最弱が世界を救う。

しにん。

《憤怒》5

「きゃはははは、まさか、自分自身にここまでズタボロになるとはァ思わなかった」


「スペルビアよ」


素手と素手の戦いから、剣と斧の戦いに切り替わる。
レインが手にするスペルビアと呼ばれる短剣。
サタンが手にするのは地獄の岩から作られた斧。


「《憤怒》よ、あまり図に乗るでない」


「自分自身に負けるつもりは更々ねぇ!!」


大きく斧を振り回し、レインの横腹目掛けて。
その一撃はとても重くスペルビアで防ぐが、いつ折れてもおかしくないと言わせるほどの衝撃が周りへ行く。
辺り一帯の草木は根っこから引きずり出され、城はギリギリ持ち堪えていると言っても過言ではなかった。


憤怒の裁きジャッジメント


展開される魔法陣は、戦場一帯の地面に映し出される。
レインは一度も警戒することなく、サタンをただ見つめる。


「お前は、有罪ギルティーだ」


サタンは陽炎かげろうのように、揺れ始め消える。
それでもなお、レインは警戒はしない。
剣を構えるのをやめ、次第には剣を下げる。


「へっ、なんだ?負けを認めるのか?」


「そんな攻撃、攻撃とは呼べない」


たった一歩動き、剣を前へ突き出す。


「バカなッ!?お前、俺様のことが見えていたとでも言うのか?」


ファントムですら避けることが不可能だった攻撃を、レインは避けるどころか反撃を喰らわせた。
その事実を受け入れられないのか、サタンは姿を現す。


「有り得ない有り得ない。貴様ッ!!一体何しやがったッ!!」


「ただ姿を消すだけで、私から一本取れるとでも自惚れていたのか――お前に負けるほど私は弱くない」


「あぁ、貴様はそうやって俺様を馬鹿にする……あぁ、イラつくぜイラつくぜ、イライラするなぁ!!」


サタンから、地獄を連想させる赤い炎が立ち上がる。
炎で服は燃え、その炎で服をつくろう。
やがて、赤い炎はサタンの体を包み込む。


「まさか、奥の手まで出さないと行けないとは……不完全な憤怒サタン・フレイム


「やっとまともな力を見せるつもりになったのか」


「しゃらくせぇ!!」


いきなり飛びかかり、勢いを乗せたパンチ。
流石のレインも避けることは無理と判断し、手を交差させ防御の構え。
拳が触れた瞬間、爆弾のような爆発音と爆風に一同吹き飛ばされる。


「これが《憤怒》の力――」


「セレネさん、気をつけてください!!第二波来ます!!」


セレネとリリーが見た光景はまさに――地獄。
二人の周りには、未だに燃え続ける炎。
火の海と化した地面はサタンの怒りを表しているように思えた。


「まさかとは思ったが、これも効かねぇのか」


「あまり私を見くびるな、《憤怒》。所詮貴様は、私の劣化版に過ぎない。力というのはな、こう使うんだよ」


指を鳴らすと、サタンの周りを複数の火柱で囲う。
逃げ場を無くしたサタンは自らで道を切り開くために、全身からほのおを爆発させる。


「眼には眼を歯には歯を――火には火を!!」


レインの炎を飲み込み、我が力へと。


「だから、力の使い方がなってないって」


「まさか――ッ!!」


サタンが殺気に気づくのに遅れたことにより、レインの策略に引っかかる。


「派手な火柱は偽物フェイクかッ!!」


火柱に目がいった事により生じた隙を、レインは当然のように仕掛けた。
死角からの、攻撃。
サタンの背中には、レインが持っていたスペルビアが綺麗に突き刺さっていた。


「ガハッ……」


「力というものは必ずしも強さとは違う。力というものは勝利への道具だ」


口から血を吐き出し、片膝をつくサタンにレインは上から見下す。
自分が圧倒的な勝者だと思わせるために――




「なぁ、ケイル。早く呪いを解いてくれ」


「君は戦闘狂なのかね?世界を救う以前に君が戦闘狂だった場合、救った後どうするのかね?」


「そんなの知らない。俺は今俺が為すべきことをするだけだ」


額に手を当て、ケイルは大きな声で笑い始める。


「いやぁ、失敬。為すべきことをするだけ――ですか。確かに今君がするべきことは、《憤怒》と《傲慢》の悪魔の処理。そのためには君の本来の力が必要」


エクスは静かに頷く。


「だから早く呪いを解いてくれ」


「それじゃあ、呪いを解く前に一ついいことを教えてやろう」


メガネをクイッと上げ、ニコリと不気味な笑を漏らす。


「《憤怒》の悪魔の目的を」

「最弱が世界を救う。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く