彼女は、オレの人肉を食べて強くなる。
マッチ売りの少女と弱肉強食
クレハが勘定を済ませているあいだ、オレはクレハの後ろにくっ付いて手持ちぶさたにしていた。すると、厨房のほうからネコ娘が、こっちを見ているのがわかった。ネコ娘が3人いたのだが、3人は顔を寄せ合って何やら話をしていた。オレは会釈すると、あわてた様子で厨房の奥に消えてしまった。
「よし。戻るぞ」
と、クレハが勘定を済ませて言った。
「なぁ。なんかさっきから視線を感じるんだが」
「ん?」
厨房のネコ娘だけでなく、客の中にもオレに視線を投げかけてくる者があった。その目には何か物珍しいものでも見るような色があった。
「なんか顔についてんのかな」
「オヌシが珍しいんじゃろうな」
「珍しい?」
「黒髪に、黒目というのは、セパレートではかなりレアじゃからな」
言われてみれば、そのようだ。
エルフはみんな金髪か緑っぽい色の髪をしている。人間も赤とか白とか、いろんな色の髪があるようだが、漆黒というのはあまり見かけない。
「へぇぇ。黒髪に黒目が珍しいのか」
日本では別にイケメンでも何でもなかった顔だ。セパレートではけっこうな好印象なようだ。この黒髪が、そのために幾分か働いてくれているのかもしれない。誇らしい気分だった。そして、その気持はオレだけでなく、クレハの中にもあるようだった。クレハは満足そうな笑みを浮かべていた。
「そう。珍しいんじゃ。その黒い目玉、はよぉ食ってやりたい」
「食われるのは、カンベンなんだけどなぁ」
小声で抗ってみたのだが、トウゼン聞き入れてはもらえなかった。
歩いていると、ツツとオレの着ているブリオーの袖を引かれた。
「ん?」
クレハが引っ張ったのかと思った。違った。
見知らぬ少女が、オレの袖を引いているのだった。
オレたちと同じようなブリオーに身を包んでいる。プラチナブロンドのショートカットには、まるで美しい少年のような潔白さがあった。
「ん」
と、少女は棒を差しだしてきた。
「なんだ?」
「ん」
「しゃべれないのか?」
尋ねると、少女は首をタテに振ってきた。
さっきから棒を押し付けてくる。よく見ると少女はカゴの中に、大量の棒を入れていた。
「もしかしてマッチか?」
地球のものとは違っていた。それがマッチだとわかったのは、この少女の姿だ。どことなく童話のマッチ売りの少女を彷彿とさせる風体をしているのだ。
マッチ売りというのは貧民がやるものだ。地球ではそうだった。実際、目の前の少女もみすぼらしいカッコウをしていた。髪を短くしているのも、髪を整えるお金がないからかもしれない。
哀れを誘った。
「なぁ。クレハ。まだお金は余ってるか?」
「使わぬぞ。マッチなど要らぬわ」
と、とりつくしまもなかった。
クレハはオレを育てること以外には、まるで興味がないようだった。
「そう言わずにさ。1本ぐらいは買ってもいいじゃないか。あると便利だろうし」
「あのなぁ。オヌシ」
どうやらオレが考えているマッチと、セパレートのマッチとでは別物のようだった。セパレートのマッチというのは、木の棒に硫黄をつけただけのものだった。コスっても火は出ないのだそうだ。
「そんなもの要らぬわ」
とのこと。
残念ながらお金を出してはくれなさそうだ。
「ゴメンな。お兄ちゃん、お金持ってないんだ」
と、言うと、マッチ売りの少女は心底悲しそうな顔をした。今にも泣きだしてしまいそうな顔だ。
カワイソウだとは思うが、人が集まればそこに貧富の差が出来る。いちいち情をかけていたらキリがない。そういう意味では、クレハの態度もある意味正しいのだろう。もっとも、クレハは人間とは種族が違うので、ホントウに興味がないのかもしれない。
「ん」
と、マッチ売りの少女は、それでもオレにマッチを一本だけ渡してくれた。このマッチ一本が、マッチ売りの心の清貧さを証明しているかのようだった。マッチ売りはニコリと笑うと、別の客のもとへ商売に向かった。
「貧富の差があるのは、どこも同じか」
マッチ棒を見つめて、オレはそうつぶやいた。
「人間とは不思議な種族じゃのぉ。同じ種族だというのに、常に優劣を競いたがるんじゃから。貧富の差もそうじゃろう」
「まぁな」
たしかに人間はなんだって競い合いだ。競い合いではないことを、例にあげることのほうが難しい。
「優れたものだけこの世に残そうとして、劣ったものを殺そうとするチカラが大きすぎるのじゃな」
と、クレハは知ったふうな口をきいた。
「優秀なものだけ残そうとするのは、本能なんだろうな」
小学校から大学までは学業で競い合い、大人になれば仕事で競い合う。思えば人間というのはまるでそれが使命かのように、常に争い合っている。戦争だけではない。能力で争い、容姿で争い、異性で争い、金で争う。
敗者は指を差されて笑われて、勝者はあがめられる。いや。劣等種を殺そうとするのは、何も人間に限ったことではない。カラスは弱ってきたカラスを見つけると、食い殺してしまう――という話を聞いたことがある。
俗に言うところの、弱肉強食の摂理だ。
その理屈でいうならば、オレがクレハに食べられることも、仕方のないことーーということになる。
「ならば劣等種は、我らに与えてくれても良いのになぁ」
と、クレハは不服そうだった。
要するに、チョットは食糧として人間をわけろというクレハの愚痴なのだろう。マッチ売りの少女の姿を目で探したが、もう捕えることはできなかった。
「よし。戻るぞ」
と、クレハが勘定を済ませて言った。
「なぁ。なんかさっきから視線を感じるんだが」
「ん?」
厨房のネコ娘だけでなく、客の中にもオレに視線を投げかけてくる者があった。その目には何か物珍しいものでも見るような色があった。
「なんか顔についてんのかな」
「オヌシが珍しいんじゃろうな」
「珍しい?」
「黒髪に、黒目というのは、セパレートではかなりレアじゃからな」
言われてみれば、そのようだ。
エルフはみんな金髪か緑っぽい色の髪をしている。人間も赤とか白とか、いろんな色の髪があるようだが、漆黒というのはあまり見かけない。
「へぇぇ。黒髪に黒目が珍しいのか」
日本では別にイケメンでも何でもなかった顔だ。セパレートではけっこうな好印象なようだ。この黒髪が、そのために幾分か働いてくれているのかもしれない。誇らしい気分だった。そして、その気持はオレだけでなく、クレハの中にもあるようだった。クレハは満足そうな笑みを浮かべていた。
「そう。珍しいんじゃ。その黒い目玉、はよぉ食ってやりたい」
「食われるのは、カンベンなんだけどなぁ」
小声で抗ってみたのだが、トウゼン聞き入れてはもらえなかった。
歩いていると、ツツとオレの着ているブリオーの袖を引かれた。
「ん?」
クレハが引っ張ったのかと思った。違った。
見知らぬ少女が、オレの袖を引いているのだった。
オレたちと同じようなブリオーに身を包んでいる。プラチナブロンドのショートカットには、まるで美しい少年のような潔白さがあった。
「ん」
と、少女は棒を差しだしてきた。
「なんだ?」
「ん」
「しゃべれないのか?」
尋ねると、少女は首をタテに振ってきた。
さっきから棒を押し付けてくる。よく見ると少女はカゴの中に、大量の棒を入れていた。
「もしかしてマッチか?」
地球のものとは違っていた。それがマッチだとわかったのは、この少女の姿だ。どことなく童話のマッチ売りの少女を彷彿とさせる風体をしているのだ。
マッチ売りというのは貧民がやるものだ。地球ではそうだった。実際、目の前の少女もみすぼらしいカッコウをしていた。髪を短くしているのも、髪を整えるお金がないからかもしれない。
哀れを誘った。
「なぁ。クレハ。まだお金は余ってるか?」
「使わぬぞ。マッチなど要らぬわ」
と、とりつくしまもなかった。
クレハはオレを育てること以外には、まるで興味がないようだった。
「そう言わずにさ。1本ぐらいは買ってもいいじゃないか。あると便利だろうし」
「あのなぁ。オヌシ」
どうやらオレが考えているマッチと、セパレートのマッチとでは別物のようだった。セパレートのマッチというのは、木の棒に硫黄をつけただけのものだった。コスっても火は出ないのだそうだ。
「そんなもの要らぬわ」
とのこと。
残念ながらお金を出してはくれなさそうだ。
「ゴメンな。お兄ちゃん、お金持ってないんだ」
と、言うと、マッチ売りの少女は心底悲しそうな顔をした。今にも泣きだしてしまいそうな顔だ。
カワイソウだとは思うが、人が集まればそこに貧富の差が出来る。いちいち情をかけていたらキリがない。そういう意味では、クレハの態度もある意味正しいのだろう。もっとも、クレハは人間とは種族が違うので、ホントウに興味がないのかもしれない。
「ん」
と、マッチ売りの少女は、それでもオレにマッチを一本だけ渡してくれた。このマッチ一本が、マッチ売りの心の清貧さを証明しているかのようだった。マッチ売りはニコリと笑うと、別の客のもとへ商売に向かった。
「貧富の差があるのは、どこも同じか」
マッチ棒を見つめて、オレはそうつぶやいた。
「人間とは不思議な種族じゃのぉ。同じ種族だというのに、常に優劣を競いたがるんじゃから。貧富の差もそうじゃろう」
「まぁな」
たしかに人間はなんだって競い合いだ。競い合いではないことを、例にあげることのほうが難しい。
「優れたものだけこの世に残そうとして、劣ったものを殺そうとするチカラが大きすぎるのじゃな」
と、クレハは知ったふうな口をきいた。
「優秀なものだけ残そうとするのは、本能なんだろうな」
小学校から大学までは学業で競い合い、大人になれば仕事で競い合う。思えば人間というのはまるでそれが使命かのように、常に争い合っている。戦争だけではない。能力で争い、容姿で争い、異性で争い、金で争う。
敗者は指を差されて笑われて、勝者はあがめられる。いや。劣等種を殺そうとするのは、何も人間に限ったことではない。カラスは弱ってきたカラスを見つけると、食い殺してしまう――という話を聞いたことがある。
俗に言うところの、弱肉強食の摂理だ。
その理屈でいうならば、オレがクレハに食べられることも、仕方のないことーーということになる。
「ならば劣等種は、我らに与えてくれても良いのになぁ」
と、クレハは不服そうだった。
要するに、チョットは食糧として人間をわけろというクレハの愚痴なのだろう。マッチ売りの少女の姿を目で探したが、もう捕えることはできなかった。
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