最弱が世界を救う。

しにん。

最強VS最強。

ゼノによる斬撃は、反撃どころか回避すらも危うい速度だった。
正直なところアブノーマルの力を借りたエクスでさえ、ギリギリ見えているレベル。


「ちょこまかと!アブノーマルの力とは厄介だな」


「それは御生憎様だろ」


一瞬できたスキを見つけ、エクスは渾身の力で拳をぶつけに行く。


「エクス、それは罠―――」


ソロモンの声は一歩遅く激しい痛みが全身へ行き渡る。
多少なりとも手加減はしてくれたのだろうか、全身が痺れる程度で済んでいた。


「さて、おしまいだよエクスくん。大人しく投降してくれないか?」


剣先を首元へ突きつけ、再び交渉へと持ち込む。
しかし、臆することなくエクスは口を開く。


「なぁ、ケラウノスがお前の切り札か?」


「恥ずかしいことながら、否定はできない」


「だったら、お前の負けだゼノ」


「それは一体どういう事だ」


「切り札は最後までとっておくべきだ。命をかけた戦いならなおさらだ」


魔法を使えないと、ゼノは油断をしていた。
そのため目の前の現状が、幻影にも見えた。


「グリモワール・ゴエティア展開オープン


突然現れた本は、パラパラとめくれて行きあるページで止まる。


召喚イヴォーク、ハルファス」


黒い輝きを放つ本から飛び出てきた悪魔は、エクスの肩に降り立つ。


「召喚に応じて参った。お前が新たなご主人か?」


「いや、お前のご主人は最初から最後までソロモンだけだ。けど、ま、今は今だけは力を貸してほしい」


悪魔は無言で頷くと、黒い炎へと姿を変える。
呆気を取られたゼノは開いた口が塞がらない。
禁書とされたゴエティアが、再び目の前にあるからだ。
ソロモンの死の報告を受けた際、使える者はソロモンのみと言われており一安心をしていた。
しかし、今目の前ではエクスが禁書の力を引き出していた。


「エクスくん……君は何をしているのかわかっているのかッ!!」


「わからねぇよ、でもよこの冤罪をかけた野郎を俺は一発ぶん殴るまで動き続ける。今は一秒でも無駄にはできない」


「何が君を動かすのかは知らない。それでも私は私の目的のために君を止める」


エクスの周りを燃えていた黒き炎は、右腕へとまといつく。
炎は細く伸び、一つの剣へと姿を変える。
黒い剣は生きているような輝きを放つ。


「ハルファス、お前の力は聞いている。全てを喰らうために戦っているんだろ?」


「簡単に訳すとそうなる、お前は俺に何を喰わせてくれるんだ?」


「っじゃ、世界最強の男の魔法なんてどうだ?」


「ハッ、いいぜ?俺の力存分に使え!!」


黒い炎は、やがてエクスの顔の半分まで覆い尽くす。
ゼノは悪魔に喰われていると勘違いをしていたが、変わらない様子を見て違うと察する。
ならば、力を取り込んでいると答え辿り着く。


「世界最強の男……か、世界中の皆は君が世界最強だと言っているが?」


「知らないよそんなこと、俺はゼノが最強だと思ってるからな」


「ありがたきお言葉、ならば世界最強の座は渡す訳にはいかない」


血相を変え、鬼の形相でゼノは真っ直ぐに突っ込んできた。
ケラウノスとハルファスがぶつかると、凄まじいほどの金属音が響き渡る。
辺り一帯の窓ガラスは割れ、散乱していた。
建物自体も戦いの衝撃を受け、いつ崩落してもおかしくなかった。


「そんなものか、君の力は!!」


「まだまだぁ!!」


その後も何度も剣を交え、少しずつ体力を削られていく。
先に体力尽きたのは―――


「やはり、まだまだ世界最強の座は私のようだねエクスくん」


エクスは片膝をつき、息を切らしていた。
ゼノは増援として遅れて登場したため、エクス以上に体力の消費は少なかった。


「もう終わりだよ、今度こそ大人しく投降してくれるよね?」


「何度も言わせるな……俺は……まだ……ッ!!」


「ならば、無理矢理にでも戦闘不能にするからね」


ゼノは剣を振り上げ、魔力を集める。
一点に集中した魔力は、雷へと変えバチバチと音を立てていた。


「君の負けだよエクスくん」


「それはこっちのセリフだッ!!」


「なにッ―――」


その場から全力で逃げ、ゴエティアの力を発動させる。


「エクス、ここで召喚する悪魔を間違えるなよ」


「わかっている……グリモワール・ゴエティア展開オープン召喚イヴォークパイモンッ!!」


眩い光は、一人の人間の形へと姿を変える。
現れた人間は、頭に大きな王冠を乗っけた女性に見えた。
すると突然、女性は大きな声で叫びをあげる。
何を言っているのか理解出来ず、必死に耳を塞ぐ。


「エクスそいつを召喚することは正解だが、そのじゃじゃ馬お前に乗りこなせるか?パイモンは最初、召喚者の命令を聞かせるために黙らせる必要がある、ま、頑張れよ」


「パイモンッ!!静かにしてくれ」


「―――」


未だに叫んでいた内容は伝わらなかった。
悪魔のみに理解できる言語なのだろうか。


「どうやって静かにさせればいいんだ」


その時、エクスは脳内にレインの顔を浮かべあげた。
女性が喜ぶことをすれば……いいのかな。
わけも分からず、エクスはパイモンへと歩み寄り優しく抱き寄せる。


「落ち着いて、パイモン。君の力を貸してほしいんだ」


「ルシ……ファー……様?」


パイモンの叫びは止み、なにか言葉を発していた。
ルシファーと単語を聞き、エクスはソロモンへと語りかける。


「ルシファーって、どういう事だ?」


「そいつは元天使だ。ルシファーの忠実なる部下らしいぞ」


「ルシファー様の力を確認。貴方はルシファー様ですか?」


「ごめんね、パイモン。俺はルシファーじゃなく、エクスだ」


「……?ルシファー様の魔力を感じるのですが?」


「何故だろうね?それよりも、今は君の力が欲しいんだ。力を貸してくれないか?」


「わかりました、では誰を忠実なる部下に?」


「一時的で構わない。目の前のゼノを従わせることは可能?」


コクリと頷き、両手を合わせ一つの玉を生成する。
浮遊する玉はゆらゆらと動き始め、やがてゼノへと向かう。
不意をつかれ、避ける間もなく来たためケラウノスで一刀両断する。


「その程度の攻撃痛くも痒くもないぞ」


「っじゃ、手始めに跪け」


ゼノの体は、一瞬で地面に膝をついた。
何をされたかすらもわからないこの状況を打破するため、必死になって足を動かそうとするが動かない。


「パイモンの能力は、どんな相手でも忠実なる部下に仕立て上げることが出来る。つまりは詰みだよゼノ」


「ぐッ……!!」


動けないゼノを横目に、エクスは外へと通ずる道をゆっくりと進む。

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