彼女は、オレの人肉を食べて強くなる。

執筆用bot E-021番 

家畜のオレを太らせよう

 異世界生活で2日目の夜だった。最初の召喚された日を除けば、最初の夜ということになる。


 今日も月は5つ出ているのだろうか。それとも数が減っているのだろうか。森が空を隠しているために、わからなかった。


 夜の森は暗い。
 オークたちはカンテラを木の枝に吊り下げたりして、光を得ていた。


 オレの知らないところで人を襲ってきたらしく、オークたちは生きた人間を食い殺していた。


 何度見てもグロイ。


 人間は慣れる生き物だと言う。だが、そのお食事は、オレの精神を鈍感にはしてくれなさそうだった。


 オレはなるべく見ないように、木の根っこに目を当てていた。それでも、肉のちぎれる音や、咀嚼音、人の叫び声は聞こえてきた。


「ほれ、オヌシの分もあるぞ」
 と、クレハは桶イッパイの、真っ赤な肉をオレに差しだしてきた。


「だ、だから、オレは人間の肉は……」


「違う違う。これは人間の肉ではない。森の中にいた豚の肉じゃ。肉が食いたいと言ってたであろうが」


「豚肉?」
 取ってきてくれたのか。


 たしかに今日の昼、オレは肉が食いたいと言った。それを覚えていてくれたのかと思うと、すこしうれしかった。


「安心せい。ダマしたりはせん。そもそも我らにとっても、オヌシの健康は大切なものじゃからな」


 豚肉と聞いた瞬間に、強烈な空腹を感じた。人肉だと思っていると、食欲を奪われるのに不思議なものだ。


「でも、生だと食えないよ」
「どうすれば食える?」


「焼かないと」
「注文の多いヤツじゃ」


 と、クレハが愚痴りながらも、たき火を起こしてくれた。火打金から火だねをつくって、火を起こすところまで手際がよかった。慣れているのだろう。クレハは木の枝で乱暴に豚肉を突き刺すと、火であぶった。豚肉が焼けていくにつれて、肉汁がボタボタと落ちていた。


「おー。美味そう……」
 生唾を飲んだ。


「人はこんなもんを食うんじゃなぁ」


 ほれほれ――とクレハが豚肉の刺さった木の枝をオレの目の前で振った。もう我慢できなかった。かぶりついた。


「熱っ」
「当たり前じゃ。ほれ、こうして持っていてやるから、ユックリ食え」


 クレハが、魚釣りでもするみたいに木の枝を持ち上げたままにしていた。それにかぶりつくオレは、恥も外聞もないカッコウだった。が、腹が満たされるのであれば、何でも良かった。


 オークたちが、オレの肉を求めるのも、今のオレと同じ気持なのかもしれない。


「どうじゃ美味いか」
「ああ。美味い」


「今日の昼は、オヌシに人間の脳を食べさせてしもうたが、その様子ならば、心配は要らなさそうじゃな」


「みたいだ」


 もしかするとオレは人よりも、健康的なカラダをしているのかもしれない。今日の昼にカムイにかぶりつかれた腕の傷も、もう治りかけていた。


 地球にいた頃よりも、傷の治りが早くなっている気がする。


 小学生の頃、彫刻をやったことがある。授業でオルゴールをつくらされたのだ。オレは不器用だった。授業のたびに、自分の手を彫刻刀で切っていた記憶がある。そのたびに机が血で染まるのだ。だが、傷の治りが早かったなんて覚えはなかった。


 セパレートの空気の問題だろうか? よくわからない。


 豚肉をすべて食べ終わった。かなりの量があったが、すべて腹におさまった。満腹になるまで食べてしまった。食べてしまってから後悔した。肉に釣られたが、これもオレを太らせるための算段なのだ。

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