彼女は、オレの人肉を食べて強くなる。
ティナに愛されたカラダ
石造りの8畳ほどの部屋だった。ベッドと暖炉が置かれていた。天井からはカンテラが3つ吊るされていた。が、今は、外からさしこむ明かりで足りていた。ロウソクに火は灯っていない。
オレはベッドに寝かされていた。
「ずいぶんと酷いケガをされましたね」
修道女、もしくはシスターというのだろうか。黒いベールをかぶり、修道服をまとっていた。その修道女がオレの傷口を診てくれた。全身傷だらけだったので、驚いたようだった。
「オークに襲われたんです」
と、正直に述べた。
クレハから正直の述べろと言われている。そのクレハは別室で待っているとのことだった。
頭の角は、上手くフードで隠しているはずだ。
「よく無事で逃げ出すことが出来ましたね。癒術をほどこしましょう」
修道女は祈るような仕草をする。
手に青白い光が帯された。
その手に触れられると、傷口がたちまち閉ざされてゆくのだった。修道士が使うとされている癒術を見るのは、はじめてのことだった。修道士は人のケガを治す。だから修道院は、この世界において、病院のような機能もはたしているのかもしれない。
「すごい魔法ですね」
「あら。癒術はご存知ないのですか?」
「え……えぇ。まぁ実際に見るのは、はじめてです」
異世界人であることは、黙っていたほうが良さそうだと思った。説明するのもメンドウだ。
「それはそれは、ずいぶんと健康的なのですね」
「はい」
「我々、ティナ教の修道士は、ティナという大気の魔力を操ることが出来るのですよ。この世のあらゆる魔法は、大気中のティナというチカラを使って行使されるのです」
修道女の手の温もりが、傷口に伝わってきて心地よかった。
「そうなんですか」
「ティナは人間だけに味方をするものではありません。たとえばオークの妖術も、エルフのルーンも、ティナをチカラの源にしているはずです」
あ、すみません、襲われた人にオークの話をしたりして――と修道女は口元に手を当てていた。
「いえ。興味深い話です」
修道女の手はオレの上半身の傷を閉ざした。痛みが引いていた。今度は顔にきた。目の傷も癒してくれるようだった。視界がさえぎられる。
「オークは特に、ティナの加護を受ける種族です。彼らは、大気中のティナを吸う体質を持っております。なので、異様な怪力を発揮したり、傷を修復できたり……といったチカラがあるのです」
「じゃあ、オークが強いのは魔力によるものなんですか」
「魔力を吸う体質によるもの――というのが正確ですね」
オレの目にかざされていた手が退けられた。そのときにはもう、目の痛みが消失していた。
「あ……」
驚いた。
痛みが消えるどころか、視力が戻っているのだ。失われた空洞に、眼球が戻っている感覚があった。
「まぁッ」
と修道女も仰天していた。
「すごいですね。癒術って。オークに食われた目玉がもとに戻りましたよ」
修道女はあわてたように、手を大仰に振っていた。
「違います。違います。癒術はその人の傷口にティナを注ぎ込んで、回復力を上昇させるだけのチカラです。眼球が戻るなんてことはありえません」
「でも、戻りましたよ」
まぶたの上から手で押して確認してみた。たしかに眼球が戻ってきている。
「いや……これは、おそらくあなたさまの回復力が異常というか、オーク並の治癒力を持っているのでしょう。いやはや、こんなことがあるのですね」
修道女は無遠慮にオレの眼球を、まぶたの上から押してきた。
やっぱりだ。
異世界に来てから、オレはおそろしいほどの治癒力を会得している。オークたちにカまれた腕の傷もすぐ治った。バンマルに食いちぎられた小指も生えてきたぐらいだ。
異世界召喚されたおかげなのだろうか?
「ティナって魔力の源が、大気中にあるんですよね? そのティナを使ってカラダが回復するって話でしたよね?」
「ええ。そうですよ」
地球でのオレはこんな回復力は持っていなかった。それは間違いない。
だとすると、そのティナとかいう魔力のおかげだと考えるべきだろう。オレはそのティナを吸収する、なんらかのチカラがあるということだ。
何故、そんなチカラが芽生えたのだろうか。異世界人だから? いいや。そんな理由ではない。もっと深いところに理由がある気がする。だが、思い当ることはなかった。
「と、とにかく、足の傷も治してしまいましょう」
「あ、はい。お願いします」
こうしてオレは完治することとなった。
全身が血で汚れていた。修道女は熱湯とタオルを用意してくれた。カラダを拭いてくれた。美人な修道女にカラダを拭かれるなんて、幸せだった。こっちの世界に来てから、はじめて心から安らいだ気がする。
「ありがとうございます」
「いえ。私よりも、その健康的な肉体に感謝するべきですね」
修道女はよほどオレのカラダが不思議なようだ。カラダをつねったり、頬を引っ張ったりしてきた。
「ついでに、もうひとつ頼みがあるんですけど」
「はい?」
「髪の毛、生やせませんかね?」
クレハにそられたせいで、スキンヘッドなのだ。オレのおそろしい回復力をもって、髪の毛を伸ばすことは出来ないだろうか。期待したのだが、「ムリです」ときっぱりと断られた。……残念。
「ホントウにありがとうございました。あ、お金は持ってないんですけど」
「いえ。お金は取りません」
修道女は、オレにブリオーを与えてくれた。上裸をいつまでも見られているのは照れ臭いので、さっさと服を着た。オークのことをあまり尋ねられたくない。クレハも待っている。早々に退散することにした。
「では。オレはこれで」
「そのティナに愛されたカラダを大切にしてください。どうかあなたにティナの祝福がありますように」
修道女はそう唱えると、またしても祈るような仕草をした。
オレはベッドに寝かされていた。
「ずいぶんと酷いケガをされましたね」
修道女、もしくはシスターというのだろうか。黒いベールをかぶり、修道服をまとっていた。その修道女がオレの傷口を診てくれた。全身傷だらけだったので、驚いたようだった。
「オークに襲われたんです」
と、正直に述べた。
クレハから正直の述べろと言われている。そのクレハは別室で待っているとのことだった。
頭の角は、上手くフードで隠しているはずだ。
「よく無事で逃げ出すことが出来ましたね。癒術をほどこしましょう」
修道女は祈るような仕草をする。
手に青白い光が帯された。
その手に触れられると、傷口がたちまち閉ざされてゆくのだった。修道士が使うとされている癒術を見るのは、はじめてのことだった。修道士は人のケガを治す。だから修道院は、この世界において、病院のような機能もはたしているのかもしれない。
「すごい魔法ですね」
「あら。癒術はご存知ないのですか?」
「え……えぇ。まぁ実際に見るのは、はじめてです」
異世界人であることは、黙っていたほうが良さそうだと思った。説明するのもメンドウだ。
「それはそれは、ずいぶんと健康的なのですね」
「はい」
「我々、ティナ教の修道士は、ティナという大気の魔力を操ることが出来るのですよ。この世のあらゆる魔法は、大気中のティナというチカラを使って行使されるのです」
修道女の手の温もりが、傷口に伝わってきて心地よかった。
「そうなんですか」
「ティナは人間だけに味方をするものではありません。たとえばオークの妖術も、エルフのルーンも、ティナをチカラの源にしているはずです」
あ、すみません、襲われた人にオークの話をしたりして――と修道女は口元に手を当てていた。
「いえ。興味深い話です」
修道女の手はオレの上半身の傷を閉ざした。痛みが引いていた。今度は顔にきた。目の傷も癒してくれるようだった。視界がさえぎられる。
「オークは特に、ティナの加護を受ける種族です。彼らは、大気中のティナを吸う体質を持っております。なので、異様な怪力を発揮したり、傷を修復できたり……といったチカラがあるのです」
「じゃあ、オークが強いのは魔力によるものなんですか」
「魔力を吸う体質によるもの――というのが正確ですね」
オレの目にかざされていた手が退けられた。そのときにはもう、目の痛みが消失していた。
「あ……」
驚いた。
痛みが消えるどころか、視力が戻っているのだ。失われた空洞に、眼球が戻っている感覚があった。
「まぁッ」
と修道女も仰天していた。
「すごいですね。癒術って。オークに食われた目玉がもとに戻りましたよ」
修道女はあわてたように、手を大仰に振っていた。
「違います。違います。癒術はその人の傷口にティナを注ぎ込んで、回復力を上昇させるだけのチカラです。眼球が戻るなんてことはありえません」
「でも、戻りましたよ」
まぶたの上から手で押して確認してみた。たしかに眼球が戻ってきている。
「いや……これは、おそらくあなたさまの回復力が異常というか、オーク並の治癒力を持っているのでしょう。いやはや、こんなことがあるのですね」
修道女は無遠慮にオレの眼球を、まぶたの上から押してきた。
やっぱりだ。
異世界に来てから、オレはおそろしいほどの治癒力を会得している。オークたちにカまれた腕の傷もすぐ治った。バンマルに食いちぎられた小指も生えてきたぐらいだ。
異世界召喚されたおかげなのだろうか?
「ティナって魔力の源が、大気中にあるんですよね? そのティナを使ってカラダが回復するって話でしたよね?」
「ええ。そうですよ」
地球でのオレはこんな回復力は持っていなかった。それは間違いない。
だとすると、そのティナとかいう魔力のおかげだと考えるべきだろう。オレはそのティナを吸収する、なんらかのチカラがあるということだ。
何故、そんなチカラが芽生えたのだろうか。異世界人だから? いいや。そんな理由ではない。もっと深いところに理由がある気がする。だが、思い当ることはなかった。
「と、とにかく、足の傷も治してしまいましょう」
「あ、はい。お願いします」
こうしてオレは完治することとなった。
全身が血で汚れていた。修道女は熱湯とタオルを用意してくれた。カラダを拭いてくれた。美人な修道女にカラダを拭かれるなんて、幸せだった。こっちの世界に来てから、はじめて心から安らいだ気がする。
「ありがとうございます」
「いえ。私よりも、その健康的な肉体に感謝するべきですね」
修道女はよほどオレのカラダが不思議なようだ。カラダをつねったり、頬を引っ張ったりしてきた。
「ついでに、もうひとつ頼みがあるんですけど」
「はい?」
「髪の毛、生やせませんかね?」
クレハにそられたせいで、スキンヘッドなのだ。オレのおそろしい回復力をもって、髪の毛を伸ばすことは出来ないだろうか。期待したのだが、「ムリです」ときっぱりと断られた。……残念。
「ホントウにありがとうございました。あ、お金は持ってないんですけど」
「いえ。お金は取りません」
修道女は、オレにブリオーを与えてくれた。上裸をいつまでも見られているのは照れ臭いので、さっさと服を着た。オークのことをあまり尋ねられたくない。クレハも待っている。早々に退散することにした。
「では。オレはこれで」
「そのティナに愛されたカラダを大切にしてください。どうかあなたにティナの祝福がありますように」
修道女はそう唱えると、またしても祈るような仕草をした。
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