彼女は、オレの人肉を食べて強くなる。
オヌシの心臓が食いたい
クレハとともに、オレは止まっている馬車の中で眠った。先に「すぅすぅ」と寝息をたてはじめたのはクレハだった。さっそく逃げ出すチャンスが到来したのではないかと思った。
しかし鎖は、クレハに握りしめられたままだった。眠っているのだから、強引に引っ張れば逃げられるかもしれない。だが、クレハのことを起こしてしまったらと思うと、臆してしまう。逃げたり、抵抗したりすれば、その場で食らう――というクレハの脅迫が、脳裏で鳴り響いていた。
オークはクレハだけじゃない。
ソッと天幕の隙間から外を覗いてみると、オークたちがランランと輝く目を、こちらに向けていた。
あわてて閉めた。
スマホで警察に連絡しようかと思ったのだが、スマホはどこかに落としてしまったようだ。地球に取り残されたのかもしれない。そもそも、スマホがあったとしてもちゃんと機能するかどうか怪しいものだ。
今はまだ逃げないほうが良さそうだ。4年もあれば、もっと安全に脱走できるチャンスが訪れるはずだ。
4年。
大人になるまでは、生かしてくれると言っていたのだ。
そう思って、オレも眠ることにした。外で寝るなんてはじめてのことだった。だが、馬車の中は天幕のおかげで、個室をつくりあげていた。そのため、外にいる感じはしなかった。
何か熱いものが頬の上を這いまわる感触で、目を覚ました。クレハが下品に舌をつきだして、オレの頬をナめ回しているのだった。その姿はまさに、オークと言うにふさわしい品性の悪さが帯びられており、同時に、妖しげな色気もかもし出されていた。
「う、うわぁぁッ」
食われると思って悲鳴をあげた。
「しーッ。そんな大声出すでないわ」
と、クレハはオレの口をふさいできた。そのチカラの強さは、オレの事を抑えつけるのに充分だった。
「うぅ……」
「食ったりせんから安心せい。そんな大声を出すと、我が味見をしていたことが、みんなにバレてしまうではないか」
オレの口から手が離された。
「食べられるのかと思って、ビックリした」
「なぁ……。ちょっと、ほんの少しでいいんじゃ」
クレハは親指と人さし指で、何かをつまむようにして、そう訴えてきた。
「何が?」
「もうチッとだけ味見させてくれ。頼むからジッとしておいてくれ」
「噛んだりしないよな」
「噛まん。噛まん。ナめるだけじゃ」
「それぐらいなら、いいけど」
はぁはぁと息を荒げて、クレハはオレの首筋に顔をあずけてきた。激しい吐息が首筋にかかって、オレのほうも変な気分になってきた。立場が逆だなと感じた。本来であれば男が息を荒げて、女性を襲うものだ。オレは今、少女に襲われている。
悪い気分ではなかった。
クレハは美しい顔立ちをしているし、そんな美少女がオレを求めてくれているのだと思うと、満ち足りた気分になるのだった。
舌が、首を這う。
その感触は、全身に電流を流すようだった。
「う、美味い……。表面だけでもこの美味さ……。美味いだけではない酷くなつかしい味もする。はぁぁ。たまらんのぉ。この肌を食いちぎってやりたくて、仕方がないわ」
クレハが預けてくるカラダはやわらかい。少女そのもののカラダだった。その上、少女特有の芳烈がたちのぼっていて、オレの鼻腔をくすぐった。
「おい、そろそろいいだろ。オレも男なんだから、そんなことされると、変な気分になるから」
オレはクレハの肩に手をかけて、押しのけようとした。オレの手にすっぽりと収まってしまうほど小さな肩なのに、岩のようにビクともしない。
「誰にも言うでないぞ。我だけ味見していたとなったら、他の者に示しがつかんからな」
「言わないけどさ」
「じゃあ、もう少しだけ。なぁ、どこか食っても良い場所はないのか? 指の一本ぐらいはかまわんじゃろう。一方の眼球でも良いぞ」
「ダメダメ! 食べたら大声出すからな」
目玉なんか取られたら、最悪だ。
「ぐぬぅ。仕方がない。オヌシがもっと丸々と太るまでの辛抱じゃな」
クレハは、カラダを離してくれた。
離れたときクレハの顔が見えた。とろけきった表情だ。この世の快楽を全身に浴びたような顔をしている。クレハの桜色の唇は、いやらしくヨダレで光っていた。オレのカラダはそんなに美味いのだろうか――と、自分の手の甲をナめてみたのだが、なんの味も感じられなかった。
食べられるのは厭だが、クレハに襲われることは厭ではなかった。むしろ自分の首を這うクレハの舌の感触は、癖になりそうだ。
「オレが二十歳になったら、食べるんだよな?」
「うむ」
「それは、諦めてくれないか?」
「うにゅ?」
と、舌足らずな調子で、疑問を呈してきた。
「ナめて味わえるなら、それでいいじゃないか。死んだらもうナめられなくなるんだしさ」
「何を言う。イチバン美味いのは、ここ」
クレハがオレの胸を人差し指で突いてきた。
「胸?」
「心臓じゃ」
自分の心臓がトクンとひときわ大きく跳ねる感触があった。
「人間の心臓を食うときの悦楽は最高じゃ。以前に人間の心臓を口にしたとき、まだ脈打っておったんじゃがな。そのときの食感といったら! 殺されるよりも甘美な衝撃じゃった」
それはいったい、どんなもんなんだろうか。
想像もできない。
「異世界人の心臓を食ったときの感動をもう一度味わいたくて。オークたちはウズウズしておるんじゃ。が、まさか異世界召喚で子供を呼び出してしまうとはなぁ。失敗じゃった」
しかし鎖は、クレハに握りしめられたままだった。眠っているのだから、強引に引っ張れば逃げられるかもしれない。だが、クレハのことを起こしてしまったらと思うと、臆してしまう。逃げたり、抵抗したりすれば、その場で食らう――というクレハの脅迫が、脳裏で鳴り響いていた。
オークはクレハだけじゃない。
ソッと天幕の隙間から外を覗いてみると、オークたちがランランと輝く目を、こちらに向けていた。
あわてて閉めた。
スマホで警察に連絡しようかと思ったのだが、スマホはどこかに落としてしまったようだ。地球に取り残されたのかもしれない。そもそも、スマホがあったとしてもちゃんと機能するかどうか怪しいものだ。
今はまだ逃げないほうが良さそうだ。4年もあれば、もっと安全に脱走できるチャンスが訪れるはずだ。
4年。
大人になるまでは、生かしてくれると言っていたのだ。
そう思って、オレも眠ることにした。外で寝るなんてはじめてのことだった。だが、馬車の中は天幕のおかげで、個室をつくりあげていた。そのため、外にいる感じはしなかった。
何か熱いものが頬の上を這いまわる感触で、目を覚ました。クレハが下品に舌をつきだして、オレの頬をナめ回しているのだった。その姿はまさに、オークと言うにふさわしい品性の悪さが帯びられており、同時に、妖しげな色気もかもし出されていた。
「う、うわぁぁッ」
食われると思って悲鳴をあげた。
「しーッ。そんな大声出すでないわ」
と、クレハはオレの口をふさいできた。そのチカラの強さは、オレの事を抑えつけるのに充分だった。
「うぅ……」
「食ったりせんから安心せい。そんな大声を出すと、我が味見をしていたことが、みんなにバレてしまうではないか」
オレの口から手が離された。
「食べられるのかと思って、ビックリした」
「なぁ……。ちょっと、ほんの少しでいいんじゃ」
クレハは親指と人さし指で、何かをつまむようにして、そう訴えてきた。
「何が?」
「もうチッとだけ味見させてくれ。頼むからジッとしておいてくれ」
「噛んだりしないよな」
「噛まん。噛まん。ナめるだけじゃ」
「それぐらいなら、いいけど」
はぁはぁと息を荒げて、クレハはオレの首筋に顔をあずけてきた。激しい吐息が首筋にかかって、オレのほうも変な気分になってきた。立場が逆だなと感じた。本来であれば男が息を荒げて、女性を襲うものだ。オレは今、少女に襲われている。
悪い気分ではなかった。
クレハは美しい顔立ちをしているし、そんな美少女がオレを求めてくれているのだと思うと、満ち足りた気分になるのだった。
舌が、首を這う。
その感触は、全身に電流を流すようだった。
「う、美味い……。表面だけでもこの美味さ……。美味いだけではない酷くなつかしい味もする。はぁぁ。たまらんのぉ。この肌を食いちぎってやりたくて、仕方がないわ」
クレハが預けてくるカラダはやわらかい。少女そのもののカラダだった。その上、少女特有の芳烈がたちのぼっていて、オレの鼻腔をくすぐった。
「おい、そろそろいいだろ。オレも男なんだから、そんなことされると、変な気分になるから」
オレはクレハの肩に手をかけて、押しのけようとした。オレの手にすっぽりと収まってしまうほど小さな肩なのに、岩のようにビクともしない。
「誰にも言うでないぞ。我だけ味見していたとなったら、他の者に示しがつかんからな」
「言わないけどさ」
「じゃあ、もう少しだけ。なぁ、どこか食っても良い場所はないのか? 指の一本ぐらいはかまわんじゃろう。一方の眼球でも良いぞ」
「ダメダメ! 食べたら大声出すからな」
目玉なんか取られたら、最悪だ。
「ぐぬぅ。仕方がない。オヌシがもっと丸々と太るまでの辛抱じゃな」
クレハは、カラダを離してくれた。
離れたときクレハの顔が見えた。とろけきった表情だ。この世の快楽を全身に浴びたような顔をしている。クレハの桜色の唇は、いやらしくヨダレで光っていた。オレのカラダはそんなに美味いのだろうか――と、自分の手の甲をナめてみたのだが、なんの味も感じられなかった。
食べられるのは厭だが、クレハに襲われることは厭ではなかった。むしろ自分の首を這うクレハの舌の感触は、癖になりそうだ。
「オレが二十歳になったら、食べるんだよな?」
「うむ」
「それは、諦めてくれないか?」
「うにゅ?」
と、舌足らずな調子で、疑問を呈してきた。
「ナめて味わえるなら、それでいいじゃないか。死んだらもうナめられなくなるんだしさ」
「何を言う。イチバン美味いのは、ここ」
クレハがオレの胸を人差し指で突いてきた。
「胸?」
「心臓じゃ」
自分の心臓がトクンとひときわ大きく跳ねる感触があった。
「人間の心臓を食うときの悦楽は最高じゃ。以前に人間の心臓を口にしたとき、まだ脈打っておったんじゃがな。そのときの食感といったら! 殺されるよりも甘美な衝撃じゃった」
それはいったい、どんなもんなんだろうか。
想像もできない。
「異世界人の心臓を食ったときの感動をもう一度味わいたくて。オークたちはウズウズしておるんじゃ。が、まさか異世界召喚で子供を呼び出してしまうとはなぁ。失敗じゃった」
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