋愛初心者ですが、何か。
まあうみちゃんの言葉から分かる通り、僕達は付き合い始めて一週間ほど立つが、何一つ変化がない。いや僕もわかってはいたよ。どうすればいいんだろうって思い悩んで頭も抱えたよ。
うみちゃんはここ数日変わったことを何も言わないし、このままでいいんだと少し自信が持てた部分もあるよ。だがしかし。
だが、しかし。
やっぱり何かしらの変化を求めるものなんだよな、恋愛ってのは。
そういえばうみちゃんは、今までの恋愛遍歴とかどうなってるんだろう。聞いてもいいものか、否か。
それにしても、何から? どこからスタートするのが正解なの? 世のリア充は一体何をしているの?
「ねぇ、聞いてる?」
一緒に帰る、とか? 手を繋ぐ、とか?
「じゃあ……一緒帰る?」
「うん、いいよっ!」
弾んだ声で答えるうみちゃんに、自分の答えが正解だったと知る。下手したら往復ビンタとかかまされかねない。うみちゃんはそんな人じゃないけれど、やはり僕はマンガの読みすぎかもしれないな。
二月も後半に近づくと、だんだん春らしさが出てくる。もちろんまだ風は冷たいし、校舎内でも寒いくらいだ。
今日竜太郎と学校に来る時に見つけた木が、小さな花を主張していたのを思い出す。黄色く咲いた花が木を埋め尽くす様子は、目に鮮やかだった。そういえば、黄色い花から咲き始めるんだっけか。桜や梅はいつごろからだろう。
普段意識しない街並みも、うみちゃんと歩くとなると少し新鮮に感じる。
二人の間を時折過ぎる風が、うみちゃんの髪とスカートをなびかせる。後ろに髪が流れたおかげで、うみちゃんの顔が良く見える。いつもは隠れた整った眉が、幸せそうに下がっているのが見えた。
放課後。
僕らは隣を歩いている。
思えば二人で歩くのなんて今まであっただろうか。……いや、あったわ。連れ回された思い出あるわ。
僕が考え事に思いを巡らせていた時、うみちゃんがふいに口を開いた。
「どうして私を好きになってくれたの?」
帰り道。閉鎖された教室とは違う、開放的な外の空気。遠くで聞こえる車のクラクション、散歩する犬の鳴き声。
「それは……多分、ほんと、出会った時から惹かれてたんだと思う。うみちゃんは無意識だったかもしれないけど、一つ一つ言葉が……うん、なんか、嬉しくて。気づいたら好きだった」
しどろもどろになりながら答える僕に、うみちゃんが投げかける笑顔はものすごく優しかった。
出会った時からまだ一ヶ月も経っていない。それなのに僕らは友達とかいう枠を超えてしまった。少し早すぎやしないか、と思うけれど、都会じゃこんなのよくあることだろうと考えを振り切る。
あの日……僕がうみちゃんに出会った日。
今思い出せばあの日こそ僕の分岐点で、あの日がなかったらこんなこともないんだろうな、としみじみ思う。ほんとに、不思議だ。
隣を歩くうみちゃんに速度を合わせる。
二人同じように動く影は、少しだけ僕の方が長い。
夕焼けが世界を赤く染めている。
「舜くんは……君は、まだ何も私のこと知らないのに」
まっすぐ前をむいたまま、うみちゃんがしっかりした口調で言った。言葉とのギャップを感じる。
左に僕、右にうみちゃん。うみちゃんは右側に持ったスクールバッグを前後にブンブン揺らしながら、速度を早めたり遅めたりする。
何を考えているんだろう。
「うみちゃんは、何かを抱えてるよね?」
「えっ?」
「んー……たまに、思うんだけど。歌う歌はいつも切ないし、悲しそうな顔するし。なにか、あるよね?」
「……いずれ、ちゃんと話すよ」
ほら、また。安心させようと笑っているのかもしれないが、うみちゃんは笑えていない。なんだかひどく苦しそうなのだ。
「そういえばさ」
表情をパッと変えてうみちゃんが切り出す。これ以上追求しないほうが良さそうだし、先程の話題は心の中に留めておこう。
「私、バレンタインあげられなかったじゃん。作ったんだけど、あの日色々あったでしょ?」
「あ~……雑誌……」
「ん? 雑誌?」
「や、なんでもない」
そういうことね……。あの雑誌は、僕にチョコを作るためにか。
『大好きなあの人に、想いを伝えちゃおう』
飾られた雑誌の表紙が、脳内を占めた。
「だから、ホワイトデー待ってて?」
「ぅす」
「あはは、強そう」
笑ううみちゃんが可愛くて、僕は両腕の筋肉を見せつけてさらにウケを狙った。「まだまだだね」真顔に戻って言われたので、少し悲しくなった。こんなのも楽しいと思える。恋の力は最強だ。
「ていうか、お願いがあるの」
「ん?」
「『君のためのラブソング』で、曲作っちゃダメかなあ?」
「ブフッッ!」
静かな通りに、僕の声が目立った。スズメが一羽飛んでいった。
「ダメ?」
「や、あの、その……ダメっていうか、いいけど、うみちゃんさ、」
「うん?」
「やっぱ知ってたんだね……知ってるだろうなってのは思ってたけど」
「知ってたよ~」
「なんで? なんで知ってるの?」
「そりゃあ……」
何故か口ごもる。
しばらく無言の状態のまま、僕達は歩みを進める。気づけばあの日と同じ、老人ホームの道を歩いていた。木々が立ち並ぶ通り、左手には老人ホーム、右手には穏やかに流れる川が一本。夕方の陽が、影になった通りに差している。
「ベンチ、座ろうか」
時計を見るとまだ五時前。全然時間はあるが、僕は曲がりなりにもうみちゃんの彼氏。あまり遅くならないうちに帰るべきだ。
隣に座った僕達は、お互い何を話すべきかわかっていなかった。ベンチの上に無防備に置かれた手の、真っ白に透ける肌が目に刺さる。
もっと知りたい。触れたい。膨らんでいく思いは、臆病なまま、自分の中に隠れようとする。
数センチ、もしくは数ミリ、僕の手を離して置く。触れそうで触れないギリギリライン。
「じゃあ、教えてよ。うみちゃんのこと、もっと」
赤くなっているであろう頬が、どうか夕陽に隠されてバレませんように。
「んーとね、好きな食べ物は肉だよ。でも甘いものも大好き。野菜も好きだよ。なんでも食べるよ。でも銀杏とレバーは苦手かな。」
「食べ物で尺取りすぎてない?」
「好きな色は赤かなあー。情熱って感じするじゃん? ガーネットって言葉好きなんだよね。かっこいいよね」
「純粋なものは紫らしいよ?」
「ふーん」
「扱い雑!!?」
「好きな動物は羊だよ。もふもふしてて可愛いよね! 嫌なこと忘れるなら牧場行きたいよね。行ったことないけど」
「黒髪ロング赤い口紅の性格猫が、羊好きなの……?」
「見た目とか関係ないでしょ!」
「好きな言葉は一期一会! どう?」
指折り赤く染まった空を見ながら好きなものを言っていくうみちゃんが可愛くて、なんだかすごく子供っぽく見えて、僕はじっと見つめていた。
目を輝かせながら僕の方を見たうみちゃんは、目が合うとすぐに眉根を寄せた。
「……何その顔、普通じゃんって顔してこっち見ないで。」
「いや、別にそんな顔してないよ?!」
「してるよ! 大事だよ、一期一会! 私と舜くんが今こうして語り合ってるのも一生に一度きりの機会だよ!」
「また大げさな……」
「大げさとか……大事じゃん」
「はいはい」
以前とは変わったうみちゃん。あの頃は──といっても数週間前だが──彼女の考えていることが全くわからず、振り回されて、気づけば好きになっていた。誰よりも綺麗で、不思議な人で、目が離せなかった。今も、充分だけど。
やけに静かになった。あしらったから怒っているんだろうか。
隣を見ると、うみちゃんは僕と反対の方向を向いていた。拗ねているんだろう。
「うみちゃん?」
呼びかけても返事なし。
とんとん。
肩を叩いても嫌がる素振りを見せるだけでこちらは向かない。
こうなったら。
ぷに。ぷにぷにぷにぷに。
うみちゃんの頬に容赦なく人差し指を刺す。一回でやめるつもりだったが、あまりに気持ちいいので何度も繰り返してしまう。手が止まらない。
空いた方の手で僕の頬を触る。硬い。うみちゃんの頬はふにふにしている。俗に言うマシュマロ肌?
「……やめてくれませんか」
やっと声を出した、と思ったら涙声。しかも敬語。
「ごめん」
「なんで謝るの」
「あしらったから、怒ってるんでしょ」
「別に……君は悪いことしてないもん。ちょっと感傷に浸ってただけです」
「なんで今浸るのさ」
「浸るべき時だったんだもん」
「やっぱ僕のせいだよそれ」
「うるさいよ!」
振り向いたうみちゃんの目からは、まるで空から星が降ってくるように、キラキラと涙が溢れ出ていた。
三秒。目が合ったまま、僕達は止まる。なんだかデジャブ。
そのままうみちゃんの顔が歪む。うみちゃんをこんなに泣かせたのは僕だ。
迷った後に、僕の腕がうみちゃんを包む。うみちゃんは一瞬跳ねて、そのまま僕に委ねる。
「ごめんね」
耳元で呟いて、僕は頭を撫でた。
コメント