観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
友達
ホワイトは久遠を見下ろしたままだった。私には見向きもしない。
だけど、今までビクともしなかった腕が、ゆっくりと下りていった。
「ホワイト?」
私の質問に彼は答えることなく、銃を消すとそのまま踵を返し歩き出してしまった。
「ホワイト!」
叫ぶけど、彼は去って行く。私は追いかけようとしたが、けれど久遠の手前、そんなことをしたら彼女を傷つけそうで一歩が出ない。
迷っていた隙に風が吹き、私の髪が視界を遮る。すぐに元に戻すが、そこにホワイトの背中はいなかった。
「ホワイト……」
小さな呟きが、人通りの喧騒に消えていく。
目に映るのは「アリス消えろ」と書かれた張り紙。耳に入るのは「ウザい」という私への悪口。それを私は見てるだけ。なにも出来ない、無力な私。
「アリスさん?」
背後から久遠が心配そうに声をかけてくれる。だけど、私は振り返ることが出来なかった。
変わり果てた世界。変えられなかった悪夢。変わらない黒い世界。さらに、ホワイトまで去ってしまった。
「うッうっ!」
もう、嫌だ。
すべてが嫌だった。もうたくさん。なんでこんなことになるの? なんでいじめられるの? 私がなにをしたの? なんで? なんで!? なんでよ!?
私は、泣いた。
「待ってください、アリスさん!」
走った。呼び掛ける久遠の言葉を無視して。
私を否定する世界も。私を笑う人々も。私を襲う怪物も。それに対して、なにも出来ない自分も!
『皆さん! 黒木アリスと話してはなりません! 話しかけられても無視しましょう!』
街は、未だに私を嘲弄する。拒絶を見せつける。
『ねえ、なんか臭くない?』『アリスだアリス』
人々の横を通る度、私を嘲笑う声が耳をかすめる。それを無視して、私は走る。
『アリスなんていなければいいのに』『よく生きてられるよね』
私は一人、笑われる。まるで閉じ込められた、黒い世界の中で。私だけが――
『あはははははは!』
『くくくくくくく!』
『ははははははは!』
世界が笑う。
私は、泣く。
「うあああああああ!」
私は家に辿り着くと扉を閉めて鍵をかける。そのままベッドに横になった。枕に顔を沈め、世界から逃げた。
胸を締め付けられる苦しみに、私は堪らず涙した。
いじめられていた時の記憶を思い出す。そう、これだ。周りから感じる忌避と好奇の眼差し。酷く冷たい笑い声。無関心な傍観者。
小さな教室は、それだけで私にとっては黒い世界だった。一人っきりで、周りからのいじめに耐えるだけの、辛い場所。どんなに悔しくても、悲しくても、自分じゃどうしようも出来なくて。
ずっと笑われて。こんなに辛いのに、誰も私を助けてくれなくて。教室のみんなが、世界が、私を拒絶してくるんだ。
それに対して、私はなにも出来ない。
どうしていじめって起こるの? 私がなにをしたの? なんでこんなことをされなくちゃいけないの?
どうして私は、何も出来ないの?
「うう!」
だけど、今までビクともしなかった腕が、ゆっくりと下りていった。
「ホワイト?」
私の質問に彼は答えることなく、銃を消すとそのまま踵を返し歩き出してしまった。
「ホワイト!」
叫ぶけど、彼は去って行く。私は追いかけようとしたが、けれど久遠の手前、そんなことをしたら彼女を傷つけそうで一歩が出ない。
迷っていた隙に風が吹き、私の髪が視界を遮る。すぐに元に戻すが、そこにホワイトの背中はいなかった。
「ホワイト……」
小さな呟きが、人通りの喧騒に消えていく。
目に映るのは「アリス消えろ」と書かれた張り紙。耳に入るのは「ウザい」という私への悪口。それを私は見てるだけ。なにも出来ない、無力な私。
「アリスさん?」
背後から久遠が心配そうに声をかけてくれる。だけど、私は振り返ることが出来なかった。
変わり果てた世界。変えられなかった悪夢。変わらない黒い世界。さらに、ホワイトまで去ってしまった。
「うッうっ!」
もう、嫌だ。
すべてが嫌だった。もうたくさん。なんでこんなことになるの? なんでいじめられるの? 私がなにをしたの? なんで? なんで!? なんでよ!?
私は、泣いた。
「待ってください、アリスさん!」
走った。呼び掛ける久遠の言葉を無視して。
私を否定する世界も。私を笑う人々も。私を襲う怪物も。それに対して、なにも出来ない自分も!
『皆さん! 黒木アリスと話してはなりません! 話しかけられても無視しましょう!』
街は、未だに私を嘲弄する。拒絶を見せつける。
『ねえ、なんか臭くない?』『アリスだアリス』
人々の横を通る度、私を嘲笑う声が耳をかすめる。それを無視して、私は走る。
『アリスなんていなければいいのに』『よく生きてられるよね』
私は一人、笑われる。まるで閉じ込められた、黒い世界の中で。私だけが――
『あはははははは!』
『くくくくくくく!』
『ははははははは!』
世界が笑う。
私は、泣く。
「うあああああああ!」
私は家に辿り着くと扉を閉めて鍵をかける。そのままベッドに横になった。枕に顔を沈め、世界から逃げた。
胸を締め付けられる苦しみに、私は堪らず涙した。
いじめられていた時の記憶を思い出す。そう、これだ。周りから感じる忌避と好奇の眼差し。酷く冷たい笑い声。無関心な傍観者。
小さな教室は、それだけで私にとっては黒い世界だった。一人っきりで、周りからのいじめに耐えるだけの、辛い場所。どんなに悔しくても、悲しくても、自分じゃどうしようも出来なくて。
ずっと笑われて。こんなに辛いのに、誰も私を助けてくれなくて。教室のみんなが、世界が、私を拒絶してくるんだ。
それに対して、私はなにも出来ない。
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どうして私は、何も出来ないの?
「うう!」
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