最弱が世界を救う。

しにん。

《憤怒》12

「さて、準備を開始するか」


エクスは座禅し、集中力を高める。
回復を優先しろと言われたがいかんせんエクスには体力や魔力を回復する力がない。
仕方が無いため、呼吸を整え瞑想する。
目を瞑ると目の前にはソロモンが静かにこちらを見ていた。


「エクス、念のために言うが私の剣を使うということは私の跡を継ぐことになる。それでもいいんだな?」


「別に大丈夫だが、後継者になったら何かなるのか?」


「何かなる、ではない。私の跡を継ぐとなると、人間と悪魔の両方のおさになる。つまり、これからの時代エクスが世界を引っ張っていくんだ。私という存在を歴史から消さずに、未来に紡がれることは大変喜ばしい。それ相応の代償を受けるんだがな」


「俺はソロモンの力を継ぐとか正直どうでもいい。俺は今あるこの世界を――俺が愛した人が愛した世界を守る。そのためになら俺は命だって燃やし尽くしてやる」


闘志を燃やし、エクスはゆっくりと立ち上がる。
万全とは言いがたいが、十分に戦えるまでは回復出来た。
後は二匹の龍の魔力を待つまでだ。
すると、誰かから話しかけられる。


「お前は一体何を望む」


「俺は――」


いきなりの質問に、開きかけた口はゆっくりと塞がる。
本当の願いをエクスは考える。
エクスにとってこの世界とは、悪魔とは人間とは、
仲間とは、知り合いとは。


「答えを聞かせてはくれないか?」


「俺の願いは……いいや、俺のやるべき事は世界を救う事じゃない。世界を未来へ導いていく事だッ!!」


「いいぜ、面白くなってきた!!我が主、ソロモンの剣――シャムシール・エ・ゾモロドネガル。新たな人間の王とし、エクス・フォルトを任命する。存分に働いてくれ、人間の王よ――」


その言葉が聞こえなくなると、右手には見知らぬ剣が握られていた。
全体的にエメラルドを装飾されており、碧く輝いている。
魅入ってしまうほど綺麗なものだった。
我に返り、龍達の魔力を確かめる。


「あと少しだ、あと少しで……頼む間に合ってくれ」


「大丈夫じゃ、ゼノ達が時間を稼いでくれておる。ゆっくり、確実に魔力を練るぞ」


ゼノ達の戦闘を見ていると、一気に追いやられている光景があった。
全員が軽くあしらわれていた。
それを見ているだけで、今のエクスには何も出来ない。
自分が出たところで戦力の足しにもならない。
その現実こそがエクスの闘志をより燃やす。


「話がある、少しだけだ」


物凄い剣幕で、戦闘を見ていたエクスはソロモンズリングへと意識を向ける。
何やらソロモンから話があるようだ。


「魔力が集まるまでだ……で、話ってのは?」


「お前は私の正式な後継者となった。その自覚を持てよ?お前はもうただの人間じゃないんだ、人間の王なんだ。ちゃんと人間を――守れ」


「言われなくとも、任せろッ!!」


自らの胸を叩き、高らかに宣言する。
その行動を見てかソロモンの声は若干柔らかくなった。


「それじゃ、後のことは任せた。行くぞミルティ」


「はい、ソロモンさん」


ソロモンの言葉の意味が、咄嗟のことで理解が出来ない。
ミルティもソロモンに続いて何かをするつもりなのだろうか。
わからないことだらけで、聞いてみることにした。


「私がこの世界にいる理由は二つだ。そのうち一つはエクスが叶えてくれると信じている。そして残り一つは――今さっき終えた」


「まさか、いる理由がないから消える……と?」


「私はとうの昔に死んだ英霊だ。ここにいたことが、本来ならば有り得ないことだと分かってくれ。それに私の願いはもう叶った。何も思い残すことは無いさ、ミルティも居てくれるんだし」


「エクスさん、もう二度と逢えない最後のお別れです。その……今までありがとうございました、この後の世界のこと任せましたよっ」


声だけだが、ミルティは少しだけ泣いているようだ。
いや、今はそれどころではない。
ソロモンが居なくなるということは、これ以上悪魔の力を借りれないことになる。
ソロモンとミルティの力無しでは、目の前の敵に勝てる気がしない。


「おっと、止めようとするなよ?これは私が決めたことだ、邪魔をすると言うのならば誰であろうと容赦はしないぞ」


声だけで伝わってきた。ソロモンは本気だ。
これはもう止めることは不可能。
だったら、かける言葉は一つしかない。


「わかった……もうお前を止めても無駄なんだな。今までありがとうな、お前に沢山の事を助けてもらったよ」


「人を助けること、それもまた人間の王としての責務よ。それと、こちらこそありがとうな。お前と接したこの短い期間随分と楽しませてもらった。いつかまた逢えるといいな――」


その言葉を最後に、ソロモンズリングにヒビが入り壊れていった。
拳をぐっと握り締め更に闘志を燃やす。
その炎は生半可なモノでは消すことは出来ない。


「小僧、ワシらの準備は完了じゃ。いつでも行けるぞ」


「お嬢の仇を取りに行くぞ」


「シャムシール・エ・ゾモロドネガル……だっけ?名前長いな……」


「名前が長いと思うなら、短くしてくれても構わんぞ主よ」


剣自らの申し出に困惑する。
剣が話しかけたのだから、驚かない方がおかしい。
しかし、驚いたのはエクスだけだった。


「お前喋れるのかよ……短くしていい、か。そうだな、あまりいい案がないからゾモロドネガルでいいかな?」


「いいだろう、さて主。戦争の始まりみたいだ。早く行かないと仲間が全滅するぞ?」


戦場へ意識を向けると、明らかな数の差をものともせずサタンがそこには立っていた。
他に立っているものは――いない。
四人がかりで倒せなかったのだ。


「あの炎は……まさか、ゼノがやられているのか!?」


戦場に咲く花のように、一つだけおかしな所があった。
一箇所だけ炎が消えずに残っていた。
目を凝らし見てみると、もがき苦しむゼノの姿があった。


「それじゃ皆、行くぞッ!!」


「「「おう!!」」」


返事とともに、龍たちは一つの丸い形へと姿を変えるとエクスの体の中へ消えていく。
その瞬間、エクスの背中から翼のような炎と水が生成される。
炎と水の翼を羽ばたかせ、エクスは戦場へと向かう――

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