嫌悪感マックスな青春~マジでお前ら近づくな~

黒虱十航

どかーん

「んあぁ・・・・・・・」
口に入れた紅茶ケーキの甘みが体中に染み渡る気がする。今日は、今まで以上にアクティブだった。ただでさえアクティブな最近だし明日も明後日も大変なのにこんなに疲労しきっていて大丈夫なのか甚だ疑問である。今までのゴールデンウィークは疲れをとるために寝てたはずだったんだけど何でこんなことになってしまっているのだろう。
「おお、かなりお疲れの様子だねぇ?」
「・・・・まぁ、かなり動きましたからね。むしろ生谷さんがそんなに平気そうなほうが異常なんですよ。ホント何者ですか?」
「何者って言われてもお姉さんはお姉さんよ?ほら、私のほうがテニスが得意だったってだけだから。そんな気に病む事はないよ。君、すっごい上手いじゃん。プロ目指せるでしょ?」
「そうですね。同年代じゃ負けなしだったんですけどね。まさか、ここまでぼろぼろに負けるとは思ってませんでしたよ」
「そうなのよねぇ。皆、見かけに騙される」
俺自身、生谷さんがここまでやるのは何となく予想がついていた。むしろこれでも本気を出していないとすら思ったし事実そうのはずだ。俺は、体力だってマラソン選手並だし聴覚や嗅覚、触覚など使えそうな感覚は視覚以外全て揃っている。超人並のはずだ。そんな俺に本気を出さずして勝つというのは自分を貶めてみたとしたって神だ。
「でも、それは君もでしょ?」
「・・・・・・・そんなこと無いですよ。俺は、見かけ通りの人間です。」
「ホントに?」
「そうですよ。それ以上だと思うなら過信のしすぎですしそれ以下だと思うなら俺の価値を理解していないってことですよ。」
折角の甘物がまずくなるといけないので口に運ぶ手を止めて話を聞く。それにしてもこの人、マジで俺と同学年なのだろうか。俺でさえ大人びてるのにこの人、70年生きた仙人なんじゃないかと疑うレベルだ。
「君は何?自分の外見が自分の能力をしっかり表わしてくれてると思ってるの?」
「だってそうでしょ?そんなのどうでもいいですよ。さっさと食べましょう」
話を中断するように促して紅茶ケーキを切ってくりに運ぶ。結構糖分が聞いていて美味しい。もぐもぐもぐもぐと口を動かすが、甘みは切れるどころか増していく。
「ホント、おいしそうに食べるのねぇ。」
「ん?ああ、そうですか?」
「うん。無意識だとしたら正直本気で女の子に見えるし」
「えーっと俺ってなにやってるんですか?」
「いやぁ、口に入れてかんでるとぎゅって縮んで目をつぶってるしたまに、『んんっ~~』ってうなってるよ。マジ可愛い。私、可愛いものには目がないのよね」
指摘されて振り返ってみると確かに無意識にやってたかもしれない。だってこれ、マジで美味しいんだもん。今後、通おうか迷う。
「可愛いもの・・・・・・・・じゃあ、思いやり部に興味を持ったのもそれが理由なんですか?あれこれ理由を言ってはいますけど」
「んーー、そうかもねぇ。君達、すっごい可愛いもん。無邪気というか純粋無垢というかね。ホントそういうの大好きだよ」
『だって潰したくなるから』と、聞こえた気がした。この人への偏見から生まれた空耳だろうしそれで勝手にこの人を怖い人だって認めるのは酷いだろう。こんなにも笑顔で外見は可愛い女の人がそんなことを考えているはずが無い。
「まあ、女の人は、可愛いものが好きですからね。」
「そういうこと。」
会話が思わぬところで始まってしまったが胃がキュルキュルするような内容じゃなかっただけよかった。紅茶ケーキを味わいながら食べてたまにチーズケーキにも口をつける。若干の酸味も加わってさらに美味しい。
「あー・・・・それにしても今日は久しぶりに誰かと遊んで楽しかったよ。たまには一人じゃなくて誰かと遊ぶのもいいかもね」
いきなりそんな純粋で可愛い声を出すものだから驚いてしまう。俺は、味覚は平凡だからそういう驚きがあると一瞬味覚を捨ててべつの感覚に意識を移動してしまう。そのせいで折角のケーキの味が一瞬楽しめなかった。
「ぐぐっ。はぁ。そうですか?」
「え?」
ちょっと機嫌が悪くなったのでついつい悪態をついてしまった。だが、神様に「え?」だなんて聞かれてしまえば会話を切る事もできないだろう。まあ、生谷さんの目がしっかり輝いてるし機嫌を損ねたわけじゃないのだろう。
「ふーん・・・・・・どういうこと?」
「あ、いや色々あるじゃないですか?それこそ誰かと遊びに行くってなったときに今回みたいな例外はともかく大抵の場合は友達とか言う関係で来るじゃないですか?」
「うん、そうだね。」
「でも友達って不確定じゃないですか?そんな不確定な人と遊んだってめんどくさいだけですし何より疲れるだけでしかないんですよ。」
「そーいう考え方もあるのかな。私、友達なんて出来た事ないけど」
その言葉がものすごく腑に落ちた。確かに、生谷さんは自分は、友達がいないという風に自称していた。でも、それは不自然に思っていた。これほどの人が友達を形式上でもつくろうとは思わないし。けれどもこの人には、対等な関係をもてるような人物がいないのだと思う。
「高校生になって友達とか言ってる時点でまだまだ幼いんでしょうけどね」
「そう?幼くないでしょ。まあ、お姉さんからしたら幼いけど」
「それって他の人にも言ってるんですか?」
「え?いや、そんなわけないじゃん。私、クラスの人と会話しないもん」
「まあ、そうですね。よく考えたら分かります」
「でしょ?」
それっきり会話が途切れて俺と生谷さんはそれぞれに注文したケーキをうなりながら食べていた。例えばこれがラノベならケーキの交換とか分け合いっことかするんだろうけど俺というラノベ主人公と諸所ですれ違っている人物からすればそんな事はまずありえない。残念系でもない辺りが全く悲しい部分であろう。


「ふわぁぁ・・・。結構暗くなっちゃったねぇ。」
「そうですね」
スイーツを食べ終わり外に出るとすでに日は落ちかけてきていた。時間は5時。夕方といってもいいし寄るといっていいぐらいの時間帯だ。昨日の春の料理を思い出すとちょっと帰りたくない願望がわいてきてしまう部分ではあるが今から急いで帰れば何とかなる気もする。
「お姉さん、眠くなっちゃった。ねぇ、おんぶして?」
「は?」
そんなことを考えていると唐突に生谷さんが変なことを言ってきた。わざとかもしれないが目もこすっているし体のようすも眠る方向に向かっていた。だがこの人のことだから体の調子すら操れる可能性もゼロじゃない。流石に体の調子を操作して体を眠らせたりは出来ない。
「ねぇ、駄目?」
「・・・・・・・おんぶって子供じゃないんですから―――」
「だ・め?」
「っう・・・・」
さっきまでお姉さんぶってたくせに急に子供のような無邪気な声で甘えてくる。確かに俺も声のトーンによって印象を変えられるがそれでも俺以上の能力をもつ女の人がやると全然違う。ほんとにこの人は、理解しきれない。何でこんなことをする必要があるのか。この人ほどの人物なら体を一時的にでも活性化させることなんて容易いことだろう。それなのにどうしてわざわざ俺にこんなことを言うのか・・・・。
「ねぇぇ、だ・め?」
「何か・・・・・流石っすね」
「ぅぅぅうう・・・・・・駄目なのぉ?」
駄目だ。この人、俺が了承するまでこのモードを貫くつもりだ。

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