観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)

奏せいや

探索3

 久遠の説得に促されるままに私も門に手を掛ける。誰もいないか左右を念入りにチェックして。そして意を決しえいと門を登り向こう側へと降りた。地面に両足を揃えて着地する。

「っと」

 なんとか学校へと入れたみたい。背後を確認しても誰もいない。セーフ。

「アリスさん、それでは今度は校舎の中に入ってみましょう」

「え?」

 が、ホッとしていた私にまたも久遠が衝撃発言をしてきた。驚いて久遠を見るが目をメラメラと燃やしている。

「いや、さすがにそれはまずいんじゃない?」

 そんな久遠とは違い私は二の足を踏んでしまう。黒い世界の悪夢を終わらせたとは思う。でも校舎に入るっているのは、抵抗感が強い。

「大丈夫です! 私がついてます!」

「いや、ついてますって」

 久遠は両腕を胸の前で折り曲げ自信満々に言う。そんな久遠は輝いていた。こんなにやる気に燃えている彼女は見たことがない。

「ささっ、行きましょうアリスさん」

「行くって、そもそもどうやって入るのよ? って、待ってよ久遠~!」

 一人で歩き始めてしまう背中を慌てて追いかける。私のためにこうも頑張ってくれるのは嬉しいけれど、ちょっと強引なんだから。

 私は久遠の横に並び彼女に従って歩いていく。周りに人がいないかおどおどしながら歩く私とは違って久遠の足並みは迷いがない。真っ直ぐと歩く姿勢はたくましいなと思ってしまう。

「さ、こっちですわアリスさん」

 私の手を引き、陽気すら感じさせる声色には「はあ」と感嘆すら覚える。

 そして久遠の先導のまま私たちは校舎の角を曲がり、一番近くの玄関口に来ていた。しかし両開きの鉄扉は当然のごとく閉まっていて入れない。

 これではどうしようもないが、そこで、ふと別の疑問が浮かび上がった。

「ねえ久遠、どうしてここに入り口があるって分かったの?」

 そういえばと思い出す。久遠に引かれて歩いて来たけれど、この扉は角を曲がった先にあった。要は、裏門の位置からは見えないはずなのに。

 久遠に質問してみるが、久遠は答えず扉を見ている。するとスカートのポケットに手を入れ、そこから大きめの鍵を取り出したのだ。

「え? もしかしてその鍵って」

「さ、こっちですわアリスさん」

 私の質問には答えず久遠は鍵穴に鍵を入れる。鍵は見事に一致しがちゃりと重い音を立てて開いた。

「さ、こっちですわアリスさん」

「で、でも久遠。どうしたのその鍵? なんで久遠がここの鍵を持ってるの?」

 なにがなんだか分からない。目の前にいる久遠が手品師に見える。いったい私はなんのトリックを見せられているの?

 私はけっこう真剣な態度で久遠に聞くのだが、またしも久遠は答えてくれなかった。校舎の中に入ろうと視線を中に向け急かすばかりで。

「さ、こっちですわアリスさん」

「それよりも答えてよ久遠、どうして久遠が鍵を持ってるの?」

「さ、こっちですわアリスさん」

「だから」

「さ、こっちですわアリスさん」

「……久遠?」

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