嫌悪感マックスな青春~マジでお前ら近づくな~

黒虱十航

入学式~1

俺が中学生の春先。桜は若干散り始め中学校への登校路を歩いていた。この道も完全に覚えている。ハンデキャップももろともしないほどの努力。それが俺にはある。生まれてこの方ずっとずっとこの努力を欠かすことはなかった。そのおかげで小学校では何とか俺の持つハンデキャップを誰にも知られることが無かった。といっても昔から俺は、努力が好きだったのだ。育成ゲームをやるならば個体値厳選は、欠かさずやったしレート戦などだって自分の納得いくまでずっとやり続け戦法を考えた。小学1年生の頃だ。それまでにも独学で勉強し続けて自分の納得いくまで自分の知力を高めた。その頃には既に小学2年生の範囲は終えることが出来ていた。それもこれも全部、誰かに褒めてほしいとか誰かの為とか感謝されたいとかそういうことのためにやったんじゃない。ただ、自分がやりたかった。他より優位に立っていたかった。だが、現実とは非情だ。俺の学力に驚いた両親は小学校に入ってすぐに塾に入れた。しかも小学3年生レベルのコース。俺はそこでも何とか頑張ろうと決めていた。小学校では人生というゲームを攻略するために上手に媚を売り上手に仲間をつくり。そうやって俺の世界は全て努力でかたどられてきた。
ある程度歩くと名門私立夢丘中学にたどり着いた。これまでの距離、大体2キロメートル。電車を使うことも考えたがとりあえず初日は徒歩である。これには無論このハンデキャップが関係しているのだがそういったことを考えている余裕も無い。中学校入学式。どう考えたって俺からすればボス戦なのだ。ここで上手に関係を作ることが出来たものがその学年の中で優位に立てる。そうすれば後は、大人への対応だ。これは直接関係性に響いてくるわけではないんだけれど大人と仲良くなっておけば後々有利になる。そもそも信頼を得ておけば色々と助かるのだ。このハンデキャップを隠す上でも。実を言うと俺のハンデキャップについて気付いているのは両親と下にいる妹ぐらいだ。いや、まだ妹は小学4年生だし気付いていないかもしれない。まあ、後々もう一度話すことになるだろうけど。だが、小学校では教師にすら悟られずに済み、親も話す必要が無いと判断した。俺がこの呪いみたいなハンデを背負ってすぐに気付かれない努力を極めたから、というのがあるだろうが何より実の息子、しかも”将来が有望だと思っていた”息子がそんなハンデキャップを背負ってしまうだなんて考えたくも無かったんだろう。
「すぅちゃん?どうしたの?具合でも悪いの、考え込んじゃって」
「あ、いや、なんでもない。ちょっと色々策を練ってただけだから。ほら、いつものあれだよ。」
そこまで考えていると隣にいた母親が俺に言ってきた。すぅちゃん、という呼び方は流石にやめて欲しいのだがもう、これ以上いってもしょうがないので諦めた。この母親には助けられた場面もあるし利用した場面も山ほどある。何せ、俺は両親や妹相手にコミュニケーションの特訓を隠れてしていたのだから。会話を切り出す技術は言葉のプロとも言える小説家の母親から、抑揚や表情はミュージカル俳優の父親から学んだ。
「ならいいわ。ほら、じゃあ、入りましょう」
「おう」
母に促され中学校の門をくぐる。他にも周りに多くの中学生がいるのが分かる。皆、難関入試を潜り抜けて来た頭のいい奴ら。しかも声を聞けば分かるように一部の小学校からは数人がそのまま来ているのかすでにグループが作られている。こういう時頭のいい小学校に入っていると有利だ。コミュニケーションとは印象で決まる。それはつまり前、だめだったとしても印象をもっていない人がみれば挽回の可能性がありそうじゃなければ挽回できない。小学校から引き継がれない場合小学校で悪い印象をつけてしまったものからすれば挽回のチャンスだろう。だが、な。俺は違うんだよ。俺は小学校から手を抜かなかった。失敗をすることがあってもそれを更に武器に変えてきた。印象をやっとのことでよくした。最大限に良好化させた。それがゼロになってしまうのは個人的には惜しい気もするがしょうがない。とりあえず俺も上手にグループに入らないといけない。とはいえ、ここから式場へ直行だ。その後で色々チャンスがあるのでそのときの方がよかろう。と、思ってしっかりと覚えていた道を進み式場(体育館)に向かう。だが、まだ大きい制服の袖を
掴まれた。母親だ。この力は確実に。振り向いて急になんだ?と顔でアピールする。
「ちょっと校長先生のところに行かなくちゃいけないからすぅちゃんも来て。すぐ終わるし校長室に行って少し話すだけだから。」
「・・・まあ、いいけど・なんだ?」
俺が何故行くのだ、と問うてみたもののスルーされて仕方が無く校長室に向かう。ここの場所から校長室までの距離を計算して母親の速度にあわせていく。この一つの動作にもどれだけの時間をかけたのか分からない。全てはあの日。あの時、あそこでああなってしまったからいけない。まあ、過去の事はどうでもいい。与えられた縛り条件の中でプレイしてトッププレイヤーを目指すだなんてそこらの実況者がよくやっていることだ。今更何か思うことがあるはずも無い。俺がこの世界でありのままでいられる場所。それがあるとすればそれはゲームの中だ。ゲームにのめりこんで時間を忘れてるあの瞬間以外は誰にみられても恥ずかしくないようにと常に仮面を被ってもっと上手く笑える、もっと上手に抑揚を付けられる、と練習している。だからゲームの中だけだ。それでも十分すぎるほどだけど。
「着いたか?」
「ええ、流石ね。入ったらあいさつ・・」
「分かってるって。」
俺は、母の声をさえぎってそういってから校長室の扉をとんとんとノックする。探り探りにすら見えるであろうその動きも俺ならばそつなくこなせる。そう、自身を持つに値するだけの苦しみを受けている。ナルシストだなんていわせない。
「失礼します。」
一言、そういって校長室に入って行く。とはいえ、流石にどこに座ったらいいか分かるはずは無いので校長先生に促されるままになってしまう。何だか申し訳ない気持ちになりながらもそこそこ良質なソファーに腰掛ける。
「よく来てくれた。猫実涼ねこざねすう君。君は、今年の我がこうの入試で最も高い点数をとった。なので今回は君に入学式の時の言葉を頼みたいと思ってね。それだけなんだが、やってくれるか?」
なるほど・・・と校長先生の話を聞いて思う。何せここの入試は合格者だけで点数は発表しないし順位も発表してくれないからな。1位だったとは驚いた。だが、それだけの努力があったってことか。ならそれに与えられる報酬も武器にするほかあるまい。
「ああ、やらせていただきます。光栄です。入学式まであと・・・10分って所ですか。2分くらいの分でよろしいでしょうか?」
「そうだ、な。うむ、頼んだ。原稿はこれに書いてくれ。普通の原稿用紙だがこれをとりあえず3枚渡しておく」
俺の問いに簡単に答えてくれた校長先生は俺に原稿用紙を渡してくれた。後はバッグに入っている筆箱からシャーペンを出してさらりさらりと書いていく。小説を趣味で書いている、ということもあって字はさらさらと浮かんでくる。パソコンでやっていて勝手が違うのでスピードは普段の3分の1程度になるがそれでも10分で800~1200文字なんてちょろい。


そして俺の中学校生活第一日目は、始まりを告げた。

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