彼女は、オレの人肉を食べて強くなる。

執筆用bot E-021番 

ティナに愛されたカラダ

 石造りの8畳ほどの部屋だった。ベッドと暖炉が置かれていた。天井からはカンテラが3つ吊るされていた。が、今は、外からさしこむ明かりで足りていた。ロウソクに火は灯っていない。


 オレはベッドに寝かされていた。


「ずいぶんと酷いケガをされましたね」


 修道女、もしくはシスターというのだろうか。黒いベールをかぶり、修道服をまとっていた。その修道女がオレの傷口を診てくれた。全身傷だらけだったので、驚いたようだった。


「オークに襲われたんです」
 と、正直に述べた。


 クレハから正直の述べろと言われている。そのクレハは別室で待っているとのことだった。
 頭の角は、上手くフードで隠しているはずだ。  


「よく無事で逃げ出すことが出来ましたね。癒術をほどこしましょう」


 修道女は祈るような仕草をする。
 手に青白い光が帯された。
 

 その手に触れられると、傷口がたちまち閉ざされてゆくのだった。修道士が使うとされている癒術を見るのは、はじめてのことだった。修道士は人のケガを治す。だから修道院は、この世界において、病院のような機能もはたしているのかもしれない。


「すごい魔法ですね」
「あら。癒術はご存知ないのですか?」


「え……えぇ。まぁ実際に見るのは、はじめてです」


 異世界人であることは、黙っていたほうが良さそうだと思った。説明するのもメンドウだ。


「それはそれは、ずいぶんと健康的なのですね」
「はい」


「我々、ティナ教の修道士は、ティナという大気の魔力を操ることが出来るのですよ。この世のあらゆる魔法は、大気中のティナというチカラを使って行使されるのです」


 修道女の手の温もりが、傷口に伝わってきて心地よかった。


「そうなんですか」


「ティナは人間だけに味方をするものではありません。たとえばオークの妖術も、エルフのルーンも、ティナをチカラの源にしているはずです」


 あ、すみません、襲われた人にオークの話をしたりして――と修道女は口元に手を当てていた。


「いえ。興味深い話です」


 修道女の手はオレの上半身の傷を閉ざした。痛みが引いていた。今度は顔にきた。目の傷も癒してくれるようだった。視界がさえぎられる。


「オークは特に、ティナの加護を受ける種族です。彼らは、大気中のティナを吸う体質を持っております。なので、異様な怪力を発揮したり、傷を修復できたり……といったチカラがあるのです」


「じゃあ、オークが強いのは魔力によるものなんですか」
「魔力を吸う体質によるもの――というのが正確ですね」


 オレの目にかざされていた手が退けられた。そのときにはもう、目の痛みが消失していた。


「あ……」
 驚いた。


 痛みが消えるどころか、視力が戻っているのだ。失われた空洞に、眼球が戻っている感覚があった。


「まぁッ」
 と修道女も仰天していた。


「すごいですね。癒術って。オークに食われた目玉がもとに戻りましたよ」
 修道女はあわてたように、手を大仰に振っていた。


「違います。違います。癒術はその人の傷口にティナを注ぎ込んで、回復力を上昇させるだけのチカラです。眼球が戻るなんてことはありえません」


「でも、戻りましたよ」
 まぶたの上から手で押して確認してみた。たしかに眼球が戻ってきている。


「いや……これは、おそらくあなたさまの回復力が異常というか、オーク並の治癒力を持っているのでしょう。いやはや、こんなことがあるのですね」


 修道女は無遠慮にオレの眼球を、まぶたの上から押してきた。


 やっぱりだ。


 異世界に来てから、オレはおそろしいほどの治癒力を会得している。オークたちにカまれた腕の傷もすぐ治った。バンマルに食いちぎられた小指も生えてきたぐらいだ。


 異世界召喚されたおかげなのだろうか?


「ティナって魔力の源が、大気中にあるんですよね? そのティナを使ってカラダが回復するって話でしたよね?」


「ええ。そうですよ」


 地球でのオレはこんな回復力は持っていなかった。それは間違いない。


 だとすると、そのティナとかいう魔力のおかげだと考えるべきだろう。オレはそのティナを吸収する、なんらかのチカラがあるということだ。


 何故、そんなチカラが芽生えたのだろうか。異世界人だから? いいや。そんな理由ではない。もっと深いところに理由がある気がする。だが、思い当ることはなかった。


「と、とにかく、足の傷も治してしまいましょう」
「あ、はい。お願いします」


 こうしてオレは完治することとなった。


 全身が血で汚れていた。修道女は熱湯とタオルを用意してくれた。カラダを拭いてくれた。美人な修道女にカラダを拭かれるなんて、幸せだった。こっちの世界に来てから、はじめて心から安らいだ気がする。


「ありがとうございます」
「いえ。私よりも、その健康的な肉体に感謝するべきですね」


 修道女はよほどオレのカラダが不思議なようだ。カラダをつねったり、頬を引っ張ったりしてきた。


「ついでに、もうひとつ頼みがあるんですけど」
「はい?」


「髪の毛、生やせませんかね?」


 クレハにそられたせいで、スキンヘッドなのだ。オレのおそろしい回復力をもって、髪の毛を伸ばすことは出来ないだろうか。期待したのだが、「ムリです」ときっぱりと断られた。……残念。


「ホントウにありがとうございました。あ、お金は持ってないんですけど」
「いえ。お金は取りません」


 修道女は、オレにブリオーを与えてくれた。上裸をいつまでも見られているのは照れ臭いので、さっさと服を着た。オークのことをあまり尋ねられたくない。クレハも待っている。早々に退散することにした。


「では。オレはこれで」


「そのティナに愛されたカラダを大切にしてください。どうかあなたにティナの祝福がありますように」


 修道女はそう唱えると、またしても祈るような仕草をした。 

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